今後の高校教育の在り方

-教育が多様化する中で、どのように教育コストをかけ、効果を測っていくか

坂野慎二先生(玉川大学)

(神奈川の教育の未来を語り合う「かながわ人づくりコラボ2013」<2013年11月9日、神奈川県立神奈川総合高校にて>で行われた教育講演より)

坂野慎二先生
坂野慎二先生

多様化により増えるコスト

 

本日は、高校教育とコストというテーマで、今後の高校教育の在り方をお話しいたします。

 

全国の平均高校進学率は、戦後50%でしたが、高度経済成長期に非常に高くなります。1970年には80%、74年には90%。この4年では10%も伸びています。現在の高校進学率98%。ほとんどの人が高校に進学しています。それによって、入学者の多様化ということが起こってきています。

 

多様化によって、教育コストの面で何が起こったか考えてみます。この多様化は、高度成長期に日本の社会や企業が得意だった、いわゆる大量生産型のシステムがなかなかうまく機能しなくなる、ということをもたらします。つまり、様々な子ども達に対して様々な教育を提供していくということになりますと、高校によってやり方が違ってくる。普通科以外の、専門学科や総合学科という多様性もあります。

 

統一した同じやり方は、ある意味、教育費用も安くて済みます。しかし、多様性には様々な意味でお金がかかります。教育とか福祉は、いわゆる労働集約型産業です。人がたくさんかかわって初めて効果が出る。ということになると、人件費はなかなか削りにくい。お金をかけなければ、良い教育はできないのです。したがって、様々な意味で、投下するお金と教育の効果の関係を考えていく必要があります。

 

 

教育効果の数値化が必要に

 

公立高校の場合、そのお金は税金で賄われます。そうすると、実際に使った税金に対して、こういった成果が上がりましたという成果を示すことが求められます。従来、教育の成果はお金では測れないという、いわゆる「学校教育ブラックボックス論」がもてはやされていました。つまり教育とは、その後の長い人生で結果が出ることだから、すぐに成果を求めてはいけないということですね。しかし近年、そうした中でも、やはりきちんと数値化した上で成果を求めるべきという考えが主流になってきています。

 

今まで日本の学校教育の成果の数値化というと、どうしても出口だけに偏っていました。高校であれば、有名大学に何人合格させたかという評価ですね。でも本来は、学校に通っていた3年なら3年、6年なら6年の間で、どれだけ子どもの成長や発達を促すことができたか、丁寧に評価しなければならないのです。

 

公立高校と私立高校の比率を見てみると、全国で、公立高校が約74%、私立高校が約26%。公立高校は税金で賄われる分、家庭の教育費は安く済みます。逆に私立高校は、家庭の負担は高くなる。ただ、生徒数が増えても公立高校をなかなか設置できないので、私立高校に生徒数増員の要請をするといった、これまでよくあった経緯を考えると、私立高校はつぶれるところはつぶれてよいという市場原理だけで動かしてよいのかということも、考える必要があると思います。

 

 

丁寧な支援もこれまで以上に問われる

 

最後にお話しておきたいのは、障害を持つ子どもに対する「丁寧な支援」ということです。2006年に国連の障害者の権利条約というものが採択されましたが、日本はまだ署名しているだけで、批准していません。この国際的な権利条約の中には、障害を持った子どもも、地域の学校で教育を受ける権利があることが書かれています。今後はまさに支援を要する子ども達も、地域で共に育つということが基本になってきます。

 

そういうことを考え合わせれば、それぞれの学校が、特別支援学校、あるいは特別支援学級とどういう関係を作っていけばよいのかということが、これまで以上に問われることになると思います。



 

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