授業計画の1〜8回1講時までを「I」、8回2講時~15回を「II」とする。「I」では、プレゼンに慣れることに主眼を置く。「II」では、最終授業で開催される「プレゼン大会」で発表する企画を作成することに主眼を置く。最優秀プレゼンに選ばれた企画は提案チームが中心となり企画実現に向けて、その後も活動を続け、企業との連携を通して社会人基礎力を育成し、就職率、就職質の向上につなげる。
プログラムタイプ | 実践型学習(企業連携) | 単位の授与 |
あり |
実施している期間 |
平成22年4月〜 |
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実施規模 |
参加教員: 5名 職員: 2名 SA: 6名 受講学生: 110名 連携企業数: 3社 |
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授業時間数 | 30時間 | 学生のプレゼンの機会 |
あり(2回) |
評価の回数 |
自己評価の回数: 2回 他者評価の回数: 2回 |
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当該プログラムの実施範囲 | ●学科・学部全体で実施 |
学生の就職率と就職質を向上させるために、就職状況について学科として調査・研究を行った結果、プレゼンテーション系授業を受講している学生は、就職率、就職質とも他の学生と比べ高い数値を示していることに注目した。
この理由を推察した結果、プレゼンテーション系授業ではアクションをはじめ、シンキング、チームワークがバランスよく育成されるという結論に達した。
この結果を基に、プレゼンテーション演習I・IIの授業を選択科目から必修科目とし、プレゼンテーション演習Iの基礎的な演習で「アクション」「シンキング」の基本を身につけ、プレゼンテーション演習IIではプレゼン大会を開催することで、最終的に「アクション」「シンキング」「チームワーク」を含めた社会人基礎力を総合的に習得することが可能になり、就職率、就職質のアップに直結するという判断に至った。
育成のための取組内容と育成のプロセス
「プレゼンテーション演習I」の前半では、様々な課題でのグループワークを行う。ワーク後は必ずグループ内で討論する時間を設け、「何故うまくいったか、何故うまくいかなかったか」を話し合わせ原因追究を行う。その後、もう1度、同じグループワークを行い、自分たちの結論が正しかったか正しくなかったかを実証させる。
「プレゼンテーション演習I」の後半ではグループ内で1分間スピーチを行う。その際、発表者以外のメンバーは良かった点と悪かった点を発表者に必ず伝える。全員のスピーチ終了後は投票を行いグループの代表1名を決め、同様の方法でクラス代表2名を決め、最終的には、小講堂に3クラスの代表の受講者全員が集まり1分間スピーチ大会を開催する。発表者に選ばれなかった学生は発表後、発表者に質問をする機会を設ける。また、最優秀スピーチは発表者以外の全員による投票で決定し、自分の意見と他者の意見と違いを比較し修正できる機会を与える。
「プレゼンテーションII」では最終授業での「プレゼン大会」のチーム発表にむけて進行していく。前半ではアトランダムに選んだメンバーによるチーム分けを行い、企業や団体の担当者による課題発表後、チーム内での役割について話し合う。
後半は現地取材や発表用のスライド作成をチームごとに行い、課題解決のための企画を立案する。プレゼン大会の前々回にクラスごとの発表会を行い、相互の投票によりクラス代表の2チームを決定する。その際、選ばれた2チームに対しては修正ポイントの指摘を全員で行う。プレゼン大会の前の回は、選ばれた2チームが前回の修正ポイントの指摘を受け修正した内容でのプレゼンを行う。プレゼン後は選ばれなかった全員による質問タイムとし、出場チームはこれに答える。
最終授業は小講堂に3クラスの代表6チームが集まりプレゼン大会を開催する。チームとして参加しない者は観衆となり、それぞれのチームの発表後に質問を行う。担当教員を含まない審査員3~4名により参加チームの中から最優秀プレゼン1チームを選出、選ばれたチームの企画は企業や団体サポートのもと、企画実現に向けてさらに活動を続けていく。
育成の評価
(評価者)
評価者は「プレゼンテーション演習I」においては、教員と学生自身、「プレゼンテーション演習II」では、教員、学生自身、外部協力者(企業・団体)において行う。
(評価基準)
「プレゼンテーション演習I」では、毎回学生が提出する授業の感想に記されている「自己の短所や長所の把握」と学生がそれに対して自己申告する「達成度」をもって判断する。「プレゼンテーション演習II」では、グループワーク内で、自己の能力を生かしどれだけグループワークに貢献しているかを担当教員が評価する。プレゼン大会時の各グループへの評価は学生同士の順位付けをベースに判断し、外部協力者の評価もこれに加える。
「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果
