Special Interview

学びが社会とつながって見えることが大事。
とりわけ、普通科高校でのキャリア教育の意義は大きい。

 

藤田晃之氏 

文部科学省 国立教育政策研究所
生徒指導・進路指導研究センター総括 研究官
【プロフィール】
昭和38年生まれ。専門は教育学、進路指導・キャリア教育研究。中央学院大学、筑波大学教員を経て、平成20 より現職。文部科学省のキャリア教育に関わる体験活動の調査・研究に幅広く関わる。近年の編著書に『キャリア教育の系譜と展開』『講座 日本の高校教育』等。

社会経験や大人との出会いで、今学んでいることの意味を感じる

――今、キャリア教育の課題は何であるとお考えでしょうか。

二つあると思います。一つは、子どもたちがリアリティをもった社会的な現実と接点をもつことが必要であるということです。生徒や児童たちは、いつかは必ず学校を巣立って社会に入っていくわけです。自分たちが参画していくその先の現実というのを、やはり実体験を伴って知るということがすごく重要なので、実体験を伴う社会経験、特にキャリア教育の場合ですと職業に中核を置いた社会経験が非常に重要であると考えています。

 

もう1点は、日常的な学び、それは教科や科目での学び、あるいは特別活動、総合的な学習の時間、道徳を通した学びも含めて、将来的に応用の可能性をもつ様々な俯瞰のある学びを、子どもたちはいっぱいしているのですが、それが実感できていないことです。つまり、「なんだかよくわからないけど勉強している」と。せいぜい入試くらいしか見えていなくて、入試が終わったあとその学びがどうなるのかということは彼らは意識できていません。学びの有用さや深みを知らせる手段はたくさんあると思うのですが、そのうちの1つが社会との接点であり、将来との関連性だと思います。そのような観点から学校での学びを捉え直すということが、キャリア教育の大きな役割ではないかと思っています。

 

――「職業に関する様々な学び」 と「知識の活用」は共にキャリア教育に入るわけですが、活動としては、別にやっていくものとして捉えているのか、一緒に行っていくのか、どうお考えでしょうか。

一連のものだと思います。本質的には違うものではありますが、やり方によっては1つの実践が両方に効果を発することもあるだろうと思います。職場体験やインターンシップが片方にあって、例えば総合的な学習の時間におけるプロジェクト学習や探究学習など片方の極にあったりしますが、これらはすべてひと続きにつながっていると考えることが大事です。例えば、企業の方が来られて理科の実験の授業をされる。その授業の前後にきっと自分の仕事やその製品に対する思いを話されますね。それが仕事のリアリティを知ることにつながる。今学んでいることと、将来の自分の生活が一体感を持って感じられることこそ、外部の大人と出会う意味であると思うのです。

 

つまり、子どもにとっての学びは、大人にとっての「仕事」とある意味同義です。学校で勉強する時間は、生活の中での時間的な占有も社会的な期待も大きく、さらに人に尋ねられれば、大人は自分の会社名を名乗るのに対して、子どもは「〇〇小学校4年」と答えるように、です。もちろん、仕事は社会への貢献であるのに対し、学びは助走期間、準備期間という意味で社会的機能は異なります。ただ、いずれ大人になる子どもにはこの2つがつながって見えることが大事です。今の積み重ねが将来のアイデンティティにつながっていくのだという理解というのは必要で、その学びの社会的な接点を捉えるというのは、それと同じことだと思います。その意味で、最初に申し上げた、社会のリアリティを知る、特に職業的な意味でのリアリティを知るということと、学びの捉え直しというのは、根っこは一緒でつながっていると考えています。

 

普通科高校では、より意識的キャリア教育を

――キャリア教育で、いま一番力を入れたほうがいいと思われるものは何でしょうか。

キャリア教育は全ての教育活動を通して実践されるものであり、キャリア教育を通して育成する力は、新しい学習指導要領の基盤である「生きる力」に包含されます。また、新しい学習指導要領は、学習意欲の向上のためにキャリア教育の充実が不可欠であるとしており、教科を通したキャリア教育の重要性が一層高まっています。理科を中核としながら大学や大学院での学びとの系統性を強く意識したSSH(スーパーサイエンスハイスクール)も、視点を変えれば、キャリア教育の1つの重要な実践のあり方だと言えるでしょう。

 

しかし、現在高校生の72%を占める普通科高校の多くでは、生徒にとって学びと社会の接点が見えにくい状況が続いており、文部科学省では現在、高校、特に普通科高校へのキャリア教育の浸透を最重要課題の一つとして位置づけています。

