工業高等専門学校におけるキャリア教育の実例

NPO法人キャリアデザイン研究所・副理事長

元(国立)沼津工業高等専門学校キャリア支援室

現・沼津工業高等専門学校 学校運営諮問委員

キャリアコンサルタント・産業カウンセラー

村松 正敏

<第4回>コミュニケーションの重要性を体感させる3つの「きき方」

第1回の「高専に必要なキャリア教育」でも述べましたが、高専の学生に限らず、大学、高等学校でも「コミュニケーション能力」の重要性を認識されており、対応はとられていると推測されます。高専では、そのためのプログラムでの実施がバラバラで、充分な効果が現れていないのではとも感じており、教員に理解を促すためにアピールしました。

 

下記は沼津高専での教員FD研修で説明した内容の抜粋です。コミュニケーション能力向上への取り組みを全学年に取り入れることを検討しましたが、4、5学年には「特活」時間がなく、カリキュラムに組み込めなかったのは非常に残念でした。

 

*㈱ディスコ「採用活動に関する企業調査」引用


◆プログラム例「コミュニケーション能力向上のために」

 

1)コミュニケーションとは何か? 

実践に入る前に、まず講義方式で、コミュニケーションとは何かを理解させるために説明をしました。

 

コミュニケーションが得意だという学生によく聞いてみると、「友達と会話が楽しいから」「みんなと仲良くできるから」などと言います。間違いではないのですが、もう少し広くコミュニケーションのことを理解し、体感して欲しいと感じました。

コミュニケーションは、社会に出てから、会社は無論のこと、家庭や近所つきあいなどあらゆる場面で必要なことであること。特に、企業の求める社員像は、「人間力」と「コミュニケーション能力」に優れた社員であること、などを筆者の企業人生を引き合いに出しながら説明しました。加えて、まだ実感のない低学年であっても、いつかは就職するのであり、今のうちから理解しておいて欲しいとの思いでいました。

2)実際のロールプレイに入ります。コミュニケーションにおける、「きく=傾聴」の重要性を体感してもらうのが狙いで、そのために、英語での「訊く=ask」「聞く=hear」「聴く=listen」の補足も入れて、「きく」の3つの漢字の意味を伝えます。

3)「きき方訓練に入ります。まず、隣同士がペアをつくり、聞き手は話し手に対して、横向きにすわり、相手を見ない、反応しないとします(「お地蔵さんのポーズ」)。こうして1分半話します。

*下の「お地蔵さんのポーズ」を2人の関係で表すと下図のようになります


4)次は第2のポーズ「能面のポーズです。

今度はお互いに、向かい合って座り、話し手の話に正面で聞く、うなずくことだけはしてよいが、笑ったり、話してはいけないという条件をつけます。

5)3つ目が「傾聴のポーズ」です。

今度は自由に話し、聞き手も笑ってよし、声を出してよし、なんでもあり。聞き手は1つ以上は「質問をすること」という条件を課します。

学生たちの感想です。

1)最初の「お地蔵さんのポーズ」では、実際には、初めての体験なので、つい笑ってしまい「聞く」のことができなかったという感想も多かったのですが、

・話し手は、「無視されている」「聞いてくれているのかわらずどうでもいい」「つまらなくなる」「苦しくなる」などの気分になって、1分程度も話が続かないで終わってしまうケースが多かったようです。

・聞く方も、「一生懸命話してくれているようだが、表情がわからず、つまらない」「早く終わって欲しい、の気持ち」が大半を占める一方で「集中して聞けた」との感想もよせられました。

 

2)「能面のポーズ」では、「話し手」は「話してもうなずくだけなので、きちんと聞いてくれているのか、すっきりしない感じだった」という感想が大半でした。

 

3)「傾聴のポーズ」では、みんな実に楽しそうに会話が弾み、制限時間も大幅に超える状態となりました。「おもしろかった」「時間がはやく感じられた」の一様の反応があり、これがコミュニケーションかとの感じが持てたものと思いました。

 

