発表者:練馬区商工観光課長 米芳久(よねよしひさ)氏
地場産業のアニメを教育プログラムに
練馬区は東京23区の北西部に位置し、人口70万人、ジャパンアニメーション発祥の地で、日本一のアニメ関連企業の集積地でもあります。地場産業であるアニメの魅力を子供たちに伝えたいという想いから、平成21年度よりこの取り組みを開始しました。
アニメ作りには、職業の疑似体験や他者との協働教育など、教育現場で求められる多くの教育資源が秘められています。そこで、教員・アニメ事業者・行政などが一体で検討会議を立ち上げ、「アニメってこんな教育資源になるのでは?」「子供たちにこんなふうになってもらいたい」「こんな授業があったらいいな」「アニメに関わる仕事ってこんな感じです」「こんな実現方法はどうですか?」等々の議論を重ね、子供たちへのメッセージを決定しました。
それは、「夢に向かってやり遂げるココロとチカラを手に入れよう」というものです。練馬のアニメを活用して手に入れたい3つのココロとチカラとして、(1)仲間と助け合う、(2)練馬から世界へ羽ばたく、(3)想像する・創造する、を設定しました。
目標に沿って検証授業を行い、平成23年度には3つの基本パターンを開発。1つ目は小学校5・6年生〜中学生を対象に図画工作・美術や総合的な学習の時間を8時間以上使って行う「アニメ制作体験プログラム」、2つ目は小4〜中学生を対象に社会や「総合的な学習の時間」を使って1〜2時間の講演を行う「職業に出会うプログラム」、3つ目は小4〜中学生を対象にクラブ活動でアニメ制作を体験するプログラムです。いずれのプログラムでも、区内のアニメ企業からプロのアニメーターがゲスト講師として参加します。教員が教育目標・教育課程に合わせて教科や時間数を選択でき、カスタマイズもできる形にしました。さらに学校への導入がスムーズに進むよう、コーディネーターを配置しています。
「アニメ制作体験プログラム」には、知る→体験→深める→伝える→振り返るという流れの中で、「アニメ作品を制作するという『働く疑似体験』を通して、協働する難しさと大切さを実感し、自分の果たす役割を意識する」「地元の産業について理解を深める」という狙いがあります。
「職業に出会うプログラム」には、導入→仕事を知る→体験→想いを知る→振り返るという流れの中で、「アニメに関わる仕事をする人に出会い、働く人への気持ちや誇りに触れる」「地域や産業を知ることで、自分が将来どのように社会に関わっていくのかを考えるきっかけとする」という狙いがあります。
教員向け模擬授業や、企業講師向けの教材開発も行い、普及に力を入れる
プログラムを普及させるため、様々な工夫をしました。教員にはティーチャーズガード(プログラム紹介冊子)を配布し、教員向け模擬授業を実施しました。アニメ企業に対しては、少しでも負荷が低い状態で協力してもらえるよう、どの講師でも活用できる共通の教材を開発し、またより多くの講師の確保に向けて、実績のある講師陣の感想を載せたリーフレットを発信しました。
こうした工夫により、平成22年度は3校、23年度は10校、24年度は19校で実施するまでに広がりました。3年間で協力した講師数は11名、講師派遣はのべ45回です。
講師となったプロのアニメーターからは、「アニメ作りで大切なのは絵のうまさだけではない。モノがどう動くかを観察してみよう。突風が吹いたとき、傘を持った人はどんな動きになるかな?」「観る相手がどう感じるかを考えながら進めよう」「いい作品を作るため協力しあおう」などのお話が伝えられ、子供たちはプロの手さばきに感動しながら、すごい集中力で作画に取り組みました。
作品発表の場も、学習発表会の学校行事やインターネット動画配信、区主催アニメイベントなどに広がっています。また、練馬区がアニメ産業交流協定を締結しているフランス・アヌシー市の小学校と、アニメ作品を通じた国際交流を始め、平成23年度は2校で実践しました。アヌシー市では交流の模様がテレビで放映されました。
子供、先生だけでなく、アニメーターからも効果の声
子供たちからは「練馬でこんなにくさんアニメが作られていることを知ってびっくりした」「プロはすごい。たった2枚の絵でも動いて見えた」「班の皆で協力したことで、思い出に残る作品を完成させることができた」「一人の力は弱くてもたくさんの人が集まれば強くなることがわかった」といった声が上がっており、地域産業への理解や仲間を認め合う力、将来の生き方を考えるきっかけ作りという効果が得られています。
先生方からは以下の感想が寄せられています。6年生が取り組んだ石神井東小学校の高柳校長先生は、「子供たちに課題追究力や創造性が高まり、約9割の子供がもっとアニメを作ってみたいと思うようになりました」。4・5年生がアヌシー市の小学生とも交流した東京学芸大学附属大泉小学校の大出先生は、「地域産業であるアニメをツールとして、子供たちが1つのチームになって『解決力・実践力』『多文化理解』『思いやりとたくましさ』といった狙いを達成することができました」。
さらにアニメ産業界にも効果が生まれています。授業を担当した講師の方々からは「子供たちの情熱とパワーをすごく感じた」「子供たちの自由な創作を間近に見ることで、新しいインスピレーションを受け、創作意欲をかきたてられた」「クリエイターとしての自分の仕事に改めて誇りを感じた」という感想が寄せられ、地域貢献や仕事への誇り、創作意欲、視聴者との触れ合いにつながっていることを実感しています。
練馬アニメーション協議会代表幹事で株式会社動画工房の代表取締役を務める石黒さんからは「授業を終えた講師陣の顔はイキイキと輝いています。子供たちとの触れ合いは、言葉に表せないやる気を講師に与えてくれているようです。この取り組みには、地域貢献だけでは片付けられない、子供たちとアニメ界との化学反応を感じています」と絶賛の言葉をいただきました。
この取り組みは「練馬区の素晴らしい地場産業アニメの魅力を子供たちに伝えたい!」という想いのもと、教員・アニメ事業者・行政が絶妙なバランスで支え合い、実現できました。この活動が練馬区全体に広がり、たくさんの子供たちが「アニメのまち・練馬区」を誇りに思ってくれることが目標です。
◆関連サイト
〇練馬区「アニメ産業と教育の連携事業」が第3回キャリア教育アワードで最優秀賞(経済産業大臣賞)および大賞を受賞しました!
