民間におけるキャリア教育事例

NPO法人による学校支援や

会社組織による企業CSRコーディネート

多様なキャリア教育を実現する民間団体とそのキャリア教育コーディネーター


キャリア教育は学校におけるあらゆる教科教育や教育活動の中で展開することができ、カリキュラムやプログラムは実に多様です。若者、学校や地域を取り巻く状況や課題、ニーズに応え、その団体ならではの多様なキャリア教育をコーディネートしている民間団体を紹介します。

 

1.キャリア教育普及以前より、地域の教育づくりを支援

NPO法人 アスクネット(愛知県名古屋市)

総合的な学習の時間も職場体験がまだ浸透していなかった当時、「子供と大人、地域と学校が影響し合える『学び合いのコミュニティ』の創出」を目標にアスクネットは設立されました。発起人の毛受(めんじょう)芳高さんは、自らの体験から、高校生や中学生が他人と交流したり将来を考えたりする場を提供したいと考えていました。そんな中、「愛知サマーセミナー」との出会いが実現への手がかりとなりました。それは、毎年夏、愛知県の私立高校を中心に、「誰でも教師、誰でも先生」を合い言葉に、生徒・父母・教師・市民が教えたいことを教え、学びたいことを学ぶ数百講座を開催するイベント。毛受さんは、このイベントに集う市民講師を日常的に学校で活用したいと、平成13年に市民講師のデータベースをつくりました。そして、学校のニーズに合わせて講師を選定し、コーディネートする「市民講師ナビ」事業を立ち上げたのです。それは私立中・高を中心に、徐々に浸透していきました。


やがて、学校のキャリア教育のニーズが増えるにつれ、ボランティアではコーディネート役はできないことを痛感し、専門職としてのコーディネーターを確立させるために、平成16年、教育コーディネーターフォーラムを開催し、その重要性を訴えはじめました。そんな時、平成17年に経済産業省が「地域自律・民間活用型キャリア教育プロジェクト」を開始。瀬戸商工会議所・瀬戸市教育委員会と連携し、キャリア教育コーディネーターも活用したキャリア教育の体制づくりを行うことになったのです。瀬戸市の全中学校の職場体験の受け入れ先を整備するとともに、市民講師のネットワークをつくり、「生きがい働きがい講座」、「貿易ゲーム」、「瀬戸のやきものの製作・販売」といったプロジェクト学習のプログラムの実践を支援したのでした。現在でも、瀬戸商工会議所には常勤・非常勤あわせて4人のコーディネーターが所属し、瀬戸市の全小中学校に対するキャリア教育ができる体制を継続しています。


最近は、高校から系統立ったプログラムの要請も増えていますと、代表の白上昌子さん。例えば、生徒の半分が推薦で大学進学する女子高では、入学まで生徒の学びへのモチベーションを維持させるため、大学の学びを疑似体験させるプロジェクト学習を企画、コーディネートしています。「平和学部、環境学部といった学部を設定、生徒はその学部で社会の課題に取り組む人と交流し、フィールドワークやレポート作成を行うというものですが、これは先生方に好評で、1年次からやってほしいという要望が出ています」(白上さん)。


アスクネットは、経済産業省の「ソーシャルビジネス55選」にも選ばれています。市民講師派遣は、小学校から大学まで年間2000講座。NPO設立のきっかけにもなり、それ以降、活動支援を行ってきた「愛知サマーセミナー」も今や3日間で1300講座を超え、全国の同様の試みのモデルとなっています。平成21年度からは、愛知県と連携し県立高校にキャリア教育を普及させる取り組みとして、10人以上のキャリア教育コーディネーターを擁し、インターンシップや社会人講師派遣を県立高校に働きかけています。アスクネットは、キャリア教育コーディネーターを活用することで、継続的な地域と連携したキャリア教育事業をつくりあげてきたのです。

 

2.若者に、本気で仕事をしている大人との交流の場をつくる

NPO法人 ハーベスト(宮城県仙台市)

「キャリアセミナー」の様子
「キャリアセミナー」の様子

アスクネットの取り組みに触れ、宮城県でキャリア教育支援を展開しているのがハーベストです。「若者が将来の選択を決められないのは、自分が誰の役に立ちたいのか、役に立てるのかがわからないから。そのためには、本気で仕事をしている大人の姿を見せるしかない」と、高校の進路選択につながるキャリア教育のために市民講師を募り、データベース化。高校に派遣し、生徒たちに話をしてもらう「キャリアセミナー」を実施しています。


