留学経験が拓いた私のキャリア

 vol.2「合格したということは、何かが買われたはずだ」と信じて、自分にしかできないことを模索した

中曽根康隆氏 

国会議員秘書
コロンビア大学国際関係・公共政策大学院 SIPA(School of International and Public Affairs)修了

[Profile]
慶応義塾大学法学部法律学科卒業(2005年)。コロンビア大学国際関係・公共政策大学院SIPA(School of International and Public Affairs)に私費留学。2008年に同大学院修了後、JPモルガン証券株式会社入社、債券営業本部にて債券全般の取引に5年間従事。その後、2013年より国会議員秘書。

 

■大学院は国際関係、就職先はあえて苦手な金融に挑む

中曽根康隆氏
中曽根康隆氏

留学のきっかけは、17才でダラスの高校に1年間留学したことです。その時はとにかく外に出てみたい、と思っていましたが、現地では新しい価値観や言語の壁にぶつかりました。日本人は私一人で、周りの生徒には「しゃべらない静かなアジア人が来た」と思われていたようです(笑)。ひたすらさびしい思いをして、ようやくしゃべれるようになった頃帰国となってしまったので、いつか海外に出て勉強し直したいと思っていました。

大学は日本の大学で、体育会系の部活に明け暮れました。大学を卒業して、「外から日本を見てみたい。世界トップレベルの人々と交わり勉強したい」と思うようになり、25才でコロンビア大学国際関係・公共政策大学院(SIPA)に入学しました。


SIPAの校舎はニューヨークにあります。ニューヨークは街自体が刺激的で、「こうでないとダメ」「こうあるべき」というものがありません。人種のるつぼで、様々な価値観や背景を持つ人と交流することで、人として成長することができました。


また、SIPAは隣にビジネススクールや教育学大学院、ロースクールもあり、自分の専門以外の分野でも、興味を持ったものを学ぶことができ、それが単位になります。授業ではコーポレートファイナンスやキャピタルマーケットなど、自分が苦手だった金融関係も勉強しなければならなかったのですが、学ぶことでその重要性を知り、若いうちに苦手を克復した方がよいことに気がつきました。そこで、就職先にはあえて金融の最前線にある投資銀行業界を選び、JPモルガン証券にて5年間勤務しました。その後に元々興味のあった政治の世界へ、国会議員秘書という形で入りました。


■入学当初は自信喪失! しかし、シャイな日本人のイメージを崩すべく努力

「若いうちの2年間くらいはやりたいことをやればいい。行かない方が後悔するよ」という周りの人の言葉にも背中を押されて留学してみたのですが、SIPAでは入学前に職務経験なし、というのは圧倒的にマイノリティなのです。当時、私は日本人では最年少でしたし、他の方々は省庁で5-6年キャリアを積んだ官僚やアナウンサー、経営者の子息など、錚々たるメンバーが同期としていました。もう、初日から圧倒されて自信喪失状態でした。しかし、ちゃんと合格しているのだから、何かが買われているはずだと信じて、私自身がどういう価値が提供できるかを必死で模索しました。

 

SIPAのクラスメートと
SIPAのクラスメートと

私が英語ができないこと・社会経験がないことは皆が知っているので、失うものは何もない、だから格好なんかつけなくていいんだと開き直って授業中はどんどん質問し、授業後もAssistant Teacherを質問攻めにして、とにかく存在をアピールしました。そして、常に自分が日本代表であるという気持ちでふるまい、外国人の持つ「日本人は優秀な人でもアピールが足りない、シャイで人に合わせる」というイメージを崩すべく努力しました。

ニューヨークで生活するには、とにかく自分を主張しないとダメなのです。日本のように、何となく身を任せていれば何とかなるということは何一つありません。しかも、向こうの大学院は、あらゆる場面で「自分はこうだ」を持ち、相手の言い分を聞いた上で議論するのが全てのベースですから、「Why」を突き詰める習慣がつきました。

 

■将来のリーダーたちに日本を体験してもらう「Japan Trip 」を立ち上げる

どの授業も毎週何百ページもリーディングの課題が出たので、図書館で毎日10時間程勉強しました。枕を持ち込んで、ほとんど住んでいたと言っていいくらいです。ネットで検索すれば日本語訳等は出ていましたが、それを使っては自分の成長カーブがフラット化するのがわかっていたのであえて使わず、日本人の友人と支え合いながら格闘しました。


アメリカの学生は、皆図書館で1日中勉強していますが、夜はけっこう遅くまでパーティーで盛り上がります。それでも翌朝8時には平気な顔で図書館で勉強しています。遊ぶだけ、勉強するだけでなく、オンとオフがはっきりしていて、精神的にも肉体的にも非常にタフであると思いました。
 

Japan Tripで。京都・竜安寺
Japan Tripで。京都・竜安寺

そんな中で私は、若くて社会経験がなくても貢献できることはないかと考えました。そして取り組んだのが、SIPAの学生を日本に連れていき日本の文化、政治、経済の現場を体験してもらうイベント「Japan Trip」です。そもそものきっかけは、カザフスタン人の友人が日本文化に興味を持ち、「日本に行きたい」と言ったので、「それでは他の人も」と声をかけたら100人以上が手を挙げたことでした。そこで私が発起人になり、学生の負担を減らすために日本の企業にファンドレイズの協力をお願いしました。時差があるので、夜中に電話をかけまくり、帰国した時には企画書を持って40社以上にお願いに回りました。


