グローバル人材の育成 ー高校の取り組みを中心にー

事例4

「異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」の育成

愛知県立刈谷北高等学校

愛知県立刈谷北高等学校は、普通科(定員360 名)内に国際理解コース(40 名)を設置し、同コースを中心にした国際理解教育に力を入れている。


同校では韓国への研修旅行や、カナダのミササガ市にある姉妹校、スティーブン・ルイス校との交流を行っている。これらは同世代の外国人生徒との交流が中心だが、このほかにも多文化共生の街づくりのための地域イベントに参加するなど、実際に外国人と交流する機会を多く設定することで、異なる文化的背景を持つ人々と協力して物事に取り組めるような人材育成に取り組んでいる。さらに国際理解講座で国際的な機関で働くということや、日本文化についての理解を深めたり、国際理解教育を意識した各教科での取り組みも行い、国際人としての内面の充実も図る。


こうした同校の国際理解教育について、国際理解部主任の伊藤卓紀先生、国際理解コース担任の浦部紗矢先生、久原巳季先生に話を伺った。

韓国への研修旅行で
異文化への関心・理解を深める

 

伊藤 卓紀先生
伊藤 卓紀先生

同校には2008 年に国際理解コースが設置され、これを契機に国際理解教育に力を入れ始めた。国際理解部主任の伊藤先生は国際理解教育の目的について「国際交流の精神や行動の基礎をつくることが目標です。海外で働く、地域に残るなどの進路にかかわらず、地球市民の一員としていろいろな国の人とつながっているという意識を持ち、互いに理解し合い、協力して物事に取り組むことができる人材を育てたいと考えています」と話す。 


こうした人材育成のための取り組みのひとつがコース設置初年度から行っている韓国研修だ。研修は4泊5日で夏休みに行い、国際理解コースの1、2年生と、国際理解コース以外の希望者が参加する。日本語が使えない環境を体感させること、異文化に触れることを主な目的としている。韓国研修には全体で行う研修と、班別に行う研修がある。全体研修としては、2011 年度から行っている、韓国の高校との交流などがある。互いの国の伝統文化を紹介したり、英語での会話を楽しむ。班別研修は少人数の班に分かれて行う。班ごとに韓国人の英語ガイドがつき、英語で地下鉄の乗り方を聞いたり、韓国の文化について質問したりしながらソウル市内を巡る。


これらの研修中の、現地高校生やガイドとの会話から「正座をするのは韓国では罰せられるときなので食事のときには正座をしてはいけない」など、似ているようで違う日韓両国の文化の違いを知る。また、研修期間中は毎晩、各班が体験したことを模造紙にまとめ、発表し合って共有する。帰国後は研修中に見つけた異文化について、生徒が各自で文化的な背景などを調べて発表し合い、異文化への関心や理解を深めている。

 

 

カナダの姉妹校との交流を開始
生徒主体で、長期・短期の交流ビジョンをまとめる

 

刈谷市の姉妹都市であるカナダのミササガ市にある姉妹校、スティーブン・ルイス校との交流も行っている。


刈谷市・ミササガ市の仲介で2011 年から、手紙のやりとりなどの学校交流が始まった。2012 年9月には、刈谷市が主催する「国際化・多文化共生推進計画重点協働プロジェクト」の一環として、国際理解教育センター(NIED)から講師を招き、「私とカナダと世界をつなぎ持続可能な未来を拓く」ワークショップを3回にわたって実施した。目的は、今後10 年間で行いたい姉妹校交流の具体的な内容を考えることと、その過程で地球市民としての意識を育むことだ。ワークショップには国際理解コースの2年生が参加した。


第1回は日本とカナダの違いから世界の多様性・共通性について考えたり、環境問題など世界的に取り組むべき課題について学んだ。第2回はスティーブン・ルイス校について知りたいこと、刈谷北高校について知ってほしいことなどを考えた上で、姉妹校交流の10 年ビジョンを考えて模造紙にまとめた。第3回は第2回でまとめた10 年ビジョンを受け、自分たちが高校に在籍している1年半の間に達成したい短期ビジョンを考え、そのために必要な活動について意見を出し合った。

 