http://www.animation-nerima.jp/news/2013/02/3-1.html
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/nerima.pdf
発表者 シャープ株式会社 法務本部 CSR推進室 澁谷明典氏
聴覚に障がいのある子供たちにキャリア教育を
当社は、「教育」「環境」「社会福祉」を重点分野と定め、社会貢献活動に取り組んでいます。その中で教育支援活動については、2006年より小学校での環境教育を、全国の小学校を対象に実施しています。こうした活動の中で、現場の先生方から意見・要望をいただきながら、活動分野と対象を拡充してきました。今回の受賞対象となった特別支援学校へのキャリア教育については、聴覚支援学校の先生から「聴覚に障がいのある子供たちにもぜひ実施をしてほしい」という要望を受けて、2009年から取り組みを開始しています。障がい者へのキャリア教育支援活動も、当社の経営理念に通じるものであり、障がい者雇用率の低さや障がいのある子供たちの就業意識の希薄化といった社会的課題に対して当社が活用できるのではないかということが、活動を始めるポイントになっています。
活動の具体的な内容ですが、中・高等部の子供たちへは就職時期が近いとうこともあり、職業観の醸成を目的に、具体的な仕事や働く姿が結びつく3つのプログラムを用意しています。小学部の子供たちへは、職業への気づきを目的とした環境教育プログラムを実施しています。これらの活動の主体は、当社の特例子会社で行っています。
それぞれのプログラムを簡単にご紹介します。1つ目の「職場見学(来社型)コース」は、特例子会社に来訪いただき、座学と見学を通して仕事への理解を深め、職業意識を向上させるプログラムです。見学の前に職場の紹介として、どのような仕事があるのか、障がい者が働きやすい職場とはどういうものか、さらに働くために必要な能力開発や会社が求める人材についても説明をします。そして、障がいのある社員がどのような仕事に携わっているか、見学していただいています。
2つ目の「職場体験実習(来社型)コース」は、同じく座学と実習を通して職業を実体験するプログラムです。座学の後、障がいのある社員がコーチ役を担い、1〜3週間の間、実際に社員が行っている業務と同じ仕事を体験していただきます。
3つ目の「出前キャリア教育(訪問型)コース」は、障がいのある社員が全国の聴覚支援学校を訪問し、手話を用いて授業を行っています。自らの体験をもとにした講義と、実際に会社で行っている作業のグループワークを取り入れたプログラムです。
4つ目の小学部を対象とする「聴覚支援学校への環境教育」では、NPO法人の気象キャスターと当社の社員が学校を訪問し、地球環境やリサイクルなどの授業を、手話を使って行っています。
障がい者のキャリア教育の重要性を知らせる波及効果も
活動にあたっての工夫として、1つ目に継続性を念頭においています。障がいのある当社の社員が本業との兼務で講師を務め、定期的な研修を行うことで、継続した活動ができる体制を作っています。2つ目に授業の実効性の向上に向け、現場の先生方からご指導いただきながらカリキュラムを作っています。3つ目は、会社のリソースを活用した特徴ある授業を行っていることです。
活動の実績として、紹介した4つのコースを今年度から実施すると表明したところ、予想以上に関心が高く、全国から多くの要望をいただきました。2012年4月から2013年1月末までに、全国37都道府県で283校、1838人の子供たちに受講していただきました。
効果・評価については、学校あるいは生徒や保護者の方々から、「企業の目線から社会人に求められる基本的なスキルが実感をもって生徒に伝わった」「障がいのある社員が自立して頑張っている姿を見て、就労に向けて前向きな気持ちが持てた」等の感想をいただいています。
さらに波及的効果として、こうした活動がマスコミに取り上げられたことで、障がい者のキャリア教育の重要性というものを社会に知らせる一助となったのではないかと考えています。
今後の展開については、まずは活動を継続し、新たなチャレンジとして視力に障がいのある子供たちへの教育活動も、トライアルを開始しています。視覚支援学校での教育支援活動も、早期に広く実施できるよう推進していきたいと考えています。
◆関連サイト
〇ニュースリリース:特別支援学校等へのキャリア教育支援活動が
「第3回キャリア教育アワード 最優秀賞(経済産業大臣賞)」を受賞
http://www.sharp.co.jp/corporate/news/130221-a.html
〇聴覚支援学校等へのキャリア教育
http://www.sharp.co.jp/corporate/eco/kyoiku/tokusen/index.html
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/sharp.pdf
発表者:株式会社ケミカル山本 企画室 常吉紀久士氏
子供たちの理科離れを憂いていた社長が提唱
