社会人基礎力を育成する授業30選

住民や企業など地域社会の多大な協力が学生の主体的な行動を生み出した地域の産官学民協働プロジェクト

日本大学/工学部土木工学科

学生と地域住民との協働による道づくり&橋守(はしもり)プログラム

福島県内の町村で管理する社会インフラの長寿命化を目指し、役場や地元企業の協力を得て、学生と住民との協働により、砂利道を簡易コンクリート舗装に変える道づくりや、橋の欄干を塗装する橋守事業を展開。また、住民にインフラに対する関心や愛着を持ってもらうため、地元の小学生に名前のない橋(名無し橋)に名前を付けてもらうプロジェクトを企画し、実践した。

プログラムタイプ その他(実践型学習(企業・役場・住民連携)) 単位の授与

なし

実施している期間

平成24年6月〜平成25年10月

実施規模

参加教員: 2名
受講学生: 当時1年生(現2年生)3名(および卒業研究生:延べ約30名)
連携企業数: 約60社(ふくしまインフラ長寿命化研究会入会社数)
連携役場数: 2町村(平田村、南会津町)
連携住民数: 延べ約200名(平田村、南会津町)

授業時間数

約30時間

学生のプレゼンの機会

あり(5回)

評価の回数

自己評価の回数: 0回
他者評価の回数(社会人基礎力育成GP予選&決勝含): 5回

当該プログラムの実施範囲 ●研究室やゼミで実施(1年生は課外講座として実施)

対象プログラムの具体的な内容

日本大学工学部では、「ロハスの工学」を教育研究方針に掲げ、工学により健康で持続可能な社会の実現を目指す技術者の育成を目指している。本プログラムは、この趣旨を理解し、自発的に課外講座「次世代ロハス工学講座」の履修を希望した1年生3人を対象に、卒業研究生と共に、地域の道路や橋といった社会インフラの実状を体感し、理解することで、1.課題解決策を見い出す能力(考え抜く力)、2.その解決策を相手に伝え、実行していく能力(前に踏み出す力)、3.地域の住民とコミュニケーションを図りながら協働する能力(チームで働く力)を養うことを目標としている。なお、本プログラムはグローバルとは対極にあるローカル(地域)な課題を取り上げ、その将来像を深く考え、社会貢献を果たすことができる実践的技術者の育成を目指している。

 

育成のための取組内容と育成のプロセス

昨今の大学教育は、理解力の低い学生の底上げに偏重する傾向にあり、そのカリキュラムは基礎の積み上げ→応用(実験・実習等)→卒業研究というパターン化しており、やる気に満ちた1年生にとっては、モチベーションを落とす一因となっている。そこで、入学したばかりの1年生のトップアップ教育を目指し、基礎の座学より先に卒業研究生(4年生)と共に現場を見せ、地域住民との協働によりインフラ整備を体験させ、そこから得た知見やアイディアをその後の学習に活かすプログラムを構築、実践した。

 

本プログラムは、地域住民と学生との協働により砂利道をコンクリート舗装に変える道づくりや、橋の欄干を塗装する橋守事業に参加し、住民とのコミュニケーションを通して、インフラの実状や地域の抱える問題を理解し、その課題解決策を考え、様々な場で発表し、評価を受けるという取り組みを実践するものである。

 

課外講座に登録した1年生3人は、平成24年6月と9月に福島県平田村において、住民との協働による道づくり事業に参加し、夏休みに道普請に関する文献調査を行い、その内容を学内で発表した(評価1)。11月には社会人基礎力育成GP予選大会で発表し(評価2:優秀賞受賞)、冬休みに“橋の名付け親プロジェクト”企画書の作成を行い、これを平田村村長に説明し(評価3)、受理された。以上の内容を3月の社会人基礎力育成GP決勝大会で発表した(評価4:準大賞受賞)。参考資料1はその際の発表資料である。さらに、平成25年6月には上記の成果を住民に報告し(評価5)、橋の命名式、道づくり事業に加え、地域の住民と共に橋の欄干を塗装する橋守(はしもり)事業にも参加し、平成25年10月には福島県南会津町での橋守事業へと展開されている。

 