 

普通科高校では、より意識的にキャリア教育を行う必要があると思っています。公立中学の生徒の96.9 %が経験しているインターンシップ(就業 体験)も、公立高校普通科の生徒では、17.3 %にすぎません(2011 年度調査)。また、例えば、現在の学びから知的な醍醐味を得たり、将来のために教科の学習をがんばろうと捉えたりする日本の高校生の割合は、極めて低いのが現状です(PISA調査)。これでは、先生方が一生懸命教えていらっしゃる授業は、実は大学入試後はすぐに忘れられてしまう知識を詰め込んでいることになります。これはとても残念なことです。

 

――普通科高校ではどのようにキャリア教育を取り入れればよいのでしょうか。

まずは、高校では学びの意義を伝えることが必要だと思います。先生方には授業の中で年に1回、10分でいいので、「なぜ自分がこの教科を担当しているか、この教科のどこが好きで、社会にとってどのように重要だと思うか」を話していただきたいと思います。本質的な学部の楽しさや意味を伝えないまま、「入試にでるぞ」と勉強を促すだけでは、受験後剥落する「知」を生徒に強要していることになりかねません。例え将来その教科の学びを活かす仕事に就かないとしても、先生の気持ちや、その教科の大切さをわかったとすれば成功です。その上で、「大事だから入試にでるんだ。今はその大切さはわからないかもしれないけど、頑張ろう」と伝えれば、受験指導も将来とのつながりを考えさせることになります。

 

また、高校生活の中には、体育祭や文化祭などの準備や運営を通して、基礎的・汎用的能力、例えば「人間関係形成・社会形成能力」や「課題対応能力」が育つなど、キャリア教育の要素がたくさんあります。生徒達が文化祭等で困難を乗り越えた経験をしたならば、「そういう力は社会に出てからも必要だよ」と生徒に伝えて意識化させる、また例えば進路講話をしていただく方にそのことを伝え、仕事で壁にぶつかった経験になぞらえて話していただくのもよいでしょう。

 

さらに、進路選択のための取り組みを、キャリア教育としてとらえることで、生徒の学習意欲の向上につなぐこともできます。静岡県立韮山高校では、1年生の希望者に対して、保護者やOBなど の人脈を活用して、法律事務所や商社、大学の研究室等でインターンシップを行ったところ、難関大学への現役合格者で、インターンシップ受講者の割合が相対的に高くなったという結果が得られました。これは、社会と接点を持ってこういう大人になりたいと思った生徒は、学習意欲が高まるということを示唆しているといえるでしょう。

 

教科・科目の中の学びにおいて、キャリア教育をやってみる

――文部科学省の施策としての指導はどのようなものがあるのでしょうか。

現在、キャリア教育の様々な手引きやパンフレットを集約的に出すとともに、教員研修も進めています。将来的には、2011年1月の中教審答申にも指摘がありましたように、キャリア教育を学習する中核的な時間または教科・科目を、すべての高等学校に導入することを、次の学習指導要領の改訂に向けて検討していくところです。科目で言えば、現在、「産業社会と人間」という科目がありますが、原則総合高校の履修科目になっていて、一般高校では、あまり行われていません。テキストも教員資格も定まっていません。その辺りから問い直し始めようとしています。

 

ただし、キャリア教育は先生方が本当に納得してやってくださらないと、子どもたちも学ばないし、学校にもすごくマイナスのイメージになります。ですので、成功事例を情報発信し、先生方の取り越し苦労を軽減できるように努力しながら、進めていきたいと思います。

 

その一方で先生方には 、中核的な時間や教科・科目が設けられていない現時点でも、やれることはあるとご理解いただきたいと思います。例えば総合的な学習の時間や特別活動などでも、「自己の生き方を考える」ための時間や機会はあります。今あるものをしっかり活用していただいて、まずはやっていただく。前述したように、教科・科目の中の学びにおいても、地域資源を活用あるいは連携することを含め 、学びを深めるチャンスはいっぱいあります。それは、地域や学校の特性やニーズに応じて、学校ごとに様々な取り組みでいいと思います。

 

いいキャリア教育ならば、最終的には形として成果が現れてくるものだと思います。就職や進学といった出口の部分がよくなることがやはり大事ですが、まずは、学校内でいえば、成績や、中退率、出席率、遅刻率などに目に見えるデータにも現れてくると思います。また、それ以外にも皮膚感覚で、「いいな」と思えることも見えてくるでしょう。実際に今、先行的にやってくださっている学校が、おしなべてそういう結果も出しています。

