interview

雇用問題に挑むためのNPOという選択。

若者として。労働法を学ぶ学生として 

今野晴貴 NPO法人POSSE代表

今野晴貴氏
今野晴貴氏

【プロフィール】

こんのはるき/一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士課程在籍、NPO法人POSSE代表。1983年生まれ。中央大学法学部で労働法を学んでいた学部生時代に、都内の大学生、若手社会人と協力してNPO法人POSSEを結成。若者自身の手で労働相談、労働法教育、調査活動、政策研究・提言などを行っている。NPO法人代表の他に、労働社会学、雇用政策を研究する大学院生としての顔も持つ。科学者に憧れていたが、高校入学後、社会的な問題に興味を持つようになり、弁護士を志して法学部に進学。ただ、型にはまってずっと法律の勉強をするよりは、社会貢献を理論的・実践的にやっていきたいと、現在の道へ。趣味は気分転換の散歩。

下北沢のPOSSE事務所
下北沢のPOSSE事務所

ご存知かもしれませんが、労働に関して若者が置かれている状況は最悪です。就職難の上に、非正規雇用の労働条件はなかなか良くならないし、いじめや過労死ラインを超す残業が常態化しているブラック企業も少なくありません。さまざまな問題が山積みのままです。POSSEは、そうした現状を若者自身の手で打開しようと活動を続けるNPOです。


--どんなきっかけで旗揚げされたのですか。

 

POSSEを立ち上げたのは2006年、非正規雇用や若年無業の人がすごい勢いで増えていた時期です。当時その流れは労働問題ではなくて、「フリーター問題」や「ニート問題」として語られていました。若者がおかしくなったという見方で一括りにされていたのです。「就職しない若者が増えて困る」と。

 

僕はその頃大学で労働法を学んでいたのですが、非正規雇用のあり方について、問題点も多く指摘されているし、法的にはさまざまな対策を取っていく過程にあるんだろうと期待していました。ですが実際に勉強していくと実情はむしろ逆で、フリーターが増えて困ると言いながら、政策的にはフリーターをもっと増やす方向へ進んでいた。で、そういう状況に非常に違和感を持って、これは取り組まなければ、と思ったのが一番のきっかけです。非正規雇用の若者の労働問題に取り組んでいる組織は全然ありませんでしたから、自分たちでやるしかない、という思いです。この時、学生だけど全く誰もやらない新しいことに、チャレンジしていくんだという感覚はあったと思います。

街頭での調査活動
街頭での調査活動

立ち上げの際にしたことが二つありまして、一つは労働相談。これは労働法を学ぶ学生だからすぐに始められるというので思いつきました。

 

もう一つはアンケート調査。非正規雇用の問題を「若者の意識の変化」で片付けてしまう世間へ向けて、実はそうじゃないんだと訴えるには調査が必要だったんです。なにしろ、こうした問題意識のある調査・研究は皆無でしたから! それで大学の後輩や友人、十数人の仲間と毎日街へ出て、35歳未満と思しき若者に声をかけて話を聞く。ひたすらその繰り返しで3000人の声を集めました。

 

--その結果どのようなことが分かりましたか。

労働法教育セミナー
労働法教育セミナー

まず、フリーターは労働時間が結構長いということ。特に自活しているフリーターは、週5日とか1日7時間以上とか、普通に働いているんです。つまり気ままに生きているというイメージだけでフリーターを語るのは誤りじゃないか。POSSEを立ち上げる時に調査結果を発表することで、僕たちはそうした問題提起を行いました。

 

加えて、どのくらい違法行為を受けているか調べたんですが、残業代をもらっていない、有給休暇がないといった答えが5割弱でしたか、かなりの割合で返ってきました。さらに「労働基準法を知っていますか」と尋ねてみたら、例えば1日の労働は8時間までとか、1つでも具体的に知っている人の割合は、これも半数にのぼりました。

 

労働法教育セミナー
労働法教育セミナー

ところが集計してみてわかったのですが法律の知識のある人が必ずしも違法な扱いを受けずに済んでいるわけではなかった。ほとんどの人は、たとえ法律を知っていても、会社側が残業代は出ないと言ったら「それじゃあ残業代をもらうのは無理だな」というふうに思ってしまう。僕たちはこうした問題にも気づいたわけです。で、これからNPOをやっていくに当たって、労働法の周知に努めると同時に、法律をどう使っていくか、企業に法律を守ってもらうために僕ら若者は何をすべきかといった課題にも取り組まなければ実践的でないなと自覚したんです。

 

「労働基準監督署に駆け込めばいいんじゃないの?」という意見もあると思います。しかし労基署は一種の警察でして、そこら中に違法行為があるからといっても、全て警察が取り締まるというのは警察国家的な発想で、民主主義社会では普通は考えられないんです。法律学を学んだ人間の感覚からすると、社会の自浄能力でだいたいのことは解決し、あまりに酷いところは国家がやるというふうにならないとバランス的に変なのですね。だから、僕自身が法学部の学生だったからこそ、労基署に頼っていこうという発想は最初からあまりありませんでした。

 

