「京都府」と連携して授業を行っており、京都府の政策の一つ「京都おもいやり駐車場利用証制度」を取り上げている。学生たちは、なぜそれが必要だったのか、どのように生まれたのか、いい政策なのになぜ普及していないのか、どうすればもっと府民に知ってもらえるか、などを、府の担当者とともに考え、解決策を検討し、実現可能性を探り、提言を行う中で、社会人として必要な視点と力を身につけていく。
プログラムタイプ | 実践型学習(企業連携) | 単位の授与 |
あり |
実施している期間 |
平成24年4月~平成26年3月(今後も継続予定) |
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実施規模 |
参加教員: 1名 TA: 1名 受講学生: 14~20名(期による) |
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授業時間数 |
22.5時間 (90分授業で15回分) |
学生のプレゼンの機会 |
あり(6〜7回) |
評価の回数 |
自己評価の回数: 6〜7回 他者評価の回数: 6〜7回 |
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当該プログラムの実施範囲 | ●単一の授業のみで実施 |
アカデミック・スキルそのものは、一回生、二回生を対象に政策学部全体で行われているプログラムで、読解・分析・構想・伝達の4つの領域があり、内容は各教員にまかされている。筆者の講義においては「京都府」と連携して授業を行っており、京都府の政策の一つ「京都思いやり駐車場利用証制度」(一般的にはパーキングパーミット制度と呼ばれる)を取り上げている。
海外では障害者用の駐車場にニーズのない人が駐車することは人道上の罪として高額の罰金が科されるが、日本では法律が存在しないため、必要な人が駐車できないという状態である。そのため、自治体が独自に制度を設け、障害者を始め、けが人や高齢者、妊産婦なども許可証を持っていればその駐車場を優先的に利用できるというものである。学生たちは、なぜそれが必要だったのか、どのように生まれたのか、いい政策なのになぜ普及していないのか、どうすればもっと府民に知ってもらえるか、などを、府の担当者とともに考え、解決策を検討し、実現可能性を探り、提言を行う中で、社会人として必要な視点と力を身につけていく。府民や事業者への突撃インタビューで問題意識を持ち、グループでその課題がなぜ起きるか徹底討論し、解決策を探し出すために自らあちこち足を運んで実情を調べ、最後に京都府庁で担当課の課長を始めとする関係者に提案プレゼンを行う。学生にとって、授業終了後の達成感が非常に大きいことが特徴である。
育成のための取組内容と育成のプロセス
これまで4回、このアカデミック・スキルの講義を行ってきた。アウトプットが小冊子作成になったり、テーマが制度の広報になったりと、さまざまなバリエーションがあるが、2013年度秋学期の場合は、以下のような流れであった。
(1)〜(3)ユニバーサルデザインやパーキングパーミット制度の概要と背景についての講義を受けて基礎的な知識を学ぶ。
(4)突撃インタビューで、まちに出て、実際に運用している駐車場の管理人などに、制度の利用状況などをインタビューし、運用側の課題を探る。
(5)戻って各人で状況報告をプレゼンする。
(6)京都府庁を訪問し、課長等に制度の背景や実施状況などについて話を聞く。
(7)運用上の課題について全員で議論を深める。
(8)近い課題と思われるメンバーで3~4名でチームを作り、更に深掘り。
(9)二度目の突撃インタビューでは、チームで地域に住む高齢者、ベビーカーユーザー、障害のある人などに話を聞く。制度を知っているか、移動上の困難は何かなど、ユーザー側の状況と課題を把握する。
(10)戻ってチームごとにプレゼンし、課題の本質は何か深掘りする(Whyを五回!)。
(11)深堀した課題と、自分たちで考えられる解決策をプレゼンする。
(12)解決策として考えられる提案ごとに、チームを作り直し、それが本当に実現可能なのか、最終提案に向けてプロポーザルの作成に取り掛かる。
(13)解決策のプレゼンとブラッシュアップ。
(14)プレゼンリハーサル。
(15)京都府庁旧庁舎における最終プレゼンテーション。
授業時間以外でも、学生たちは毎週のように自分たちだけで集まり、情報収集や提案作成作業を行っている。
育成の評価
