平成25年度キャリア教育推進連携シンポジウム

パネルディスカッション

<パネリスト>

菊池匡文氏(横須賀商工会議所 専務理事)

清水隆彦氏(東京都荒川区立諏訪台中学校校長/全国中学校進路指導連絡協議会顧問)

竹原信次氏(次世代キャリア啓発塾代表)

宮下和己氏(和歌山県立桐蔭高等学校校長/元国立教育政策研究所総括研究官)

若江眞紀氏(株式会社キャリアリンク 代表取締役)

<モデレーター>

長田徹氏(文部科学省初等中等教育局児童生徒課 生徒指導調査官)

 

長田徹氏
長田徹氏

長田:

パネルディスカッションの参加申込の際に、多くの方よりご質問をいただきました。本日は、それらに対して、パネリストの皆さんからお答えいただく形で進めさせていただきます。

 

■質問「企業が求める人材と学校が育てていく人材、いわゆる人物像には意識差があるのではないでしょうか。」

竹原信次氏(次世代キャリア啓発塾代表)
竹原信次氏(次世代キャリア啓発塾代表)

竹原:

私は、定年まで一貫して企業の人事・労務畑におりまして、その後、キャリア教育のコンサルタントを行っています。キャリア教育というのは、社会に役に立つ基礎的な能力を育てる、自立する、あるいは自律する力を養成して、社会に立ち向かえる問題解決能力を作り上げるということだと考えます。そうした人間としての基本的な能力においては、企業と学校が想定している人材像には差はないと思います。

 

若江眞紀氏(株式会社キャリアリンク 代表取締役)
若江眞紀氏(株式会社キャリアリンク 代表取締役)

若江:

私は23年前にこのキャリアリンクという会社を立ち上げ、小、中、高、大学を対象に、企業の社会貢献を学校のキャリア教育支援につなげ、教科の中で取り組める、社会とつながる授業に力を入れて進めております。私達は、企業に向けても、先生方、校長先生方にも、今の日本に求められる力は何でしょうかと、それぞれにワークをしていただくのですが、挙がってくるものを整理すると、必ず同じ力になるんですね。文部科学省でも、経済産業省でも、表現は異なりますが同じ力を挙げているように、産業界が求める能力も、学校で育成しようとしている能力も、まったくギャップがないと言えると思います。

 

■質問「教職員間、学校間でも、キャリア教育について意識差があるのではないでしょうか。先生方のキャリア教育に対する意識はどうなのでしょうか。」

 

清水隆彦氏(東京都荒川区立諏訪台中学校校長)
清水隆彦氏(東京都荒川区立諏訪台中学校校長)

清水:

教職員の意識が変わるには、管理職が変わらなくてはいけないと思っています。管理職が変わろうと思っていなくて、自動的に教職員が育つわけがありません。管理職を育てるにあたり、教育委員会のみなさんにがんばっていただくことも必要でしょう。校長としては、戦略を立てて進めていかなくてはならない。学校経営方針の中に基礎的・汎用的能力を育成するという規定を入れたり、キャリア教育の視点を入れた授業研究を何回以上やると決めるということなども、策としては必要かと思っています。

 

また、教員が意識を変えるには、企業と進めていく際に、教員が汗をかかなくてはダメだと思っています。職場体験をお願いに行って、10件のうち9件はだめだった、やっと1件とれましたと、汗をかく。教員が企業の皆さんと一緒に、何時間も話し合う。そのことが意識改革につながっていくと思います。

 

宮下和己氏(和歌山県立桐蔭高等学校校長)
宮下和己氏(和歌山県立桐蔭高等学校校長)

宮下:

私は、平成15年から20年まで、国立教育政策研究所におりまして、その後、和歌山県で高校とその併設の中学の校長をしております。今年度から、研究開発校として、中高のキャリア教育を取り組んでいるところです。

 

学校におけるキャリア教育の浸透という意味では、今回の高校の学習指導要領の中にキャリア教育という単語が初めて入りました。中学では、例えば理科の学習指導要領の中に、「理科で学習することが、様々な職業などと関係していることにも触れること」と書かれています。今までなかったですよね。先生方にもキャリア教育の大切さがわかってきて、さあ取り組もうと言ったときに、それは授業においてなのです。学ぶことの大切さが、働くことの大切さにつながり、生涯を通じて生きることになるということが学校教育の中に溶け込み、内容が充実していくでしょう。ここ10年で、学ぶことと、働くこと、生きることの3つをトータルに考える大切さが、わかってきた時期かなと思います。

 

長田:

