社会人基礎力を育成する授業30選

学生が本気に取組む時期を考慮し、正課カリキュラムフローを通した基礎力増殖プログラムを実践

名古屋工業大学/工学部

工学系正課カリキュラムを通した社会人基礎力育成プログラムの実践

本学正課授業を受講させる中で彼らの社会人基礎力を向上させようとするプログラムである。彼らが進路選択を迷い始める(きっかけ)3年生の前期にリベラルアーツ系科目「キャリアデザイン」と夏季休暇のインターンシップ、更には後期専門科目である「環境高分子化学」を通してグループワークで課題設定型プログラムを執り行わせる。

プログラムタイプ 実践型学習(企業連携) 単位の授与

あり

実施している期間

平成23年4月〜平成26年3月

実施規模

参加教員: 1名 職員: 1名 TA: 10名 受講学生:50名
連携企業数: 10社

授業時間数 90時間 学生のプレゼンの機会

あり(5回)

評価の回数

自己評価の回数: 3回 他者評価の回数: 1回

当該プログラムの実施範囲 ●専門組織(キャリアセンター等)により学部横断的に実施

対象プログラムの具体的な内容

育成のための取組内容と育成のプロセス

このプログラムは学生が自身の進路について真剣に考え始める、3年生から始まる。本来はもっと早い初年次からのプログラムが望ましいところではあるが、本学では7割が大学院へ進学するという状況と、また幾らプログラムを準備したとしても、本人が本気にならないと意味が無いといった点からも、この時期からのスタートとなっている。プログラムとしては、下図にあるように、3年生前期にあるリベラルアーツ科目群の「キャリアデザイン」、そして夏休みに実施されている「ジェネラルインターンシップ」、さらには3年生後期に開講される各学科の専門科目や学生実験を通したものであり、その後の研究室配属によって、その教育は研究室指導教員へと継続されていくのである。

名古屋工業イメージ

【3年前期「キャリアデザイン(選択 人間社会科目)】

この授業は本学キャリアサポートオフィス長が主催し、全学の3年生の中で自身のキャリアパス形成に強い意欲を示す学生が受講してくる。カリキュラム内容としては前期の「自己発見」、中期のグループワークによる「企業研究」、そして、後期での「自身と企業とのマッチング」から構成されている、開講当初より受講生50名を9~10のグループに分け、それぞれに昨年までの当科目修了生をTAとして配置している。授業はすべからくをグループワークとして進めていく。本授業の一番最初に彼達の基礎力を評価するためにStudent EQ「SEQ」を受診させ、今後の成長の起点とする。授業内前期の自己発見では社会人基礎力自己評価シートや、職業レディネステスト等の自己分析サーベイを活用し、単なる自己分析だけではなく、グループ内での他己評価を加えることにより、自身を客観的に見つめ直させるものである。中期の企業研究においては、グループ討議の後、グループごとに訪問企業を決定させ、学生たち自身で企業へのアポイントメント、事前研究、更には企業訪問をしてのインタビューと、アクション能力とコミュニケーション能力を磨かせながら、企業研究を進めさせるものである。それらの知識をまとめた上で、自身がその企業に入るとした時の、will-can-mustを考えさせ、バーチャルな就職活動準備をさせるものである。彼達はこの授業を通して、単に自己のキャリアパス形成を進めるだけでなく、自己理解を深め、自身の長所を認識し、短所を克服する事を意識し始めるのである。これら企業研究と自身とのマッチング結果は、最終報告会におけるポスターセッションで、受講生のみならず、全学学生へも広報され、また、対象企業の担当者も招待され、議論に加わっている。

 

【夏休みのジェネラルインターンシップ(課外授業)】

前期の授業で啓発を受けた彼達は、夏休みに本学で実施されているジェネラルインターンシップ(H19年度GP)で、各々希望の企業で2~4週間の疑似就業体験をこなす事になる。もちろん、この派遣先企業は本学卒業生が数多く働いている地元企業であり、即ち彼達はここで、単なる就労体験をするだけではなく、本学OBに映し出される未来の自分達の働き方を俯瞰することになるのである。しかしながら多くのキャリアデザイン受講生たちは、授業で得られた人間力に対しての自信を打ち崩されている様である。そしてこれから社会に出るまでの課題を各々発見し活性化されて帰ってくるのである。キャリアデザインで身に付けた、社会人基礎力を意識することが、この進歩を促しているものと考える。

 

【3年生後期専門科目(選択 専門科目)】

ここまで啓発され、刺激を受け活性化された彼達をさらに向上させるべく、後期に開講される専門科目を彼らの基礎力育成プログラムにおける、自己開発のフィールドとして提供する。今回用意したフィールドは化学系の専門科目の「環境高分子化学」である。この科目は選択科目であり、全学学生も受講可能なシステムとなっているうえに、内容的にも環境とプラスチックという極一般的なテーマを深掘りする内容であるので、化学系でなくとも理系の学生であれば、いろんな角度から参入が可能であり、実際H24の授業でも、本来の化学系の学生が半分と、キャリアデザイン既受講生で、機械、電気、建築、経営系という全学の学生が受講した。また本授業では、キャリアデザイン未受講生も半分受講しており、同期ながら既受講生組との質と活性の大きな違いに泡を食っている様子であった。

 