授業の最初から、この講義は座学ではなく、自ら問題意識を持って課題解決に取り組む姿勢を評価することを宣言してある。
学生全員、TA(Teaching Assistant)、京都府庁の担当者で、メーリングリストを作り、その中で常に状況を把握しながら進めている。学生はLINEなどでも常に情報共有を行っていた。
課題を深く掘り下げる能力や、解決策を提示するために自ら関連企業や基礎自治体の担当者に会いに行く積極性(私の関知しないところでの動きであった)、解決策の独創性や実現可能性の調査能力など、社会で必要とされる能力をどこまで身につけたかを評価している。
プレゼンテーション能力に関しても、毎回、気づいた点を修正した。相手の目を見て話すこと、原稿はできるだけ読まずに自分の言葉で伝えること、一枚のチャートでのメッセージを明確にすること、ストーリーや流れを大事にし相手が理解しやすくすること、フォントのサイズやカラーユニバーサルデザインに配慮することなど、社会に出て役に立つ内容も伝えたが、学生たちは事前知識もあったため、すぐに理解してそれを実践してくれた。
最終レポートは、最終プレゼンについての振り返りと授業全体に対する感想を依頼した。ここでは、チームで何かを作り上げることの面白さや、自分たちの提案が相手に喜んでもらえたことの充実感、そして、今回の15回を通じて、自分が成長したと実感していることについて記述した学生が多かった。
「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果
京都府庁の実際の担当者が、毎回のように授業に参加し、メーリングリストでも常に情報共有できたのは、とても重要であると思われる。リアルな社会人にあまり出会うことのない学生にとって、実際に現場で働いている社会人の抱えている課題を知り、それを共に解決しようとして動き出すことは、モチベーションを保つ上でとても重要なことである。いわば15週間のインターンシップに行くようなもので、はるかに深く、現場の課題や解決方法、仕事の仕方を学ぶことが可能となった。府庁の担当者側も、週に一回1コマだけの参加なので、時間的な制約は少ない。政策学部の新町キャンパスと京都府庁が歩いて15分という恵まれた環境にあったせいもあるが、リアルな社会人と共に悩み、考え、チームで実際に使える何かを作り出すという経験は、社会人基礎力をつける上で、大変役に立つと考えている。
ただ、送り出す企業(今回の場合は府庁)の側の上司や組織の理解は、必須であると思われる。もし異動で担当者や上司が変わった場合、最初からプログラムの説明を行う必要があり、年度途中であればなおさら微妙な状況になるはずである。大学側と連携組織との緊密な情報共有などが、今後の課題になってくるだろう。
その他、当該プログラム独自に設定している能力項目を育成する際、その内容、課題、育成の工夫点や成果
当然ながら、学生によっては、人前で話すことの苦手なもの、チームでの作業が苦手なものもいる。また、対外的な交渉力があったり、人をまとめることに長けた学生もいる。
前半のインタビュー結果のプレゼンや、課題の深掘りなどのプロセスを通じて、各学生の特質を見極め、グループ内での分担を決める際に、さりげなく、それぞれが得意な分野での役割を持つように配慮している。話すことが苦手な学生には、文献調査部分を担当することで口頭発表を少なくしたり、統率力のある学生を各チームに一名ずつ分散配置するなどを、心がけている。いわば、企業内のチームマネジメントと同様のことを、授業内で行っているのだが、これも結果として、すべての学生の能力開発と満足度を高めることにつながっている。
教育の効果を適切に評価・検証し、さらなる成長を促すための工夫
14~20名という少人数クラスであることから、毎回、全員が議論に参加し、何らかの発表を行い、府の担当者、TA、講師から、レビューが行われる。これは、かなり厳しい評価環境ではあるが、自分たちが問題と思っていることを、自分たちで考えて提案してきた内容であり、それを更に良くするためのレビューであると理解しているため、受け止め方は非常に前向きである。ただ、一週間の間に、ほとんど進展していない場合は、かなり厳しいコメントとなるため、少しへこんでしまう学生もいないことはない。このような場合は、TAが背後から支援し、助け船を出すようにしている。ML上で講師や府の担当者には直接聞けないようなことも、状況を把握しているTAがいることで、スムーズに翌週の改善が行われることも多かった。
担当:教授 関根 千佳