社会人基礎力を育成する授業30選

地域農家・企業との多様な連携により、実在する地域課題の解決型プロジェクトを複数実施

城西大学/現代政策学部社会経済システム学科

休耕地活用プロジェクト

大学周辺の休耕地を活用するプロジェクトを企画・構築・運営するプログラム。学生は、地域課題の一つである「休耕地」を、地域の各主体(農家、行政、企業等)と連携しながら、活用するしくみを企画・構築し、運営する。

プログラムタイプ 実践型学習(企業連携) 単位の授与

あり

実施している期間

平成20年11月〜平成26年1月

実施規模

参加教員: 1名 受講学生 38名 連携企業数: 6社

地方行政機関: 1機関

授業時間数 3時間(2コマ連続) 学生のプレゼンの機会

あり(3回)

評価の回数

自己評価の回数: 28回 他者評価の回数: 2回

当該プログラムの実施範囲 ●研究室やゼミで実施

対象プログラムの具体的な内容

育成のための取組内容と育成のプロセス

【取組の概要】

このプログラムでは、3・4年生のゼミである「政策ゼミナールI・II」を合同授業にして、ゼミ内に複数のプロジェクトチームを編成し、チームごとに大学周辺の休耕地を活用する取り組みを企画・構築し、それを運営するというプロセスを実施している。具体的には、休耕地を活用して、酒米・野菜・花・ハーブ等を栽培し、地域企業と連携しての商品化や、学内他学部との教育利用、地域環境・景観維持に取り組んでいる。

 

【活動形態】

2013年度に実施しているプロジェクトは以下の通りである。プロジェクトチームごとに、連携するクライアントが異なる点が特徴である。

城西イメージ

【学生に期待する行動】

学生ごとに具体的に期待する行動は異なるが、今年度ゼミ生全体に伝えた「期待する行動」は下記の通りである。

 

○「自分ごと」として考え、行動する...「誰かがやってくれるだろう」はダメ。

○予見して行動する...「知らなかった」「考えてなかった」はダメ。

 

このプログラムでは、チーム内で役職を割り当てることをしていない。チームを構成するすべての学生が、つねに「自分ごと」としてプロジェクトに取り組んでほしいと考えているからである。

 

「休耕地」を活用するプロジェクトなので、「自然」相手の活動が含まれる。天候等、予想外のできごとがいくらでも生じるので、つねに先を「予見」して行動することを期待している。

 

【学生の目標設定】

《年間の目標設定》

学生は、年度始めに「チームとしての目標」と「個人としての目標」を設定する。ここでの目標は、教員からヒントを提示することはあるが、基本的に学生たち自身が設定する。3年生はどうしても目標のイメージが湧きづらいため、前年度の活動を経験している4年生がリードする光景が多く見受けられる。

 

ここで設定した「チームとしての目標」と「個人としての目標」は、年度終わりに各学生が作成・提出する「年次報告書」での必須項目となっており、それらの目標に基づいて年間の取り組みを振り返ることが求められている。

 

《各週の目標設定》

学生は、毎週のゼミ終了後、自己評価を入力することを義務づけられている。自己評価の項目は全13項目で、社会人基礎力として掲げられている12の要素から当該週の自らの取り組みを点数(4段階)で評価するとともに、自由記述欄に気がついた点などを入力するようになっている。また、ゼミではFacebookのグループ機能を活用しており、ゼミ全体のFacebookグループに対して、毎週の活動報告を投稿することが義務づけられている。どちらも、「目標設定」 を明示した項目ではないが、当該週の活動内容を振り返ることで、次週に向けての目標設定につながっている。さらに、ゼミ前日には、翌日のゼミでの活動予定を自主的に投稿することも増えており、実質的に学生たち自身の各週の目標設定となっている。

 

【意識づけ】

このプログラム全体をとおして、学生に繰り返し伝えていることは、2点ある。

 

1点目は、「みなさんが取り組んでいるプロジェクトは、単なる『授業』ではない。地域の様々な人びとを巻き込んだ『社会的なプロジェクト』だ」というものである。学生たちには、たんに単位を取得するための授業として参加するのではなく、実際に存在する地域課題を解決する取り組みに参加しているのだ、という意識づけである。

 