結果的には、400万円程を集めて、40人の学生を日本(5都市)に連れていき、トータル10日間のジャパントリップを行いました。18か国の将来のエリートが生の日本の政治・経済・文化に触れたことは日本の国益にも大きなプラスであったと考えています。このイベントを立ち上げたのは、これから母国の将来を担う留学生に、生の日本の政治・経済・文化を自分の目で見て実体験してもらうことは、必ずや日本の将来にも利すると思ったからです。協力企業の方々にも、この点を納得していただきました。「Japan Trip 」は現在に至るまで7年間続いており、成功したイベントと言えると自負しています。

 

■言語プラス自己表現、さらに政治の場ではすべてが生きている ~大学院で学んだこと

SIPAの卒業式で
SIPAの卒業式で

大学院で学んだことがその後のキャリアにどう生きたか、という点で言えば、卒業後就職先したJPモルガン証券では、社内の公用語は英語でしたから、これは十分鍛えられていました。また、債券の営業でしたので、文字通り世界各国の人と渡り合いましたが、SIPA時代に「自分はこう思う」ということを主張する姿勢を叩き込まれたので、堂々と自分の意見を言うことができました。言語プラス自己表現は、SIPAの2年で完全に自分のものにすることができたと思います。


JPモルガンに5年間勤めた後退職し、議員秘書という形で政治の世界に入りましたが、今の仕事で言えば、政治は全てを包括します。その意味で、海外に出て外から日本を見たことも含めて、自分が大学院で学んだ政治・経済・文化等全てが役に立っていると言えます。
  
留学は確かに大きな投資ですが、そのリターンはまさに自分次第だと思います。知識的リターンのみならず、人とのつながりや新しい価値観にで感じる事など、リターンは自分次第で無限大になります。

 

■質疑応答から

Q1.卒業後のキャリアとして、いろいろな選択肢がある中で、なぜ日本で働くことを選んだのでしょうか。


私のプライオリティは、先に述べたように苦手分野の克服でしたので、勤務地はどこでもよかったのです。外資系なので公用語は英語ですし、マーケットは同じなので、違いは「どの国から見るか」ということだけです。そうなると、やはり日本の政治・経済をベースにして金融というものを見たいと思いました。そのためには、日本で得られるものの方が多いということで日本の勤務を希望しました。


もう一つは、海外に出ると日本のことがかえってよくわかるようになります。だから、日本に帰って向こうで得たものを人に伝えたい、還元できる場所があるといいな、と思ったこともあります。

Q2.高校でも留学をされていますが、高校留学で大事なことは何でしょうか。


高校時代は、何かできていなければダメということは何もないので、海外の高校へ行こうというアクションを起こすだけでもすばらしいです。恥ずかしがらず、わからないなら聞く、どんどん話しかけることは大切です。高校での日本人留学生は珍しい事もあり注目される存在になります。皆が色々と質問してきますから、宗教・歴史など日本のことを勉強していくことは必要です。説明するだけでなく、いろいろな本を持って行って見せたりもしました。アメリカは、高校生から民主党・共和党に分かれて議論するくらいですから、政治のことも少しは知っておく必要があると思います。

Q3.私は将来国際協力の仕事がしたいのですが、まだ具体的になっていません。専門はいつ、どのように決められたか教えてください。


やりたいことがあればそれでいいですが、私は、無理に専門性を作ろうとせず広げていこうと思ってやってきました。本当に自分の道を決めたのは2年前です。金融に身を置きながら、何がやりたいか見えてきて、そこで初めて専門を絞る作業に入りました。
何をするにしてもまずは守備範囲を広げることが大切だと思います。その後、焦らずに絞る作業に入ればいいと思います。または広げていく過程で自ずと絞られていく事もあるでしょう。

Q4.好きな本を教えてください。


ビジネスマンとして尊敬するSONYの元会長の盛田昭夫氏の『Made In Japan』(朝日新聞社)です。留学前も後も、この本を読むたびにハングリー精神をかき立てられ、できないことはないことを教えられました。


盛田氏のインタビューをYouTubeで見ることができます。海外でまだ全く日本製品が知られていない時代に、ニューヨークにSONYのオフィスを開いた時のCNNのインタビューです。英語は本当に拙いのですが、ものすごい熱意で自分はこれを売り込むんだ、という気迫で聴衆を圧倒しているのです。流暢でなくても、気持ちと内容と勇気があれば伝わるんだ、ということが伝わってきます。私はこれを留学前に見て、喋ることができなくても、行けば何とかなるという勇気をもらいました。

Q5.今後の目標や夢を教えてください。


自分で政治の道に進むことを決めて舵を切りました。家族に政治家がいるという環境で育ってきましたが、実際に地元を回って支えてくださった人に会ってみて、地元に恩返ししたいという気持ちになりました。日本の少子高齢化は避けられないことなので、これからの時代に沿った新しい持続可能なシステムを構築していきたいと思います。また昨今、地方創生が言われていますが、国の元気は地方の元気の集合体です。まずは地元である群馬を元気にすることで地域を盛り上げ、結果的にそれが国益に資するものになれば嬉しいです。


財政、安全保障、外交、教育など国家的課題も山積している日本ですが、こういった重要な問題が若い人に対して発信されていないことを痛感しています。若い人が政治に興味を持たなくなったら民主主義が成り立たなくなりますし、来年には18才選挙権が実現しそうな中で、私も若いこれからの世代に向けたメッセージを積極的に出していきたいと思っています。

Q6.これから留学を目指す人へのメッセージをお願いします。


留学をした人間としては、「留学は行ってみないとわからない」と思います。どんなに考えて準備しても、現地に行けば全て吹っ飛び、目の前のことでいっぱいになります。その中で、どんどん選択肢が広がることを日々実感できます。留学は、意識した時から始まっています。自信を持って飛び込んで、その後の人生を豊かにしてください。


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