確かに先生方の意識差はないとは言えない、だからそれを解決していくには、まずは管理職の先生方のリーダーシップが不可欠であると。そして、続けること、つないでいくことが、大事だという話をいただきました。

 

■質問「キャリア教育で培う力が、企業は本当に大事だと思っているのでしょうか。採用の際にそれをわかって採用していますか。」

 

菊池匡文氏(横須賀商工会議所 専務理事)
菊池匡文氏(横須賀商工会議所 専務理事)

菊池:

企業にとって人は経営資源ですので、企業ごとの必要とされる人としての資源の許容範囲や方向性、求める技術などがあり、一概には言えないと思いますが、最近は、キャリア教育は必要な教育の一つだという意識があるので、企業はそれを前提にして考えていると思います。

 

竹原:

企業は新たな観点に立っています。例えば製品づくりにおいて、量産型・規格型といった観点ではなく、一つ一つに対して付加価値をつけたい。そうした中で、一律型な人間ではなく、自律できている人間が求められます。厳選採用になっています。それに応じるキャリア教育というのは、ものすごく難しいですが、それに近づけるキャリア教育が必要ではないかと思っています。

 

若江:

先ほども申しましたが、学校が育成しようとしているスキルと、社会が求めているスキルにはギャップがないと思います。でも、企業が今もし採用のときにギャップを感じているとするなら、学校教育現場でスキルの育成が、まだ、きちっと実践されていないからだと思うんですね。企業が求めている力と、学校が育成している力が一緒だということを、学校現場がきちっと認識していないことが、大きな要因ではないかなと思います。

 

 

■質問「生徒や学生は、本当にキャリア教育を求めているのでしょうか。生徒や学生がキャリア教育に期待することはあるのでしょうか。」

 

宮下:

今の子ども達は、将来に対して不安があると思います。ある調査結果では、大学1年生に、卒業後の進路について聞くと、「まだ何も考えていない」の回答が36.6%、「現在検討中」が41.6%。大学4年生に、大学卒業後の進路を考えはじめた時期はと聞くと、「高校1年生で考えた」というのが5.9%、「高校3年生で考えた」が6.7%。高校時代にほとんど考えていないという。こういう実態こそ、子ども達の不安感につながっている。その不安をどう取り除いていくかが、キャリア教育の一つの役割かなと思っています。

 

清水:

中学校では、生徒達が高校推薦入試のグループ面接のために、いろいろ練習をしています。中学生自身も、自分の考えをしっかり持たなければいけない、とか、話したことを受け、自分の意見を言わなければいけない、知識だけあってもダメだ、ということを、身近な課題として、捉えられてきているという感じはします。

 

また、生徒にとっては、キャリア教育という意識はまったくないかもしれませんが、議論型の授業を進めていったり、ICTで調べる授業を行ったり、いろんな手法を使って学んでいくことが、教科に対する意欲や理解する喜びにつながっていくと思います。そういったことを仕掛けていき、いつの間にかキャリアの視点が育成されている。それもいいと思います。

 

長田:

高校生、中学生が持っている不安が大きいことは、様々な調査でも明らかです。人間関係が一番の悩みと思われがちですが、実はそうではなく、中学生も高校生も半分以上が、進路や将来のことに不安を抱いていると、いう結果が出ています。ですから、キャリア教育という名前がつくかどうかは別としても、通常の学校の授業や活動の中で、将来の不安を取り除いたり、本物を知るような活動に取り組みたいと、子ども達も感じているんだろうと思います。

 

 

■質問「学校の先生方には、企業側の思いが届きにくい現状があるのではないでしょうか。キャリア教育を進める上で、どんな対策をされているのですか。」

 

菊池:

私ども商工会議所が平成20年度にキャリア教育に取り組む際に、教育委員会等との間において、まったく別のステージの議論がしばらく続きました。その中でも徐々にお互いの立場や求めるものを理解し合っていきました。まず垣根というものがあるという前提に、飛び込むことが一番大事だと思います。

 

学校の先生方に、企業の人達に協力してもらっているが、自分達は何ができるかわからない、という相談を受けます。何でもいいんです。要は、地域の人達と一緒に何かをやろうという、心がけだけで。学校現場だけが子ども達を教育する場ではありません。先生方が職場体験を受け入れてくださいと言えば、地域の人達にはそれに応え、快く受け入れてくれる素地があります。怖がらずに、どんどん外に出ていって、言葉を交わして人間関係を作ってください。そうすれば、必然的に垣根は取り払われると思います。

 

若江:

