グローバル人材の育成 ー高校の取り組みを中心にー

コラム

異文化間コミュニケーションの力の発達段階と、指導の方法

東海大学文学部英語文化コミュニケーション学科

山本志都准教授


グローバル人材には語学力だけではなく、相手の文化的背景を理解し、それに合わせてコミュニケーションができる力も求められる。こうした異文化間コミュニケーションの力には発達段階があり、異文化に対する感受性の観点からその過程を6段階に整理したのがアメリカのコミュニケーション学者であるベネットの「異文化感受性発達モデル」だ。このモデルは、異なる文化的背景を持つ人たちとのコミュニケーションを理解することに役立つ。外国人との間だけではなく日本人同士の間にもある文化的背景の違いに着目することで、外国人のいない高校でも、このモデルで想定されているような、異文化間コミュニケーションの力を伸ばすためのトレーニングができるという。


この「異文化感受性発達モデル」を日本に紹介し、自身も大学生に異文化間コミュニケーションの力をつけるための授業を行っている東海大学の山本志都先生に、異文化間コミュニケーションの力はどのような段階を経て発達するのかと、高校でできる異文化間コミュニケーションの力を伸ばすための取り組みについて話を伺った。

否定→防衛→最少化→受容→適応→統合の
6段階で発達する異文化に対する意識

 

「異文化感受性発達モデル」<図表>は、人が異文化をどのようなものとして体験し、そこから何を感じ、どんな意味を見いだすかに関わる感受性の発達段階を6段階に整理している。

<図表>異文化感受性発達モデル
<図表>異文化感受性発達モデル

このモデルは、物事の考え方や価値観は、所属する社会の文化によって方向づけられるとする社会構成主義の考え方を前提としている。この考え方に立つと、同じ文化的背景を持つ人同士は考え方が似通っているため、スムーズにコミュニケーションができるが、異なる文化的背景を持つ人同士の場合、それぞれの文化で常識とする、ものの考え方などが互いに異なるため、誤解やすれ違いを生みやすいといえる。しかし経験やトレーニングを通して、文化による違いがあることを知り、その対応方法を知っていればトラブルは回避できる。異なる文化的背景を持つ人とスムーズにコミュニケーションをとるためにはお互いの違いや共通点を正しく整理して理解し、適切な行動をとることができる力が必要である。


ではそうした異文化間コミュニケーションの力はどのように発達するのかを「異文化感受性発達モデル」に沿ってみてみよう。


第1段階の「否定」は、相手の文化を認めないという意味ではなく、相手の表現が物理的には見えていても、意味のある違いとして、区別や認識ができていない状態を指す。「例えばハリウッド映画の中の日本人役を、日本人でないアジア人が演じると、私たちは表情や話し方等の非言語表現の違いに気づき、違和感を覚えます。しかし、その映画を制作したアメリカ人監督の目には、日本人とそれ以外のアジア人の話し方や動作の違いが区別できず、同じようなものとして映っている可能性があります」(山本先生)


第2段階の「防衛」は、相手との文化的な違いを認識しても、それに対しネガティブな評価を下し、優越感を持つことで、自分を守ろうとする段階だ。一方の文化が正しく、もう一方は悪いと二項対立の図式で文化を考える点が特徴である。善悪の図式が入れ替わり、相手国のものが絶対的に正しく、自国のものはすべて良くないと主張するような、逆転現象が起きることもある。


第3段階の「最少化」は「日本人もアメリカ人も人間は皆同じで、泣いたり笑ったりする」と、人間の普遍性や共通性に注目して、文化的な違いは些細なことだと考える段階だ。この段階は好意に基づいているからこそ、問題が起きたときに深刻になりやすいと山本先生はいう。


「例えば『親を大切にする』のは日本もアメリカも同じですが、『大切にするとは具体的にどういう行動をすることか』はそれぞれの文化によって異なります。福祉施設への入居を、アメリカでは親の自立や尊厳を守った行動だと解釈しますが、日本では子どもが同居する責任や思いやりを放棄したことのように捉えることがあります。こうした違いがあることを理解せずに『どちらの国でも親を大切にするのは同じ』とわかり合った気になっている時に、具体的な行動の違いに直面すると裏切られたような気持ちになり、大きな摩擦につながることがあります」


第4段階の「受容」は、人はそれぞれが属する文化の価値観に依って生きており、大事にすることがそれぞれの文化で異なることを理解し、尊重できる段階である。


第5段階の「適応」は、異文化社会の中にいるときには、その文化の価値観に視点を転換したり、その文化の価値観に基づき、行動したりできる段階である。

 

