工業高等専門学校におけるキャリア教育の実例

NPO法人キャリアデザイン研究所・副理事長

元(国立)沼津工業高等専門学校 キャリア支援室

現・沼津工業高等専門学校 学校運営諮問委員

キャリアコンサルタント・産業カウンセラー

村松 正敏

工業高等専門学校は、技術者を育成する高等教育機関として、求人倍率、就職率が非常に高いため、充実したキャリア教育を行っていると思われていますが、実際にはいろいろな課題を抱えているようです。キャリアコンサルタント・産業カウンセラーである、筆者は、母校である沼津工業高等専門学校で「キャリア教育」に関する授業を実施しました。ここでは、これらとともに、他の高専や大学・高等学校からの依頼で行った事例も交えながら、その取り組みを紹介いたします。

<連載第2回>沼津高専プログラム=試行授業=がはじまる

◆「キャリア教育プログラム」を作成するにあたっての基本案

 

高専教育の現状を鑑み、校長や他の教員管理職等とのディスカッションを経て、また筆者の42年間余の企業経験を加えた上で、

(1)単なる就職対策のプログラムに留まらない

(2)卒業後の10年、それ以上の自らの人生設計(キャリアデザイン)を考える

(3)コミュニケーション能力の向上を具体的に取り組む

(4)自己理解力を低学年から涵養し、全学年(1~5学年、専攻科)を見据えた内容とする

の4点をプログラム作成の基本としました。

 

実際のプログラム作成は、平成23年度後期(10月)から試行期間を設け、物質工学科の1、2年次学生をモデルに筆者自身が講師として担当しました。「キャリア教育」としての時間配分はなく、特活(ホームルーム)時間をそれに充てることとしましたが、すし詰め状態の授業カリキュラムを割くことは極めて困難で、これは本格実施をする上でも一番の課題であると思います。加えて将来は教員自らが行えるようにとの思いから、教員にも同席願い、とにもかくにも試行を開始しました。

 

また、並行して土曜日を使って、卒業後、就職を考えている4年生対象に3回コースの「就活セミナーと3月の春休み期間を利用しての模擬面接を30分/人程度実施しました。これは別途記すこととします。

 

当時、すでに全国高専の中でも、豊田、函館、阿南、佐世保などでは「キャリア支援室」的な個別の環境を設け、独自のキャリア教育の展開を始めていたのでそれらを参考にしながらのメニュー作りとなりました。そうした先行する学校など視察したり議論することを学校当局にも打診しました予算措置もないことから残念な結果に終わりました。

 

一方、学生主事(キャリア教育責任者)からは、就職委員会への「キャリア教育プラン」の提案があり、そこでは、「就職選考に何度も失敗する学生や、推薦基準に達しない学生が増加しており、留年・退学者の増加と無縁ではない。何故学ぶのか、どのような社会人となりたいか、などへの答えも求めず、自分を知らず、目的意識も持たないまま5年間を送っている学生が増加していないか」といった問題提起と中長期にわたってキャリア教育を構築するという提案があり、教員の方々への理解を求めるサポートもありました。

 

◆特活時間を利用した6回の低学年プログラム

 

[実施時期] H23年10月~H24年2月

[対象] 1年生・2年生(物質工学科=40名)

*物質工学科は、キャリア教育の責任者であり学生主事の教授の所属であったことと、1、2学年担当教員の理解があったことが対象とした理由です。

 

[内容]  6回コース=特活時間の利用

(1)「仕事と人生=1期生の歩んできた道」*高専創設時代、就職、生き方・考え方

これは筆者のキャリアをそのままに説明しました

 

(2)「自分の将来を描こう!=ビジョンマップ作成」*10~20年先を想像して

 

(3)「もっと自分を知ろう!=自己理解」

ワークシートへ長所・短所の記入し、短所→長所への見方の転換をはかる。10年後の姿を描き、実現のために何をするか考える

 

(4)「自分をさらに知ろう! part 2 」他人・友人は私をどう見ている?

