若者の心に火をつける「インターンシップ」を寄付で
今、高校生が、学習意欲が低い、就職できない、大学に行っても自ら学ぼうとしないなどといったことが、大きな社会問題になっています。日本では普通科が70%と多く、その普通科も、入試を目標とした知識獲得中心で、実社会での有効性から離れた学びが多く、その学びに対して、積極的に臨める高校生は、決して多くないとも指摘されています。
そんな中にあって、意欲向上に有効とも思われる教育的手段は、社会に触れ、社会につながるような学びの場であるキャリア教育だと言われています。しかし、高校においてキャリア教育は、決して積極的に取り組まれているとは言えません。また、積極的に取り組もうとしても、多忙な教育現場の中では、外部との調整やプログラム作りに、ノウハウやマンパワーが必要なため、体系的で効果の高いものにすることが困難です。そのような状況を改善するために、外部からサポートする「キャリア教育コーディネート機関」という仕組みも生まれてきましたが、高校のキャリア教育を支援する機関は多くはありません。愛知のアスクネットや宮城のハーベスト、さらには東京から全国に展開するカタリバなどが知られていますが、高校生を支援する組織は、小中学生を支援する機関より少ないのが現状です。
これは、高校を支援する仕組みが未発達で極めて脆弱であることが原因です。国や公共団体から出される公的資金も不十分で、「しかも、出されても、単年度の雇用対策のような対症療法的支援が多く、不安定就労を解決すべき専門人材が不安定という矛盾を引き起こしています」(アスバシ教育基金代表 毛受芳高氏)。
そんな中、この課題の存在を社会に訴え、市民や企業からの寄付金による資金確保を成功させ、高校生がインターンシップに参加できる機会を増やしつつあるのが、「アスバシ基金」。高校におけるキャリア教育コーディネート機関として、全国の先駆けとなった愛知県のNPO法人アスクネット(愛知市民教育ネットの略称)を創業し、育ててきた毛受芳高氏が中心になってアスバシ教育基金(以下、アスバシ基金)は生まれました。
アスバシとは「明日の社会にかける橋」という意味。そのアスバシ基金は、愛知県を中心に、2年間で1500万円の寄付を集め、153名の高校生に充実したインターンシップを実施するまでになってきました。
「社会とつながり、様々な体験を通して自らの役割を考えたり、意欲を高めたりする教育は、塾のように授業料を払う受益者負担のサービスに馴染まない。しかも、受けられるかどうかは保護者の所得に依存する。ただでさえ所得差による教育格差が開き、低所得者の家庭ほど、意欲や学力が低い傾向が強まっている中では、課題の解決にはつながらない。この教育は、誰彼の区別なく、手を出せばとどくものとして提供されるべきものです」(毛受氏)。
クラウドファンディングで、全国の高校生にインターンシップを
そのアスバシが、ITコンサルで知られるアクセンチュアの支援を受け、その試みを全国に広める活動を始めると公表しました。
今、ITの資金調達手法として、一般市民や企業などが、特定の個人・法人の取り組みやその志に興味を持ち、その活動資金を寄付する手法が注目されつつあります。具体的には、ITプラットホームを作り、そこで寄付を集める手法で、「クラウドファンディング」という手法。クラウド(crowd、群衆)とファンディング(funding、資金調達)を組み合わせた言葉です。その「クラウドファンディング」の手法なども活用し、社会から資金を集め、主に高校段階で、キャリア教育としてのインターンシップの機会を全国津々浦々で提供できるようにすることが目標です。
毛受氏は、「高校生のインターンシップは、目標もなく受動的な状態=不活性状態の若者を、目標を持ち主体的に動く=活性状態に変えること、そして、成長する意欲、学ぶ意欲を高め、社会に対して役割を果たしていけるようにすること、つまり、ユース(若者)をアクティベート(活性化)する取り組み」だと言います。全国には、小中学校を支援しているキャリア教育支援団体もありますし、雇用のための人材育成教育を担っている団体もありますが、そういう団体が、高校でのインターンシップのプログラム作りやコーディネートを行って事業ができる仕組みを作ろうと言うのです。その仕組みがいよいよ11月から本格スタートしました。
WEBサイトで、寄付の必要性を可視化
これに先立って、アスバシとアクセンチュアは、若者の就労環境の現状や、どれだけの就労支援の対策事業が行われているか都道府県別に調査しました。そしてそれらを、寄付の前提として、サイトでも見られるようにしました。
担当するアクセンチュアの市川氏は、「寄付の結果が、各都道府県にどのような影響を及ぼしているかといった数値データも今後見られるようにする」と考えているそうです。
ユースアクティベーション http://www.siya.jp/
◆サイトの基本構造
「現状を知る」「寄付をする」「成果を見る」が見えるようになっている
◆「現状を知る」若者起動のための就労環境全国マップ
インターンシップ実施率など都道府県ランキングが掲載されている
47都道府県の現状も県別で見せる
◆「寄付をする」
各プロジェクトの寄付達成率が見える<寄付の現状の見える化>
◆「成果を見る」<一例>
2012年愛知県でのプロジェクトとその参加校
<マイチャレンジインターンシップ>
○参加者:71名
