グローバル人材の育成 ー高校の取り組みを中心にー

事例3

「主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感」の育成

京都府立嵯峨野高等学校

京都府立嵯峨野高等学校は「国際社会でリーダーとして活躍できる人材」の育成を全校の教育目標としている。こうした人材育成のために行われている取り組みのひとつが2012 年度から指定を受けたスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の取り組みだ。なかでも「京都こすもす科」(注1)で行われている、グループ(ラボ)での研究活動は、課題追究への積極的なチャレンジや、責任感を持っての発表を行うなかで、グループの一員として動く協調性、科学者としての倫理観も養い、グローバル人材の要素のひとつである「主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感」といった資質の育成にもつながっている。


このほか同校のSSH では「国際社会でリーダーとして活躍できる人材」の基礎的な素養として、論理的に考え、伝える力を鍛える取り組みを行っている。それらの取り組みには京都こすもす科の生徒だけではなく、全校生徒が対象のものもある。


これらの取り組みについて、副校長の小川雅史先生、教育推進部長・京都こすもす科長の河村早苗先生、進路指導部長の玉村岳先生、研究開発部長の林博之先生に話を伺った。

 

(注1)同校は、第Ⅰ類(文理科系)、第Ⅱ類(人文系、理数系)の2つの類型がある普通科と、人文社会系統、国際文化系統、自然科学系統の3つの系統を持つ専門学科「京都こすもす科」からなる。ラボでの研究は京都こすもす科の生徒を対象としている。

国際社会でリーダーとして活躍できる人材を育てる
SSH の取り組みの4つの柱

 

小川 雅史副校長
小川 雅史副校長

同校が育成したい人材像について小川先生は「国際社会でリーダーとして活躍できる人材の育成をめざしています。こうした人材育成のための取り組みとして位置づけられているのが2012 年度から指定を受けているSSHの取り組みです」と話す。同校のSSH は全校生徒を対象に行う点が特色だ。一部の生徒が高度な研究にチャレンジするだけではなく、全校生徒を対象に、論理的にものを考え、発信する力を身につける取り組みを行う。


こうしたSSH としての取り組みを始めるにあたり、同校では4つの柱をまとめた。それは「①科学を究める探究心」「②国際舞台での発信力」「③リーダーシップと社会貢献の精神」「④高度な言語運用能力の育成」だ。この4つの柱に沿って、取り組みの内容をみていこう<図表>。

<図表>SSHの4つの柱と、取り組みの内容
<図表>SSHの4つの柱と、取り組みの内容

グループ(ラボ)での研究で挑戦する意欲を育てる
「スーパーサイエンスラボ」と「アカデミックラボ」

 

林 博之先生
林 博之先生

「①科学を究める探究心」については、自然科学系統の生徒を対象とした「スーパーサイエンスラボ」と「サイエンスフィールドワーク」を中心に力を育む。


「スーパーサイエンスラボ」は、1年生前期は「基礎ラボ」として、クラス単位で、理科の探究活動に必要な実験の基礎的な技術を習得する。林先生は「今年は物理、化学、生物の各科目で『測定』をテーマに実験をしました。例えば生物では、髪の毛の太さなど微小なものの大きさを測りました。通常の授業では顕微鏡とミクロメーターを使いますが、基礎ラボでは、写真を撮って拡大して測定するなど、ほかの手法を生徒に考えさせ、各測定手法の長所や短所も挙げさせました。柔軟に手法を考えながら研究を進めるヒントにするためです」と話す。


1年生の後期には「物理・工学」「化学・材料」「生命・生物」「水圏・環境」「数理・解析」の5つの分野(ラボ群)の中から、自分の興味のあるラボ群を1つ選び、そこに所属する。最初はラボ群ごとに共通のテーマで実験をしたり、講義を受ける。1年生の冬頃になると、2~5人のグループ(ラボ)に分かれ、協力して研究を進める。2012 年度からは自然科学をより広く、分野横断的な視点で研究ができるように、理系の教員だけでなく地歴科や芸術科さらに家庭科の教員も指導に加わった。


2年生の夏にはラボでの研究の成果を、在校生のほか保護者や近隣の中学校の教師、SSH 指定校の教員らを招いて発表する。発表会では30 グループほどある全てのラボがポスター発表を行う。林先生は「ポスター発表では、目の前の見学者から、鋭い質問や厳しい意見が出ます。それに即時に責任を持って対応することが求められる緊張感が、生徒にはよい勉強になるため、ポスター発表を全てのラボに行わせています」と意義を語る。発表の後には個別に報告書を作成し、3年生になるとラボでなく個人で研究を行う。