このように、本プログラムは1年生が現場でインフラの実態を体感し、住民とのコミュニケーションを通して、土木工学(Civil Engineering:市民のための工学)の本質や意義を学び、自らの発案(地域の小学生に名前のついていない橋の名付け親になってもらう)を村長に説明し、実践するという特徴を有している。

 

育成の評価

上述の通り、学生自らが検討した内容は、その都度プレゼンテーションという形で発表され、それを学内の教員、社会人基礎力育成GP予選大会、決勝大会、平田村村長、平田村の住民という立場の異なる方々に評価していただく形をとっている。指導教員(申請者)は、上記の評価者からの指摘事項を受けて、次の課題(ハードル)を課すのみで、常に学生に主体的に物事を考えさせ、行動させることに心掛け、プレゼンテーションの内容に関するアドバイスも最小限にとどめるよう意識している。 

日本大学イメージ

効果的な育成・評価のための工夫

「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果

「前に踏み出す力」については、住民との関わりを積極的に図るため、自ら率先して住民に話しかけ、地域の実状を理解し、発表に反映させることを促した。また、社会人基礎力育成GPの予選大会、決勝大会への出場を通し、大勢の聴衆の前でも臆することなく発表するための準備を重ね、本番では想像以上の力を発揮することができた。

 

「考え抜く力」については、プレゼンテーションの内容を吟味させ、相手に伝わりやすい資料の作成を心がけさせた。さらに、村長に説明するための「橋の名付け親プロジェクト」企画書の作成にあたっては、初めての企画書の作成ではあったが、将来の地域を担う小学生に橋に名前を付けてもらうという斬新なアイディアを思い付き、村長より絶賛され、実際の施策に反映された。

 

「チームで働く力」については、まず1年生3人の中で力を合わせ、プレゼンテーションの準備や企画書の作成にあたらせた。また、卒業研究生や住民と積極的にコミュニケーションを図り、力を合せ、地域の道づくりや橋守を行う活動を実践した。その結果、地域住民との距離が縮まり、交流が深まるのを実感できた。

 

その他、当該プログラム独自に設定している能力項目を育成する際、その内容、課題、育成の工夫点や成果

「チームで働く力」の能力要素である発信力、傾聴力とも関連するが、最も重視した点は、社会から見て、現在の学生に最も足りないとされる「コミュニケーション能力」である。学生間、学生と指導教員、学生と村長、学生と地域の住民、学生と聴衆といった様々な方との積極的なコミュニケーションを通して、自らの考えを常に進化させ、次のアクションへとつながるようスパイラルアップを繰り返すことにより、当初の予想をはるかに超える成果や成長を実感することができた。

 

教育の効果を適切に評価・検証し、さらなる成長を促すための工夫

教育の効果を評価するのは指導教員ではなく、プレゼンテーションを聞いていただいた、学内教員、審査員、村長、地域住民である。こうした方々からの質問や指摘を受け、その都度次の課題を課し、チャレンジすることで、自分たちの取り組みを改善し、さらに、地域に受け入れられる成果を生み出すことができた。なお、現在の3人の学生の状況であるが、マンネリ化に陥らないよう、この取り組みとの関係を平成25年10月までで一旦終了させ、それぞれに新たな目標を設定させ、独自の目標達成に向けて努力するよう、見守っているところである。

 

その他教育づくりの工夫

本取り組みは、地域の産官学民の協働が基本であり、地域社会や企業の多大な協力を得て実現した。道づくり事業については、コンクリート舗装のエキスパートより技術支援をいただき、長持ちするコンクリート舗装を実現するため、種々の工夫を行った。また、平田村の職員や区長とは何度も打ち合わせを重ね、双方の望む時期、場所等を選定し、段取り等の協力をいただいた。さらに、橋守プロジェクトでは、橋の専門家の技術支援を受けると共に平田村および南会津町の職員、区長、地元の建設業者(※ふくしまインフラ長寿命化研究会)の助力を得て、学生と地域住民との協働による橋の欄干塗装を実践した。

※福島県内の道路や橋といったインフラの長寿命化を目指し、地域に根差した活動をしている任意の研究会で、県内約60社の建設業者、測量設計業者が入会している。会長は指導教員本人が務めている。

 

 

担当:教授 岩城 一郎

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