パネルディスカッション

【パネリスト】
〇佐藤淳一氏
前 石巻市立雄勝中学校長/仙台市教育局学びの連携推進室 主幹

 

〇小林敏一氏 
長野県教育委員会主任指導主事(現 長野県諏訪二葉高校 教頭)
高校でのキャリア教育を担当。2013年度入学生より県下の全高校で就業体験活動をする方針を打ち出す。

 

〇井村良英氏 
NPO法人「育て上げ」ネット地域担当部長/たちかわ若者サポートステーション所長/キャリアコンサルタント
東京・立川市でニートやひきこもり等、15〜39歳の若者の自立支援に携わる。

 

〇吉川(きっかわ)哲也氏
NPO法人ジュニアエコノミーカレッジ理事長/会津若松商工会議所青年部副会長
2003年より小学生向けキャリアプログラム「ジュニアエコノミーカレッジ」の構築に携わる。小学校5〜6年生が1〜2万円を元手に株式会社を作る。

 

〇毛受(めんじょう)芳高氏
一般社団法人アスバシ教育基金代表理事/NPO法人アスクネット設立者
小学校〜大学までのキャリア教育コーディネーターとして活動後、キャリア教育を民間資金で進めるアスバシ教育基金を設立。

 

【モデレーター】
〇藤田晃之氏
文部科学省国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター総括研究官

藤田晃之氏 文部科学省国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター総括研究官
藤田晃之氏 文部科学省国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター総括研究官

活動紹介

 

藤田

本日は、地域の特性に応じたキャリア教育をどう進めていくかという点を中心に議論を展開したいと思います。佐藤先生からは先ほど基調講演でお話をお伺いしましたが、あとの4名の方々の自己紹介をお願いします。

 

小林

長野県教育委員会の小林です。当教育委員会ではキャリア教育を進めるため、平成23年に「長野県キャリア教育ガイドライン」を作成しました。私は高校担当ですが、これに則って、平成25年4月から入学した高校生は、卒業するまでに全員が1日就業体験活動をしようと現場にお願いしているところです。教育委員会では毎月「キャリア通信」を発行し、校長・教頭先生にメール発信して、学校の職員会議等で勧奨していただく取り組みをしています。全員が就業体験をすることに対して、1年前と比べて、校長先生の反応は良くなっていると思います。

 

井村

NPO法人「育て上げ」ネットで地域担当部長をしている井村です。当NPOは「すべての若者が将来に希望を持てる社会」という大きな目標を掲げ、東京・立川でニートや引きこもりなどの若者の自立支援をしています。若者の自立はやはり困難になっていて、家庭や学校だけの支援では成り立たないと感じています。キーワードは“繋がり”で、“繋がり”の中にさらにキーワードがあるとすれば、理解と共感だと思います。私どもは厚生労働省の「地域若者サポートステーション事業」も受託しており、私は「たちかわ若者サポートステーション」の所長かつキャリアコンサルタントという肩書も持っています。本日は、15歳から39歳までの若者と関わっている者として参加させていただきます。

 

吉川

NPO法人「ジュニアエコノミーカレッジ」理事長の吉川です。本日は産業界を代表して参加しています。普段は電気工事の会社を経営しています。「ジュニアエコノミーカレッジ」は、小学校5〜6年生が実際に株式会社を作るという、商売の体験プログラムです。元手は資本金1万円、必要があれば1万円の借入をして最大2万円で商売を行います。株式会社ですから利益の中から配当も得て、会社の設立、商品の企画・製造・販売、決算、解散まで一連の流れを体験します。私たちはこの商売体験プログラムを手段として、子供たちに“決める”体験をしてもらいたいと思っています。平成12年に会津若松で始めたこの事業は、現在は全国17か所で行っており、これまで延べ4,000人以上の子供たちが卒業しています。

 

毛受

一般社団法人アスバシの代表をしている毛受です。“アスバシ”という言葉は、若者と社会を繋ぐ「明日への架け橋」に由来しています。今の子供たちは高卒の3人に2人、大卒の2人に1人が不安定就労になっています。そういう事態を解決するために、私たちは「感動が生まれるインターンシップ」を実施したいと考え、インターンシップ資金を集めて助成する団体を立ち上げました。このキャリア教育アワードも、ベースとなるのは民間実施型のキャリア教育プロジェクトです。やはりこの問題を解決していくためには、外部のコーディネーターといった“人”を使う必要がありますし、もう一つ大事なのが資金です。そうしたことに気づき、このような活動をしています。