このプログラムでは、学生たちは、休耕地での作物栽培という「自然」相手と、学生以外の人びとという「社会」相手という二重の「他者」と向き合わなければならないため、時間割上の授業時間内だけでプロジェクトを遂行することはできない。どうしても必要となる授業時間外での活動への意識づけを高めるため、世の中に役立つ「社会的なプロジェクト」に参加しているという自負を感じてもらうように努めている。いまでは、「(このゼミは、ゼミであって)、ゼミじゃないんだ!」という私が発した言葉を、学生同士で会話するときに用いるくらい浸透している。

 

2点目は、以前のプロジェクトと同じことをただ繰り返すことはしない、ということを意識づけしている。プログラムが6年目になり、商品化されるものができるなど、ある程度の成果が出てくると、どうしても学生たちは同じものを続けていけばいい、という発想になりがちである。そこで、学生たちには、なぜそれをやるのかを、つねに問いかけるように心掛けている。本来の目的である「休耕地活用のしくみづくり」に立ち戻って考えてもらうことで、たとえ同じことに取り組むにしても、「自分たちがやる意義」を意識して取り組めるように配慮している。

効果的な育成・評価のための工夫

「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果

このプログラムの実施をつうじて、課題解決のためのプロジェクト型教育は、社会人基礎力として掲げられている3つの能力を育成するために非常に有効だと考えている。実施にあたって課題となるのは、

○物理的制約(時間、場所など)

○心理的制約(学生の意識づけなど)

○人的制約(ノウハウ、教員側の負担、連携相手側の負担など)

の3点が挙げられる。

 

《物理的制約》

プロジェクト型とはいえ、あくまでも教育プログラムの一環として実施するため、時間や場所などの物理的制約は避けられない。このプログラムの場合、大学周辺の地域にある課題と資源という視点から「休耕地」という「課題・資源」に着目しているところに強みがある。どんなに良いテーマや連携相手であっても、物理的制約が多いと無理が生じる。また、心理的制約とも関連するが、なぜその課題に取り組むのか、という必然性も、プログラムを遂行する上で大切である。各大学・学部のポリシー、ミッションと、大学周辺の課題、資源を適切に組み合わせる工夫が大切だと考える。

 

《心理的制約》

どんなプロジェクトであっても、物理的制約をすべて解決することはできない。学生たちが、授業と教室という時間的・場所的な制約を超えて、プロジェクトに取り組むためには、意識づけは欠かせない。このプロジェクトの場合は、先述のとおり「社会的なプロジェクト」への参加意識(コミットメント)をうまく活用している。最初は小さなことでも、連携相手から「学生にやってもらえてありがたい」と言ってもらえると、学生の参加意識は高まる。日本酒やカレーなど目に見える成果物ができれば、さらに達成感は高まる。先輩たちの成果をみて参加してきた後輩たちは、さらなる成果を目指して自ら高い目標を設定する。このような心理的な好循環を生むために、教員としては、先述した「学生へのレスポンスの厚み」をつねに意識している。

 

《人的制約》

プロジェクトを継続的に運営していくための人的制約は多いかと思う。このプログラムでは、具体的に2つの工夫を取り入れている。

 

1点目は、3・4年生合同授業として実施することである。合同ゼミ自体は目新しいものではないが、このプログラムの中では非常に重要な機能を果たしている。それは、休耕地活用プロジェクトが「継続的」な性質をもつからである。1年ごとに独立したプロジェクトであれば、毎年メンバーが異なっても成立するかもしれないが、農作業を含む自然相手のプロジェクトの場合、大学の年度や学期の都合に合わせるわけにはいかない。また、プロジェクトの目的が、休耕地活用のための「しくみづくり」であるため、1年実施して終わりというわけにもいかない。2学年を合わせた授業にすることで、継続的な取り組みが可能になるとともに、前年度に活動経験がある4年生が3年生に教える、という好循環が生まれる。学生たちは、自分たちが先輩たちから教えてもらった経験をとても意識するようで、良い面と悪い面をふまえて、後輩たちに向き合うという姿勢が顕著に見受けられる。

 

2点目は、ゼミ内プロジェクトチーム制の採用である。ゼミ全体で1つのプロジェクトに取り組むのではなく、「休耕地活用のしくみづくり」という共通のテーマに対して、学生たちが複数の企画を考え、チームを構成し、実施するという手法である。人数が多すぎるプロジェクトは、他力本願になりやすく、積極的に取り組む学生と、そうでない学生に分かれやすいが、ゼミ内に複数のプロジェクトチームを運営することで、現状では1チーム10名前後となっている。この規模であれば、チーム内の相互評価にも適しており、先述の相互評価機能がうまく働くことにつながる。

 

 

担当:准教授 石井雅章

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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