グローバル人材の育成 ー高校の取り組みを中心にー

事例2

「語学力・コミュニケーション能力」の育成

埼玉県立和光国際高等学校

埼玉県立和光国際高等学校は、設立以来、教育目標に「国際社会でリーダーとして活躍する有能な国際人の養成」を掲げている。外国語科を中心に、英語で資料を読み、意見をまとめ発表するなどの「英語で学ぶ」取り組みを行うとともに、短期留学などで国際社会への興味関心を育てることや、社会人の講演会を通して教養を身につけさせることなどにも意欲的に取り組む。同校の取り組みについて、校長の亀卦川誠也先生、教頭の加藤浩先生、英語科の降籏康善先生と山崎勝先生に話を伺った。

大学での学びを前提に
高校では国際人としての基礎を築くことをめざす

 

亀卦川 誠也校長
亀卦川 誠也校長

同校の教育の特色について校長の亀掛川先生は「知徳体のバランスの取れた、国際社会で活躍できる人材を育成するのが、普通科・外国語科に共通する本校の目標です。本校ではすべての取り組みがその目標を意識して構成されています」と語る。教頭の加藤先生は「国際社会で活躍する人材といっても、職種や立場によって求められる能力は異なります。しかし誰とでも意思の疎通ができる語学力・コミュニケーション能力はどんな仕事をするにしても必要な能力なので重視しています」と話す。

 

加藤 浩教頭
加藤 浩教頭

ただし、こうした人材育成を高校の3年間だけで達成するのは難しい。同校では2011 年度卒業生の内82% が4年制大学へ進学するなど、大学進学率が高い。そのため高校時代は、大学で力を伸ばし、国際人として活躍できるようになるための基礎を固める時期と位置づける。

 

「3年間でネイティブのように英語を完璧に使えるようにはなりません。普通科の生徒は文法問題に強く、外国語科の生徒は聞く、話す力が高いなど高校3年間ではそれぞれに得意な分野の能力や興味関心を伸ばし、大学でそれぞれ自分に足りない部分を補って社会に出て行けばよいと考えています」(加藤先生)

 

 

「英語で学ぶ」教育を実践
多様な言語活動でコミュニケーション能力を育てる

 

こうした教育目標を掲げる同校が力を入れる、英語教育の内容をみてみよう。特に外国語科の英語の授業は<図表>のように構成され、多様な言語活動の場面が組み込まれている。なかでも1年生から3年生までの「英語表現」、2年生の「異文化理解」、3年生の「時事英語」は、外国語として「英語を学ぶ」のではなく、基本的にすべて英語で活動する「英語で学ぶ」ことを重視した授業を行う。この3科目の授業内容の詳細をみてみよう。
 

<図表>外国語科の英語科目と内容
<図表>外国語科の英語科目と内容
降籏 康善先生
降籏 康善先生

「英語表現」では社会問題などについて話し合い、それをもとに発表やディベートを行う。「話す」「書く」の発信力を重視した科目だ。1年生では自分や身近な問題についての発表が中心だが、2、3年生では「大学入学時期を秋にすべき」など、「~すべき」というテーマを設定し、それに沿って議論する。「話し合いの基礎になる教材は、教科書以外に外国の新聞や、国際機関のホームページなどから教員が独自に探すこともあります。例えば『日本の選挙権年齢を18 歳にすべき』というテーマの際には、ちょうどアルゼンチンで選挙権年齢を18歳から16 歳に引き下げようとしていましたので、それに関する英文の新聞記事を全員で読みました。いきなり英語で議論するのではなく、まず関連する英文を読むと、そこから単語や表現を見つけて使うことができるので、話し合ったり書いたりという活動がしやすくなります。英語独特の表現の感覚が身に付くように、できるだけ原文が英語の資料を使うようにしています」(降籏先生)

 

2年生では「異文化理解」の授業がある。環境問題や人権問題、絶滅危惧種の保護といった世界各国が協力して取り組むべきことについての英文を読み、話し合いや発表をする。これらの諸問題に目を向けさせ、将来自分には何ができるかを考えさせる。