 

小・中・高・大のつながり、社会とのつながりに課題

 

藤田

さまざまな視点で議論できるメンバーが揃っています。まずは小・中・高、できれば大も含めてどのようにプログラムを繋げていくのか、地域との連携を横のつながりとするならば、縦の連携について伺いたいと思います。

 

毛受(めんじょう)芳高氏 一般社団法人アスバシ教育基金代表理事
毛受(めんじょう)芳高氏 一般社団法人アスバシ教育基金代表理事

毛受

小学校の先生は中学ぐらいまでしか見ておらず、中学校の先生は高校ぐらいしか見ていないということがあると思います。
たとえば小学校での夢を育むプログラムや、中学2年生の職場体験ですごく夢を語っていた子が、中学3年生や高校になると、自分はできないというメッセージをたくさんもらってしまって、「私はバカだし」と言う。進学校の中でも「やっぱり自分の場がない」と感じている子がたくさんいます。この辺りに問題の現実があります。
現在、小・中学校はかなりキャリア教育が進んでいますが、先の高校では適切なプログラムがないんです。小中学校で1回得たあとに消えてしまったモチベーションを奮い立たせるような、もう一度社会に目を向けて「俺にもこの社会でやれることがある」と感じさせるようなものが足りない。大学でも1・2年生のときに良い感動体験をさせるなど、高校・大学でもう1回掘り起こすようにすれば変わってくるのではないかと思います。

 

藤田

若者の不安定就労という現実があります。井村さんは問題を抱える若者を支援していて、学校での実践とのつなげ方をどのようにお考えですか。

 

井村

まず感じるのは、「つながっていない」ということです。現場の先生方はつながっていないことに気づいていて、生徒のために何とかしたいと思っておられるのですが、どうしようもないジレンマの中にいるように感じます。解決法の1つとして、NPOのような団体をうまく活用するということが考えられます。当NPOの活動の中では、高校の職員室に机を1つ置かせていただいています。我々のような外部の人間が学校の先生とチームになって、継続的に学校で子供たちと出会うことによって、高校を卒業した後も外とのつながりが生まれる可能性があると思います。

 

藤田

民間の方からは、「プログラムを学校に提案しても、すぐに『結構です』と言われ、学校に入れなくて困っている」という話をしばしば聞きます。

 

小林

新しいプログラムが入ってくるということは仕事が増えるということで、「また忙しくなってしまう」という思いが一番にあると思います。先生方はすでにある学校独自のプログラムにもとづいて動いているので、そこに新たなものを入れるのは、かなりのエネルギーが必要になるわけです。
キャリア教育を推進する行政の立場としては、現状を打開するためには教員の研修が大切だと思っています。学校現場では、負担感のみになってしまっている現状があるので、キャリア教育の重要性について、もっと勉強する機会を作っていきたいと思っています。

 

吉川(きっかわ)哲也氏 NPO法人ジュニアエコノミーカレッジ理事長/会津若松商工会議所青年部副会長
吉川(きっかわ)哲也氏 NPO法人ジュニアエコノミーカレッジ理事長/会津若松商工会議所青年部副会長

危機感からキャリア教育に取り組む地域企業

 

藤田

吉川さんはジュニアエコロジーカレッジの理事長ですが、企業経営者でもあります。企業は何故わざわざ子供たちのためにプログラムを作ったりするのでしょうか。

 

吉川

この事業を始めるきっかけは、あるアンケート結果でした。子供たちが将来つきたい職業の上位として公務員があげられ、その理由が「安定しているから」だったんです。私たちの母体は商工会議所青年部で、青年経済人の集まりが活動しているため、「このままで会津若松の経済は大丈夫か。とにかく後継者を育成しなければ」という思いがきっかけになって、12年前に始めました。キャリア教育とか“起業”教育とかという言葉も知らないなかで、とにかく商売体験をしてもらって、後継者になってもらおうと。実践するなかで、「子供を教えるのは楽しい」ということに気づきました。私たち大人は理由はどうであれ、会津若松に住むことを決めて、この地に住んでいる。その思いを子供たちに伝えていくことができるのは私たちだけなのではないか。それが楽しくてやっています。

