諏訪康雄
法政大学名誉教授、元中央労働委員会会長、
経済産業省/我が国産業における人材力強化に向けた研究会委員(人材像WG座長)
「グローバル人材」が足りないという。念頭にあるのは、国際経験が豊かな人材のようだ。国際交渉の場で一歩も引かずに丁々発止とやり取りでき、議論をリードできるような人だとか、新興国などに進出してもすぐに工場を立ち上げられ、現地の政府や市場に対処でき、経営を任せられる人などらしい。
経済活動において国境を超えた動きがますます盛んで、縮みゆく国内市場だけを相手にしているわけにはいかなくなり、伸びゆく新興国市場を獲得していく必要が高まったから、それに向けた人材需要が高まっているという。円高で国内生産がむずかしくなったので人件費コストの安い国に進出したいが、それを担える人材が社内にいないとの悲鳴も、中小企業ばかりでなく、時には中堅や大手の企業からさえ聞かれる。
なぜか。子ども時代から日本人ばかりと付き合い、日本語しか使う機会がなく、大学に入ってからも同様に過ごし、就職試験でも語学力はほぼ問われなかった人々が、企業に入った瞬間にグローバル化するということはない。しかも、ほとんどの企業ではOJT(仕事をしながらの現場訓練)が主流で、日本人の上司・先輩から日本語で指導され、日本人の同僚とばかり仕事をし、顧客も日本人ばかりなことが多いのだから、こんな実情のもとでグローバル人材が日常的に育っているはずがない。日本語以外の外国語(英語や中国語)を社内の公用語に加える企業に至っては、九牛の一毛のごとくである。
しかも、これまで多くの企業は、社員をOffJT(現場を離れた教育訓練)で社会人大学院などに行かせて特別に学習させることはしなかったし、サムスンほどに本格的に担当要員を海外へ赴任させ、何年もかけて現地担当者に育てるプログラムも持たなかった。日本人中心の発想なので、外国人を戦略的に採用し、いずれ母国や周辺国で現地会社の経営や技術を担わせようとする方策も、立ててこなかった。かりに経営陣がそう考えたとしても、日本型雇用慣行を大きく変えられないことから、若くして活躍する場がなくて嫌だと優秀な外国人には敬遠された。
つまり、日本ではこれまでグローバル人材への需要が乏しかったからこそ、それを本格的に供給する体制も育ってこなかったのである。先を見通した人的資本投資に戦略的視点を持たなかったツケを今、払わされている。人材は急には育たない。需要が生まれたからといっても、すぐには供給できない。事業活動を見直すやいなや、自動的にどこかから人材が涌いてきて、調達できるなどということはない。学校教育や職業教育訓練のありかたをグローバル化対応の方向に切り替えるとしても、質量ともに十分な人材が供給されるようになるまでには、10年以上の歳月がかかることだろう。
当然、その間、指をくわえてビジネスチャンスを見過ごすことはできない。としたならば、何らかの形で助っ人を探すか、急ごしらえの人材でお茶を濁すか、能力・適性のある人材を選抜して促成栽培を試みるか、ともかく応急対策をとらざるを得ない。そして、需給関係が安定する見込みがつくまでは、グローバル人材論がかまびすしく語られる続けることだろう。
環境変化に対応した「社会人基礎力(求められる人材像)」の見直しも目的とした会議が動き始めました。
第四次産業革命等の急激な環境変化の中で、我が国産業が持続的に成長していくためには、基盤となる「人材力」の抜本強化は喫緊の課題になっています。 「人生100年時代」を踏まえ、社会全体として人材の最適配置が行われるよう、(1)リカレント教育の充実、(2)(特に大企業から中小企業等への)転職・再就職の円滑化、それらのベースとなる(3)必要とされる人材像の明確化や確保・活用や(4)産業界として果たすべき役割などをパッケージで検討するために、経済産業省「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」が設置されています。その中の「必要とされる人材像の明確化や確保・活用」を主に議論する研究会として、動いているものです。
職業データベース(日本版O’net)の再構築の動きなどともに動いています。
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詳しくはこちら
http://www.meti.go.jp/press/2017/09/20170905003/20170905003.html
または、こちら
必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ
(人材像ワーキング・グループ)
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/economy.html#jinzaizou_wg