山崎 勝先生
山崎 勝先生

こうした、外国語として「英語を学ぶ」のではなく、新しい事柄について「英語で学ぶ」授業は同校で伝統的に行われてきた取り組みだ。教科の知識や文脈からわからない語彙を補い、実践的・応用的な語学力を身につけることを目的としている。「2011 年度から『異文化理解』の授業に、上智大学と提携してCLIL(注)の指導方法を導入しました。授業内容は従来から行ってきたこととそれほど変わりませんが、理論的な裏づけのもと、なるべく原文が英語の文章を使う、一人で考えるのではなくグループで意見交換をして考えを深め、それをグループでまとめて発表し、レポートにまとめるといった流れを、より体系的に行えるようになりました。現在CLIL の指導用のテキストを作成中です」(山崎先生)

 

3年生の「時事英語」では、英字新聞やテレビ、インターネット上の文章や音声、映像などをもとに、日本や世界の諸問題について考える。音声を含む、より多様なメディアに触れる点と、日本国内の問題にも目配りし、世界各国の状況と比較しながら考察する点が2年生の「異文化理解」と異なる点で、「時事英語」の方がより発展的な内容になっている。

 

また3年間の授業の集大成として卒業論文の発表がある。「異文化理解」「時事英語」などでの学びを生かし、日本や世界の諸問題について生徒が個別にテーマを設定し、自分の意見をA 4用紙5枚程度にまとめる。意見はパワーポイントで「英語表現」の時間に発表し、英語で質疑応答をする。資料を調べ、議論を通じて自分なりの意見を持ち、発信するというすべての過程を英語で行う。

 

なお、普通科では「異文化理解」と「時事英語」の授業はないが、「英語表現」の時間に外国語科の指導のノウハウを生かしたディベートなどを実施している。

 

このように生徒が英語を使って活動する場面を多く設定すること、バラエティ豊かな言語活動で4技能をバランスよく育てることで実践的なコミュニケーション能力を育てることが、同校の英語教育では意識されている。

 

(注)CLIL…クリル:Content and Language Integrated Learning =内容言語統合型学習。ヨーロッパでさかんな、語学学習と教科学習(文章の内容理解)を同時に行う学習方法。教科を外国語で学ぶことで、外国語能力向上をめざす。すべての教科を英語母語話者の外国人が英語で教えるイマージョン教育と似ているが、CLIL の場合、教員は必ずしも英語母語話者でない点、体系化された教育技法がある点が異なる。

 

 

英語での読書や、短期留学など
英語や国際社会への興味関心を引き出す環境づくり

 

英語教育は主に外国語科の事例を取り上げたが、普通科・外国語科で共通した取り組みもある。同校では各教室に、Longman の「Penguin Graded Readers」やOxfordの「Bookworms Series」など、さまざまな英文の書籍が100 冊程度置かれ、自由に読むことができる。「薄い本ですが、年間100 冊くらい読む生徒もいます。ペンギンのシリーズに表示されている語彙数や各種検定のレベルを参考に少しずつハイレベルなものに取り組むことで、達成感を感じているようです。英語の授業の冒頭5分は読書をさせ、常に手元に1冊持たせています」(降籏先生)


短期留学も普通科・外国語科合同で行う。1年間で毎年80 名程度が、オーストラリアを中心にドイツ、フランスの連携校や中国でのホームステイ等による短期留学を経験する。また海外の大学で実施する10 日間程度の高校生向け語学コースへも2011 年から30 名程度ずつ派遣している。さらに毎年数名、1年間の長期留学をする生徒もいるが、実は長期留学は積極的には推奨していないという。「将来の目標が既に決まり、語学力も一定程度あるような生徒ならよいですが、日本語でさまざまなことを学び、考える力が十分でないうちに留学しても、中途半端な結果しか得られないおそれがあります。短期留学にしても留学そのもので力が飛躍的に伸びるわけではありません。留学などの機会を効果的に配置して、学習意欲を高めることが主なねらいです」(加藤先生)


さらに、同校では国際人には教養も必須との考えから、先端知識・技術、実践に触れるための講演会である「和国アカデミア」を実施している。2012 年度は、世界銀行上級国別担当官、理化学研究所の宇宙物理学の研究者らを講師に迎え、普通科・外国語科の希望する生徒を集めて、5回の講演会を開催した。同校では、こうした取り組みを通して、語学力だけではなく、国際社会への関心や知識を得られる環境づくりが行われている。

 

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