第6段階の「統合」は、自分が2つ以上の文化に属する際、状況に応じてそれぞれの枠組みを使いわけることができ、かつそうした行動を取れる自分自身にアイデンティティーを見いだせる状態である。「『統合』は、長期間異文化の中で生活したり、自分がマイノリティとしてマジョリティの社会に適応したりする経験がなければ到達することは難しいので、高校での指導では、海外の大学や職場で周囲から見て違和感のない行動ができるレベルである、第5段階の『適応』の段階を目標にするとよいと思います」(山本先生)

 

 

外国人に限らず、日本人同士にも「異文化」はある
身近な異文化に気づくことが出発点


異なる文化的背景を持つ人と適切にコミュニケーションができる力はこのように発達していく。しかし外国人と関わる機会の少ない、国内の高校ではどのようにこの力を育てればよいだろうか。


「異文化間コミュニケーションの教育では外国人とのコミュニケーションを念頭に置くことが多いですが、本来『異文化』は国単位でのみ成立する概念ではありません。まず日本人同士の間にも、小さな『異文化』があるということに気づかせ、そうした個人の違いを活用したトレーニングを高校で経験しておくと、将来、職場などで外国人とコミュニケーションをとる時に応用できます」と山本先生はいう。


「身近な異文化はたくさんあり、例えば同じ高校の中でも、運動部と文化部では、挨拶の仕方や先輩後輩の関係などに違いがあります。ほかにも出身中学校、家庭、男子と女子の違いなどもあります。それぞれのグループのルールや優先順位などを書き出すと、グループによって文化の違いがあることに気づきます。所属するグループの文化の特徴を見て、自分がどんな文化的背景を持っているのかに気づき、自分の価値観や行動規範といった目に見えない特徴を意識したり、友人との違いを理解して尊重し合うことの大切さを理解することができると思います」(山本先生)

 

 

まずは支援的な雰囲気のディスカッションで
お互いの意見を引き出し合う訓練をする

 

人がそれぞれ異なる文化的背景を持っていること、それを理解、配慮し合うことの大切さに気づかせた後は、実践的な交流の仕方を指導する。異なる文化的背景を持つ人と交流するには、意識的に自分の意見や状況を発信したり、相手の考えを引き出すことで、理解し合う力が必要だ。こうした力をつけるための最初の取り組みとして、山本先生が行っているのが相手の意見を引き出すことを重視したディスカッションだ。


「テーマは『自分にとって友達とは何か』など何でもよいと思います。ディスカッションでは、自分の意見を発信する力が注目されがちですが、実は相手から話を引き出す力の方が重要です。いったん自分の先入観や意見は置いておいて、相手の意見に対し『それはどういう意味ですか』など、相手をより理解するための質問をしたり、『先ほどのあなたの話はこういう意味だと思いますが合っていますか』と確かめたりする会話が、最もお互いの主張の理解につながり、新たな視点を生んで議論を活性化させるからです。ですから、私の大学の授業では、まず相手の意見を意識的に聴き合う、支援的な雰囲気のディスカッションを行います。できるだけ多くの視点や意見を引き出し合って、チームとしての多様性と生産性を高める意識を持つよう指導します。こうしてお互いの意見を引き出し合う力をつけてから、意見をぶつけあう、発信する力を重視するディスカッションに取り組むと、一方的に意見を言い合うだけでない、深い内容のディスカッションができるようになります」

 

 

海外への修学旅行の事前学習では
歴史や伝統文化より、行動様式の違いを扱う

 

国内でもこのようなトレーニングが可能だが、短期間の交換留学、外国への修学旅行など、高校生でも外国の異文化に接する機会は増えている。山本先生はこうした場合の事前学習としては、相手国の歴史や伝統文化などだけでなく、相手国と自国の行動様式の特徴などを学ぶのが実践的だという。


「相手国の人と交流する機会があるのであれば、事前に、相手は普段の自分たちの言動をどう理解するかといったシミュレーションをするとよいでしょう。両国の行動様式の違いを説明し、どのように発言し、振舞うのがよいか考えさせます。例えば恥ずかしがったり、遠慮して意見を言わない態度が、相手国の人の目にはつまらなそう、やる気がなさそうな態度として映るのではないか、などと意見が出ます。また先ほどの『親を大切にする』の事例のように、根本の考え方は同じでも具体的な行動は異なる事例をケーススタディで学ぶ(注)と文化の違いがより明確にわかると思います。身近な異文化を知ることや、こうしたケーススタディなどのトレーニングを高校で行うことで、将来、留学や職場で出会う外国の異文化に接する際の基礎を作ることができると思います」

 

(注)ケーススタディの事例集としては、『ケースで学ぶ異文化コミュニケーション-誤解・失敗・すれ違い-』(久米昭元・長谷川典子著、有斐閣選書、2007 年)などがある。

 

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