当社は山本正登社長が、前の会社を定年退職後の昭和57年に設立し、ステンレスをケミカル面で支えるという方針のもと、30年間にわたり常に右肩上がりで経営中の研究開発型企業です。
活動開始の経緯としては、かねてより子供たちの理科離れを憂いてきた山本社長が「化学実験クラブの設立」を提唱し、このとき教育事業の経験豊富な「(社)発明協会広島県支部」が運営に協力すると手を上げてくださいました。そこで設立準備委員会を立ち上げ、プレ事業などで環境を確かめてから、第一期の活動を2006年5月に開始しました。
「わくわくケミカルクラブ」の名称は、この当時の企画運営委員会で決定しました。当社の貢献としては、資金と経費は山本社長個人の寄付金で賄い、会場は会社休日の土曜日に当社の大会議室を提供しています。指導員は当社社員のボランティアで精力的に活動をしています。
組織としては、山本会長のもとに企画運営委員会と事務局、指導員を配置する形になっており、企画運営委員は広島県発明協会、広島市こども文化科学館、廿日市市教育委員会、㈱ケミカル山本、戸田工業㈱、フマキラー㈱の6者が務めています。
年間活動として、化学実験は5月から翌年3月まで月に1回行い、さらに夏休み期間中に工場見学を1回実施しています。毎年36〜40名の募集を行い、対象学年は小学5〜6年生、小学4〜5年生など毎年変えています。応募者の数は変動がありますが、常に募集数を上回っており、概ね好評をいただいていると考えています。
教育委員会も企画と普及に参画、改良を重ね7年め
企画運営委員会では、各年度の事業実施前にクラブの年間活動内容を審議しています。年間活動が終われば、クラブ員や保護者対象のアンケート結果、事業報告書をもとに、当該年度の反省と課題解決のための協議を行い、次年度のプログラム改善等を行っています。
また、社員は企業の社会貢献と位置づけ、全社をあげてボランティアで協力を続けてきています。毎月のクラブ活動終了後には30分程度の反省会を設け、次回の活動に役立てるようにしています。このように常に反省・改善を積み重ねることで、7年間、好評のうちに活動を続けてきています。
対象地域は広島市の一部と廿日市市、大竹市で、対象学校は63校です。これらの学校に対象学年の児童数分の募集要項を学校に送り、学校から児童に渡していただいています。参加児童の選抜については、申込書の中の意気込みに関する記述や保護者の添え書きを参考に講師が採点し、地域や学年等でバランスを取るようにしています。
周知については、地元の大竹市・廿日市市の教育委員会に後援いただき、学校および保護者の理解に対する協力を得ています。また教育委員会からも企画運営委員会に参画いただき、教育的立場からの意見を反映しています。
実験内容は学校の理科学習の単元を参考にしつつ、学校では体験できないテーマを設定しています。そしてフマキラー㈱さんや戸田工業㈱さんでの工場見学を年1回取り入れています。
児童全員が白衣を着用、ケミストになった気分で
この企画の目的は、学校であまりされることのない化学実験の基礎的な部分を体系的に学習することで、科学への興味関心を喚起することです。教育方針として、ケミカルマジックや実験のテーマは極力家庭や身の周りにもある材料や現象を幅広く採り上げ、その面白さを身近に感じさせることにより、「将来の夢は科学分野へ。さらにはノーベル賞を」と励ましています。
活動中は全員に白衣を着用させ、ケミストになった気持ちにさせています。講師陣ももちろん白衣着用で、男性はネクタイを着用して雰囲気を引き締めています。指導体制として、1テーブルに4名ずつ児童を配置し、メインの指導講師のほか、各テーブルにサポート指導員を1名ずつ配置しています。実験は4名1組、2名1組などのグループ単位で、協力し合って行っています。
そして化学への興味を喚起するため、山本社長自らが主にその日の学習テーマに関連した化学の不思議実験、面白実験を「ケミカルマジック」と称して実施しています。子供たちも参加するケミカルマジックは大いに盛り上がります。
毎回テキストを作成し、実験結果や感想等を記録できるようにして、課題によっては宿題を出しています。クラブのテーマを家庭で応用させて、夏休みの自由研究として取り組む姿も見られています。ビタミンCの自由研究で広島市化学賞に応募して表彰された児童もいました。光合成の実験では朝顔セットを配り、家庭で朝顔の花が咲いたら、写真に撮って提出してもらい、コンテストで表彰しています。家庭でもできる内容の実験の場合は、参観者の方の分まで実験材料を用意することもあります。
教育の一環として、玄関での靴の整理整頓の指導や、クラブの開始時と終了時には「起立・礼」の号令をかけています。
感想では「クラブ活動を通して、化学を身近に捉えることができた」「学校での理科や実験が楽しくなった」という声のほか、「学校外の友人との交流の場をもつことができた」というものも多く、本クラブ活動への参加は青少年の人間形成においても好ましい影響を与えています。
◆関連サイト
〇ニュースリリース:第3回キャリア教育アワード"わくわくケミカルクラブ"最優秀賞受賞!