依頼があった学校に、登録講師約750人の中から講師を派遣。生徒7~10人に対して講師1人の割合で約1時間、対話をしてもらっています。その内容は、職業の説明、仕事内容ややりがい、現在までのみちのりなど。講師自身も、生徒の前で自らをさらけ出して語ることで、自分の生き方を問われることにもなると言います。


高校のニーズをとらえたこのシンプルなプログラムは平成20年に始まり、現在は実施校も35校と、東日本大震災にもかかわらず増加。石巻市や南三陸町志津川などの被災地が1/3も占めています。復興のためにもキャリア教育は求められているのです。

 

3.「職人魂」を子供たちに伝え、修学旅行をキャリア教育の場に

NPO法人 北海道職人義塾大學校(北海道小樽市)

修学旅行先の盛岡で小樽グッズを配る中学生たち
修学旅行先の盛岡で小樽グッズを配る中学生たち

このままでは、将来職人がいなくなる。職人たちの学びの場として設立されたNPO北海道職人義塾大學校が、地域の小・中学校のキャリア教育支援を始めたのは、そんな切実な理由からでした。「職人魂」を伝え、子供たちにモノづくりの楽しさを伝えたい。また若手人材が地域から出ていってしまうことも、彼らに危機感をもたらせました。


まずは小樽の中学生の前で職人に話してもらうことから始めましたが、慣れない職人にはうまく伝えることができません。そこで、コーディネーターとの対話形式にしたり、職人の仕事ぶりを映像で紹介したり、と子供たちに伝える工夫をしてきました。


中学生の職場体験では、生徒が自分でつくる製品を企画・提案し、職人と工房で一定期間過ごすというプログラムも実施。また、ある中学校の「修学旅行とキャリア教育をつなげたい」というニーズを受け、キャリア教育コーディネーターが、小樽の伝統技術を使った小樽グッズを生徒たちが制作し、修学旅行先(盛岡)で配布、小樽のPRをすることを提案、実施しました。学校のニーズをきめ細かく聞き、職人や伝統技術という素材と上手く結びつけるプログラムづくりが大切だと代表の藤田和久さんは言います。


修学旅行で小樽に来る小中学生に職人の技を体験させる「ものづくり体験」プログラムも実施。1人90分で1500円。和菓子、染め物、金箔貼り、キャンドル作り等14種の体験をコーディネートしており、平成23年は、120校9000人もの子供が参加。小樽修学旅行の目玉プログラムのひとつになりつつあります。こうした活動を通し、人づくりから観光も含めた地域活性を目指す経済産業省の「ソーシャルビジネス55選」にも選ばれています。

 

4.地域に密着した本物の社会を素材に、小学生から大学生まで、思考力を育成

NPO法人 南大阪地域大学コンソーシアム(大阪府堺市)

(株)シマノからミッションを受ける小学生
(株)シマノからミッションを受ける小学生

キャリア教育への関心は、学生を社会へ送り出す大学でこそ高いものがあります。南大阪地域大学コンソーシアム(幹事校・大阪府立大学)は、南大阪地域20校が連携して、地域貢献や研究・教育活動を行っている団体です。就職対策のみならず、地域資源も活用した本格的なキャリア教育プログラムも用意してきました。その特徴は、「思考リテラシー」の育成を目標とした独自プログラム。キャリア教育コーディネーターは、南大阪地域大学コンソーシアムの単位互換科目「関西空港活性化の企画提案」を実施し、さらに小中学生に対してそのプログラムを応用する等のコーディネートを行っています。


統括コーディネーターの難波美都里さんは言います。「キャリア教育は能力育成と意識・意欲の向上が2つの柱です。中でも、基礎的なスキルとして考える力を重視しています。考えたことを他者に伝え、評価を受け、さらに思考、伝達、評価と繰り返していく『思考のリテラシー』、つまり思考の作法習得が大切です。他者を介すことで他者の思考、知識、経験が反映され、思考は深まります。この思考作法のトレーニングは、社会のいかなる場面でも必要ですし、またその習得は実社会に触れた学びでこそ有効です」。


その考えからなる「分析→情報収集→企画→ブラッシュアップの繰り返し」を雛形とする「こんな○○ほしかってん」は「総合的な学習の時間」の汎用的プログラムです。南大阪を中心とする様々な企業から、新商品開発などの課題を受け(例えば堺市に本社のある自転車のシマノからは、自転車案=「こんな自転車ほしかってん」など)、子供たちに企画・提案させます。また一方で、大学生をそれら小学校のコーディネーター兼ファシリテーターとして活用し、学生に対する実践的なキャリア教育を行ってきました。


