高等学校におけるアクティブラーニング型授業の実践

日常の授業と論文その他さまざまな学校行事とをつなぐデザイン

渋谷教育学園渋谷中学高等学校 国語科 河口竜行先生

シラバスで授業の狙いや進め方を明確にして、生徒も共有する


ここからはいよいよ授業のお話です。ただ、授業も当たり前のようにアクティブラーニング型授業を行っているので、特にいつから・どのように導入したらいいのだろうかという点では、参考にはならないかもしれません。

実際の授業は、6年間のそれぞれの授業のねらいと内容を1冊にまとめたシラバスを生徒に配布しています。実物をお見せすることはできませんが、見開きの左側にその授業の狙いや進め方、留意点で、右側に具体的な授業計画が書いてあります。もちろん左のページの方が大事です。何を身につけるか、が大切だという意味です。1年間でどこまで行くのかということを、教員も生徒も共有した上で、授業を行います。ですから、4月の最初の授業の頃は、生徒はずっとシラバスを机の上に乗せています。

 

では実際に、いろんな授業の具体例をお示ししたいと思います。私が国語科なので一番詳しい国語についてお話しします。1期生の時から、中学生は週2単位「表現」という授業があり、NIE(Newspaper in Education)や意見文の作成、パネルディスカッション、3分間スピーチ、ディベートなどをしています。ディベートは1年生だけでなくどの学年でも行っていますし、グループでディスカッションをしたり、ペアワーク、グループワークやプレゼンを行ったり、ブレーンストーミングもこの20年ずっと行っています。

「国語」~グループで意見を交換する中で表現する力・考える力を磨く


高校1年生では、週1単位「文章表現」というまとまった授業があります。これは社会人特別講師として、現在は元読売新聞論説委員の方と元共同通信社記者の方が20人ずつ生徒を担当して、週1単位の作文の授業をしています。

 

その他にも、シラバスに沿った上で各教員が自由にやっています。この写真は、中学2年の「表現」の授業で各自原稿を作り、推敲した上で、4人のグループを作ってお互いにスピーチを聞き合って、「こうした方がいい」「ここはさっきの方がよかった」などと批評し合っているところです。

 

こちらは高2の漢文です。グループで老子のテキストを皆で一生懸命読み、意味を考える。そして「できた班からみんなに発表して」と声をかけ、どんな意味かを発表をしてもらい、それを私が補足するという形で授業を進めています。グループで読むことを通して、「ここは知っておかなければいけないな」ということを痛感するようで、勉強するようになります。生徒もこの活動は真剣にやっていて、写真を撮っているのも気がつかないくらいでした。

 

こちらは、高3のホームルーム別の授業で現代文の入試問題に取り組んでいるところです。問題を解くのは個人ですが、その後答えをみんなで練り合って、グループで最強の答えを作ろう、ということにします。そして、グループの答えを黒板に書き、さらにクラスで最強の答えを作ります。その後、河合塾をはじめいろいろなところで出している模範解答例を5つ6つ用意して、それをさらに共有します。生徒はこんな感じで楽しそうに話しています。スマホなどで言葉を調べたりするのも自由にしています。

 

また、本校では春と夏と冬に講習期間がありまして、そこで一般的な各教科の講座の他に、私は、中1から高2まで全学年を合わせた「やる気を出す国語教室」というのを開いています。最近は、国語科の先生というより「やる気の先生」みたいと言われることもあります。ここでは、「コーチング」のノウハウを生かしたモチベーション開発の初歩的な部分を扱っています。

 

英語~東京外大の学生やアメリカの高校生徒とヒロシマについてディスカッション

次に英語科です。本校は帰国生と一般生が一緒に生活していますので、生徒の英語へのモチベーションが高くて、実際よく伸びます。


SGHの活動が始まりましたので、その活動をご紹介しましょう。先ほどお話ししたように、高校1年で広島へ研修に行きますので、その準備で東京外国語大の外国人の学生さんを呼んで、一緒にいろいろなことをディスカッションしています。この写真の右側の男性が東京外大の院生ですね。この後にこの件で提携しているアメリカの学校に生徒たちが作った広島に関する英語の資料を送って、感想を返してもらっています。日本の高校生の持っている広島に関する考え方と、それを受け取るアメリカの同じ年代の子たちの感性の違いも実際に味わえているようです。