本プログラムにおける社会人基礎力の効果的な育成のための主な工夫は以下の5点である。
(1)プレゼンと企画立案の統合
プレゼンだけでは自分の意見を押し通すだけの、それ自体が目的化されたプレゼン力になりかねない。具体的な企画の実現という目的と融合することにより、「チームで働く力」の要素としてのプレゼン力の育成につなげていくことができる。
(2)徹底した課題のリアルさの追求
社会人基礎力、とりわけ「考え抜く力」を育成するにあたっての大きな課題は、「問題は教科書の中にあり、答えも教科書の中にある」という学生の意識改革である。これを「問題は現場にあり、答えは自分たちで作り出すしかない」という立場に変えるために必要なことは、学生たちに提示する課題の徹底したリアルさである。この点を強く、連携する企業・団体とも話し合い、理解していただいた上で、例えば、地域特産味噌の若者への知名度アップのための課題、過疎化に悩む地域への若者の移住・観光客の増加のための課題等、実現可能な課題を提供していただくようにしている。
(3)本格的なプレゼン大会
例えば「社会人基礎力育成グランプリ」がそうであるように、本格的なプレゼン大会への参加は社会人基礎力、とりわけ「前に踏み出す力」を一気に成長させる重要な機会となる。そこで、本格的な会場で多くの参加者と観衆を集め、審査員もアナウンサー、ディレクター、大手広告代理店の企画担当者等のエキスパートに依頼し、本格的なプレゼン大会を実施している。
(4)授業後も継続する課題
実際の企画実現に向けた取り組みでは、プレゼンはその途中経過にすぎない。そこで、優秀な企画を作成したチームは、授業後も連携企業・団体と協力しながら企画を継続し、実際に商品開発等に結実させていく。この達成感こそが社会人基礎力を総合的にアップさせる重要な契機となる。
(5)多様な学生に対応するための複数担当制
プレゼンテーションを必修の授業で行う場合の課題は学生の潜在的な能力に大きな差異があることである。また、3つの能力バランスもクラスごと、年ごとによって大きく変化する。これらにどれだけ迅速に対応し、学生それぞれの弱点を補充する授業をできるかが課題である。この問題を解決するためには、従来の、1つの授業は1人の教員が責任を持つという発想では難しい。そこで、これらの課題への対処として、各クラスの担当教員は2名、さらに2名ずつの学生スタッフを配し、受講学生それぞれの弱点に対応できるようにしている。学生スタッフ2名は、前年度のプレゼンテーション系授業の既習者から担当教員が選ぶが、その判断基準とするのは成績ではなく、後輩から慕われ、かつ就職活動で希望通りの企業からの内定を獲得(または内定獲得予定)の「社会人基礎力を育成できている」上級生とする。このように1クラス約40名の学生に対し、4名(教員2名、学生スタッフ2名)で臨むことで、落後者をなくすことはもちろん、プレゼンテーションに対する苦手意識を払しょくし、社会人基礎力を身に付けた上で、就職活動にスムーズに進むことができるようになる。
その他、当該プログラム独自に設定している能力項目を育成する際、その内容、課題、育成の工夫点や成果
企業への取材で判明した、短期大学の学生に欠如している「質問力」の向上を独自に設定している。発表者の内容を理解し質問する力、質問に対し即座に、しかも的確に答える力、ともに重要であると考え、プレゼンテーションに関する授業内のイベントでは必ず各個人、各チームに対し質問する内容を考え発表するように義務付け、質問を受けた場合には、速やかに回答するよう求めている。また、最終プレゼン大会では、外部協力者の企業・団体の担当者に対し、学生が答えに窮するような難しい質問を敢えてしてもらうようにお願いしている。この課題の設定により学生は質問力の重要性を徐々にではあるが認識し、学内の講演会、就職活動の説明会等で効果が現れつつある。2013年12月に行われた「2014社会人基礎力育成グランプリ近畿地区予選会」で優秀賞を受賞できたのも、審査員の質問に対し、的確な応答が出来たことが大きかったと思われる。
教育の効果を適切に評価・検証し、さらなる成長を促すための工夫
以下の点で工夫している。
・毎回、授業終了時に学生に「授業の感想」の提出を求めている。この感想から学生の授業への満足度、社会人基礎力育成の効果を推し量り、次回授業内容の修正等を行う。
・全学的に実施される授業アンケートによる学生の授業満足度、シラバスとカリキュラムマップに掲載された授業の到達目標に対する学生の達成度自己評価を参照に次年度の授業内容の改良を行う。
・プレゼン大会に協力していただく企業
・団体に対し、学生のプレゼン内容はもちろん、取材時の態度、プレゼン大会での質疑応答時の態度等を必ず評価してもらい改善点の示を行う。
・学生に対しては、企業からの評価を報告し、自己反省を促す部分は促し、評価いただいた点は教員としても評価し、成長するための基点とさせ、同時に就職活動における企業対応の訓練的役割とする。
担当:准教授 鹿島 我、教授 森際 孝司、
講師 小山 理子、大澤 香奈子、准教授 吉田 咲子