--今も労働相談や調査を続けられてますね。

セミナーでのワークショップ
セミナーでのワークショップ

はい。労働相談は話を聞いた上で弁護士なり労働組合なり行政の窓口なりを紹介するのが基本ですが、実際にはそこで終わらずに、その後も助言をして、問題解決までいろんな社会制度を使えるようサポートしていくことが大事だと考えています。というのも、途中で嫌になってしまう人も少なくありませんから。争い続けるより転職活動をしたほうがいいや、と。でもそうすると、企業の側はやり得ということになって、社会に違法行為が蔓延してしまう。だからそれを防ぐために、多少大変でも一回一回きちんと法的なけじめをつけなくてはならないと考えていて、POSSEではそのための支援をしているわけです。相談者の心が折れないよう支援し、社会のために一つひとつ不正を正すことが大切なのだと勇気づけていく――結局はこれが労働環境の改善につながると思うのです。

 

『POSSE』 情報発信のために雑誌や書籍を発行
『POSSE』 情報発信のために雑誌や書籍を発行

活動が軌道に乗るにつれて、正社員の相談が多くなったのは意外でした。非正規と同じように、正社員のリストラやいじめといった問題のほうも件数も多く深刻だったのですね。で、そうした相談をいくつも受け、いろいろと調査をするうちに、ブラック企業の実態が見えてきて、本を書くまでに至りました。

 

これが労働相談を続けるうちに固まってきたPOSSEの運動コンセプトです。すなわち、相談を受けたら、それがどういう問題なのか見極め、次にそこで見えてきたものが社会の問題だと提示するために調査を行う。さらに雑誌を作って情報発信し、 政策提言にまでつなげていく。「相談→調査→政策提言」というスタイルです。この発信媒体である雑誌『POSSE』は、学生や出版関係のボランティアが、企画、編集、出版を行っています。自分自身研究者でもあるので、労働相談の現場に関わるだけでなく、それを学術的に考えたり、世の中に発信したりするところまでトータルにやっていくことを目指しています。僕は現在、雇用政策の研究をしていますが、これはキャリア教育とか労働市場政策とか、もっといろいろと提案できるようになりたいと考えた上での選択です。

 

--今後はどんなことを目指されていますか。

労働問題の電話相談
労働問題の電話相談

労働法教育のフォーマットを作りたいと考えています。自分が昔、家庭科で受けたPL法()やクーリングオフの授業のように労働法を教えられないかというアイデアです。例えば、訪問販売のトラブルは消費者相談センターに電話しましょう、というのと同じように、「いざとなったらNPOや弁護士会に相談すればなんとかなるかも」くらいのことは覚えておいてほしいんです。 今の学校教育ではその程度のことすら教えていませんから。つまり相手がルールを破った時にどうすればいいか、何の備えもありません。うつ病になったりして、キャリアが台無しにされかねない大問題なのに。教育というのならそこをやらなければならないのではないか、と強く言いたいですね。その授業は、公民ではなく、やはり家庭科でやるべきでしょう。

 

POSSEではこれまでに、高校で延べ50クラスほど労働法教育をやりました。無料で教科書を配布してもいて、それを使って授業をされている高校の先生もいらっしゃいます。とにかく労働法教育の手法にもっと磨きをかけて、教育の経験を増やしながら社会に提案して、一番効果的な形で学校の授業に入れられないかと考えています。そこには状況を大きく変える可能性があると思います。

 

今の時代、自分のキャリアは自分で守らなければなりません。だからこそ、自分のやりたいことをやるためにも、自分の将来を切り拓くためにも、ちゃんと身につく労働法教育が必要なのです。そしてそのためにPOSSEのような市民団体による取り組みが重要なのだと、今、強く意識しています。

 

--市民団体による取り組みと言えば、震災の被災者支援をなさっているそうですね。

仮設住宅での聞き取り調査
仮設住宅での聞き取り調査

POSSEは現在、東京と京都と仙台に拠点があるのですが、このうちの仙台支部で被災者支援を行っています。具体的には、マイクロバスを用意して、仮設住宅の人たちの送迎事業に取り組んでいるところです。一般にあまり認識されていませんが、仮設住宅に入っている人たちは裕福でない場合が多くて、高齢だったり、病気や障害を抱えていたり、認知症だったり、そういう人たちがそのまま放置されているようなところがあります。そこで、そうした人たちがどんな問題を抱えているか見つけ出して、行政につないでいくという活動をしているわけですね。例えば、義捐金の手続きができていないようであれば一緒にそれをやりましょうとか。

 

ただ、いきなり相談にはならないので、まずはなにか生活のお手伝いをする。それが今は通院や買い物の送迎なんですが、すると「今度バスが出ますよ」ということで家々を回れますから、その中で問題が見えてくる。そして実態を調査して世の中に示し、日本は福祉政策がもっと必要じゃないかといったような問題提起をする。これは、貧困・社会保障政策を扱う際のモデルケースになると思います。現在までの活動を通じて培ったコンセプト「相談→調査→政策提言」で、いろんなことに挑戦しているのです。

引越しの支援
引越しの支援

--社会のためにPOSSEができることは何だとお考えですか。

社会の規範(=正しさ)についてきちんと争っていくことですね。「正しさ」というのは独りでに決まるものではありません。紛争があって初めて、どちらが正しいのかと問題になり、その議論の中で「こちらが正しいかな」と決まるのです。つまり黙っていては何も変わらない。だから、世の中をよくするためには、座して待たずにどんどん問題を提起しなければならない。自分の立場から問題提起をしていくのが民主主義なのですから。その時に、POSSEのようなNPOが、一人ひとりの市民と社会とを結ぶ懸け橋になれたらいいなと思います。

【注】

※PL法:「製造物責任法」の略称。製造物欠陥により損害が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任について定めた法規のこと。

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