 

地方でも減っている地域と触れる機会

 

藤田

佐藤さんに教えていただきたいのですが、3.11の前の雄勝地域では地元企業との連携はどのように進められていたのでしょうか。

 

佐藤淳一氏 前 石巻市立雄勝中学校長/仙台市教育局学びの連携推進室 主幹
佐藤淳一氏 前 石巻市立雄勝中学校長/仙台市教育局学びの連携推進室 主幹

佐藤

赴任する時には、僻地の学校ですので地域と学校は密着しているだろうと思っていたのですが、実際には少子高齢化が進んでいるため、地域と学校との関わりはかなり低くなっていました。職場体験では、学校側は「できれば雄勝ではなく石巻という都会に連れていこう」と考えていて、そのための事業所開拓をしようしていました。私は「いや、これは地域と学校を結ぶすごくいい機会なのだから」と言って、私と教頭で自ら雄勝で職場体験ができる場所を探し、実際に10数箇所の事業所が受け入れてくれました。私が赴任して1年くらいは、地域の方に子供たちを理解してもらうという第一段階が非常にいい形で進んでおり、第二段階を考えている矢先に被災したことになります。都会と比べると、体験できる職種はもちろん限られますが、子供たちが希望する職種を体験させることは重視していませんでした。今は僻地でも、中学生が地域の漁業者や小さな八百屋で働いている方とかに触れる機会が減っているんです。だからまずは、地域の方がどのような形で生きているかという現実に触れさせたいと考えました。

 

藤田

雄勝は被災地として非常に苦しい思いをして、(現在の赴任地である)仙台市の場合は、被災を受けたところとそうでないところがあると思います。今の立場とこれまでのご経験も含めて、やはり職場体験は中学校現場では大変ですか。

 

佐藤

仙台市は3日間、5日間の職場体験をやっています。授業カリキュラムや授業日数の確保等でかなり大変な部分もあると思うのですが、実地の職場体験は事前事後の指導も含め、きっちりやると、子供たちはやはり変わるんです。職業意識というよりも、今何をしなければならないか、もっと勉強しておかなければ、というような意識が高まったり、やはり生きていくためには挨拶や礼儀が基本なんだとわかったり。学校で「挨拶しよう」と教えられてもできなかったけど、職場体験を通して挨拶の大切さを知ると、学校に戻ったときの自覚が全然違ってくる。明らかに子供たちの変化が見られます。学校は確かに多忙なのですが、学校経営の中でどれほどキャリア教育が必要なものか、その必要感を教師がどれくらい持てるか、それを周りがどうサポートしていくか、その辺がすごく問われていると感じています。

 

高校でのインターンシップは中身が問われる

 

藤田

中学校での職場体験は全国的にある程度、高校や大学に先んじていると思います。小林先生から先ほど「長野県ではすべての高校で体験する」というお話がありましたが、高校のインターシップに関してどんな課題があるかを教えていただけますか。

 

小林敏一氏 長野県教育委員会主任指導主事(現 長野県諏訪二葉高校 教頭)
小林敏一氏 長野県教育委員会主任指導主事(現 長野県諏訪二葉高校 教頭)

小林

今年は長野県を4地区に分け、各地区で1名ずつ民間のOBの方にコーディネーター活動をお願いして、高校現場で希望する職場体験をコーディネーターに伝え、コーディネーターが企業を回って開拓することを試みました。
ただ、アンケートを取ったところ、高校でコーディネーターを活用しているのは77校中20校程度です。活用しないのは、その学校がすでにプログラムを持っていて、独自にPTAや地域の力を活用しているので必要ないという回答でした。
また、アンケートの別の項目を紹介すると、インターンシップに行った子供たちの95%くらいが「非常によかった」と答えています。働く意味もわかったと。ただ、問題なのは、「学習意欲が向上したと思いますか?」という質問に肯定的に答えた生徒は、75%くらいでした。これは一見高い数値に思えますが、生徒たちはこういうアンケートには気を使うので、実際以上に高く出ているところがあると思います。つまり学習意欲の向上とインターンシップはなかなか結びついていない気がします。もっと簡単にいえば、事前指導・事後指導がまだまだ定着していないことが課題だとわかりました。