・前の2つのポーズと違って実に楽しく話せた。日々の会話でもしっかり相手の言葉を聴いて、うなずいたり質問することの大事さを実感した。

・普段、仲間と話すときに、他のことを考えながら聞いていたり、上の空で聞いていて相手に気まずい思いをさせていたかもしれない。

・相槌を打ったり、表情で表すなど相手の気持ちに沿った反応がコミュニケーションをよくすることがよく理解できた。

という感想がありました。

 

まとめとして下記の内容を説明し、コミュニケーションには「聴く」ことの重要性を理解してもらいました。

このロールプレイは、筆者が地元の大学や社会人などの対象でも使用しており、年代を問わず実施できる有効なプログラムであると思います。また、特別なノウハウや習熟は必要なく、だれでも実施できるものです。むしろこのような時間確保をどのようにするかが課題です。筆者が実施した県立高校では、ロングホームルームや「道徳」の時間を利用したケースもあります。(*)この時は先生方の間で評判となり学校のHPで紹介されたほどでした。私立大学での「コミュニケーション能力講座」では時間外での希望者対象でしたが、ほとんど同様の感想を寄せてくれました。

 

*千葉県立松戸六実高校において柴田校長先生からの要請で、1年生の道徳時間を使ってコミュニケーション力向上の研修を行ったもので、「ゲーム方式でのグループコミュニケーションを図る」内容でした。1学年9クラスのため、所属するNPO法人のメンバー2名に協力してもらって、実施したものです。

 

 

◆プログラム例「進路を決めた5年生=就職/進学の話を聞こう」

 

秋頃ともなるとほとんどの5年生は進路が決定しています。6月末~7月頃までには、就職希望組はほとんどが内定を得ており、9月ごろには、専攻科への進学希望者も合格通知を得て、大学(国立の理工系)3年への編入試験も概ね決まってきます。

 

多くの学生は3年生になると、進学(専攻科または大学編入)か、就職かの選択を考え始める時期となり、自らの意思、クラスメートの雰囲気、保護者の意見や学業のレベルなどあれこれ迷う時期ともなってきます。

 

そうしたことへの参考ともなるのは、実際に直近で進路の決まった5年生の声です。このことから、2年生へのプログラムの中で、「進路を決めた5年生のナマの声」を聞く機会を設けました。学生の心に最も響いたものと思われます。

 

物質工学科の40名ほどのクラスの学生の前で、同じ学科の(1)就職志望で内定を得た5年生、(2)専攻科進学の決まっている5年生、(3)(国立大学)工学部3年生に編入が決まっている5年生、それぞれ1名から、1)なぜその進路を選んだのか、2)進路選択に際してどのような方から意見をもらったか、3)進路志望にあたっていつごろから、どのような準備を始めたか、4)後輩へのアドバイスなどを、各10分程度説明してもらい、3人が説明終了したところで質疑応答に入りました。

 

このように実際に将来に対するビジョンやそれへの備え、悩み解決、時期など様々な観点からの話はとても新鮮味と現実感があり、目の前の先輩から「ナマの声」を聴くことで、貴重なものが得られたと確信した次第です。感想文のほとんど満足度の高いものでありました。

 

◆筆者プロフィール

筆者は、工業立国日本を支える「中堅技術者を育成する」目的で昭和37年に全国に12の国立工業高等専門学校が開設された際、その1つである「沼津高専」の第1期生(電気工学科)として入学。卒業後大手の精密化学工業に入社したが3年ほどで技術職から営業職に異動したことがきっかけで50歳の時に関係子会社に移籍、役員(営業本部長)として退任するまで一貫して営業部門に在職。関東、中京地区の多くの法人営業を担当する中で多くの企業人と接触を持ち議論してきたことのひとつが「キャリア教育」である。現在の「キャリア教育」が単なる「就職内定獲得対策」になっている傾向が強いように思われ、キャリアデザインや自己実現、さらには自己理解、コミュニケーション向上といった側面が疎かになっているのではないか、との危機感も感じ、母校のキャリア教育をはじめキャリアコンサルタント・産業カウンセラーとして、母校以外の高専、地元(千葉県柏市)の高等学校や大学でもキャリア教育を実施してきた。現在は主として厚生労働省認定の「まつど地域若者サポートステーション」にて若者の就労支援相談を担当している。

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