■商店街の役割を模索。子育て支援にたどり着く
なぜ商店街がこんなことをしているのだろう、と疑問を持たれると思います。そこで、私達が教育支援プログラムを実施するに至る経緯からご説明します。
長野県佐久市は、人口10万人都市。商店街が5つほどあり、その1つが岩村田商店街です。昭和30年代、40年代は、古き良き昔の商店街でした。周辺には商業施設がないので売れに売れて、という時代でした。その黄金期を過ぎて、16年前、長野オリンピックの招致により、インフラ整備が進みました。上信越自動車道の佐久インターチェンジが開通し、長野新幹線の佐久平駅ができました。一方で、イオンをはじめ、大型商業施設ができてきました。
そのころから、子育て環境が変わっていきました。核家族化が進んだということでしょう。一方、大型商業施設の進出で華やかだった商店街がさびれてしまった。なぜそうなったかというと商店街が努力しなかったからです。それではダメだと、いろいろなイベントをしましたが、4000人も5000人も集めても、イベントが終わると蜘蛛の子を散らすように人はいなくなります。そこで、当時の若手の経営者達が、振興組合を立ち上げ、地域密着顧客創造型商店街へと転換しました。地域の皆さんと共に暮らし、働き、生きる商店街を作ろうと決めました。空き店舗対策に、直営の惣菜店「本町おかず市場」を作ったり、起業家を育成するためのスペースを設けたりして、空きも少しずつ埋まっていきました。
しかし、我々に求められているのは、地域コミュニティーに必要とされている、安全、安心、子育て、食育、高齢者の相談相手、文化の伝承、歴史の継承…などではないか。地域貢献を目指した商店街に指向を変えました。
岩村田地域には、一時よりは減っているものの、先程のインフラ整備のおかげで、まだ子どもがたくさんいます。そして、その子育てに悩むお母さんがたくさんいます。そこで、活性化事業の柱として「子育て支援」に取り組むことにしました。
18歳未満の子どものいる家庭を対象にした会員制度を作りました。今、会員さんは1500世帯います。その会員に向けて、例えば、面白理科実験教室、野辺山に行って高原レタスを採ってくる、昔の遊びで遊ぼう、などといった子育て支援イベントを年間15本程度行っています。
■全国初の商店街直営の学習塾
そんな中、会員の中から、子どもの教育に対して不安があるという声をたくさん聞きました。商店街で子どもの勉強を見てくれる場所を作ってほしいという要望を受け、全国初の商店街直営の「岩村田寺子屋塾」を作ることになりました。
幼稚園年長生から高校3年生まで、平机で座って学びます。先進のデジタル機器のおかげで、個人ごとにプログラムも組めます。ですから、飛び級で勉強する子もいれば、学年を下げて基本から勉強する子もいます。教科も皆バラバラです。でも、定刻に始まって定刻に終わります。休憩時間になると、先輩後輩が一緒になってワーワーやります。そこには交流があります。そういうムードを作ります。隣には子育てママのための託児施設も直営で作りました。そして、高校生の就業体験の場「高校生チャレンジショップ」も作りました。
そして、平成22年から4年間、発達障害のお子さんを対象にした、学力支援講座をする機会が持てていました。そこで強く感じたのは、中学生である彼らのその後の行き場についてです。「なんとかならないのだろうか」と思っていた時、平成24年に鹿島学園高等学校(茨城県)から寺子屋塾に対して通信制のサポート校になりませんかという話がありました。それで、通信制高校に加えて、商店街としても、商店街という資源も活用して子ども達の自立を支援しようという思いになりました。
■自立を支援するプログラムが誕生
不登校、引きこもり、発達障害など様々な問題を抱える子ども達の「自立を促すプログラム」を打ち立てました。まずは、「基礎学力支援プログラム」です。一人ひとり異なるカリキュラムで、小学校の勉強に戻ってもよいし、高校の勉強をしている子どももいます。私は、入学してきた子ども達に「3年後、4年後を考えろ。社会に出た時の自立を考えて勉強をしなさい」と言っています。
それに合わせて「ビジネスマナー講座」。これは商店街の中に経営コンサルタントの方がいますので、その方にお願いをしています。それから「就業体験プログラム」。商店街ですから、酒屋さんあり洋品店あり和菓子屋さんありですので、いろいろな企業や商店で就業体験する。秋と冬の2回します。先日は焼酎のさつまいもを作っている方の軽井沢の畑に連れて行って、芋掘りをさせました。すごく楽しい就業体験プログラムになりました。
彼らには、「これができる」ということを掴んでほしいという思いです。状況によって引き続き商店や企業に非常勤ですけれども雇ってもらえる、そういう流れもできました。
そして、「イベント参加プログラム」。商店街では、毎月のようにイベントがあります。そこにドンドン関わらせます。いろいろな支援が必要な子ども達というのは、同級生の間では上手くいかないケースも、大人が関わるとスムーズに溶け込むことがあります。他の高校生に交じって、お祭りなどにも参加させます。
■商店街がお節介をやきながら子どもを自立させる
私はこのプログラムを通して、「環境は人を変える」ということがわかりました。不思議なことに、中学校に行っていた時はじっと座っていられない子どもが、うちの授業に来ると週に3日、10時半から3時までの短い時間ですが、遅刻しないし休まない、そして頑張って単位をとるための勉強をしています。イベントとなれば目の色を変えて頑張っています。そうやって環境が変えていくのだと感じました。
私達は、育てたいのは郷土を愛する人間、身につけさせたいのはどんな困難にも打ち勝つ学力、そこに必要なのは自助力、と考えています。それには周りの大人が必死になってお節介をやく、面倒を見る、こういう教育が必要なのではないかと思います。昔の子ども達は商店街に行くと真っ先におやつをくれるお店のおカミさんの所に行く。自分の家に戻らないで、そのお店に帰っていく。そんな戻ってくるための教育が大切だと思います。この地域に帰ってこよう、この地域で生きていこうという子ども達を育てないと、日本の地方は滅びてしまいます。
子ども達には感謝と生きる自信と地域を愛する心を育み、そして自分達は必ず自立するのだという気持ちを植え付ける、それを学校や企業、NPOなどと一緒になって、お節介をやきながらやっていこうと思っています。