高等学校におけるアクティブラーニング型授業の実践

~ジェネリックスキル育成のために~

宮城県仙台第三高等学校 滝井隆太先生

全県一区・共学化という大きな動きの中で生まれた「授業づくりプロジェクト」

アクティブラーニングについてお話しする前に、まず本校の授業づくりプロジェクトについて説明します。


授業づくりプロジェクトは6年前、当時の校長先生の鶴の一声で校内に設置されました。キーワードは、学習への動機づけ、教科横断、学力向上と矛盾しない、ということです。このプロジェクトも、立ち上がりから関わり続けたのはすでに私一人という状況になっています。

導入当初に、さしあたっての目標としたのは、生徒の現状把握と、生徒の力を引き出すにはどうしたらよいかということの見える化を促進すること、そして、そこで見える化したものを整理して集積することでした。このプロジェクトのゴールは、教員研修です。教員が授業開発に取り組むことによって「三高スタイル」の授業を作ること自体が教員研修になる、ということでした。


そもそもこのプロジェクトを始めた背景に、当時本校が「全県一区」と「男女共学化」という大きな動きに晒されていたことがあります。今までの元気な男子校というところから、多様な生徒が入ってくるだろう、また、学校間の競争も激化するのではないか、というところで、進学だけを学習動機にするのでなく、進学実績を挙げながら学校生活も充実させながら、生徒の力を引き出すことができないか、ということで始めた試みだったのです。

 

仙台三高の授業の3つの柱を決める

最初に、仙台三高の授業の柱を決めよう、ということで、教員のワークショップを2回行い、KJ法でラベルワークを使ったブレインストーミングをしました。

1回目のワークショップは、三高生の長所と短所を挙げてみました。長所で多かったのは、「まじめ」「ある程度頑張りがきく」。短所は「受け身」。これは圧倒的でした。後は「すぐに答えを欲しがる」。ここで生徒の現状を把握したので、次はどうするのかということで1か月くらい時間を置いて2回目を行いました。この時は、短所を踏まえながら長所を活かすためにはどうしたらいいか、ということを話し合い、そこから出てきたのが
1、知的好奇心を揺さぶる授業であること
2、生徒が考える授業であること
3、生徒が主体となる授業であること
という三観点です。今にして思えば、この部分がアクティブラーニングとほぼ重なったのではないかと思っております。

この後、三観点を取り入れた授業を実践していくことになりました。これに際しては、三観点に特化した授業プランを作成するとともに、これに対応して生徒がその授業での主に意欲・関心を振り返る「自己評価シート」を作りました。自己評価シートについては、エクセルファイルに質問がたくさんストックされている中から、単元や授業に合ったものを選んでアンケートを作るのです。それを生徒に回答させて入力すると、集計結果がグラフになって出てきます。従来の「訓詁注釈型」と言われる授業と、三観点を意識した授業とでは結果は如実に違います。このような取り組みを続けています。

 

小中学校、大学との連携を通して

触れておきたいのが、小中学校との連携です。高校と小中学校の連携は珍しいですが、本校の教員が小学校に行って授業をしました。それを実現させてしまった当時の校長先生もなかなかすごいと思うのですが、受け入れてくれた小学校の方もすごいなと思います。この経験を通して、教員も生徒も多くのことを学ぶことができました。


また、宮城教育大学との連携も行っています。これは、授業づくりプロジェクト自体が共同研究という扱いになっていて、宮城教育大の先生に来ていただいて授業をしていただく、あるいは、我々が大学に行って授業をする、評価法や授業法の共同開発という観点から連携をしています。

今年度は研究センターが校内に設置されました。内容的にはこの授業づくりプロジェクト本体の運営と、本校が指定を受けているSSH(Super Science High school)との連携強化です。連携以外のところでは、スライドに挙げた(1)~(6)が授業づくり本体の事業です。今後の、メインは(2)と(3)あたりというところになってくるのかなと思います。大きく言えば、教育界全体の動きと仙台三高の授業とを整合させ、先行させていくような組織になっていくのかなと考えています。それがそのままSSHの方の動きともかなり密接にリンクしていくことになります。

「授業はいつでも見られるもの」「他の先生の授業にコメントしてもいい」という意識の醸成


アクティブラーニングを実施していく上で最大の課題は、先生の多様性です。それぞれに経験や考え方、授業スタイルが異なっていますので、これを一つにまとめるというのはなかなか難しい。実際、授業づくりプロジェクトが導入された時も、特にベテランの先生を中心にかなりの抵抗がありました。今もまだ多少なりともは残っていると思います。

ただ、この授業づくりプロジェクトを入れたことによる変化としては、先生方の中に、授業はいつでも見られるものであり、教員研修はやらなければいけないものだ、という意識が出てきたこと、あるいは他の人の授業に対して、ある程度突っ込んだ話をしてもいいのだということを共通認識としてある程度持つことができたことだと思います。

ある先輩教員の話ですが、彼が着任した当時、先輩の先生がどんな授業をしているかわからない。でも自分の担当クラスとは差がついてしまって、先輩はどんなことをやっているのか、とゴミ箱からプリントを探して学んだ、というのです。そういう点から考えると、やはりずいぶん変わったのではないかと思います。まだ全教員で行っているというところまでは至っていないのですが、それでも少しずつ前進しているところです。