http://www.chemical-y.co.jp/news/2013/02/post-20.html
〇わくわくケミカルクラブ
http://www.chemical-y.co.jp/company/club.html
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/chemical.pdf
発表者:花王株式会社 生活者コミュニケーションセンター 深澤純一氏
家庭でのお手伝いを通して子供の力を育てるプログラム
花王は様々な商品を作っている会社で、製品開発の過程で、生活に役立つ多くの知見が生まれます。花王の企業理念は「よきモノづくりを通して、こころ豊かな生活文化の実現に貢献する」です。モノづくり以外の形でも社会に貢献したいと考え、この知見を多くの子供の生きる力の向上に役立てようと、学校教育支援活動を始めました。その中でも家事をテーマにしているのが、今回ご紹介する「お家のおしごと」のプログラムです。
「お家のおしごと」の最大の特徴は、小学校低学年からのキャリア教育に着目した点です。昔の日本にはほとんどの家庭で、子供が家事を手伝うという良き伝統文化があり、子供たちはお手伝いを通して、工夫する知恵や自立心、家族の役に立つ喜びなどを自然に学び、生きる力を身につけていました。その子供たちが社会を力強く生きる大人となり、これまでの日本を支えてきたと我々は考えています。ところが残念なことに、現代は様々な要因から子供が家事を手伝う習慣がなくなっており、子供たちは家庭で生きる力を身につける機会を自然に失っていると思います。
そこで花王は、家庭でのお手伝いを通して、子供たちの力を育てることができるプログラムの開発を行いました。概要としては、小学校1〜2年生を対象に、授業に取り入れやすいよう、生活科の単元と連動させています。プログラムの流れは、先生に実践いただく45分の事前授業、花王社員が伺う45分の出張授業、子供が家庭で行う自己学習、45分の事後授業となっています。
低学年が対象なので、興味を持って取り組めるよう、教材に工夫をこらしています。たとえばワークブックを作ってシールを貼れるようにしたり、ワークブックと連動させたマグネットを使った提示用教材を提供したりして、楽しみながら活動ができるようにしています。
教科単元と連動。自立心を持って習慣的に家事ができるように
このプログラムの特徴は、教科単元と連動していますので、その中での指導ポイントや、低学年のキャリア発達課題を主軸において、「家庭生活が家の人に支えられていることや、家族の一員としての自分の役割に気づく」「身の周りの事象への関心を高める」といったことをしっかり学べることです。
これらを習得するための2つのポイントを紹介します。1つは、子供たちが自分1人でも家事ができるという自立心を持たせることをめざした体験活動です。体験活動で自信を与えるには、家事のプロが1人ひとりの子供をサポートしていくことが大切です。そこで花王社員が、毎回少なくとも6〜7名のチームを組んで学校に伺うようにして、食器洗いや拭き掃除を実践している子供たちへしっかり声かけしながら指導します。私も学校に伺い指導しますが、このような普段の家事を子供が自分でできたときに、自信に満ちた笑顔になっているのをこれまでたくさん見てきました。
もう1つは、家庭で習慣的に家事をしたくなるしかけを設定したことです。それが体験授業のあとに行われる「チャレンジウィーク」という自己学習で、子供たちが目標設定した家事を家庭で一定期間実践する仕組みを作っています。ただ、これを習慣化させるためには、ご家族の協力が重要となります。そこでこのプログラムでは保護者を巻き込むこと、たとえば体験授業に参加を呼びかけたり、チャレンジウィークでは保護者が子供を見守る工夫をしたりして、保護者にもお手伝いの大切さを意識していただくことをめざしています。
お母さんにもお手伝いの大切さが伝わる
プログラムの効果をお伝えします。以下は80の小学校でプログラムが終わったあとにいただいた、代表的な子供と母親の声です。「そうじはたいへんなのがわかりました。でもたのしいし、みんなのやくにたつことがわかったから、てつだいをもっとしたいとおもいました」「家事の一部を担当することにより、家族の一員の自覚が出てきたようです。やり方を工夫するなど、これからも楽しく一緒に『お家のおしごと』を続けていきたいです」。
子供が家事の大変さとともに、役に立つ喜びを感じ、お手伝いをもっとしたいと意欲的になっていることがわかります。また母親も子供が家族の一員の自覚が出たことを喜び、家事を手伝わせることの大切さに気づいていることがわかります。他にも同じような意見をたくさんいただいていることから、このプログラムが生きる力を身につけるために必要なことを学べる効果的なプログラムであることがわかりました。
社長をはじめ、全社でサポートし維持する実施体制
多くの子供たちにこのプログラムを体験してほしいのですが、そのためには花王がこの活動を継続させる体制を整える必要があります。花王の経営トップは、次世代育成支援活動を花王の風土として根付かせたいと、自らこの活動に参加しています。昨年12月には社長が小学校低学年に授業を行い、専務や常務も行っています。社員は自らの意志で、12年度は500人が種々の出張授業に参加しています。事業部のマーケッターなどは日々大変忙しいのですが、それでもなんとか時間を見つけて学校に伺い、子供の笑顔に触れて癒されています。また子供が成長する姿を見て、自分も社会に貢献できたという喜びを感じているようです。事務局としても企業講師がレベルの高い授業ができるように、キャリア教育コーディネーター養成講座(抜粋版)を受け、講師の研修を精力的に行っています。