平行して「サイエンスフィールドワーク」も行う。大学・企業の研究所や施設を訪問し、最先端の科学技術について実験・実習や見学を行うものだ。第一線の研究者の話を聞くことで、分野への興味関心が育つだけでなく、データの扱い方や、科学の役割などについての話から、倫理的な感性を養うことにもつながっている。


なお、SSH としての活動ではないが、ラボでの研究活動は、「アカデミックラボ」として人文社会系統と国際文化系統でも行っている。「国語国文学」「文化学」「歴史学」「法学」「経済学」「英語学Ⅰ(統語論)」「英語学Ⅱ(音韻論)」「英米文学」「異文化研究」「国際社会」の10 分野に分かれ、スーパーサイエンスラボと同様に少人数での研究活動と発表を行う。狂言を舞台で発表することを通して日本文化への理解を深めたり、模擬裁判を行うなど、アカデミックラボでは実験に代わり、ワークショップやフィールドワークなどの体験を通じて学びを深めることを重視する。

 

玉村 岳先生
玉村 岳先生

ラボで身につく力について玉村先生は「研究から発表までの過程で、生徒は学ぶ意欲や科学的なものの考え方、精神面など幅広い面で成長します。ラボで身につく力は大学受験に必要な力とは別だと誤解されがちですが、そうは考えていません。特にグローバル人材の要素にも含まれる、チャレンジ精神や、そのもとになる探究心を育てることは、研究にも大学受験にも共通する重要なことだと考えています」と語る。

 

 

国際社会で活躍するための素養として、
全校で論理的思考力などを伸ばす取り組みも実施


こうしたラボでの研究活動に加え、SSH では論理的に考え、伝える力を伸ばす取り組みも行っている。


「②国際舞台での発信力」としては、希望者がシンガポールの高校と訪問し合い、共同研究などの交流を行う予定であり、「③リーダーシップと社会貢献の精神」としては、自然科学系統とサイエンス部の生徒が小中学生向けに科学の面白さを伝えるワークショップを運営するなどしている。


「④高度な言語運用能力の育成」としては、3つの取り組みが行われている。1点目は自然科学系統の1、2年生対象の「サイエンス英語」で、科学分野の英語を学ぶ。「現在は英語科の教員が、中学生でも十分に理解できる実験を英語で行っています。今後は簡単な英語の科学論文を読んだり、研究結果の論文のサマリーを英語で書いたりできるようにしたいと考えています」(林先生)

 

河村 早苗先生
河村 早苗先生

2点目は全校生徒が1年次に履修する「ロジカルサイエンス」だ。「この科目は論理的思考力の育成が目的です。授業では独自教材を用いて、文章を構成する論理要素への意識を高めたり、小論文に挑戦させたりします。また議論の背後に存在する価値判断や先入観を自覚し、そこから脱して客観的・論理的判断をするクリティカルな思考を身につけることも試みています」(河村先生)


3点目は京都こすもす科の国際文化系統と普通科第Ⅱ類人文系国際文化コースの2年生が対象の「グローバルサイエンス」だ。エネルギー政策など科学的な事柄に関係する社会問題について書かれた英語の記事を読み、科学と社会の関わりを学ぶ。文系の生徒の科学的リテラシーを高めることを目的としている。


文系の生徒に科学的なトピックを学ばせたり、理系の生徒に文章構成の仕方を教えるのは、グローバル化し、複雑化した問題の解決が求められる現代においては、文系、理系の限られた専門分野だけではなく、さまざまな事象を総合的に考え、整理して伝える力が必要との考えによる。2014 年度からは、自然科学、人文・社会科学の基礎を幅広く学べるよう、一部の学科体制の変更も行う(注2)。「文系の素養を持った理系人材」「理系の素養を持った文系人材」といった幅広い能力を持って、高度な問題解決に寄与できる人材の育成に取り組む予定だ。

 


(注2)現在、京都こすもす科は人文社会系統・国際文化系統・自然科学系統の3つの系統から構成されているが、改編後は人間科学系統と自然科学系統の2系統編成となり、また学びの形も自然科学系統専修コース・共修コースに分かれる。共修コースでは1年次は自然科学、人文・社会科学の基礎を幅広く学んだ後、2年進級時から人間科学系統と自然科学系統に分かれる。

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