コラム

グローバル時代の教育について考える

諏訪康雄 

法政大学名誉教授、元中央労働委員会会長

経済産業省/我が国産業における人材力強化に向けた研究会委員(人材像WG座長)


第5回 グローバル人材と教育

グローバル人材は多様だ。現在、新興国や途上国に進出する企業でもっとも望まれているのは、自社が所属する業界、業務の経験が一定年数あり、現地での技術指導や組織管理がこなせ、本社と現地組織との間に立って調整ができる人材であろう。

 

この水準であるならば、海外進出の歴史が長い大企業の場合、すでに相当数の人材がいる。育成システムもできている。望むべくは、より海外展開に向いた人材、とりわけ現地の経営ができる人材や、ある国から別の国へと移りつつ、どこでも優れた国際経営ができるような人材ということになる。

 

だが、日本の学校教育では子ども時代から多様な国籍の人材がふれあう機会に乏しく、就職後もそうであるから、語学力も異文化交流力も限界をもつ。グローバル人材教育の必要に社会が気づいたとしても、すぐに多くの成果は望めまい。カルロス・ゴーンのような経歴に育てる人事管理方式を取り入れてこなかったから、既存の日本人社員には困難であるし、多国籍社員を活用しようにも、日本型雇用や企業風土をかなり変えていかないと、実現が容易でない。

 

ただし、幸か不幸か、その種の高度なグローバル人材のニーズは、まだ一部にとどまっている。今後、徐々に学校教育や雇用管理や企業文化を変容させつつ、時間をかけて一級のグローバル人材の形成となるよう対応していくほかはないだろう。

 

他方、国内展開しかしてこなかった大企業や中小企業の場合は、急に需要が起こったからといって、即戦力になるグローバル人材が社内にいようはずもない。社外から採用したところで、企業風土がわからないと、本社との調整が円滑にできない。そこで「困った!」という声の大合唱となる。

 

しかし、ここで必要とされるグローバル人材の水準は、まだそう高度ではない。社会人基礎力があり、業務がよくわかっている人材を、因果を含めて説得し、現地に送り込み、試行錯誤をしながら現場で対応していってもらえば、なんとかなる話が大部分だろう。当初の語学力や異文化交流力は心もとなくとも、人間としての基盤的能力さえあれば、どうにか対処できよう。現地の人脈もやがてはできるに違いない。もちろん、日本に留学してきた多くの国籍の若者を採用し、時間をかけて育成し、企業文化にも慣れてもらってから、現地に戻せば戦力としてもっと望ましい。何といっても、日本語も社内語もわかるから、ありがたい。だが、その種の育成をしている時間やノウハウがないといって、企業は困っているのだろう。

 

では、学校はどうしたらよいか。お家芸の知識教育や体力養成だけでは、無理だ。変化に対応できる学習能力を身につけさせ、社会人基礎力などすべての基盤となる人間的な能力を育成することが大事だ。正課教育でも課外教育でも、生徒・学生にかなり背伸びをさせる課題を与え、チームを作っては再編成しながら、グループワークで議論させ、苦労と工夫と達成感を繰り返し体験させることが有益である。

 

この点、校内の生徒活動に社会人基礎力の視点を入れて活性化させた中学、地域の課題に向きあった総合学習をすることで社会人基礎力を伸ばす高校、社会人基礎力育成のために通常授業でもバズタイムやグループワークを入れて議論、報告やレポート作成を課す大学など、実践例も増えてきた。これらが広まっていくことが期待される。

あとは、できるだけ早い年齢段階から異文化体験ができるようにすれば、いうことはない。社員や教職員も同様だが、生徒・学生もまた、具体的なニーズをみずから痛感しないままでは、所詮、グローバル化対応など他人事にとどまってしまう。

 

2013年8月14日掲載

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