現在は、先の「思考リテラシー」育成をベースとして、地元「堺」を教材に、キャリア教育を包含したカリキュラム「こども堺学」も検討。堺市教育委員会と連携し、小中学校の9年を一貫して、どの科目でもできるよう、学年ごとの詳細なプログラムを作成中で、地域に根ざした教育を地域と一体となって行う、堺市ならではのプラットフォームづくりをコーディネートしています。

 

5.企業の知恵を、学校指導要領に応じた教育プログラムに昇華

株式会社 キャリアリンク(大阪府大阪市)

教員に向けて企業プログラムの特徴を開設するコーディネーター
教員に向けて企業プログラムの特徴を開設するコーディネーター

「企業には世の中の知恵がある」という考えの下、大手・中堅企業の教育CSR(企業の社会的責任)支援を中心事業のひとつに置いているのが、キャリアリンクです。企業が目指すところを踏まえ、その企業ならではのキャリア教育プログラムの開発を提案するとともに、全国の学校でのプログラム実践を支援しています。


キャリアリンクがつくるプログラムの特徴のひとつは、学校のカリキュラムに沿っていることです。例えば、パナソニックの教育プログラム「エコ・モノ語(がたり)」(企業の教育CSRを表彰する経済産業省「キャリア教育アワード」で大賞を受賞)では、小学5年生の社会科「工業生産を支える人々」の3時間分(または6時間分)が学べます。1時間目、担任は用意された教材を使ってモノづくりの仕事の流れと工夫を解説。2時間目、子供たちが環境によい商品の企画し、発表。3時間目はパナソニック社員が、実際の仕事やそのやりがいなどを話します。製造工程の「知識」の習得、自ら「考える」活動、「働くこと」を身近に感じることが、バランスよく組み込まれ、社会科の目標を外すことなく、キャリア教育の目標を実現させているのです。


こうしたプログラム設計の考え方に立ちながら、キャリアリンクは、20社以上の大手企業と共に「キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム」の活動を運営。参加企業が協力して、小1から高3の全教科にわたる教育プログラム提案を目指しています。すでに多くのプログラムや教材などが準備され、全国の小・中・高校で活用されています。例えば、ある大手家庭用品メーカーとは、1年生の生活科の「お仕事名人」という単元で行う、家事の大切さと家庭での自分の役割を考える「家事プログラム」を開発。鉄道会社とは、新学習指導要領で5年生に「情報ネットワーク」という単元ができた時、どうやって教えたらいいかわからないという先生方の声に応えてプログラムを開発しました。


キャリアリンクのコーディネーターたちの出身・経歴は実に多彩です。彼らの高い開発レベルを保つため、平成22年から、企業担当として主にコンセプト提示をする調整部門、コンセプトを元に教材を作る教育制作部門、学校でのプログラム実施を支援する事務局部門と分業体制を敷きました。そもそもキャリアリンクは、20年前、「異年齢の子供たちが皆で課題を解くことで、皆で何かをやり遂げる大切さを知ってもらうコンピュータ教室」からスタート。徐々に学校からの相談を受けるようになり、平成12年から2年間はボランティアで「情報教育アドバイザー」として、探究型学習の指導もしました。その際、先生方の大変さを見て、サポートして力になりたいと思ったと言います。その思いは、今も活動の原点なのです。

 

 

「エコ・モノ語」の担当者に聞く

企業のプログラムが「教材」になるのは、キャリア教育コーディネーターがいればこそ

 

パナソニック株式会社 コーポレートコミュニケーション本部

松吉徹也さん

 

 「エコ・モノ語」は、社内で制作し実践していた、モノづくりに関わる人たちを紹介するプログラムをベースに、キャリアリンクさんと製作したものです。4年前に開発に着手。半年かけて制作したものを検証し、改良に1年を費やしました。試作をし、問題点を徹底的に潰していくプロセスは、モノづくりと全く同じでした。

 

社内で開発をしていた頃には、教科・単元に合った内容でないと学校では有効に活用いただけないという認識もなく、文部科学省や経済産業省など行政の流れを踏まえたアドバイスもいただき、エンドユーザーに喜んでいただけるプログラムにできたと感じています。このポイントもモノづくりで大事にしているポイントと同じでした。

 

また、授業を担当する社内講師の指導では、授業実践を見ていただき、話し方・ストーリーの流れのつくり方などの改善点を的確にアドバイスいただきました。次の時限には、アドバイスをもとに講師各自が修正し、レベルアップを果たすことができました。単なるプレゼンテーション型授業ではなく、発題の仕方まで指導をいただけるコーディネーターという第三者の視点はとても重要であり、双方の強みを持ち寄ることで完成できたプログラムだと考えています。

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