コラム

グローバル時代の教育について考える

諏訪康雄 

法政大学名誉教授、元中央労働委員会会長

経済産業省/我が国産業における人材力強化に向けた研究会委員(人材像WG座長)


第4回 グローバル人材と社会人基礎力

社会人基礎力は、ごく普通の人にとっても社会に出たら欠かせない「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の三要素を明確にする。つまり、指示待ち人間にならずに自分から一歩前に踏み出し、マニュアル人間にならずに自分の頭で考えて工夫し、一匹オオカミにならずに周囲のみんなと力を合わせてチームで働けるようになろう、と提言する(2006年の経済産業省「社会人基礎力に関する委員会」中間報告)。


グローバル人材をめぐる議論をあれこれ経験したが、結局、この社会人基礎力のような人間としての基盤的能力をきちんと鍛え、そのうえで行うべき業務がきちんと処理できるようになると、異なった文化的脈絡や社会関係においても、十分に対応していけるという結論に落ち着くのが常だった。だから、これに加えて、国際共通語の英語と現地で使われる言語がそれなりにできるようになれば、言うことはない。どんな国に出かけても、まず大丈夫のはずである。これこそ「普通のグローバル人材」論である。


実際、語学だけできても、業務がわからなければ仕事にならない。仕事のできない人は、どこの国の現場でも歓迎されない。だが、語学と業務ができても、社会人基礎力に富んでいなければ、現地社会には溶け込めない。社会人基礎力に欠ける人は周囲からの理解と信頼がなかなか得られず、きちんとした人的ネットワークを形成できない。これでは、国内と同様に国際社会においても、大きく飛躍するような仕事をすることが、まずできない。どんな社会でも、真に大切な情報や事業は、人脈を通じてこそ流れてゆくからだ。

 

したがって必要なのは、時流に乗ってメッキを施すような小手先の人材教育ではない。家庭、地域、学校、企業で、人間としての基盤的能力を育てることを再評価する、社会的な雰囲気と仕組みと実践が求められる。知力や体力だけを鍛えてもまだ足りない。それとともに、人間社会で仕事をしていくために要請される、社会人基礎力などの基盤的能力を形成する必要がある。

 

この点、数百年にわたってグローバル国家を形成した古代ローマでは、人材の育成方法がきちんと理解されていたようだ。人間の本性に「ある種の組織的訓練と学問による陶冶が加わったならば、その時こそ素晴らしい特異な才能が開花する」と、キケロは2000年前に指摘した(アルキアース弁護、小川正廣・谷栄一郎・山沢孝至訳『キケロー弁論集』岩波文庫、2005年、130頁)。人はまさに「生まれながらの才能+組織的訓練+学問的陶冶」によってこそ、有為な人材となるのである。

 

生得の能力はさておき、「学問的陶冶」は、学校教育や職業能力訓練によって、社会に出て課される業務をきちんと分担できるだけの力(分業能力)をつけることに通じる。「組織的訓練」は、個々人がバラバラではできない、大きな事業を処理するために必要な組織の編成と運営の力(協業能力)を付与する。これを踏まえて、ローマ帝国の共通語であるラテン語と地元の諸言語に対応することで、当時におけるグローバルな統治を可能としたのであった。

 

社会人基礎力は「組織的訓練」と重なるところが多いとともに、同時に「学問的陶冶」も一部カバーする。グローバル人材に限らず、これからの学校教育では欠かせない視点だと考える。

 

2013年7月1日掲載

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