このように、この活動は全社でサポートされ、継続する体制は整ってきているので、今後は「お家のおしごと」の活動を広げるため、出張学校数を増やすことや海外での活動を広げていくこと、また教材を提供する教員自立型のスタイルも確立していきます。2010年度に始まったこの活動は、2013年度は国内55校での出張授業を行い、海外12校でも展開し、さらに国内20校で教員自立型を実施する予定です。
◆関連サイト
〇リリース:花王の生活力育成プログラム「お家のおしごと」が経済産業省「第3回キャリア教育アワード」普及型キャリア教育部門で優秀賞を受賞
http://www.kao.com/jp/corp_news/2013/20130221_001.html
〇出張授業について
http://www.kao.com/jp/corp_csr/social_activities_01_02.html
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/kao.pdf
発表者:ソニー生命保険株式会社 ライフプランナー営業本部 ライフプランナー推進部
ライフプランニング推進課 濱崎祐一氏
わくわくする人生のライフプランを作っていくプログラム
2006年に長崎・島根でスタートしたライフプランニング授業は、これまでのべ461校で実施しました。受講生は42500人、参加講師数はのべ8500人です。年々実施回数が増え、今では年間約100回の授業を全国各地で実施しています。学校種では高校が7を占めていますが、近年は中学校での実施も増えてきました。公立・私立の区別なく、いろんな学科で実施しています。
当社のライフプランニングでは、「人生をどう生きるか?」をテーマに、ライフプランナーがお客様と関わっています。ライフプランニングを体験された高校の先生から、「ライフプランニングは面白い。学校でこんなことができたらいいですね」と言われたことが、ライフプランニング授業のきっかけでした。普段は大人相手のライフプランニングを子供相手に行うとすると、何をどのように伝えればいいのかを整備する必要がありました。
出した答えは「仮想の家族を想定し、グループワークでライフプランニングを体験する」というものです。子供たちの自由な発想のもと、意見を交わしながら、人生を考えてほしいと思いました。
一方で単なるゲームに終わらないよう、ライフプランナーの関わり方は、普段の仕事と同じように、リアルさを追究しようと考えました。授業のテーマはずばり「夢」です。授業を通して自分の将来に夢や希望をもっと持ってほしい。かけがえのない人生をもっとポジティブに生きてほしい。そういうメッセージです。
夢を実現する収支計画を立て、夢を持つ大切さを知る
2時間のプログラムの1時間目では、仮想家族を設定し、その家族の将来設計を行います。子供の教育や留学、働き方などをグループワークで考えてみます。ポイントは「わくわくするような人生を考えライフプランを作っていく」こと。たとえば「獣医になる」「二子玉川に一戸建てを建てる」「ハワイでフラダンスに目覚める」等、自由な発想でライフプランを作っていきます。
講師であるライフプランナーは、どんな意見でも受けとめ否定しません。子供たちはどんどん積極的になります。話し合いの内容をシミュレーションソフトで分析し、その結果をビジュアルで見せます。しかし盛り込んだイベントが多すぎると、収支バランスが崩れてしまいます。かなりの期間、家計がピンチになるという収支グラフを見ると、子供たちの盛り上がったテンションも一気に下がってしまいます。でもあきらめる必要はありません。将来のピンチが今わかったということで、対策が打てるからです。
2時間目は「改善策を皆で考えよう」ということで始まります。ところが子供たちは反省モードになっていますから、出てくる意見は消極的なものばかり。「家を買うのをやめる」「大学に行くのをやめる」「子供の数を減らす」など。そこでライフプランナーは「大切な夢もいっぱいあったよね?そんなに簡単にあきらめていいの?」と問いかけます。
改善のヒントを与えると、意見はみるみる積極的になっていきます。たとえば「無駄遣いを減らす」「アルバイトをする」「子育てをしながら仕事も続ける」。ライフプランナーがアドバイスをしながら進めますので、収支グラフも目に見えてよくなります。ついに赤字がなくなると「やったー!」という歓声が上がることもしばしばあります。ライフプランナーが普段仕事でしているリアルな改善方法を示すので、子供たちにもとても納得感があります。金融の知識を深めるということ以上に、夢を持つことの大切さ、「自分の努力や創意工夫で、夢に近づくことができる」ということを伝えたいと思っています。
授業を通して、自分の将来と向き合う
授業を受けた中学1年生の感想です。「今日ライフプランニングの授業を受けて、人生の計画を立ててみようと思いました。毎日を大切に過ごしていこうと思いました」「僕には今夢がありません。だけど今日の授業を受けて、もし自分が何かの仕事についたときに、この話の中で学んだことを生かして、より良い生活を送れていけたらいいなと思いました」「自分の将来について真剣に向き合うことができました。私のことだから、たぶんニートをしているかなあと思っていましたが、この授業を通してもっとちゃんとした職業につきたいと思いました」「人生は一度しかない、かけがえのないものだから、大切にしなきゃいけないと思いました」「しっかり計画を立てて僕に貯金をしてくれているお母さんとお父さんに心から本当に感謝したいです」。