学校現場に誤解がすごくあると思います。企業のプログラムを紹介すると、多くの先生が、「それは企業の宣伝ではないか」と言われます。そうではなくて、キャリア教育でやらなくてはいけないことが、コミュニケーション力をつけるとか、協働的な学習や、ICTを使った授業であるとするならば、学校でそんな授業をしなければいけない。極端に言うと、教科書に従った知識詰め込み型の授業だけでは、そういう力はつかないわけですよね。

 

多様な体験をさせることと、教科の学習の中で総合的にスキルを育成していくということ、そのことが大事だと言われていて、企業の側では、苦労して自社のリソースが、どの学年のどの教科のどの単元のどういうところに使えるのか検討し、企業プログラムを作り、出張授業や教材提供をしているわけなんです。学校側が、企業がどれくらい本腰を入れているのか、本気で教務支援をしようとしているのか、ご理解いただけないことが課題の一つだと思います。

 

宮下:

以前と比べると、垣根が低くなったと思います。実は、子ども達の職場体験の広がりが、先生方の体験の広がりにつながっていったと思います。例えば、高校生が実習に行くときに、先生もついていく。そうすると、生徒だけではなく先生も最先端に触れられる。先生方も勉強になっていると思います。最初は職場体験に行ったときに、「先生は名刺の渡し方も知らんのですね」とよく叱られましたけれども、今はまずそんなことはない。もちろん、もっと企業の方と一緒にお話する機会が増えればいいと思っています。

 

長田:

学校は、怖がらずにまずは一歩踏み出してみようよと。教員も、企業や地域の方も子ども達のためにと思っていただいているので、お互いのがんばりを知ろうよということですね。さらに、この10年、垣根は相当下がっているという話でした。もう10年という言い方もありますが、まだ10年という見方もあるわけで、これからも継続してがんばっていこうよというメッセージをいただいたと思います。

 

 

■質問「学校と企業と地域がわかりあうために、キャリア教育コーディネーターといわれる方が必要ではないかと聞きます。その役割、配置の目的等を教えてください。」

 

若江:

教育コーディネーターは絶対に必要です。今までの話にもあるように、わかっているようでわかっていない、知っているようで知っていない、というところを、その地域や学校の状況に合わせて、紐解きしていくことが大事です。そこをショートカットして、学校と地域、企業との連携というのはなしえないと思います。

 

そして、コーディネーターは、学校と企業のどちらの立場についてもいけない、でもどっちの立場も十分にわからなければいけません。例えば、企業の方に集まっていただいてレクチャーをする。でもそこに学校のポリシーがあって、こんなことを学ばせたいという意図があるなら、それを徹底的に企業の外部講師の方に伝えなくてはいけない。そのときは学校の立場に立ち、いろんな役割を本当に強い信念を持ってやる、というのがキャリア教育コーディネーターの役割であり、今こそキャリア教育コーディネーターは機能を果たさなくてはいけないときだと思っています。

 

菊池:

実は、キャリア教育に参画することは、企業側にとっても相当なプラスがあるんです。私どものキャリア教育事業にどれだけ企業が参加してくれるか最初は未知数でした。その際、企業の方々にはぜひ社員研修としてやってはいかがですか、というふうに言いました。商工会議所だから言えたことでしたが、企業は参加することによるメリットをどうしても考えますので、キャリア教育コーディネーターが、企業にお願いするだけでなく、企業側のメリット、活用の仕方を提示すれば、もっと広がっていくのかなと思います。

 

 

■質問「社会総ぐるみで子どもを育てるにあたって、子ども達に地域愛が芽生えるのがキャリア教育なのではないでしょうか。キャリア教育によって、郷土愛が育まれるような事例があったら教えてください。」

 

菊池:

我々商工会議所にとってもここは一番重要なポイントで、これが欠落していればキャリア教育をこういう形でやっていないと思います。子ども達は、寝てる時間と、土日を除けば、ほとんど学校の中で生活しているわけで、自分の住んでいる町でどんな活動が行われているか、一切わからないですよね。そんな中で地域愛を育むというのは、なかなか難しいことと思います。やはり、地域の方から、気づきを与える、地域の方々との接点を見出す、そうした演出をするということは非常に大事だと思います。

 

竹原:

職場体験をやってみて、地元の大人がいかに大変かわかった例、海産物や織物といった地場産業でのインターンシップを経て、地元で仕事をしたいという子が出てきた例、そういう例があります。また、京都市内のある中学校、ここは荒れた中学校なのですが、モノを売る体験をしたところ、自分達で地元の商店街を盛り上げようと宣伝したり、ブラスバンドを引き受けたりと、荒れた中学生の思いもよらない展開例もありました。

 

清水:

