本プログラムECPは、産業界で活躍している経験者の力を活用し、その時々の社会が必要とする人材、特に自分の頭で考え、その結果を行動に移すことができる実践力を備えたエンジニアを育成することを目的とした、プロジェクトベース産学連携型工学教育である。
プログラムタイプ | 実践型学習(企業連携) | 単位の授与 |
あり |
実施している期間 |
平成9年4月〜現在 |
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実施規模 |
参加教員: 15名 職員: 2名 TA: 2名 受講学生: 70名 連携企業数: 約10社 |
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授業時間数 | 週6時間 | 学生のプレゼンの機会 |
あり(2回) |
評価の回数 |
自己評価の回数: 2回 他者評価の回数: 2回 |
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当該プログラムの実施範囲 | ●学科・学部全体で実施 |
ECPの教育目標は、「国際的に活躍できる技術者(グローバルエンジニア)の育成」である。基礎工学知識(数学、物理、化学、生命科学等)を基本に専門工学知識(機械、電気、情報等)を広く修得し、かつグローバリゼーション化の社会的要請に応えるものである。すなわち本プログラムの教育目標の特徴的な部分は、企業との共同研究開発による広い知識と創造力の修得、英語を主体とするコミュニケーション能力、国際社会で活躍するための国際感覚の修得を重視した構成をなしている。ECPは、産業界で活躍している経験者の力を活用し、その時々の社会が必要とする人材、特に自分の頭で考え、その結果を行動に移すことができる実践力を備えたエンジニアを育成することを目的としている。
1980年代までは、日本の産業界には機械工学、電気工学、電子・情報工学のように分野に対応する産業構造が存在していた。1990年代のバブル経済の崩壊を境に、製造業は量産品の海外生産への大幅シフトを余儀なくされた。1990年代から2000年代にかけ、これらの変革は技術のボーダーレス化を招き、技術者に対しても地球規模での活躍と広い知識・創造力を要求するようになった。すなわち、海外生産に向けた技術移転、海外との共同開発、知的所有権を意識した広い知識と創造力、インターネットを活用した場所・言語を超えた製品開発などに対応できること等である。これらの社会の要請に応えうる技術系の教育プログラムは日本には存在していなかった。
育成のための取組内容と育成のプロセス
3年前期のはじめには各企業からのテーマ説明がなされ、6月初旬に学生への希望調査を行い、配属テーマを決める。その後、企業を訪問し、工場見学を含め具体的な課題の把握を進める。企業側には、担当技術者(Liaison)を決めていただき学生の相談や質問などの窓口となっていただく。大学側教員も各チームにアドバイザーとして担当者を正副2名決め、学生、Liaison、教員の三位一体となったまとまりで課題解決に向けた取り組みを進める。Liaisonは2~3週に1回ほど来校し、学生に対して技術指導を行う。一方、大学の教員は大学での学習指導を行う。いずれも学生に対して問題解決方法を教えない。各プロジェクトテーマに対して5人程度のチームを組む。学生はチームワークをもってテーマに挑戦する。各チームのリーダーを選び、リーダーはLiaisonや教員との連絡、メンバー相互間の連携をとる。3年次の学生は月間レポートに、今月の予定、活動内容(Liaisonとのミーティング内容を含む)、来月の予定を書き込み、教員の確認サインをもらう。
育成の評価
前期・後期の2回、Liaison、教員、学生の前でプレゼンテーションを行う。チームを組んでECPのテーマに挑戦するが、成績は個人単位となる。評価対象は「月間レポート」、「グループミーティング」、「プレゼンテーション」におけるLiaison、教員、学生の三者による評価、「学期ごとのレポート(各自分担して執筆)」「学生同士の評価」などである。この中で最もウエイトが高いのが期末のプレゼンテーションで、特に学外からのLiaisonの評価および学生同士の評価は厳しい。評価項目は、問題点の理解と解析、目標設定、解決方法、技術レベル、創造性、マネージメント力、発表方法などである。
「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果