高校の先生の手紙からです。「感じたことは、生徒たちの表情がみるみる変わっていくという驚きです。最初のうち、さほど期待をしている風でなかったのに、具体的なシミュレーションをするうちに、人生について考えることの大切さを実感していくのが手にとるようにわかりました」「子供が独立するまでにいくら教育費がかかるのかを知り、事後アンケートには保護者への感謝の気持ちを多くの生徒が書いていました。これからの進路選択に少なからず影響を与える経験だったと思っています」「学校ではお金をもとに何かを考えさせる機会は多くはありません。教員とは違った切り口で人生についてより具体的に語ってくれたライフプランナーから、生徒たちは短時間で多くのことを学んだと思います」。
ある学校では授業後何人もの生徒が、文系・理系のコース変更を申し出たということもありました。先生は大変だったと思いますが、授業を通して、子供たちが自分の将来と向き合ってくれたんだと思います。
講師となるライフプランナーは全員ボランティアで、「子供たちに触れることで仕事の原点を思い出す」と言ってくれています。打ち合わせ、リハーサル、授業本番と、1回に50人以上が参加することもあり、現場の負担もありますが、子供たちのことを思い参加してくれている仲間に支えられています。
◆関連サイト
〇ニュースリリース:「キャリア教育アワード」の受賞について
http://www.sonylife.co.jp/company/news/24/files/130220_award.pdf
〇「ライフプランニング授業」
http://www.sonylife.co.jp/volunteer/lp/index.html
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/sonylife.pdf
発表者:公益社団法人太田青年会議所 深澤利弘氏
小学生がお菓子屋とTシャツ屋を立ち上げるプログラム
私たちは子供のころ、なりたい職業や憧れの仕事、目指す夢があったことでしょう。そして、実現に向けて努力したはずです。実際には夢がかなわなかった人も多いかもしれない。しかし、大事なことは、努力の過程で様々な経験を積み重ねてきたことです。ニートなど若者の社会問題が様々あるなかで、 子供たちに未来を力強く生きる力を身につけてほしい。私たちはそう考えて、昨年5月から10月にかけて、地域の小学生を対象に仕事体験の活動を行ってきました。
1つ目は5月に行った職業体験イベント「ハローキッズワーク」です。パティシエやネイルアーティスト、大工や警察官、お笑い芸人など14の職業体験ブースを用意して子供たちに体験してもらい、将来の夢を思い描いてもらいました。
続けて6月から10月にかけて行った企業体験活動「自分たちの会社をつくろう!!」では、お菓子屋さんとTシャツ屋さんの2つの会社を立ち上げ、マーケティングや商品企画、製造、販売に至る一連の企業活動を体験してもらうことを通して、コミュニケーション力やチャレンジ精神、経済感覚などを養い、将来の夢の実現に役立つ力を育んできました。企業体験活動には、群馬県太田市の小学校4年生から6年生の19人が参加しました。
行政、企業、メディアを巻き込む。家族にも協力を
これらの活動の3つのポイントを挙げさせていただきます。1つ目は地域の企業・団体との協力です。我々青年会議所だけで何かをしようとしても予算もノウハウも限りがあります。そこで会場や予算面では行政、指導要領では教育機関、商品の企画や製造に関しては企業、宣伝に関してはメディアなどを巻き込んで、子供たちのために、まさに地域ぐるみで活動を進めてきました。
ポイントの2つ目は、つねにご家族とともに活動を進めていた点です。何ヶ月にもわたって継続的に活動をするうえでは、ご家庭の理解が欠かせないと考えました。そこでブログなどで逐一子供の活動状況を報告したり、定期的に保護者の皆様と電話で連絡を取り合って状況を確認したりしながら、活動を進めていきました。
なかでも印象的だったのは、子供たちが自分で考えてきた商品企画をプレゼンテーションしたときです。プレゼンの審査員役を保護者の皆さんにお願いしました。ともすれば我が子には甘く採点してしまうのではないかという心配もあったのですが、蓋をあけてみれば、「前回とったアンケートのデータが生かされていない」とか「お菓子の味はもっと絞ったほうがいいんじゃないかな」とか、なかなか鋭い案が出てきて、子供たちがたじたじになる一幕もあったりしました。子供も大人も真剣になってこの活動に参加してくださったのです。
主体性重視。喧嘩もしたけど、子供社員同士話し合いで決める
3点目は子供の主体性です。会社名はどうするのか? 誰が社長をやるのか? 製造部と営業部は誰がなるのか? 商品企画は? 価格設定は? 宣伝のためのラジオの台本は? 呼び込み方は? 等々の課題についてヒントこそ出しますが、すべて子供社員同士で話し合って決めてもらいました。たとえば価格設定をする際には、最初は原価オーバーの案が出てきたりしたのですが、そうしたときには「皆の案はいいかもしれないけど、このままだとビジネスにならないよ。どうしようか」と問いかけて、採算に乗せつつ良い商品を作っていくことも考えてもらったりしました。