SSHの課題研究も、アクティブラーニングのベースがあってこそ

仙台三高のアクティブラーニングのもう一つの事例を紹介します。本校はSSHの指定校になっているので、課題研究がありますが、これはそのままアクティブラーニングと言っていいと思います。ただ、これを生徒に「やれよ」と言うだけでは、ただの調べ学習になってしまう。今はインターネットがあるので、検索して、貼り付けて、終わりとなってしまいます。


ですから、今研究センターでは、課題研究を便宜的に「非構成的アクティブラーニング」、授業者が、考える仕掛けをいろいろ工夫して、それでアクティブにしているという授業を「構成的アクティブラーニング」と呼んで区別しています。構成的アクティブラーニングの授業を無数に繰り返して経験していく中で、生徒が主体性や知的好奇心を身につけていく、その結果として自ら求める学びへ到達できるのではないか、と思うのです。いきなりポーンと課題研究に行くというのは、かなり無理があると思います。

まとめです。まず、アクティブラーニングの実践で重要なのはラポート(rapport:2人の人の間にある相互信頼の関係。仏語でラポール)だと思います。単なるラポートというより「この形の授業をやったら伸びるのだ」ということを、生徒が信用してくれるのが大事だと思うのです。だからそこに至るまで、繰り返し説明します。


ラーニングピラミッドの図を見せることもあれば、アクティブラーニング形式で「この授業の方法だとどういう利点があるか」と話し合わせたりもする。そうしたことを通して共通認識を作っていくのが不可欠です。逆に、これを避けるとどんなにいいものを作ってもダメではないかと思います。

2つ目は課題設定。教材の読み込みの後、実際の授業で何をどうやって使うかということを、死ぬほど考えます。学校の時間を使って、生徒達が考えるに足る課題になっているのか、というところが何よりも大事です。

3つ目は、教えるということをバッサリと切れるかどうかが大事です。生徒達は、勉強ができるから自分で読めばできるのです。そこをどこまで信用してできるか、ということです。そこは反転授業に近いかもしれません。私が尊敬している奥村弘史先生という方は、すごいです。生徒に予習を要求して、授業ではまず「質問はないか」と聞く。で、生徒が答えても、「そんな質問は自分で調べたらわかるやろ」と答えは教えないんです。あるいは、「いい質問だ。」「それで、君(質問者とは別人)はどう思う?」「誰かわかるか?」とか、もう徹底しています。授業アンケートを見せてもらいましたが、1年生の時は「こんなのおかしい」とか「ちゃんと教えろ」とか、生意気なことを書きまくられています。でも3年生のアンケートでは、「教えないでくれてありがとう」「先生のおかげで本当の力がつきました」。まさに感動的です。こういうものが究極のアクティブラーニングではないかと思います。


思えば、昔「この先生は授業が上手だな」と思う人の授業は、十分にアクティブだったような気もします。先ほどの私の授業も、もともと15年前に作ったものです。こういったものをみんなで集積していかなければいけないと思います。


あとは、授業で行っていることのクオリティが維持できるところまで我慢しないといけない。途中で教えたくなって教えてしまうと、もうダメです。そこの我慢がどこまでできるかです。

導入面で大事なのは、環境づくりに尽きると思います。管理職の考えと、中心になる教員の姿勢。管理職から「こんなものはもういらないよ」と言われていたら、なかなかやりづらいです。


それに加えて、授業づくりプロジェクトであるとか、我々のさらに先を行っている盛岡三高の参加型授業とか、「ああいう形でやっていいんだ」という雰囲気づくりができるとよいと思います。ただ、これはやはり難しくて、私自身もいろいろなエビデンスを整理して、ようやく今年の4月に1年生を一緒に持っている私以外の2人の国語科教員に配りましたが、ここまで5年かかりました。どうしても、人の授業に切り込んでいくというのは非常に怖いですよね。それができるような環境づくりが大事なのです。

もう一つは、ここでも我慢。批判的、あるいは懐疑的な先生も少なくありません。それに対して、こちらも批判的になったり攻撃的になったりすると、もう生み出すものは何もないです。本当に言いたいことでも、「これをここで言ったら今後うまく回っていくのか」ということでグッと我慢して、本当に丁寧に関係を作っていくということ以外にない。時間はある程度かかります。

最後に、アクティブラーニングの今後の課題につきまして。評価の問題は避けて通れません。パフォーマンス評価です。ルーブリック、ポートフォリオ、あるいはICTの利用やマルチ評価、そうしたいろいろなことを組み合わせて、簡単である程度きちんと計れるものというものの開発が待たれていると思います。


高大接続改革も、もちろん絡んでいると思いますが、これと絡めなくても、アクティブラーニングはそれ自体十分に価値が高いのではないかと思います。先ほど申したように、上手な先生の授業はもともと十分にアクティブだったと考えると、今、学びの大転換だと言っているのも実は回帰であって、ひょっとしたら今までの私達のやり方は間違っていなかったのだと。行事と部活を大事にしよう、と言ってきましたが、行事も部活も実はアクティブラーニングだったんですね。それを捨てないで、学力の向上との両立を目指すというのは間違ってはいなかった。そういう気もしているのです。

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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