コラム

グローバル時代の教育について考える

諏訪康雄 

法政大学名誉教授、元中央労働委員会会長、

経済産業省/我が国産業における人材力強化に向けた研究会委員(人材像WG座長)


第3回 グローバル人材の多様性

グローバル人材というと、とかく超一級の国際人材以外はお呼びでないかのような議論がなされる。だが、実態はもっと多様である。


グローバルなビジネスの世界をスポーツにたとえてみよう。世間の注目をあびるのは、オリンピックゲームなどで金銀銅のメダルをとる選手だ。せいぜい入賞クラスの選手までが、論評の対象となる。20位や30位では話にならない。


だが、20位、30位だって、ものすごいことではないか。30位に終わったなどと切り捨てる報道をしている記者たちのうちで、仮に記者職の世界ランキングがあったとして、100位や200位以内に名を連ねる人が、どれだけいるのであろうか。


超一級の国際人材とは、世界大会に出て優勝をねらえる水準の人びとである。当然、どの国にだって、たくさんはいない。その種の人材を待望する声は世間に満ちあふれているけれども、超人的な能力と適性と意欲をもち、さらに経験も豊富といった人びとが、そこらに山のようにいるはずもない。


だから実際に求められるのが、優勝や入賞はむずかしいかもしれないが、ともかく世界大会に出場できる水準の人びとだ。企業の多くは、このクラスの人材をほしがっているのであろう。だが、この水準の人材といえども、何万社かあろう海外進出を考えている企業の数ほどには、量が足りない。


そこで、世界大会出場クラスではないが、国内の全国大会に出場するクラスの人材で何とかならないかと考える。そして、そうは簡単でない事実に、あせりを感じている。企業実務では、スポーツのようにルールが世界共通だとは限らない。既存人材は、国内での競技ルールや競技方式にはそれなりに堪能だが、グローバル・ルールには慣れていないということがあるから、困ってしまうのだ。東京大学の秋入学論のように、国内ルールを世界ルールに近づけるなどして、少しでも国際大会に参加するプレーヤーを増やそうとすることが図られるゆえんである。


しかし、もっと厄介なのは、企業実務のルールが国ごとに違っていることである。世界のどの国や地域に行っても、ただちに使い物になるといった人材は、まずいない。最初はみんな戸惑い、試行錯誤しているうちに、一定の経験を積み、どうにか現地のルールに対応できるようになり、現地と国内ルールに立脚する本社との調整をこなせるようになる。これに時間がかからないはずはない。


多くの企業が海外進出を目指すようになればなるほど、当面の人材不足に悩むのは、もっともな現象なのだ。やがては現地ルールに通暁した日本人や、日本ルールに明るい現地の人などが増え、経験者が蓄積されていき、人材不足感は弱まっていくことだろう。早くから海外展開した企業は、対人関係処理能力が同等であるならば、業務はできないが語学が強い人よりも、語学が弱いが業務処理はできる人のほうが、海外で圧倒的に役立つ人材だという。およそ国際派スーパーマンのようでなく、語学は今ひとつ以下だけど、仕事人としてはよく仕込まれている、ごく「普通のグローバル人材」の登場である。


草の根グローバル化の時代には、このタイプの人材の育成と活用がまさに望まれているのではないだろうか。

 

2013年5月14日掲載

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