 

先生方は、外部の方に協力してもらったらいい活動ができることはわかっていても、負担感があるとなかなか手が出せないものです。それを、例えば「就業 体験に行ったら、子どもがすごく授業の反応がよくなった。中間テストの成績も上がった」というような、小さな成功を積み重ねることで、「取り越し苦労感」が解消されていけば と思っています。

 

――その取り越し苦労を少しでも軽減できるのが 、キャリア教育コーディネーターであるということになりますか。

学校教育に家庭や地域や企業の力が必要であることは、以前から指摘されてきました。けれども、高度経済成長期においては、充実した企業内教育と配置転換の組み合わせによって社員の育成を図る企業が大企業を中心として多かったため、学校と連携・協力して若年者の能力開発に取り組むケースは例外的存在でした。しかし、いわゆるバブル経済の崩壊後、企業が担ってきた人材育成の機能は大きく揺らぎ、それに伴って、入社以前の能力開発、すなわち、在学中の子ども・若者の能力の開発に、産業界からも大きな関心が向けられています。学校と企業等との連携・協力の重要性は、かつてないほどに高まっているのです。

 

とはいえ、学校も企業も戦後長い間経験してこなかった「付き合い」をするのですから、お互いとまどいが多いのは当然でしょう。この時、先生や企業にとって、その苦労を軽減してくれるコーディネーターの存在は非常に大きいと思います。

 

求められる社会的機能としてのコーディネーター

――コーディネーターに期待されていることは何でしょうか。

キャリア教育コーディネーターに期待されることは、まず、学校と産業界、双方の「文化」に関する理解ではないでしょうか。企業やNPOの方が教育への思いだけで学校教育に参画しようとしても、学校の文化・風土・慣習などがその障壁になることが多くあります。学習指導要領の内容やその機能、各学校における教育課程の決定プロセス、校内の教員組織など、具体例を挙げ出せばきりがありません。一方で、学校も企業に対してどのように支援や協力を求めればよいのか、とまどっています。先生方は、学校近隣にある教育資源の存在はよくわからないのです。たぶん企業の方にも、自分たちがなさっていることが学校現場で生きるという発想もないと思います。コーディネーターが入ることで、まさにこの両者をつなぐ ことができるのです。

 

もう1つ期待されるのは、地域の多様な教育資源が、学校を支援することに向けてまとまっていく場の機能です。既存の地域の教育資源に関わりが深い商工会議所やハローワーク、青年会議所、ロータリークラブ等の人が、実際にキャリア教育コーディネーターに会ったり、あるいはその考え方を知ったりすることで、同じ方向に動きだすことができるでしょう。そして、よりよい学校支援のコミュニティが生まれるとともに、商工会議所等の既存の組織が、キャリア教育コーディネーターの機能を果たすようになる可能性もあります。

 

文部科学省では、キャリア教育推進のためのコンソーシアムを置くことを計画しています。これは、国全体の緩やかなコンソーシアムと、その下部組織としての、ある程度独立性を持った地域ごとの組織という形で、まさに学校とキャリア教育コーディネーター、地域の教育資源が連携するという図式です。まず都道府県単位で作っていこうというものです。また、2012年6月に出された「若者雇用戦略」では、「地域キャリア教育支援協議会(仮称)」の設置が提言されています。現在、大阪では関西経済連合会等が中心となって、「関西キャリア教育支援協議会」が立ち上がっています。これらの活動において、キャリア教育コーディネーター機能もますます重要になることでしょう。

 

――どのような人がキャリア教育コーディネーターになったらよいのでしょうか。

過去の職務経験は問いませんが、やはり地域の教育資源を十分知って、社会との接点を十分に持った人になっていただきたいと思います。企業に勤務する人であっても、週末等時間の取れる時に、社会貢献という形で関わっていただくのもよいと思います。また、既に学校と関わりのある事業者の方、例えば修学旅行をアレンジする旅行業者の方とか、情報システム会社の方等がキャリア教育コーディネーターの資格を取って、教育の中身の相談に乗るというケースもあるかもしれません。これは、単に資格を取って名刺に刷り込んでおけばいいというものではなく、企業の学校に対する貢献活動であって、それによって学校も企業もメリットを得るならばよいと思いますね。今までの学校は、企業文化を排除しすぎるあまり、SOSが出せなくなってしまっているところがあると思います。例えば大学の冠講座のように、学校にとっても、企業にとってもwin-winの関係を持つことができるようになることが大事だと考えます。

 

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