こうした活動を通して、子供たちは期間中どんどん成長していきました。学校も学年も違う子供たちですから、泣いたり喧嘩したりふざけたりと、最初はなかなかうまくいきません。活動1日目は私がいろいろ説明しても、下を向いてしまったり、子供同士で話を始めてしまったり、全然言うことを聞いてくれませんでした。その後も、こちらから促さないと先に進まないことが多くありました。しかし回を重ねるごとに、自分たちで話し合って課題をクリアしていこうという場面がどんどん出てくるようになります。
初めの頃は「どうしたらいいの?」と聞かれることが多かったのですが、後半になると「こういうふうにやりたいんだけどいい?」と聞き方が変わってきました。商品販売の当日は、集客状況や売れ行きに合わせて自分たちで呼び込み方を変えていく場面も見られ、本当に立派なチームへと成長していってくれたと思いました。
相手を信じて目的や意味を伝え、任せれば、子供たちも驚くほどの力を発揮してくれます。私も日頃は会社を経営する身で、人作りの難しさを日々体感しています。人作りにおける大切なことを、私自身、この活動を通して教えられた想いです。
◆関連サイト
〇社団法人太田青年会議所主催の「未来に向かって行動しよう~自分たちの会社をつくろう!!~」の活動報告ブログ
http://chiikitakara.jugem.jp/
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/ota.pdf
発表者:東京商工会議所 企画調査部 原憲昭氏
日本商工会議所の意見書を契機にキャリア教育支援を始める
2006年12月第一次安倍内閣で、教育基本法の抜本改正が行われたほか、社会総がかりで教育再生に取り組む必要性を訴える報告書が取りまとめられました。商工会議所は商工業の発展を通じて地域社会の発展に寄与することが使命です。日本商工会議所でも、教育支援活動を通じた地域活性化にも取り組むとの問題意識を持って、2007年4月、社会総がかりでの教育再生の中核を担うことを内容とする「教育再生に関する意見」をとりまとめ、全国の商工会議所に取り組みを呼びかけました。この意見書を契機に、東京商工会議所では本部や墨田支部・豊島支部・荒川支部において、商工会議所ならではのキャリア教育活動への支援を展開しています。
本部:企業による教育支援の実態調査や、大学生と中小企業を直接結ぶための調査を実施
本部では1993年からキャリア教育の推進策等について、会員企業を対象とした定期調査を行いながら調査研究活動を行っているほか、教育基本法改正などの動きに対し、全国にネットワークをもつ経済団体の立場から意見・要望活動を展開しています。
近年では都立高校教員採用試験の面接官の専任や、教員のインターンシップの受け入れ先の開拓にも協力しています。2006年からは、隔年ですが、企業による教育支援活動についての実態や課題等について定期調査を実施しています。特に2012年は、就職を希望する大学生と採用を希望する中小企業を直接結ぶための調査を新規に実施したところです。
墨田支部:会員企業をネットワーク化し、社会人講師を学校へ派遣する「教育支援プログラム推進事業」
この活動は墨田区の教育委員会などと連携して行っているもので、狙いは、地域の力で教育の課題を解決し、次世代の若者を育成していくことにあります。
墨田支部が学校・企業との間をとりもつコーディネーターの役割を務め、東京商工会議所の会員企業で教育支援に協力する企業をネットワーク化し、登録企業から社会人講師を学校へ派遣し、小学生から高校生を対象に社会人としてのマナーやものづくりの大切さを学んでもらう活動を展開しています。「ようこそ!地域の先輩」「中学生のハローワーク」「職場体験事前学習(マナー学習)」などが代表的な取り組みです。
体験した学習者からは「実際に職業についている人の生の声、本音を聞くことができ、自分の将来について考えることができた」「仕事は辛いものだが、その中に楽しさがつまっているように感じた」という声があがっています。学校側からは「普段の授業では教えることのできない現場の社会人の方の体験を伝えることができ、キャリア教育として深く掘り下げられた」といった声があがっています。
こうした声を踏まえ、墨田支部では、生徒たちにものづくりの現場を見てもらったり、社会人講師の話を聞いてもらったりしながら、今後も生徒たちの職業観の醸成につながる活動を展開していきたいと考えています。
豊島支部:小学生と未来の職業をむすぶ「夢サポート事業」
豊島支部では青年部の若手経営者が中心となり、FC東京などと連携して、プロサッカー選手などスケジュール確保がとても難しいプロの職業人を招き、小学生と直接交流する活動を展開しています。
活動は、豊島区の記念事業として実施した絵画展で、子供たちが夢の職業を描いたことがきっかけとなって、夢の職業の専門家を派遣したことから始まりました。文化的・芸術的な豊島区の特徴に鑑み、小学生の職業選択の幅を広げ、将来の職業と結ぶことを狙いとしています。
学習者からは「学校生活では出会えないJリーグコーチから直接教えてもらい感動した」「来年も続けてほしい」といった声、活動支援者からは「地域児童や地域社会に対して、10年にわたって継続されている事業に参加できることは大変意義がある」といった声が届いています。
荒川支部:先端科学技術に触れる「自然科学フォーラム事業」
荒川支部では、荒川区立教育センターや東京大学、荒川区自然科学フォーラムを利用して、理数系の学力向上をめざした事業を展開しています。この事業の目的は、製造業の集積する荒川区において、将来の技術者をめざす若者の育成や区内産業・技術の継承にあります。
