キャリア教育コーディネーターってどんな人? vol.5

特別支援学校で、キャリア教育の本格的な教科を設ける

野尻 浩さん

千葉県立特別支援学校流山高等学園 主幹教諭

【50代男性】

野尻 浩さん
野尻 浩さん

野尻さんが勤務する特別支援学校流山高等学園では、平成24年度から3年生を対象にキャリア発達を支援する学校設定教科「キャリア・チャレンジ」を導入しました。

 

その教科の責任者となって推進する立場となったことが、野尻さんがコーディネーターとなったきっかけです。

 

「キャリア・チャレンジ」の導入に際しては、藤原和博氏の学校運営や「よのなか科」の授業に触発され、地域社会や企業等と連携することにより、生徒に豊かな学びの場を提供したいと考えました。また、理科の教員としての、学ぶに値する教材を使って授業をすることが生徒の自信や意欲を育む上で非常に重要であるとの考えから、地域や企業等と連携・協働しながら、生徒の意欲を喚起できる学習プログラムを開発することを、一番の目標としました。

 

 

具体的には、以下のようなプログラムを用意しました。

 

対象としているのは軽度の知的障害を持った、1学年約120名の3年生の生徒たち。通常は、1学年は10名×12クラスですが、学年を60名ずつの2グループにわけて、グループごとに実施しています。一人一人に目が行き届くよう、座学では60名の生徒に6名の教員を、実習では8名から16名の生徒に教員2名を、配置しています。

 

①クリーニング・チャレンジ

・外部講師による清掃講座、教員による清掃検定、地域施設での清掃実習

②サービス・チャレンジ

・専門実習の授業で製作した製品を近隣のショッピングモールや駅で販売実習

③スペシャリスト・チャレンジ~地域に役立つ活動を行う

・校外・・・野菜の訪問販売、駅前などで花の植栽、

      地域施設の階段作りや整備活動、地域住民宅でコンクリートブロック造成、

      介護福祉施設でボランティア

・校内・・・野菜の収穫体験、陶芸教室、機織り教室、

      高齢者との交流・介護サービス、企業と連携した商品管理、小中学生との交流体験

④ソーシャル・チャレンジ

・社会人講師を地域の企業やNPOから招いた授業の実施

・デザイナーによる「POPづくり講座」

・百貨店社員による「接客マナー講座」 → くわしくはこちら

・新聞記者による「インタビューをしよう」

・ファイナンシャルプランナーによる「給料の使い方講座」

・化粧メーカー社員による「身だしなみ講座」

・生活支援員による「支援機関の使い方講座」

外部との連携については、特別支援学校でのキャリア教育実施に理解のある企業も多く、株式会社 資生堂(身だしなみ講座)、株式会社 三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ(接客マナー講座)、株式会社 ヒロモリ(POPつくり講座) などの協力を得ています。キャリア教育に理解ある企業について地方自治体の提供する情報や他校の状況を調べたり、積極的にコンタクトをとったりすることで、協力企業の獲得に努めています。

 

それぞれの活動は、単発的なイベントではなく、継続的・系統的になるようにプログラムを組んでいます。例えば、清掃活動なら、清掃について座学で学んだあと、検定にチャレンジし、実際に清掃活動を行う、というような3段階の流れを踏まえます。

 

また、地域のニーズを把握しながら、学校の教育活動に関連付ける工夫もしてきました。地域に密着した活動は、生徒の発達のために有益なだけでなく、地域の住民に大変喜ばれ、販売会などを楽しみにしている方も多いようです。

 

こういった成果が認められ、「キャリア・チャレンジ」の教育活動は、平成25年度の「キャリア教育文部科学大臣賞」を受賞しました。


 

校内に賛同者が一人もいない状況での出発

 

野尻さんが「キャリア・チャレンジ」を始めた時、校内にはプログラムの効果を疑問視する声もありました。一部の生徒が清掃活動や販売活動を体験するといったキャリア教育は以前から導入していたものの、「教科」として本格的に扱うことへの不安の声も多かったようです。

 

しかし、「生徒たちが将来社会に出て強く生きていくためには意欲と自信を持つことが大切。そのためには、キャリア教育をより充実させなければ」との決意から、試行錯誤を繰り返し、プログラムを練り上げました。次第にまわりの人たちの意識も変化し、校内の体制も確立してきました。地域から喜ばれる声が増えてきたこと、参加する生徒のひたむきに参加する姿と、実施後の高い評価を、年度末に報告したときには、校内にも理解者が増えているという手ごたえを感じました。

 

