はじめに

『社会人基礎力』の目指すもの

私達の社会を取り巻く環境は、今、大きな変化の波を受けている。そのような中、働く人々にとって、以下3つの行動が重要となっている。

 

〜「外(異)」への対応〜

ボーダーレスに展開するマーケットにおいては、「異国・異地域」の人々と顧客・パートナーとしての協働が求められる。また、サービス化が進展する市場において、顧客価値を創造するためには自社・自組織の範囲を超えた価値・魅力の編集を求められ、「異業種・異分野」との連携もその重要性を増している。さらに、技術は進化と共に深化・細分化する傾向があり、これら成果物を社会に打ち出していくためには、自らの領域を超えて顧客価値を「俯瞰」する力が必要となる。「外」に目を向け、バックグラウンド(専門性、文化、価値観等)の異なる人々と協働する力、自分の専門分野と異なる「もの」「こと」に目を向け、それらを自らのコアと結びつける力を身につけることが望まれている。『自己完結できない時代』。社会価値を創造するためには分野や組織等、既存の枠組みを超えた活動が求められているのである。

 

〜「学び直し」への対応〜

技術や製品のライフサイクルの短縮化が進んでいる。平成16年に中小企業研究所が実施した「製造業販売活動実態調査」によると、1970年代には5年越しのヒット商品の比率が59.4%存在したことに対し、2000年代には5.6%と約1/10にその比率を下げている。技術・製品のライフサイクルが高速化するということは、働く人々の「学び直し」のサイクルも高速化するということであり、このような変化を踏まえ、企業の採用や人材育成等においても「学んだ結果」以上に、その過程において身につけた学ぶ姿勢・行動特性・着想等を重視し、望ましい行動の再現性に注目する傾向がみられている。

 

〜求められる「主体的行動」〜

ICT化の進展等により職場環境が整備され、ツールもより便利なものに進化してきている。このこと自体は発展の証左として歓迎すべき利点であるが、働く人という視点で考えると、そればかりではない。当然のことながら単純な仕事は機械化され、またグループで取り組んだ業務は一人でも十分に対応できるサイズへと効率化が進んでいる。このような仕事の現場の変化の中で、若者に求められる業務の質も高度化する傾向があり、また一人で仕事を進める場面も多くなることで、ますます自らが主体者となって仕事をデザインし、周囲に働きかけ、巻込んでいく行動が求められている。

1. 社会人基礎力の目指すもの

このような時代の要請を受けて、経済産業省では、これからの職場や社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基盤的能力を「社会人基礎力」として提唱し、その育成の普及をはかっているところである。社会人基礎力提唱の狙いは以下の2点である。 

 

(1)能力開発の針路を示す社会人基礎力

社会人基礎力は、若者自身がその成長の目標とすべき「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力とこれらを構成する12の能力要素から成る。

 

1. 『前に踏み出す力』は、一歩前に踏み出し、失敗しても、粘り強く取り組む力として「主体性」「働きかけ力」「実行力」を要素に構成している。指示待ちにならず、一人称で物事を捉え、自ら行動できるようになることを目指している。

 

2. 『考え抜く力』は、疑問を持ち、考え抜く力として「課題発見力」「計画力」「創造力」で構成する。通常「考える」には論理性等の要素が取上げられがちであるが、社会人基礎力においては、決まった答えを導き出すこと以上に、自ら課題提起し、解決のためのシナリオを描く、自律的な思考力の獲得を目指している。

 

3.『チームで働く力』は多様な人々と共に目標に向けて協力する力として「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「情況把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」で構成する。グループ内の協調性だけに留まらす、多様な人々との繋がりや協働を生み出す力を目指している。

 

「能力開発の針路を示す」、これが社会人基礎力の大きな目的のひとつである。

 

(2)人材育成ツールとしての社会人基礎力

もうひとつ重要なのは「成長の合言葉」として、教育の現場で学生と教員、関わる社会人の間で共有し、活用する視点である。人の成長においては、「現実を認識し、将来を見据える」中で、「目標を立て、実行し、内省する」、これを「さらに次の目標につなげ、成長のPDCAサイクルをまわしていく」ことが重要である。この際、目標を「言葉」にし、自ら意識することで「立ち戻って考える」ことができ、また、他者に共有することで「対話」が生まれ、「アドバイスやフィードバックを受ける」ことができる。このように「言葉」を通じて活動から得られる成長成果を最大化する。「学習の場を真に成長の場」とするために、「教える側」「関わる人々」「教わる若者」の間で活用される「合言葉」を通じた『対話』の促進、これが社会人基礎力育成事業を通じて実現したい教育の変革である。

 

2. 「社会人基礎力」の育成にむけて

平成25年5月にまとめられた教育再生実行会議第三次提言(大学教育改革)において、課題発見・探求能力、実行力といった「社会人基礎力」などの社会人として必要な能力を有する人材育成が必要であり、この実現に向けて、大学は学内だけに閉じた教育活動ではなく、社会との接続を意識した教育の強化が必要であることが提言された。さらに、「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)においては、我が国の将来を担う若者全てがその能力を存分に伸ばし、世界に勝てる若者を育てることの重要性に鑑み、インターンシップに参加する学生数についての目標設定や、キャリア教育から就職まで一貫して支援する体制の強化等の内容が明記されたところである。

 

今後、大学等の教育現場は、学生達が将来活躍する社会、産業界等に目を向けられた場に変わっていくことが期待され、また、教育活動においては「教える」視点だけでなく、「学生自身にいかに経験させ、考えさせるのか」という課題にしっかりと取組んで行かなければならない。大学教職員においても企業等で働く人々との相互理解を深める等、「現実社会と接続した教育」を構築していくための努力が求められているのである。

 

このような状況を踏まえ、『社会人基礎力を育成する授業30選』は、これまで多くの教育の現場で実践されてきた社会人基礎力育成の努力や創意工夫を改めて点検・分析し、グットプラクティスおよびその推進のポイントを広く共有することを目的に実施した。

 

本事例集が多くの大学教職員の皆さまの手に取られ、新しい教育づくりに活用いただければ幸いである。

 

 

平成26年3月

経済産業省 産業人材政策室

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