活動としては、中学生を対象に東大キャンパスで、先端科学の第一人者である早野龍五教授から、ヒッグス粒子など最近話題となった最先端の科学を学ぶ特別講義を実施しています。 学習者からは「科学的な発見により宇宙への考え方が変わることを知った。これからの発見に対するニュースを見る目が変わった」「宇宙の広がりや原子の話をもっと知りたいと思った」といった驚きや感動の声があがっています。
荒川支部では東京大学の先端科学の専門家による特別講義を継続的に行うことで、将来の技術者をめざす若者の育成につながる事業展開に取り組んでいきたいと考えています。
◆関連サイト
〇東商の活動
http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=26141
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/tosho.pdf
発表者:愛媛県中小企業家同友会代表理事 大野栄一氏
18年間支援した職場体験学習を踏まえて
この事業の目的の1つ目は、子供たちが中小企業経営者の体験談や職場体験を通じて、働くことの不安や課題を乗り越えて世の中を肯定的に見る生き方を大切に思う心を養うことです。中小経営者というのは波瀾万丈な人生を歩みながら成果を勝ち取っていくのですが、そういう話を聞きながら、「働くっていいな」と子供たちに感じてもらいたい。2つ目は経営者自身に、地域における重要な社会的役割を担っているという自覚を促すことです。「地域の子供たちを自分たちで育てていくんだ」という役割を実感していただきながら、結果として子供たち、経営者と社員さんを含めた企業の成長を促していくといったことが今回の事業の目的です。
愛媛県中小企業家同友会では、1994年から職場体験学習をしていました。18年間で41回、680の事業所が参加し、2896名の中学2年生を受け入れています。成果として、教育者側からは「事前の打ち合わせ準備がしっかりなされ、安心して任せられる」「職場体験を終えた子供たちは生き生きして帰ってくる。働くことへの意識が変わった」という声をいただいています。
同友会としては「中小企業のマイナスイメージをプラスイメージに変えることができた」「こんな仕事があるんだ、こんな頑張っている中小企業家がいるんだ、と感じてもらえて嬉しい」という想いや、「将来の地場産業の担い手を育成していることが実感できた」という想いがあります。職場体験をした子供が、将来自分たちの職場に帰ってくる事例もいくつか出てきています。
そして経営理念を伝えることの大切さも実感しています。経営者が大事にしている経営理念を説くときに、真剣に聞いている子供たちの目を見て、自分たちの生き方を語ることの大切さを再実感するという効果もありました。このように、この活動は子供の成長のみならず、経営者自身の成長にもつながるものだと感じております。
こういった職場体験の成果を踏まえ、松山市教育委員会から声をかけていただいたこともあり、2012年度から共同事業としてキャリア教育に取り組んでいます。今までの職場体験のメニューを再構築し直して取り組んでいるということです。
子供たちも、企業も、共に成長を実感
活動は、(1)社会で働くこと、生きることの本質や意義に触れる講演会、(2)学校教科における出前授業、(3)行事等における外部人材を招いての体験学習、(4)今まで行ってきた職場体験や見学の実施、の4つに大きく分かれます。
松山市教育委員会、小・中学校の校長先生と担当先生方、同友会の会員企業、同友会の事務局の4者が連携しながら小・中学校のニーズをとりまとめ、講師の選定、実施、実施後のフィードバックを行っています。
子供たちは、社長に社員がついていく姿を見てリーダーシップのありようを実感したり、お客様に商品を提供することを通して、仕事の社会性・使命感を学習し仕事観が変化したりしています。さらに、作る製品には欠陥が許されないという責任の大きさや、汗を流して仕事をやり遂げたときに味わえる気持ちよさを体感でき、非常によかったという歓びの声をもらっています。
同友会の経営者においては、先に述べた職場体験の効果も含めて、中小企業の地域における存在意義が非常に高まったということを実感しています。自分たち自身も成長でき、地域と共に取り組んでいる歓びを感じるこの活動は、結果として、「子供たちが企業とともに成長していく」という目的を達成できていると思います。
◆関連サイト
〇活動報告:愛媛県中小企業家同友会が、経済産業省主催の「第3回 キャリア教育アワード」優秀賞を受賞しました
http://ehime.doyu.jp/news/130227-121007.html
◆発表資料
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/pdf/PDF/ehime.pdf
※動画(文部科学省)
登場は発表順(下記)
・花王株式会社 「お家のおしごと」
・シャープ株式会社 「障がいのある子どもたちに向けた特別支援学校等へのキャリア教育支援活動」
・ソニー生命保険株式会社 「ライフプランニング事業」
・社団法人太田青年会議所 「未来に向かって行動しよう~自分たちの会社を作ろう!!~」
・東京商工会議所 「東京商工会議所総がかりでのキャリア教育支援活動の実践」
・練馬区・練馬アニメーション協議会 「練馬区アニメ産業と教育の連携事業」
・愛媛県中小企業家同友会 「地域の中小企業が持つ教育力を子どもたちへ」
・株式会社ケミカル山本 「わくわくケミカルクラブ」