 

毛受

高校で行われるインターンシップに関して、その中身はどうなのかというところがポイントだと思います。職場体験型インターンシップは山ほどあるのですが、とにかく職場を見ただけで、それはそれなりに仕事のことはわかるけど、高校生の心に何か響くようなものがなく、ただ「大変だった」で終わっている。本当に大事なのは「あなたは何をするの?」ということです。この地域で、どんな目的で、どういうことをして生きてきたかという誇りに出会う、その瞬間を感じさせなければいけないわけです。「中学校でやったことと同じことをした」というだけで終わってしまっては全然効果がない。大学生も含めて、効果的なインターンシップが行われたときには、物語が生まれます。「ここでこういう場面に出会って、こういうふうに変わった」と自然に語れるような。こういうインターンシップをやろうとすると途端に手間がかかります。受け入れ先としっかり打合せをする必要があります。コーディネーターも必要でしょう。「とりあえずやっておこう」という意識ではダメなんですね。

 

丸投げは避け、コーディネーターと学校が共に作る

 

藤田

「良いプログラムを作ろうとすると手間がかかる」ということですが、手間がかかるのだったら丸投げしようという考え方もあります。たとえばコーディネーターさんや民間の社長さん等に「これ全部をお願いします」と言えば、先生方は楽になると思いますが、いいことでしょうか。

 

毛受

最初から一緒に進めるのは無理ですが、「完全に丸投げさせてはいけない」と私は言っています。たとえば職場体験の受け入れ先の開拓は、まずは自分たちが動きます。動いてみて、「先生のお知り合いで何かいい会社はありませんか」と聞いていくとボロボロと出てきて、「じゃあ一緒に行きましょう」という形で進めていく。すると、どんどん先生の意識も変わっていくし、先生の意識が変わっていくようにならないといいものにならないんですね。

 

藤田

先ほど小林さんもおっしゃっていたように先生の理解が深まることが重要で、理解を深めるきっかけとしてコーディネーターさんとのコミュニケーションがあったりする。コーディネーターさんは触媒なのですね。

 

井村

一番いいのは、先生と学校の思いを徹底的に聞いて、先生と学校が何をやりたいのかを理解したうえで、私たちが裏方として動くというパターンです。最悪のパターンが丸投げです。丸投げは生徒のためになりません。高校や中学それぞれのフィールドで関わるプロは、やはり先生なので、先生の思いを徹底的に聞いていくと、すごくうまくいくと感じています。
私はいろんな学校と連携させていただいていますが、ポイントは3つあります。1つは、窓口になってくださる先生から徹底的にヒアリングをすることです。そして、どうすれば校長と副校長に「これは面白い」と言っていただけるのかを考え、提案書を作ります。キーワードは「生徒のため」です。生徒のためを思っていない先生は一人もおらず、やはり卒業していく生徒のことはすごく心配なんです。経営コンサルタントや若者サポートステーションを使うとできるのではないかと思い始めると、どの先生も目がきらきらしてきます。そうなると気力も続きます。次に校長、幹部のところに行きます。すると幹部も「これいいね、生徒のためになるね」となってきて、そして最後は担任の先生です。窓口の先生と幹部の先生との関係がうまくできても、担任の先生からの信頼を得られないと、やはりうまくいきません。その3つで良い関係が作られると、とてもうまくいくのです。

 

井村良英氏 NPO法人「育て上げ」ネット地域担当部長/たちかわ若者サポートステーション所長
井村良英氏 NPO法人「育て上げ」ネット地域担当部長/たちかわ若者サポートステーション所長

不安定就労の課題は、3省合同で支援を

 

井村

高校の先生は、生徒を就職・進学・未決定にさせたか否かで評価されているんですね。今は25歳までの半数が非正規雇用なのに、フリーターで就職すると「未決定」になり、正社員就職のみが「就職」なんです。これは社会情勢に合っていないという違和感が私にはあるのですが、先生方は本気でそれを目指され、そのために無理やり生徒を押し込むこともあるわけです。

