グローバル人材の育成 ー高校の取り組みを中心にー

事例1

子どもの発達段階に合ったグローバル人材育成のための取り組み

立命館学園

概説で紹介したように、企業のニーズや世界的な動向を踏まえ、政府でもグローバル人材の育成に、大学よりも早期から、段階的に取り組もうという動きが大きくなっている。それでは小学校・中学校・高校ではそれぞれどのような取り組みができるだろうか。

 

小学校から大学までの一貫教育を行う立命館学園の元一貫教育部長であり、「真の国際人を育てる」ことを目標のひとつに掲げる立命館小学校校長である浮田恭子先生に、小学校・中学校・高校の子どもたちの発達段階の特徴に合ったグローバル人材育成のための取り組みはどうあるべきかについて、話を伺った。

発達段階の特徴に合った4・4・4制を採用
各段階に合わせた方針で指導

 

発達段階に合った、グローバル人材育成のための取り組みについて考える前提として、まずは子どもたちが小学校から高校までの間にどのような段階を経て成長するのかを、それに合わせた同学園の指導方針とともに聞いた。

 

立命館小学校と立命館中学校・高等学校の一貫教育では、12 年間を、小学校1年生〜4年生(ファーストステージ)、小学校5年生〜中学校2年生(セカンドステージ)、中学校3年生〜高校3年生(サードステージ)という3つのステージに分ける、4・4・4制を導入している。これは、現代の子どもの心身の発達段階を考えると、カリキュラムや教育手法において、4年ごとに節目を設け、それぞれの段階に合わせた教育内容の構築が必要との考えに基づいている。国内外にも6・3・3制ではない形で教育を組み立てている例は少なくない。そして、この4年ごとの節目は、実際の子どもたちの様子とも一致している実感があると浮田先生はいう。

 

立命館小学校 浮田 恭子校長
立命館小学校 浮田 恭子校長

「小学校4年生くらいまでは、子どもたちは具象的に物事を捉え、自分の体験を基準に物事を考えたり予測したりします。それが小学校5年生頃になると、抽象的な内容を理解し、物事に論理性を求めるようになります。広い視野を持って、自らの個性を探る時期でもあります。中学校3年生頃からは、一人ひとりの個性や興味・関心を反映した自分なりの世界観を求めるようになります。セカンドステージまでの学びを基礎に、それぞれが興味のある分野を選び取り、深めていく時期といえます」


同学園ではこうした発達段階の特徴を踏まえて、ステージごとに特色を持った指導を行おうとしている。


ファーストステージでは、読み・書き・計算の基礎を反復して徹底的に身につけさせることに加え、子どもに多くの体験をさせ、探究心を育てることを重視している。観察や、自ら抱いた疑問(はてな)を図鑑などで調べることを習慣づける。

 

セカンドステージは、「学」への入り口である。体系立った学問をそれぞれの段階に応じて学べるように、数学や理科のカリキュラムを工夫している。例えば、6年生で数学を導入したり、公式を使うだけではなく、公式が成立するまでの経緯を理解させることなど、学問の系統性や論理性を重視している。

 

サードステージでは、それまでの学びを踏まえて、将来自分が何をしたいのか、そのためには何を学ぶべきかを考えさせ、自身の目標とつなげて、学びを深めるように導いていくことをめざす。

 

生徒が発達の段階で、自然と興味・関心を持つタイミングに合わせた指導を行うことで、生徒がより深く学び、主体的な学習者に育つことを支援したいという考えに基づいた指導が行われている。

 

 

「英語を学ぶ」から「英語を使う」へ

 

同学園ではグローバル人材育成のための取り組みについても、その他の学習と同様に、発達段階を見通し、各段階に合わせた指導を行っている。まずグローバル人材の要素の中でも重視される、外国語の指導について浮田先生は次のように説明する。

 

「微妙な音声の聞き取りや発声の能力は、小学生の年代の子どもたちが持つ宝物です。そのためファーストステージの時期は、自分にとって意味ある英語をどんどんインプットし、楽しみながら英語を習得させます。セカンドステージでは、文法の学習や、英語を使って自分を表現する活動も多くなります。関係代名詞や仮定法も小学校段階で使っていますが、適切な時期に理論を教えて子どもたちが理解できるようにしています」

 

そして、セカンドステージまでで「外国語としての英語教育」に区切りをつけ、サードステージでは英語をツールとして使う学習をさせたいというのが、浮田先生の考えだ。

 

「私自身、高校で英語を教えていましたが、そもそも高校1年生で大体の基礎的な文法は学び終わるようにできているので、『Science』や『Literature』などのアカデミックな分野を、英語を使って学ぶとよいと考えています。大学入試でも英語の能力だけでなく、母国語や特定の分野の知識を使って英文全体を理解する力が問われるものもあります。こうした問題に対応できる生徒の育成にもつながるでしょう。ほかには、生徒の興味・関心に合わせて、既に持っている知識で理解できる英語の書物を読むのも、取り入れやすい取り組みだと思います。同じように知識で英語力を補いながら読む練習ができます」

 

また、高校までに3カ月、6カ月、1年程度の長期留学の機会を設けて英語だけの環境を予め経験させ、大学や大学院での留学は英語を身につけるためではなく、専門性を磨くためのものにしたいと考えている。

 

 

それぞれに異なった文化のもとで生きていることを理解して尊重できる人を育てる

 

オーストラリアの姉妹校での留学の様子
オーストラリアの姉妹校での留学の様子

異文化理解の面でも、3つのステージを意識した取り組みを行っている。

 

ファーストステージでは、「World Week」として立命館アジア太平洋大学に在籍する留学生を1クラスに1~2人、1週間招いて食べ物などの生活習慣や、文化などについて話をしてもらうなどの交流の機会を設けている。毎年違う文化圏の学生と出会い、世界にはいろいろな国や文化があることが当たり前だという感覚を育てることに主眼を置いている。

 

セカンドステージの小学校5年生からは、希望者が中国、シンガポール、オーストラリアの姉妹校に訪問したり、最長2カ月間の寮生活を経験したりする<写真>。単に留学先の子どもたちとの交流を楽しむだけではなく、英語で意見を述べたり、言葉や文化の違いによる壁に直面し、乗り越える経験をする。思春期は古い価値観から新しい価値観への脱皮の時期であり、まだ自分の価値観が固まっていないこうした時期に固定観念で物事を捉えてはいけないということを実感したり、相手の論理に沿って考える経験をすることをねらいとする。

 

サードステージは4・4・4制を導入して今年初めて生徒が進学したばかりだが、留学プログラムなどを通して、各国の歴史的背景などについても知識を得た上で、お互いの文化を客観的に見たり、説明や意見発表ができることを目標とする。

 

最後に浮田先生にグローバル人材とはどういった人材か、どのように育成すればよいかについて意見を伺った。「グローバル人材の定義は難しいですが、そうした人材を育成するためには、多様性の中で学び、寛容性を身につけたり自己の再発見につながったりするような学習機会を、意識的に設けていかなければならないと思います。これからの子どもたちが生きていく未来を考えると、国家や文化、言語の壁を越えて多様な人々と出会い、共生と協働の道を探求していく力が不可欠です。ファーストステージで世界を知り、セカンドステージでは世界を読み解くためのツールとして英語力を習得し、サードステージでは世界の課題を自分の使命として捉え、解決するための意見を持った青年に育ってほしいと思います。そのためには異質なものと出会い自らを鍛えていくタフさと、インテリジェンスを育てることが重視されるべきだと思っています」

 

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