○実施期間:2012年8月1日〜27日
○参加事業所数:25事業所
○業種:サービス、観光、福祉、IT、スポーツクラブ、法律事務士、
県庁、市役所、動物病院、図書館等
○参加高校:
・愛知県立/旭丘、熱田、惟信、一宮北、稲沢、稲沢東、大府東、
岡崎北、蒲郡、刈谷北、幸田、天白、東海商業、
東海南、常滑、南陽、西春、半田東、御津
・名古屋市立/菊里
・私立/安城学園、豊川、聖マリア女子
キャリア教育資金への市民分担が普通となる社会へ
毛受氏は言います。
「若者の早い段階、とりわけ高校時代に社会と出会い、驚きや感動をする体験をすると、目の色が変わり、主体的に変わり(アクティベートされ)ます。大事なことは、その若者たちは、その後、さらに様々な自発的な挑戦を始めるということです。その後、何年かたった後に、彼らが様々な能力を身につけ、逞しく成長していくのを多く見てきました。つまり、もし社会・産業界が、自社、自らの社会を支えられる力を持った人材を必要とするならば、早い段階で若者をアクティベートしておくことが不可欠です。それによって、良い人材が得られるならば、損はなく、むしろメリットがあります。
本来、そのようなインターンシップは、公的資金で行われるべきという考えもあるかもしれません。しかし、国も都道府県も財政は逼迫しているため、どうしても緊急性の高い問題に優先的に予算が優先されてしまい、若者の問題は後回しになります。だから、「予算ありき」の考えでは、一ミリも進まないことも多々あります。それでは、プログラムを作り、コーディネートし、ファシリテートできる専門人材は育ちませんし、その担い手にもなろうともしません。ですから、今後、安定的に、高校生をアクティベートする教育を供給するための仕組みが必要なのです。だから、今は、その前提として、高校生に対するインターンシップは、たいへん意味があり、また、その実施には資金的支えが必要であることを、社会の皆さんに理解してもらいたいのです。
本来、そのようなインターンシップは、公的資金で行われるべきという考えもあるかもしれません。しかし、国も都道府県も財政は逼迫しているため、どうしても緊急性の高い問題に優先的に予算が優先されてしまい、若者の問題は後回しになります。だから、「予算ありき」の考えでは、一ミリも進まないことも多々あります。それでは、プログラムを作り、コーディネートし、ファシリテートできる専門人材は育ちませんし、その担い手にもなろうともしません。ですから、今後、安定的に、高校生をアクティベートする教育を供給するための仕組みが必要なのです。だから、今は、その前提として、高校生に対するインターンシップは、たいへん意味があり、また、その実施には資金的支えが必要であることを、社会の皆さんに理解してもらいたいのです。
そうすれば、たとえば、森の保全活動に使われる「森林税」を課している都道府県もあるように、キャリア教育に関しても、税金などでコストを負担する仕組みができるかもしれないのです。そういった前提を作るためにも、まずは、一見不可能に見える困難があっても、この試みは意味があるのです。
この試みは、2018年には、1億円を集め、1万人以上の高校生のインターンシップの実施を目指しています。それに向けて、理解していただいた方から、一歩前に進める上で寄付もお願いしたいのです」
毛受氏は、このアスバシは、社会からは「風車に突進していくドンキホーテ」のように見えるかもしれないと言います。しかし、毛受氏のアスクネットの実績は、経済産業省が中心となって事業を広げ、キャリア教育コーディネーター資格制度につながってきました。また、3日間で1000講座を超える、市民参加型の学びの祭典「愛知サマーセミナー」等の試みを、全国に広めつつあります。
そんな不可能に見えるものを具体化し、拡げてきた毛受氏の現在のターゲットは、諸外国に比べてGDP比で教育にかける公的資金が少ないとされる日本で、若者への教育、とりわけ、若者をアクティベートしていく教育への意識を高め、若者への教育投資の優先順位を上げ、教育を供給していくための事業環境を生み出すこと。このことが実現できれば、効果のある教育が持続的に提供されます。そうして、若者が社会の中で役割を見つけ、誰もが担い手になれる社会づくりを目指しているのです。
各自治体が作り担う「教育環境」----その課題も、浮き彫りにするプラットホーム
~「情」に訴えるだけではない!次のクラウドファウンディングへ
私たちは、どの地域にどれだけの若者がいて、キャリア教育やインターンシップにどれだけのお金が必要なのか可視化する取り組みを、Webプラットフォーム「ユースアクティベーション」で始めました。
具体的には、若者を取り巻く教育環境を、指標として、より多くの市民のみなさんにご理解いただくために、分かりやすい手法なども活用し、提示していきたいと考えています。これらに関するデータについては、各都道府県と連携の上、今回、入手を試みました。しかし、データの定義、粒度などが自治体によってずいぶん異なるものであることがわかりました。そこで、データの取り込みという収集・公開という「動脈」部分では、データの標準化を目指していきます。
そして、それと同時に、我々の取り組みを通じて改善された結果をアップデートされたデータとして各都道府県にフィードバックする「静脈の構築」にも取り組みます。そこは、大変大きなチャレンジとなります。