授業内容としては、これも同じく受講生25名を5班にグループ分けし、TAとして化学系大学院生にも参加してもらい、技術的なフォローを担わせた。テーマとしては、環境と高分子に絡めることだけを命題とし、グループでテーマ設定を行わせ、その後、実験・フィールドワーク、結果のプレゼンテーションと討議という流れで授業を進め、最終的には外部へのアウトプットを求めるというスタイルである。一例として名古屋市内を流れる堀川の汚染に着目したグループでは、その汚染の要因が家庭排水である事を調査し、「堀川千人調査隊」なるNPO団体との接触を通し研究を進めていった。院生による技術的サポートを得て、家庭排水の汚染物の主因である廃油が家庭で使い捨てられているマスクによって簡単に吸着できることを実験的に突き止め、その結果に関してNPOを通して、地元テレビの取材を受けるに至った。この授業の中で、キャリアデザイン経験者が主導的立場をとったが、彼らもまたキャリアデザインで学んだことの復習と、自分に足らないと認識できたことの実践と、自らの社会人基礎力育成に対してPDCAを回す事ができていた。また、この授業から初めて参加した学生たちは既受講生の意識の高さとコミュニケーション能力に触発されて、教員からではなく、学生同士の間でその基礎力の伝播を受けていた。このように専門科目の中で、この力を学生間で伝播させることにより、最初撒いた少数の種から多くの基礎力保持者を育成することが可能となるシステムである。

 

【研究室へ】

この様に、最初はたった50名の学生がキャリアデザインの中で多くの社会人から触発を受け、更にはインターンシップで現場を経験してさらなる活性化を受け、後期の授業で他の学生を刺激し、これら基礎力に対して意識の高い学生が増殖されるカリキュラムになっている。さらにこれらの活性化された学生達が研究室の中に入り、工学部本来の研究・教育に浸る時に、常にこの基礎力を意識することにより、更には一般の工学部教員による研究指導が、彼達の基礎力向上に大きな役割を担うようになってくるのである。もちろん、そういった学生が研究室内に居る事で、さらに他の研究室内学生にもその力を大きく伝播することこそ、この教育プログラムの真の狙いとなるのである。数少ないキャリア系授業を通して、多くの教員に余計な負荷をかけることなく、学生たちの人間力を向上させるシステムである。

 

育成の評価

本プログラム開始時には彼らの行動量・基礎力の評価として、大学生協が展開しているSEQ(Student Emotional Intelligence Quotient)を利用している。彼らの行動量と基礎力を数値化しておいて、本プログラム終了後にどれだけ変化しているのかを定量的に見させ、PDCAを回させる材料としている。また、個別には前期のキャリアデザインでは社会人基礎力評価シートや、レディネステストなどを用いての定性的な評価も行っている。最終プレゼンではインタビュー先の企業関係者にも出席してもらい、個々のグループごとに評価コメントを戴いている。また、授業前半における自己分析に対するグループ内での他己評価も彼らの気づきには大きな役割を果たしていると考えられる。

 

プログラム中盤のジェネラルインターンシップでは彼らの報告書とともに、受け入れ先企業担当者からのコメントと評価点数を戴いており、彼らの意識改革に役立てている。インターンシップ参加者の中から選抜された数名は担当企業人事をお招きして開催する最終報告会でプレゼンテーションを行い、個々の担当者からのコメントも直接戴けている。後期の専門科目では、各グループの研究・調査結果を最終報告会でプレゼンするとともに、その内容に関しては必ず対象機関などに対してアウトプット(提言)をさせることにしている。それに呼応した個々の対象機関の担当者様よりコメントを貰い、最終プレゼンに盛り込んでいる。

効果的な育成・評価のための工夫

「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果

「前に踏み出す力」の進化は

前期「キャリアデザイン」では全学から集った受講生たちが業界研究の為の担当企業へのインタビューに於いて、アポ取りから事前研修、そしてインタビューまで自主的に学習させることでその力を付けさせてきた。後期ではそのキャリアデザイン受講生が中心となり、「環境」というキーワードの基に後期からの専門科目受講生を巻き込み、またTAである大学院生を技術アドバイザーとして活用しながら、フィールドワークおよび企業訪問という行動を起こす事によって前に踏み出す力の育成を行っている。

 

「考え抜く力」の進化は

前期「キャリアデザイン」では、会社訪問に出向いた企業をバーチャルな就職先として捉えさせ、自己分析で明らかとなった自身のどんな力をそこで活かす事ができるのかを考えさせ、また、その結果を参画してもらった該当企業採用担当者に評価してもらった。また後期では他学科専門科目の内容に足を踏み込ませ、素人ながらそのテーマの本質を捉えるために担当学科の学生と協働し、また、その知識をTAであるところの院生より吸収することで、「環境と高分子」というテーマについてグループでしっかりと考え抜かせている。

 

「チームで働く力」の進化は

まさにこのプログラムはこれまで全く関係のなかった前期人文系・後期専門系の正課授業を通して、それぞれのテーマをグループで考え、実行させるというスタイルを採っており、チームで考え行動することが、このプログラムそのものなのである。前期では全く見も知らない他学科学生と自身のバーチャルな就業について考えあうものであり、後期ではさらに、他学科専門科目を他学科学生とだけではなく、大学院生という次元の違う受講生と協働してテーマ設定から問題解決に至るまで力を合わせて学ばせるものである。

 

 

担当:キャリアサポートオフィス長 教授 山下 啓司

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