それで、校長先生含めて皆さんがいらっしゃるときに、「就職・進学・未決定、という評価に加えて若者サポートステーションにつなぐ、という評価を付け加えていただくことはできませんでしょうか。若者サポートステーションでは残念ながら進路が決まらなかった生徒に対しても3月31日以降、継続して職業的自立の支援をすることができます。そういった意味で若者サポートステーションにつなぐということは、就職や進学と同じ、プラスの評価で考えてください」と提案したことがあります。そうすると校長は、「都教委的には無理だと思うけど、ここでは今からそうしよう」と賛同してくださり、卒業後若者サポートステーションにつながって半年以内に就職が決まっていった生徒が半数以上という実績もでました。

若者サポートステーションについてご存知の方はあまりいらっしゃらないと思いますが、もし文科省の学校基本調査で「就職・進学・未決定・若者サポートステーション」という項目が生まれると、おそらくコストゼロで、キャリア教育が学校社会から職業社会に継続される1つのきっかけになるかもしれません。

 

毛受

サポートステーションは厚生労働省系の事業ですが、加えて、経済産業省も文部科学省もキャリア教育を推進しています。その中でコーディネーターたちは、「もっとサポートが必要だ」ということははっきり指摘していました。けれども、なかなか学校が開いていかない。そしてコーディネーター自身が不安定就労なので、せっかく3年くらいで関係ができたところで変わってしまう。そういう事例を我々はたくさん見てきました。これでは広がりません。3省合同で考えながら支援室を作るとか、一緒に広げていく形で考えていければ、地域の状況にも適合するのではないでしょうか。

 

地域に後ろ髪を引かれながら成長していくような環境を作る

藤田:それは文科省の課題でもあるし、経産省、厚労省も含めて垣根を越えて知恵を出し合わないとうまくいかないと思います。先ほど、昔は「不安定就労」と呼ばれていた就労形態が、今はリアリティになっているというお話を伺いました。同様に「地域の特性に合わせたキャリア教育」をいくら進めても、最終的には子供たちが地域から出て行ってしまうという、若年者流出の問題も大きなリアリティの1つです。

 

毛受:

会津商工会議所の青年部が始めた取り組みは、地域が継続するために必要なことだと思います。地域から人がいなくなったらサービスを買う人もいなくなるし、同時に地域に必要なサービスの担い手がいなければ商売はできないわけです。この点に対して、学校と地域は、本当は一蓮托生の関係にあるわけです。ここがなかなか見えづらい。
しかし、我々が地域に関わっていくと、確実にその成果が出ます。社員が採れるようになったり、顧客としてその地域に住んでいたり。ですから良い体験をさせて、地域に後ろ髪を引かれながら成長していくような環境を作ることが戦略になります。
地域で頑張って良いキャリア教育をして、中学校あたりで「俺はこの地域を守っていくぞ」というスイッチが入ったとしても、その子たちがその地域で就職できるとは限らない。とはいえ、「絶対にこの地域に帰ってきて、新しいものを作る」という気持ちを持って卒業していく状態ができれば、ここには将来的な可能性が出てきます。または「あのおじちゃん、おばちゃんにものすごくお世話になった。この地域に足を向けては眠れない」というような体験をした子たちは、やはり地域に戻ってくる可能性があるわけです。
私たちは「送り出し作戦」と言っているのですが、卒業式はもっと盛大に送り出そうと。昔の洋行のように「君たちは地域から出ていくけど、地域を忘れるなよ!」と物語のある送り出し方をすることが、戦略の1つになると思います。

 

吉川

私は会津若松に住んでいますが、「ジュニアエコノミーカレッジ」のプログラムに取り組んでいる全国17地域の経営者は皆同じ気持ちを持っていると思います。地方は都市と違って、匿名で生きることはできません。私自身も地域を構成する当事者として生きていて、その姿を子供たちに見てもらいたいと思っています。自分の生き方を自身で引き受ける姿勢や、地域を愛している気持ちを伝えることで、子供たちも地域に対する愛情を描いていくのではないでしょうか。「その町に後ろ髪を引かれる」というのは、私たち大人が充実して生きている姿を見せられるかどうかにかかっていると思います。私は電気工事屋として仕事に誇りを持ち、地域を活性化していきたい。確かに流出してしまう若者は多いのですが、あえて会津若松を選んでくれる子が出てくることを望んでいます。

 