久原 巳季先生
久原 巳季先生

「姉妹校との交流という具体的で身近な議題を設定したことで、国際交流の意義や目的を、生徒が自分の問題としてとらえ、考えることができたと思います。また相手のことを理解するだけではなく、自分たちのことをどう伝えるか、何を伝えるかという点についても、より目が向くようになりました。ワークショップの結果を受けて、普段の学校生活の様子を伝えるビデオレターの交換や、ブログでの意見交換などが始まっています」(久原先生)


他にも刈谷市と連携した取り組みがある。刈谷市には、多くの自動車関連企業があり、そこで働く外国籍の住民が多いため、市も多文化共生の街づくりに積極的に取り組んでいる。生徒は刈谷市国際交流協会が主催する「国際交流フェスタ」などへ参加する。「国際交流フェスタ」は国ごとにチームを組み、各国の伝統的な食事を提供したり、文化を紹介したりするイベントだ。生徒は各国のチームに分かれ、外国人や、海外に関心のある日本人大学生らとともに活動する。


同校ではこのような、実際に外国人や異文化と関わる機会を多く設けている。異なった文化的背景があり、行動様式や考え方も違う人たちがいるということを、体験を通じて理解させ、彼らと一緒に物事に取り組めるような感性を養おうとしている。

 

 

「国際理解講座」や教科学習を通じて
国際交流の場で話す内容についての知識を身につける

 

浦部 紗矢先生
浦部 紗矢先生

こうした外国人との交流のほかにも、同校では国際交流を深めるために知っておくべきことについて多角的に学ぶ「国際理解講座」や、各教科で国際理解の意識を高める取り組みも行っている。


「国際理解講座」は国際理解コースの1年生を対象に実施している。2012 年度の第1回は英語の歴史について学んだ。第2回は同校の卒業生で大学時代に留学経験のある大学教員から進路選択や留学の目的について、第3回は国際連合のボランティア参加者に国連の組織や仕事について、それぞれ話を聴いた。浦部先生は「講演を通じて国際的な機関で働くことや留学について具体的に知ります。また異文化や英語、国際的な問題などについて学ぶことが、実際の国際交流の場面や、自分の将来にどうつながるのかをイメージできるようにしています」と講演の意義を語る。

 

第4回は、日本の文化のひとつとして狂言を学習した。「国際交流を行う上では英語が使えるだけではなく、話す中身も重要です。自国の文化について知り、紹介できるようになってほしいと始めた取り組みです。最初は敷居が高く感じていたようですが、解説や実演を通して理解が深まりました」(浦部先生)


また国際理解コースでは、各教科も国際理解に関連づけて学べるようにしている<図表>。地理歴史、公民で多文化主義や多文化共生社会について触れるほか、理科では環境問題について取り上げ、レポート作成や発表会を行う。「国際理解教育は英語科の教員だけで行いがちですが、いろいろな教科の教員が国際理解やESD(注)についての理解を深め、学校全体で取り組むことが理想だと考えています。例えば環境問題は理科で扱っていますが、世界的な課題であり、解決のために国際理解や協働の必要性があることなどに気づかせるような授業をします。ゆくゆくはスティーブン・ルイス校の生徒と議論もできるようにしたいと考えています」(伊藤先生)

<図表> ESD カレンダー(1年生国際理解コース、概要)
<図表> ESD カレンダー(1年生国際理解コース、概要)


同校の国際理解教育は、異文化理解のために外国人との実際の交流を重視するだけでなく、多様な分野の知識を深める取り組みも行い、より豊かな内容の交流を行うことができる、魅力的な国際人の育成をめざしている。

 

 

(注)ESD…Education for Sustainable Development の略。環境、貧困、平和、開発といった、現代社会の様々な課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組むことにより、それらの課題の解決につながる新しい価値観や行動を生み出すこと、そして、それにより持続可能な社会を創造していくことをめざす学習や活動を指す。

わくわくキャッチ!
社会人基礎力の育成の手引き
社会人基礎力の育成と評価

注目記事

「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」レポート

文部科学省と経済産業省では、「理工系人材育成戦略」を踏まえ、産学官の対話の場として「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」を設置しました(2015年5月~)。

留学経験が拓いた私のキャリア

吉岡利代氏(国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ)

中曽根康隆氏(国会議員秘書)

横山匡氏(アゴス・ジャパン代表取締役)

「社会人基礎力を育成する授業30選」実践事例集
◆社会人基礎力育成の効果的な取組のポイント
◆「授業30選」受賞大学事例
◆受講生のコメント  ほか