 

地歴公民~見慣れた町を題材に、調べること・まとめて発表することの方法を学ぶ

こちらは地歴公民です。本校は渋谷と原宿のちょうど真ん中にありますが、学校の前に渋谷川遊歩道(いわゆるキャットストリート)があります。ここは、もと渋谷川だったところに蓋をしているのですが、その川を調べるということで学校の外に出て、遊歩道をいろいろレポートしようということです。これは中学2年生の活動です。

 

この写真が、ちょうど川の上に蓋をしたところです。

 

調べたら、それをアウトプットする。スライドのように意見をまとめて発表しています。まだ中2ですので、ここまで細かくできない子もいますが、とにかく中1からいろいろな機会で経験していくことが大事だと思います。

化学~入試問題に出て来る実験を自分たちの手でやってみる

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次は理科です。理科室の机の配置は最初から「島」のように内側を向いているので、アクティブラーニングの環境としてはよいのですが、やはり授業でどう使っていくかというのは、なかなか難しいと聞いています。

 

この高3の「化学演習」は自由選択の授業です。生徒が10数名で、実際に入試問題に出てくる内容にかかわる実験を自分たちで考えて、2時間連続で実験をしたり、考察をしたりする、ということを行っています。もちろん自分たちでと言っても、教員がいろいろと指導・助言をしていますが。

数学~ビルの高さの測定もマクローリン展開も、自分たちで解法を考える

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それから数学です。これは、いろいろなものの高さを測ろうという活動です。最初からただ活動しても無理なので、まず相似や高さ等について先にレクチャーします。そして、事前に宿題で測定の道具を作っておいて、実際に何かの高さを測ろうということです。

 

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数年前に渋谷でヒカリエ(東急の商業ビル)が工事中だった時に、その高さを測ろうというコンテストのようなことをしていました。これに応募しようと、せっかく高さを算出したのに、工事が進んで高くなってしまった、と落ち込んだりしている生徒もいましたが、このように実際に校外に出る活動も入れているようです。同じ教員の数学の授業では小テストのあとの解答確認も互いに教え合う形で行っています。

 

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こちらは高校2年の数学です。マクローリン展開というのを、個人で解くのではなく、4人1組のグループで考えさせる、というものです。わからないところは自由に他のグループに聞きに行ってもよいことになっています。40分間ずっとやって、終わったら、教員は「じゃあね」と言って去っていってしまいます。この教員の授業を見に行くと、生徒たちが話し合う声がワーワー聞こえているだけで、教員はたまに相槌を打つだけです。でも、この授業を受けた生徒たちの成績は非常に伸びました。アクティブラーニング型授業をやると成績が伸びないのではないか、と言われますが、各教科の様子を見ていると、決してそうではないと思っている次第です。

このように、授業だけでなく学校で行う活動全体がアクティブラーニングであるということが浸透し、そして進学実績も伴ってきましたが、何よりも生徒が学校のことが大好きなのですね。学校にゲームを持って行ってもいい、生徒がこうしたいと思うことは手順をきちんと踏めばたいていOKになる、ということで、家でも自分が通っていた塾でも「この学校は自由で楽しいよ」と言ってくれる。なら、自分も行きたいということで、本校を第一志望で受験する人が非常に多くなり、結果的に偏差値も上がりました。ありがたいことだと思います。

「学校と社会をつなぐ調査」で見えてきたこと

このように6年間を通した教育でどのように子どもたちが成長するか、という点について、「学校と社会をつなぐ調査」(※)で、本校の特徴であるとピックアップされた項目を以下に紹介します。一昨年の高校2年生が回答したものですが、我々が目指してきた点が調査項目に取り上げられ、目指した通りの結果が出ていて、驚いたとともに嬉しかったです。

