東日本大震災では津波で甚大な被害を受けた雄勝中学校。幸いにも生徒全員は無事でしたが、学校が廃墟と化し、石巻北高校を間借りして授業を行っています。佐藤淳一校長は、実は被災地こそキャリア教育が必要なのではないか。自分はこれからどんな職業について、どのように生きていくかといったことを話し合う場や時間が、心に深い傷を負った生徒たちに乗り越えてもらうためにも、必要なのではないか。その意味で、職場体験のみならず、修学旅行も大事なキャリア教育の機会であると考え、新たな視点を持った試みが行われました。そんな試みが、キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会がコーディネートするプロジェクトとして、学校法人河合塾などの支援も受けつつ、行われました。修学旅行の新しい在り方として、ぜひご参考ください。
●佐藤淳一校長の試みは、キャリア教育推進連携シンポジウムでも紹介されています。
併せてお読みください。 →「雄勝スタイル」のキャリア教育を目指して(佐藤淳一氏)
■実施日程:平成23年11月7日〜9日
■職場体験・修学旅行の受入先
1年生(15名) 職場体験:放送局
2年生(15名) 職場体験:資生堂
3年生(22名) 修学旅行:京都市立開晴小学校・開晴中学校/京都大学総合博物館
職場体験学習については、首都圏の企業と協力して実施しました。
修学旅行については、被災地の生徒達を応援する取り組みになるよう、京都側の受入校とその地域の方々の協力を得て、学校を上げての歓迎行事、保護者の協力によるホームステイ、地域との交流事業など組み込んだ学校間交流型の企画で実施しました。また、受験を控える生徒のために、大学のゼミを体験してもらいました。
取り組みの一部を紹介します
●資生堂での職場体験(2年生15名)
「伝える仕事の現場&プレゼン道場」
●京都へ修学旅行(3年22名)
・雄勝中に「史上最高!の京都旅行」をプレゼントしよう!@京都市立開晴中学校
●9:00~9:40
1.会社について知ろう
株式会社資生堂人事部人材開発室長の深澤晶久さんから、資生堂全体のこと、そして商品開発や人事など、会社内のいろいろな職種を説明していただきました。
商品開発を担当している須貝さんの「やりがいを感じる瞬間は、自分の作った商品が店に並んで、お客さんがそれを見ている姿を見ること」、人事部の細田さん、日野さんからの「何らかの形で社員をはじめ多くの人の役に立つ仕事にしていきたい」といった言葉が印象的でした。
●9:40~10:30
2.伝える仕事の現場を体験するワークショップ:キャッチコピーを考えよう
「資生堂の社員」として、グループで、商品のキャッチコピー考案に臨みました。商品はシーブリーズ。実物を見たり触ったりしながら考えることでアイデアが広がりました。送り手(伝える側)の気持ちを考える、受け手(生活者)の視点を考えるといったことを学びました。
各自、オリジナルの名刺作りにも挑戦しました。
若い社員の方が親切・丁寧にファシリテートしながら、各グループの話し合いを引っ張ってくれました。なかなか意見を発表できない生徒に対しても発言の機会を与えてくださり、全員の意見がキャッチコピーに反映されました。あらためて「話し合うこと」の大切さもわかったようです。
●10:40~11:30
3.伝えてみよう:「プレゼン道場」
大手広告代理店電通の方をお呼びしてのプレゼン。プレゼンの前に、名刺交換も初体験しました。プレゼンでは、とても緊張しましたが、精一杯、自分たちの考えたことを伝えました。とても良い経験となりました。
真剣な雰囲気の中、広告宣伝のプロの方に、グループで考えたキャッチコピーを図にしてプレゼンテーション。短い言葉でわかりやすく伝えるということの難しさを体験しました。
プロの方からの質問に返答しなければならない場面もあり、厳しい評価も受けるなど、本格的です。
企画やアイデアを出すという仕事でお給料をもらっている「本物の職業人」といっしょに仕事をして、評価されるという体験はとても貴重でした。
●12:00~13:00
職場体験後は、資生堂パーラーへ移動して、ランチタイム。初めてのコース料理を、品格ある会場でいただきながら、テーブルマナーを教えていただいたのは、普段の勉強とは違う貴重な経験でした。創業時に作られたというクリームソーダはとても美味しく、大好評でした。
雄勝中学校の修学旅行先は京都。その訪問先である京都市立開晴小中学校では、7年生が「『史上最高!の京都旅行』をプレゼントしよう!」と、京都を回るコースの立案を、総合的な学習の時間を使って行いました。
●8月
8月31日、東山開晴中学校を訪問した雄勝中学校の佐藤淳一学校長から被災の状況を聞きました。
●9月
9月7日「史上最高!の京都旅行」企画ワークショップ開始。グループごとに、企画を立てます。まず、「最高」の旅行を導くキーワードを書き出しました。
材料として観光情報のパンフレットなども使いました。
京都大学総合博物館の塩瀬隆之准教授による「旅行企画ワークショップ」。論理的にアイデアを生み出していく手法を学びました。
●10月
14日 各グループのプランを文化祭にて、児童・生徒・来校者から投票してもらいました。