企業からのテーマでは、直面する課題は企業の技術者と同じものであり、その理解と対応が必要である。グループ内でのアイデアの検討会などでは、Liaisonの指導の下に、企業で行われている手法と同じ解決法が採られ、複数のアイデアを客観的に分析・議論し、実現可能な解決策をまとめる訓練を行う。最終的な開発製品を企業へ納め、評価してもらうためには、課題を解決し、具体的に組み立てる能力が必要である。また、課題の分析から計画に沿ってデザインする道筋には、工学的な実験・考察・試行錯誤が避けられない。このような訓練を通して科学、技術および要求を考慮したデザイン能力を養うことができる。さらに、企業からの制約条件を考慮し、全体計画を作成し、それを実行するには、適切かつ要領よく進め報告書やレポートとしてまとめる能力を必要とする。企業から与えられたテーマの遂行には、自ら課題を明確にし、次に研究、開発に関するスケジュールを作成する。この過程では与えられた制約条件の考慮が必要であり、結果に至るには継続的な努力と結果をまとめる能力が要求される。また、その過程では実験を計画・遂行し、さらにデータの解析、Liaisonに説明する能力も必要である。
その他、当該プログラム独自に設定している能力項目を育成する際、その内容、課題、育成の工夫点や成果
学生も実社会との接点が開かれると、研究開発すべき課題と社会における位置付けに関して考える必要性が生じる。そこで、技術者が遭遇する倫理的問題について説明でき、技術者として責任を持った判断が行える能力の習得も行っている。経済・経営を専門とする専任教員や企業経験のある教員が事例研究ベースの授業を行う。「知的財産権」、「工業製品のデザインにおいて設計者が考慮すべき社会通念・制約条件」、「チーム活動、リーダーシップ」などである。技術者倫理では自ら考えることが最も重要な点であり、授業では毎週課題を出し、レポート提出を義務づけている。
教育の効果を適切に評価・検証し、さらなる成長を促すための工夫
本プログラムは15年以上の実績があり、ECPを経験した卒業生がテーマ提供を申し出てくれる企業が現れはじめた。卒業生が企業からのLiaisonとして参画する場合もあり、ECPの経験を基に学生に対するアドバイスや、教員への要望などを寄せてもらい、改善を進めることができている。大学教員側が考えるカリキュラム修正では気づかなかった事項、あるいは優先順位が低いと判断していた改革事項などにも厳しい意見をいただくことができ、早急に修正することもあった。企業側としても、経験の浅い若手社員の教育の一環として位置づけている場合もあることがわかり、ECPの新たな利点も見出し、ECPプログラムへの自信を深めるに至っている。
地域社会や企業の協力を得ている場合、教育目標や育成・評価の取組内容など協力・支援をより有効なものとするための依頼・調整上の工夫
教育目標や育成・評価の取組内容などの改善については、Liaisonと教員との意見交換会であるアドバイザリ・コミティ、およびECPの発表会等でのLiaisonへのアンケート調査結果等を介して学内外の関係者の意見を広く聞き、さらに海外の協定校の教育システム等を参考にしている。毎年度末に行っているアドバイザリ・コミティでは、授業の進め方、内容、修正点など、次年度に向けた改善案に向けた提案を議論している。
その他、学内外の関係者と連携・協働し教育力を高めるための工夫、継続的で、汎用可能にする工夫、より多くの学生に関心を持たせ、参加させる工夫など
3年生の終わりには3週間程度の海外研修であるECP Abroadを行っている。ECP Abroadでは、本学部のECPと類似のPBLを導入している米国のHarvey Mudd College(HMC)、Seattle Universityなどが本学の学生を受け入れている。HMCは12〜13人、Seattle Universityは4〜6人、そのほか、フランス、ポルトガルにも研修に行っている。留学先では、プロジェクトあるいはそれに類似する研究開発に参画し、受け入れ先の学生と極めて密度の高い3週間を過ごすことができる。成績評価は引率教員の評価に先方のアドバイザーから各学生の活動状況を聞くなどした評価、さらに帰国後英文で書き提出された技術報告レポートの結果を総合的に判断し評価する。
教育プログラムを評価改善していく仕組み
本学部の教育プログラムは2001年度から現在までJABEE認定を受けており、PDCAサイクルによる教育プログラムの改善を行うシステムはできている。改善は主に教室会議と各科目担当者の会議で行われ、学園ポータルシステム「KuPort」の「共有フォルダ」には、過去の教室会議議事録や各種委員会議事録が保管されており、関連する全教員が閲覧できるようになっている。これらのPlan、Doの結果はCheckを経て、Actionへとつなげて行くよう努力している。
これまでの取組の評価
2006年には、教育カリキュラムの特徴と独自性をさらに発揮させるために学部として独立した。これを期に、ECPを必修科目とし、学生全員が参加する海外短期留学の必修化、1・2年生科目のECP準備科目としての位置づけの明確化などである。医療系の専門教員も加わり、これまで以上に多様なECPテーマへのバックアップ体制を整えている。
教育プログラムの導入により得られた効果
現在の就職率はほぼ90%以上を毎年達成している。就職先は製造業からサービス分野まで多岐にわたっている。ECPへの協力企業への入社も毎年見られ、卒業生がECPへの協力を申し出てくれることも多くなった。2012年6月の日本経済新聞に取り上げられたように、本プログラムで身につけた能力は、就職後も役立っていることがわかる。
担当:教授 雑賀 高