「過去1,2年を振り返って伸びたと思うところはありますか」という問いかけのシリーズで、グラフの上3つが本校の結果、下の2つが全国と東京都の平均ですが、「人前で発表することができる」「新しいアイデアを得たり、発見をしたりすることができる」「困難なことでもチャレンジすることができる」「自分と異なる意見や価値を尊重することができる」「自分以外の世界に関心を持つことができる」「自分を客観的に理解することができる」、いずれもけっこう伸びています。男子の一部を見ていますと「本当に?」と思うこともありますが(笑)、ただそれも含めて、自分のことを認めることはできているかな、といい方向に解釈しています。


「私は自分に満足している」、これは結構満足していますね。「行事に積極的に参加する」ことについては、生徒たちに中1の最初から、学校で行われていること全部がみんなの身になっていくことなのでどんどん参加していけばいいし、行事や部活に参加した先輩たちがどういうふうに勉強でうまくいったか、ということも含めて話をしていますので、取り組みはとてもいいと思います。それから、「リーダーシップをとることができる」「他の人と議論することができる」。これらは、いずれも学校でやっていることが生徒たちに通じているかなと思います。


(※)「学校と社会をつなぐ調査」第1回本調査 2013年秋実施
主催:京都大学高等教育研究開発推進センター、学校法人河合塾教育研究開発本部







クエストカップ(※)をご存知の方もいらっしゃると思いますが、本校では中学3年でこれに参加しています。1学期から授業やロングホームルームの時間等を取って、生徒たちに時間を与えたり、または自分たちで放課後にいろんな活動をしたりしています。校内でも決勝を行います。


これは、今年の春卒業した生徒が中3の時グランプリを取った時の写真です。


先ほど「表現」の授業を紹介しましたが、表現の授業とクエストカップ、校外研修のグループ等、生徒たちは常時3つか4つのグループに所属して、昼休みや放課後に集まって、ずっと調べ事や討論をしています。ですので、その他の勉強をする時間があまりないのではないかと思うほどです。

http://questcup.jp/2016/
企業プレゼンテーション部門では、実在の企業から出されたミッションの答えを自分たちならではの視点から探求し、プレゼンテーションする。


「自分たちはいくらでもできる、大丈夫なんだ」という思いが、進路実績にもつながる

そして卒業生の進路実績につきまして。これまで14期生まで送り出してきました。最初にもお話ししたように、東大の合格者数を増やすのが目的の学校ではなく、アクティブラーナーになってほしいということを目標にしていますが、一応の目安として示しますと、1期生では東大は1人が合格して、そこからの経過はグラフの通りです。そして、先ほど写真でご紹介しているアクティブラーニング型授業のほとんどが、今年の卒業生である14期生です。アクティブラーニング型授業では、学力的にペーパーテストの成績が下がるのではないか、と言われますので、「下がらない」という根拠として見ていただきたいと思います。


アクティブラーニングが生徒たちにもたらしたのは、言ってしまえば「自分たちで何とかしよう」という姿勢だと思います。「自分たちはこの程度だ」と思ってしまったらそこまでなので、「自分たちはいくらでもできる、大丈夫なんだ」と思えるようになったことが一番大きかったですね。

この春、いろいろなメディアの方から、「渋渋さんはなぜそんなに伸びたのか?」と聞かれて、私は「アクティブラーニング充実させたことと、習熟度別授業をやめたことが関係していると思います」と答えました。アクティブラーニング型授業には習熟度別授業は馴染みません。自分が真ん中のクラスだとか、下のクラスだとか思っている子はあまりチャレンジしないのです。1学年200人しかいないので、皆が一緒になってどこにでも行けるんだ、という雰囲気を作っていたらこういうふうになった、というのが本当かなと思います。