18日 各プランの発表会。解説や見どころなどを説明しました。その中で投票で採択された4つのプランの発表は、ビデオ撮影され、雄勝中へ届けられました。(左は4案のひとつ「嵐山サスペンス」)
●11月7日
8:30 開晴中に到着。校門で開晴中のみんなが迎えてくれました。
交流会。一緒に給食も食べました。
全校生徒800人の前で雄勝復興輪太鼓を披露。重圧に負けずに、無事演奏できました。
開晴中の保護者宅でもあるお茶屋さんで舞妓さん、芸妓さんの踊りを見学。開晴中の前身である洛東中卒業生の舞妓さん(16歳)から、「14歳の時にこの道を選んだ」「休みは月に1,2回だけど、好きで選んだ仕事。やりがいがある」という話を聞きました。
夕方、再び開晴中へ戻り、ホストファミリーとの対面後、それぞれの家庭へ。
ホストファミリー宅では、心づくしのおもてなしをうけました。「京都の人は、そんなにおしとやかじゃなかった」という感想を言う生徒もいて、楽しく賑やかな一夜を過ごしたようです。翌朝は開晴中の生徒といっしょに元気に登校してきました。
●11月8日
開晴中のみんなが立ててくれたプランに沿って京都市内観光開始。
今年は事前学習の時間が取れなかったこともあり、旅行プランのプレゼントなくしては楽しめませんでした。各プランとも要所要所に観光名所があり、穴場がありといった内容で、京都の良さを味わうことができました。
バス停を間違えたり、のんびりまわってしまったりと、時間のロスもあったのですが、結果は感謝と大満足の1日でした。
「私の班は、金閣寺→東寺→平安神宮を観光しました。どこも風流があり、日本を感じることができ、とても感動しました。」
観光後は、開晴中に戻り、プランの評価を行いました。評価シートを提出。
●11月7日
震災の年、一度はあきらめかけた修学旅行が実現したものの、時期は11月の実施とずれ込みました。この旅行が終われば、3年生は高校受験を迎えます。家を失い、教材もなにもかもないところから、ぎりぎりの学校生活を過ごしているなかにあっても、受験という挑戦は避けて通れません。「なんのために高校へ進学するのか」「高校の先にあるものは何か」「勉強する価値とはなにか」について、京都大学総合博物館の塩瀬隆之准教授のゼミを受講しました。
●放送局を訪ねて
特に印象に残っていることは3つ。1つ目は、テレビからは見えない舞台裏で、いろんな人たちが支え合って一つの番組を作っていたこと。2つ目はアナウンサーが原稿を読むとき、さまざまな工夫をしていたこと。原稿を鏡に反射させてモニターに写すことで、視線を落とさず原稿を読んだり、読むときのくぎりや強弱にも気を配っていて、びっくりしました。3つ目は、現場でカメラマンやアナウンサーの体験が出来たこと。カメラマン、記者、ディレクターやアナウンサーなど、さまざまな仕事の内容に触れて、将来の夢を考えるきっかけになった人も多かったようです。(1年生代表:高橋梨奈)
●資生堂でのプレゼン
資生堂でのプレゼンテーションやキャッチコピーを考える貴重な体験の中で、強く印象に残り、勉強になったことが3つあります。1つ目は「多くの意見を聞き、まとめるプロセスが大切」だということです。これは中学生の私たちにとって今後の話し合い活動で活かせることだと思いました。2つ目は私たちと一緒にキャッチコピーを考えてくれた社員の方々が、私たちと近い年齢で、やさしく丁寧に話し合いを進めてくれたことです。「カッコイイ大人」が印象的で、理想の大人像ができました。3つ目は、自分の思っていることを短い言葉でわかりやすく説明することの難しさがわかったことです。キャッチコピーを考えたときに、「思ったことをインパクトのあるものにする」など、たくさんの手間がかかっていることもわかりました。私たちは、普段経験できない、本当に貴重なことをさせていただきました。(2年生代表:牧野陽紗)
●京都開晴小中学校との交流
私たち3年生は修学旅行で京都に行きました。特に印象に残ったことの1つ目は、京都市立開晴小中学校の7年生が考えてくれたコースを観光したこと。金閣寺、東寺、平安神宮を観光しましたが、とても感動しました。私たちのために一生懸命計画を練ってくれた開晴中のみなさんに心から感謝しています。2つ目は、ホームステイです。全く知らない人の家に泊まるという不安で、皆すごく緊張していましたが、それぞれの家に着いてからは無事にうちとけることができ、家族のぬくもりや、礼儀の大切さをあらためて感じることができました。温かく迎え入れてくださったホストファミリーの方々に、感謝しています。印象に残った3つ目は、開晴小中学校での輪太鼓演奏です。全校生徒800人のとても大きな学校で、私たち3年生20人は800人を前にして雄勝復興輪太鼓を打たなければなりませんでした。体育館に入ると予想通りの重圧があり、頭の中が真っ白になってしまいましたが、無事に800人の前で太鼓を打ち終えました。私たちの演奏を真剣に聴いてくださり、また様々な企画を考えてくださった開晴小中学校の皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。(3年生代表:鈴木貴登)
写真撮影:平林克己