キャリア教育において、地域人の育成は、社会人、職業人の育成とともに、重要であると考えています。中学校では、環境学習の中で、自分達が住む地域をよりよくするにはどうするかと活動を行いましたが、自分の地域を理解していく重要な教育だったと思います。また、地域ボランティア活動も、有効な取り組みです。そして何より、職場体験で地域の産業に触れることで、地域理解も進みます。これらが、重要な要素になりうると考えています。

 

長田:

中高生の将来への不安が大きいという話がありましたが、不安解消の基本は、自己肯定感の醸成だと思います。自分を好きになる、ということですね。自分の故郷や家庭が好きな子は、自分に対しても肯定的な態度を持っている。そう考えると、うちの地域や学校にこんなすごい人がいるんだ、うちの学校や地域のために精力を傾けているこんなすごい人がいるんだということを、小中高校生のうちに実感させるということは不可欠です。キャリア教育にとって、郷土愛は非常に大きいものであると、改めて確認させていただきました。

 

 

■質問「パネリストそれぞれの立場から、今すぐに、キャリア教育において取り組むべきこと、取り組んでほしいことを聞かせてください。」

 

竹原:

キャリア教育コーディネーターは、ボランティアでは続きません。キャリア教育を充実するには、予算を増額してほしいです。そして、各地域に臨床心理士が配置されているように、キャリア相談室を置いて、先生方やPTAの方が、普段から相談できる場にしてほしいと思います。

 

若江:

キャリア教育はどういうことかという認識を統一することだと思います。経済産業省、厚生労働省、文部科学省で、言葉がちょっとずつ違ったりするんです。子ども達に焦点を合わせて、やっていることは同じなんだと、ベクトル合わせをきちっとしていただくこと、そして各省が相乗効果がもたらされるような事業を提供していただけたらなと思います。

 

菊池:

キャリア教育は、当然ながら、扱うものが商品やサービスではないわけですね。生身の無垢な子どもの心を扱う授業ですから、そこに関わる人達が本気でやる、責任を持ってやるということが、まず一番大事だと思います。それから、行政は、1年でどれだけの成果が出るか、1年のスパンで考え予算立てされていると思いますが、人づくりというのは1年、2年で結果が出るものではありません。5年、10年たって、あの授業があったから、僕はこの土地で働こうと決めたんですと言う子が一人でも出るだけで、これは成功だと思います。ですから、長い目で見て、予算や政策を作り上げてほしい。

 

宮下:

一つは、ここにおられる方々が、キャリア教育の理解者を1人でも増やせるように、どうぞ火種をあちこちにつけて回ってください。これがこのシンポジウムの役割かなと思っています。

もう一つは、少子高齢化の進行で、地域全体が衰退していく。今すぐ、なんとかしないといけない時期に来ていると思っています。本日主催の三省を含め、国が大きく動き出す時期ではないかと思っています。

 

清水:

学校側が地域や企業にお願いするときに、重要になるのは、産学官でどんな子を育てたいんだという目指す生徒像があり、そして計画性があることだと思います。それから、もっと情報共有していく必要があると思っています。高校の先生は、中学校の職場体験を、一方、中学校の先生は、高校で行うインターンシップについて、どこまでお互いが理解しているのでしょうか。つながり感が、キャリア教育では重要であり、もっと情報共有して、力を合わせて取り組みを続けられるといいと思います。

 

長田:

ありがとうございました。今日、お話をうかがい改めて思ったことは二点あります。今の学びと実生活と将来に轍を作ることが、将来の不安解消や学習意欲の向上につながる、それこそがキャリア教育の役割ではないかということが一点。もう一点は、企業地域と学校と家庭をつなぐ、そこに轍をつなぐことがキャリア教育の大事な役割だということ。ただいずれにしても、すぐにできるものではありません。10年間かけて、徐々に成果は上がってきていますが、まだこれからです。これからも経済産業省と厚生労働省と文部科学省がちゃんと轍を作っていけよ、というご指摘を受けたと思います。

 

わくわくキャッチ!
社会人基礎力の育成の手引き
社会人基礎力の育成と評価

新着記事

「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」レポート

文部科学省と経済産業省では、「理工系人材育成戦略」を踏まえ、産学官の対話の場として「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」を設置しました(2015年5月~)。

留学経験が拓いた私のキャリア

吉岡利代氏(国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ)

中曽根康隆氏(国会議員秘書)

横山匡氏(アゴス・ジャパン代表取締役)

「社会人基礎力を育成する授業30選」実践事例集
◆社会人基礎力育成の効果的な取組のポイント
◆「授業30選」受賞大学事例
◆受講生のコメント  ほか