「やってよかったと思うのは、生徒が意欲的に活動し、自信を深めている場に立ち会えることです。例えば、生徒が小中学生との交流体験で懸命にコミュニケーションを図ろうとする。結果として、小中学生から憧れの存在となったことで、生徒は大きな自信を得られます。また、地域住民からの感謝の言葉は、生徒にとってかけがえのないものとなるでしょう」。

 

 

今後学校に取り入れたいのは「ナナメの関係」と「高校1・2年生向けの授業」

 

野尻さんには、今後さらにやってみたいことがあります。一つは、大学生ボランティアを組織し、手厚く生徒の支援体制を構築することです。生徒のキャリア発達を促すためにも、『ナナメの関係』を学校に取り入れることが重要と考えます。

 

もう一つは高校1・2年生からのキャリア教育の導入。生徒の発達のためには1・2年生からのキャリア教育導入が有効だと考えています。

 

障害を持っているからという理由だけで、生徒の可能性の芽をつみたくない。多くの体験や気づきを、キャリア教育という社会につながる道を歩んで得てほしい。その体験や気づきが、「意欲と自信」につながるとの野尻さんは信じています。

 

 

野尻さんによるプログラム事例

接客マナー研修

株式会社 三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ 講師

 

本校は卒業後、企業就労を目指し、働きながら自立した生活を送ることが、学校の大きな使命となっています。しかし、就労しても離職する生徒が少なくなく、その原因として、職場での人間関係形成の弱さが、生徒のアンケート結果から判明しました。

 

このような状況を改善するため、特に、コミュニケーション力や仲間と協働する力の向上は重要であると考えました。そこで、生徒が意欲的に取り組む販売実習に、「個人で考える→グループで話し合う→全体で共有する」という場を意図的に設定した、プログラムを実施しました。

 

このプログラムの前には、外部講師(デザイナー)を招いた「POPづくり講座」を開催しています。どちらの講座も「製品の良さを伝える」という視点で、文字で表現すればPOP、口頭で表現すれば接客、という関連性を持たせています。

 

今回は、教育プログラムの企画立案、テキスト作成を行っている、株式会社 三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズにお願いしました。外部講師の方は、販売のプロとしての見本、手本を見せるにとどまらず、生徒が授業を楽しみ、社会で自立するための自信を持ってもらえるようにサポートする指導を実施。生徒たちには、本物のプロの接客の視点を肌で感じ、楽しく、その後に生かせる学びを得る機会となりました。

 

◆授業の流れ

 

1 販売員の感じの良い立ち居ふるまいを学ぶため、外部講師をまねて、

 (1)笑顔をつくる 

 (2)美しい姿勢でお辞儀をする 

 (3)発声練習と接客用語の使い方 について全体練習・ペア練習を行う。

 

2 販売実習で売る製品のアピールするところを決めるため、

 (1)その商品のよいところを個人で考え付箋にできるだけ多く記入する

 (2)グループで付箋を貼りだし、その中から一番伝えたいことを話し合って決める。

 

3 グループで接客シナリオをつくる。

4 外部講師と教員が販売員役とお客様役となって、接客シナリオに基づいてロールプレイを行う。その後、2人1組になってロールプレイで接客練習を行う。

5 グループ代表が、全員の前で接客のロールプレイを披露し、外部講師から講評をもらう。

6 研修の振り返りを行う。

 

 

◆コーディネーターの役割

 

企業側のもつ教育プログラムと、学校側のねらいや生徒の実態等をすり合わせ、適切な学習プログラムを作成することが、コーディネーターとして最も重要な役割です。特に、生徒の学習意欲を喚起し、育てたい力が身に付くための学習活動を意図的に設定した学習プログラムにすることが必要です。

 

また、授業を実施する上では、企業側と学校側の日程調整や準備物などの確認も重要です。

 

さらに、授業で生徒に指導・支援する教員へ、事前に共通理解を図ることも重要です。ねらいを踏まえて生徒の支援をすることで、学習プログラムの効果は大きく異なるからです。

 

 

◆研修を終えて

 

9割近くの生徒が「とても楽しい」「楽しい」と評価し、生徒にとって学びがいのあるプログラムとなりました。この授業の後に行われた販売実習では、学んだことを生かして、お客様とのやりとりができるようになった生徒が多く見られました。特に、普段話をすることが苦手な女子生徒が、積極的にお客様に話しかけている姿を見たときは、本当に驚き、感動しました。

 

また、企業側も、生徒に新しい学びを提供できたことを喜ばれ、「このような学習プログラムを様々な学校に紹介してほしい」と依頼されました。販売活動を取り入れている学校であれば、学校の実態に応じて学習プログラムを変更すれば、実施できるプログラムであると思います。

 

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