無理をせず、6年を通してどうするかを考える

今後について、学校としては特にこうしなければいけないということはあまり考えていません。『自調自考』をより自調自考にしていきたいと思っています。それから、アクティブラーニングについては、この「緩やかな」というところが特徴で、焦っていないです。まだアクティブラーニングを全然取り入れていない教員もいます。ただ、他の学校の方々とお話をしていると「いやあ、やってくれない人がいて悩んでいるんですよ」というお話も聞きますが、あまり悩んでいません。徐々に変わっていければいいと思っています。
それよりも6年を通してということが重要だと思っています。小林昭文先生の本に授業をアクティブにしていく時、最初のうちにコンセンサスゲーム(※)をするといいと書いてあっておおっと思ったことがありました。なぜかというと、私が最初に学年主任をした2002年の中学1年生で入学してすぐにコンセンサスゲームをした覚えがあったのです。「授業だけでは難しくても、6年間かけてアクティブになっていければいいのだ」と気づく、大きなきっかけでした。とにかくあまり無理をしないということです。


※出された問題についてグループ内で話し合い、全員で回答を導き出すゲーム。グループ内では多様な意見が出されるが、議論の過程で全員のコンセンサス(合意)を得ることを目的とする。

それから評価について。これは学校全体の取り組みまでに至っていませんが、実は英語は中学生から定期テストの割合をどんどんと減らして、ゆくゆくは定期テストを止めようという動きになっています。ネイティブスピーカーの教員が担当している帰国生の英語は、以前から中間・期末テストがありませんので、一般生の方も中間・期末テストはナシでやりたい、という方向に動いてきています。私も、個人的には国語もいつか定期テストなしにしたい、そしていつかは全教科でなくなったらいいな、と思っています。これはいつ実現するかわかりませんが、夢は大きく持った方がいいと思いますので。定期テストはなくなればいい、というのが今後の課題ではあります。


自分を待ってくれる生徒たちのために何ができるのかを考える


最後にアクティブラーニングのまとめです。


最初は私もストレスを感じました。アクティブラーニングとアクションラーニング、どう違うんだろう、というところから始まって、〇〇法など新しく知る言葉も多く、訳がわからんと思ったりしたこともありました。ただ、せっかく文科省を含めて改革が感じられる雰囲気になっているので、大きな変化のチャンスなのではないかと思っています。今まで私たちの受けてきた教育は効率重視で、うまく勉強する方法はないかとか、点数を取るためにはこれさえやればいいんだよとかいうものだったので、何か疑問に感じていたのですよね。よく言うことを聞く子やまじめな子がいいと、どうしても教員は思ってしまうのですが、そうではない子でも、自分を認めることができる、そういう学校が増えていくチャンスかなと思っています。   

私は数年前からコーチングを学んでいます。コーチングの講座でもこうしたペアワークをするのですが、学校の外で、教員でない方に「国語の教師をしています」と言うと「コーチングを学校でやられるとすごくいいですよ」と言ってくださる方がほとんどです。同時にそれよりも多くの方から「国語ねぇ。高校時代は、なんで・・・なのか、何点引かれてどうなのかがよくわからなくて、半分は寝て聞いていただけです。ごめんなさい」とか言われたりもします。教員以外の方は、皆さんそんなことをおっしゃるのですが、それはやはり残念ですよね。それだけ国語の授業がつまらなかったのでしょう。

これから人工知能が発達すると、いろいろな職業がなくなると言われていますが、教育の世界は絶対に機械にとって代わられたくないし、代われない仕事だと思います。本当に手ごたえを感じていくのは、まさにアクティブラーニング型授業かなと思っているのですが、いかがでしょうか。そして、生徒にどうなってほしいか、ということで言えば、自分のために、皆のために学び続ける大人になってほしい。本当にいきいきと学んでくれる人が増えたら、日本は必ず変わると思います。今までは学校が変わるためには20年30年とかかってきたわけですが、このチャンスをつかめば、たぶん5年10年かからないうちに変わることができるのではないかと思っています。


私たち教員は、生徒がいてくれないとただのおじさん・おばさんです。私は自分の塾で生徒募集のチラシを配り歩いた時の思いが原点にあるので、今でも、授業に行って生徒たちが教室にいて授業担当者である自分を待っていてくれるのを見ると、ああ幸せだなあと感じます。そんな生徒たちに、私には何ができるのか、これをいつも考えていきたいと思っています。

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