「ジョハリの窓」を用いて自己認知・他人認知での自己理解をはかる

 

(5)「コミュニケーション能力向上のために」

あいさつや傾聴の大切さを知る。ロールプレイにより、聞き方・ほめ方のトレーニングを行う。

 

(6)「進路を決めた5年生=就職/進学=各々の話を聞こう」

*進路の内定している5年生に「なぜその進路を選んだか?」「どうように準備をしたか?」「後輩たちに伝えたいことは?」などを聞き、さらに質疑応答を行う

 

[試行する上で留意したこと]

・一方通行的な講義でなく、都度、学生の意見(あなたならどうする?どう考える?)を聞く

・体感できるようロールプレイを多く取り入れる

・ワークシートへの記入をさせ、思考や感情を記述させることで整理する習慣を持たせる

・毎回必ずレポートを課す(手書き)こと。納期厳守として担任へ提出

→全員分を読み、講師のコメントとサインを入れて担任経由で返却。単なる「参考になった」の記述には「どこが? どのように?」の質問的なコメントを付記

 

次に、プログラムの詳細(一部)を紹介していきます。

 

◆プログラム例「もっと自分を知ろう!=自己理解」

 

自己理解の手法はいろいろありますが、今回はあえて、記述式を実施しました。学生の文章作成能力(国語能力とりわけ漢字能力などの状況把握や本人の気づきも含め)をチェックする意味もあったからです。

 

各自の記述内容を見ると、長所欄への記入が少なく、短所欄記入が全体として多いのが特徴でした。自分の長所に気づかない、自分を過小評価している、自信がない・・それらの表れとも解釈できます。また、10年後の自分の姿、ありたい自分像を記述できない学生も多かったです。「普通の生活ができていれば良い」「家族ができて楽しい日々を送っている」「たぶん、会社で仕事をしている」等の抽象的な表現が多く、具体的に夢を語る記述が非常に少ないのも特徴の1つでありました。

 

こうした自己理解は就職の際に必要な「履歴書」「エントリーシート」への自己PRの項目で必ず必要となる事項であり、面接時に「あなた自身のPRポイントはなんですか?」「あなたは10年後、どのようになっていたいですか?」などの質問に的確に応えるためにも、自分自身の自己実現のためにも不可欠なこととなります。筆者自身が採用面接本番で多くの大学生、高校生と接して、質問したことでもあり、とても重要なことと思います。

 

「自己理解」は、就職間際になってからでは遅く、高専に限らずどの学校でも必要ですが、それほど時間をかけずに実施可能なことでもあります。筆者は地元(千葉県柏市)の普通高校でカウンセリング・進路相談のサポートもしていますが、進路相談で来る生徒にはこの自己理解シートを使っての「自分への気づき」を行っています。漠然とした将来展望でなく、記述することで頭の中や気持ちの整理をし、納得することが重要と考えるからです。

 

下記が実際のワークシートです。

記入時間は30分もあればできることで、HRの時間や、宿題としても可能であってノウハウは必要ありません。

 

◆筆者プロフィール

筆者は、工業立国日本を支える「中堅技術者を育成する」目的で昭和37年に全国に12の国立工業高等専門学校が開設された際、その1つである「沼津高専」の第1期生(電気工学科)として入学。卒業後大手の精密化学工業に入社したが3年ほどで技術職から営業職に異動したことがきっかけで50歳の時に関係子会社に移籍、役員(営業本部長)として退任するまで一貫して営業部門に在職。関東、中京地区の多くの法人営業を担当する中で多くの企業人と接触を持ち議論してきたことのひとつが「キャリア教育」である。現在の「キャリア教育」が単なる「就職内定獲得対策」になっている傾向が強いように思われ、キャリアデザインや自己実現、さらには自己理解、コミュニケーション向上といった側面が疎かになっているのではないか、との危機感も感じ、母校のキャリア教育をはじめキャリアコンサルタント・産業カウンセラーとして、母校以外の高専、地元(千葉県柏市)の高等学校や大学でもキャリア教育を実施してきた。現在は主として厚生労働省認定の「まつど地域若者サポートステーション」にて若者の就労支援相談を担当している。

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