平成25年度キャリア教育推進連携シンポジウム

基調講演1

キャリア教育実践による効果について~学校の視点から~

清水隆彦先生(東京都荒川区立諏訪台中学校校長・全国中学校進路指導連絡協議会顧問)

清水隆彦先生
清水隆彦先生

■全教育活動にキャリア教育の視点を

 

キャリア教育が求められる背景には、学校教育での「将来につなげて今を捉える学び」の欠如があると思われます。その意味からも、中学校でも、やはり21世紀型スキルをしっかりと、生きたスキルとして、育成しなければならないと考えております。従来の知識つめこみ型教育、指導教員の知識や考え方を教えたり伝えたりすることだけに重きを置かれていた教育から、社会に出て通用する力、つまり、コミュニケーション能力や問題解決能力、協働で作業する能力、ICTを活用するような能力等もあわせて育成していかなければなりません。

 

そのために、全ての教育活動でキャリア教育を実践していく必要があると考えます。当然、これまで企業や地域の皆様と協力しながら、職場体験などを進めてきました。しかし、こうしたことだけが、キャリア教育だと捉える傾向が学校にはあります。私は、それとともに、各教科領域で、基礎的・汎用的能力を育成する取り組みがなければならないと考えます。「各教科領域で進めるキャリア教育」と「外部人材と協働するキャリア教育」は、ちょうど飛行機の両翼だという意識を持っております。

 

私が校長を務める諏訪台中学校では、キャリア教育を「社会人、職業人、地域人の育成」と定義し、全教育活動でこの3つの人を育てる教育計画を推進しています。目指す学校像として、「全教育活動をキャリア教育の視点で捉え、基礎的・汎用的能力を育成する学校」という学校経営方針を立てています。そして、地域や企業と連携した取り組みは、単なるイベントではなくて、目指す生徒像に向けた、3年間の意図的、計画的な指導計画に基づいたものでなくてはならない、と考えています。

 

荒川区では、学校の取り組みをホームページ上で公表しております。下図が、本年度の本校の全体構想図「学校パワーアップ全体構想」ですが、キャリア教育を前面に打ち立てて進めております。

■外部人材と協働するキャリア教育では、ねらいの共通理解が重要

 

実践例の一部を紹介します。毎年30業種以上のゲストティーチャーを迎え、1回3講座、3年間で9業種の話を聞く、「校内ハローワーク」という取り組みを行っています。

 

このような取り組みの重要なポイントは、実施する意味を明確にしながら実施するということです。教職員に「これはなぜやるのか」ということを尋ねてみますと、多くの教職員は、「職業について知ることが第一目的だ」と答えます。

 

しかし、私が第一目的と考えているのは、職業に就いている多くの方から、社会人として通用するためには、中学生に今何をすべきか、中学校生活をどう過ごすべきかということを、しっかりと伝えていただく。その機会であるということです。

 

そして、その次のねらいが、「職業との出会い」です。したがって、3講座のうち、1講座は生徒の希望をとりますが、「職業と出会わせる」ために、2講座は抽選で割り振っています。

ねらいの共通理解が行事の成果を決めると考え、約30業種の講師の方とは、約1時間かけて綿密な打ち合わせを行います。さらに、推進役の校長が去ってしまったら終わり、ということがないように、キャリア教育コーディネーターとの協働で継続的な実施につなげていこうとしてます。

 

校内には、ハローワーク特命担当を置き、1年間協議しながら作り上げていきます。教職員にも、教育関係者とは違う、他業種の皆さんとの出会いという利点があります。そして、1年間企業の方と一緒に進めていく中で、社会で求められている能力を育成するという視点を、教職員に理解させられるという点で、大変有意義だと思っています。

 

他の事例としては、前任校で行った「おもしろ探求授業」があります。各教科に、企業からその専門家に来ていただき実施する授業です。教科や将来の仕事に関心を高め、職業のおもしろさを学ぶという点で、大変意義深いものでした。

現在勤務している諏訪台中学校では、毎年近くにあるホテルのシェフに1週間の調理実習に加わっていただきました。また、地域資源とのつながりを生かした、5日間の職場体験。さらに、職場体験の前後の指導として、キャリアコンサルタントによるマナー講座を実施するなど、様々な取り組みを行っています。

■指導案にキャリア教育の項目を入れ、授業改善を行う

 

もう一方の翼の部分にあたります、「教科指導の中でキャリア教育を行う」について、お話いたします。

 

現在、以下の4つの大きな柱をもとに、授業改善を行っています。

(1)人間関係形成能力

<授業の中にグループワークを取り入た、討論型理科実験、討論型社会科授業など、議論に基づく授業>

(2)ICTを活用した授業

<タブレットPCを活用した授業(本校では、生徒一人一人にタブレットを支給)や、電子黒板を活用した授業>

(3)学校図書館を活用した授業

(4)外部人材と一緒に作っていく授業

 

授業改善の過程で、ねらいがぼけるということがあります。そこで、全ての指導案に、下記のマトリックス表を載せて、授業改善を行っています。縦軸に、キャリア教育の基礎的・汎用的能力、横軸に先ほど述べた4つの柱を配しています。

例えば、ICT機器の活用に関して言えば、ICTを使えば授業が変わったと考えているわけではなく、それを使って、どういう能力を育成したいのかが極めて重要です。下図は、本校で何回も実施している研究授業での、ある指導案の一部ですが、このように、授業の中でも基礎的・汎用的能力を育成する、ということを強調して進めていります。

また、4つの柱の中で、学校図書館も大きな要素になります。学校図書館を使ってこそ、育成される能力がたくさんあるわけです。社会人として必要な能力、例えば、情報収集力や分析力を養う、言語能力を育成する、といったことに、学校図書館の活用が極めて重要であると考えています。

 

■中学校教育におけるキャリア教育推進のポイント

 

まとめますと、以下のようになります。

 

・学校側が目指す生徒像に向け、何を育てたいのかを明確にして、何をどう実施するのか、3年間の教育計画が必要です。その上で、外部人材と情報共有を行うことが、重要であると考えています。

 

・行事をゲストに全委任するイベントでなく、教職員と外部人材が共に作り上げていく、役割分担していくということが重要であると考えます。

 

・各教科領域で、授業の質を高めるために、基礎的・汎用的能力の育成を意識することが重要です。

 

・情報収集力、分析力のスキルを養う学校図書館の学習センター化・情報センター化が必要です。

 

・もちろん、産業界との連携も極めて重要な要素になると思っています。

 

こうしたキャリア教育の実践により、地域人、社会人、職業人の意識の高まりが見られ、系統性のある教育活動を行うことができたと思います。また、キャリア教育コーディネーターやキャリアコンサルトを活用することで、これまで以上に外部企業、外部人材との結びつきがスムーズになりました。

 

一方、基礎的・汎用的能力の育成を意識した授業改善により、授業の質が変わりました。また、生徒にとっては、外部人材と連携した各種行事が、将来を見据えて、今の学びや生活をどう変えていくか見直す機会となっており、教職員にとっては、外部人材と協働することで、社会に求められている力が何かを意識して、自分自身の指導を見直す機会となっています。

 

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