藤田

井村さんは義務教育を終えた若者を中心にサポートをしていらっしゃいます。その中で、故郷あるいは小さい頃の経験はどのように位置づけられているのか、その辺りの気づきがあったら教えてください。

 

井村

働き始めることは難しくはありません。いま難しいのは、働き続けることなんです。今まで学校でも地域でも辛いことしかなかった人が、はたして働き続けることができるでしょうか。私は、地域の大人に育ててもらった経験や、佐藤先生の話にあった「生きていてよかったね」と地域の方に拍手をもらった経験、そういうものを持っている子は、どんなことがあっても強くたくましく生きていけると思っています。働くと辛いことが多いのですが、良い思い出を作れるかどうかも地域の繋がりにかかっています。最終的に人を包摂する役割を果たすのは、やはり地域だと思います。

 

 

大人が生きていく様をしっかりと子供たちに見せていくことがキャリア教育の原点

 

藤田

佐藤さん、雄勝の厳しい現実の中で、中学校の先生方からご覧になった若年者の流出問題とか、中学校で取りうる方策や考え方があったら教えてください。

 

佐藤

特殊な状況に置かれた被災地の話かもしれませんが、地域が壊滅して、極限状況に置かれたからこそ見えてきたものがありました。「学校教育とは何か」ということも含め、地域はどういう意味を持つのか、働くとはどういうことなのか、そういうことをもう一度つき付けられました。特に今回被災した沿岸部は働く場所がないんです。職場がなければ戻れませんから、学校が再生を担うと言っても、最後の親の選択は「そこで生きていく糧があるか」というところになります。
被災して1カ月も経たないうちに、漁業関係者が動き出しました。その時に「先生、絶対に雄勝を復興させるから。まず僕たちが動くからね」という力強い言葉をもらい、「だったら私たちもやらなければ」と決意させられたことは忘れられません。子供たちには、ああいう強い決意、「故郷を取り戻すのだ」という思いで動いている姿は必ず伝わります。
これが如実に表れたのは、高校の推薦入試で面接を受ける子供たちの模擬面接をしたときです。子供たちは「私は将来建築士になって住宅の復興に携わる」「機械管理をやりたい。メンテナンスをできる力を持って漁業の手助けをする」等、将来への思いを非常に明確に持っていました。雄勝の子たちは、積み上げたものすべてが一瞬でなくなるという現実を体験しながら、地域の中で生き残った者の実感として、一つの命の尊さや人の心の暖かさ、助け合うことの大切さをしっかり学んだわけです。私は、あの子たちが今後の日本を背負っていくのだと確信しています。地域の中から子供たちが流出するという現実は厳しいのですが、多くの方が話されたように、大人がどう生きていくかをしっかりと子供たちに見せていくこと、実際を語り継いでいくことが大事だと思います。間近にいる教師、家族や地域の大人、さまざまな大人の生き方に触れることが我々のキャリア教育の原点であり、そこからすべてが出発していくのだと思います。

 

藤田

本日は皆様のお話をお伺いすることができ、本当によかったと思っています。私が一番不安だったのは、疲弊している地域はキャリア教育をやればやるほど、どんどん二極化が進んでいくのではないかということでした。豊かな経験のある都会に体験先を求め、かつ進学先や就職先も求めて地域が疲弊していく、そういった現状をどうにかしたいと思いながらも答えが見つからないまま、この場に来ました。しかし本日、5名のパネリストの方々とお話をする中で、大人たちはそういう厳しい現状の中で一生懸命に生きていて、そのこと自体に価値がある。こういうリアリティを、学校現場を通して、あるいは地域を通して、いかに子供たちに伝えていくのか知恵を絞ることが重要なのだと実感しました。
現状を見ると、媒介としてコーディネーターさんやコンサルタントさんがいらっしゃる。地域では、たとえば長野県のように、県独自の施策も生まれている。やはりキャリア教育に対する理解を皆で共有し、地域社会の課題をきちんと洗い出し、地域に生きる人と人を繋いでいくことが、大きな光になるのだろうと思います。また、人口流出に関しては、高校卒業時点の動向を見るのではなく、十分な職務経験を積んだ30代40代が、その職業経験をもとにどのように地域を支えることができるか、そういうところまで含めた長いスパンでのキャリア教育が必要なのだと、改めて考えることができました。

 

パネルディスカッション

※動画(文部科学省)

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