社会人基礎力を育成する授業30選

自ら教え、社会人基礎力及び専門知識・技能を深めることができる高大連携プログラム

流通科学大学/サービス産業学部 頭師暢秀ゼミナール

高大連携地域資源ブランド商品開発 〜教えることで真の学びを〜

商業高校からの要請で商品開発の授業を提供し、大学生が高校生とともにロールケーキを商品化したプログラムである。大学生は、裏方として高校生を支える立場として活動することで、自身の社会人基礎力を学び直していく。

プログラムタイプ 実践型学習(企業連携) 単位の授与

あり

実施している期間

平成25年5月〜平成26年5月

実施規模

参加教員: 1名 職員: 1名 受講学生: 6名 連携企業数: 1社

授業時間数 約50時間 学生のプレゼンの機会

あり(10回)

評価の回数

自己評価の回数: 随時 他者評価の回数: 随時

当該プログラムの実施範囲 ●専門組織(キャリアセンター等)により学部横断的に実施

対象プログラムの具体的な内容

流通科学大学イメージ

本プログラムでは、大学教員が授業を行いつつ、前年に地域資源ブランド商品としてプリンを商品化した大学4年生も高校の教壇に立った。観光やサービスを学ぶ学生が所属する頭師ゼミは、マーケティングを研究領域とし、毎年のように商品開発に取り組んできた。商品開発の経験者である大学生は、高校生を相手に自分たちの経験を語り、グループワークを順調に主導する。ところが、開発過程のなかで前年に得た自信に翳りを覚え、向上したはずの社会人基礎力を学びなおすことになる。

 

スウィーツを作ってみたいという高校生の希望が大学生の経験と合致したため、老舗和洋菓子店と協働することになった。順風満帆とはいえない過程を経て、広域地域資源ブランド商品としての性格をもつ新商品を提案することができた。テストマーケティングを経て商品化されたロールケーキは、高校生による販売実習の形で初売りを迎えた。

 

IT化の進展を意識し、IT技術が活用できる場面では積極的に利用することを要求した。パッケージデザインは、前年のプリン制作時に手書き資料をプロにリライト委託したのに対し、今回は、パワーポイントやペイント機能を使用し、デジタルデータを作成できるようになった。市場調査にはウェブによる調査(みんなのプロジェクト)を活用した。

 

育成のための取組内容と育成のプロセス

兵庫県立姫路商業高校3年生12人(女子2人、男子10人)の課外研修授業(週2回、1学期と2学期)に流通科学大学の担当教員と大学生が赴き、授業とグループワークを行った。

 

大学4年生には、就職活動の一環として、社会人基礎力能力チェック表を随時加筆させた。あくまでも自律的な自己評価を前提とし、担当教員からの指導は、インフォーマルな会話のなかで行った。したがって、提出締切日などで区切るような構造化されたチェックプロセスとは言えない。なお、ゼミに途中参加した大学2年生には、気づきを促すために社会人基礎力の概念説明を行わず、加入1か月後に、大学4年生から活動振り返りを兼ねて説明された。

 

社会人基礎力育成のプロセスは、新商品開発の典型的な手順に沿って、随時並行して行った。新商品開発は、市場環境の分析から有望な商品のコンセプトを導き出し、商品化の可能性を探るところから始まる。ある段階からは、市場調査を行いつつ、試作品の製作、ネーミング、パッケージデザインの検討を行う。そして、試験販売を経て実売という経過を辿る。

 

授業開始から約1か月間は、商品開発の手順説明と大学生による商品開発経験談の披露に充てられた。商品開発に初めて触れる高校側は座学を前提とし、高校生も一方的に授業を聞くという行為に慣れ切っていた。大学生には商品開発の楽しみを伝えることが期待され、高校生の能動的な態度を引き出すことが主目的の期間となった。大学生の呼びかけで行われたグループワークとしてのブレインストーミングの結果、高校生が作ってみたいものとしてスウィーツが挙がった。プログラム初期段階に大学生が方向性を導きだせたのは、前年に3つの力をある程度身につけていたことが功を奏したものと想像する。大学教員と大学生の働きかけにより、座学から実践科目へと変化した。

 

文房具やスポーツ用品を主張する者もいたが、高校3年生と大学4年生が在学期間中に商品化を実現できる可能性が低いため、スウィーツを優先することにした。そこで、地元の食品企業との連携を目論んだところ、最初に連携可能性が高まった企業の持つ設備や取扱商品群と高校生の期待との間にミスマッチが明らかになった。この期間は、理想と現実との壁を感じる最初の経験となる。商品開発の滑り出しが好調だっただけに、高校生も大学生も不安の色を隠せなかった。

 

最終年次の大学生と高校生に残された時間はあまりなかったため、担当教員が地元の老舗和洋菓子店である株式会社杵屋に依頼し、企業連携が再スタートした。地元の高校生が大学生の力を借りながら、地域資源ブランド商品を開発するという明確なテーマも設定した。観光を学ぶ大学生の意見を採り入れ、高校生が姫路市内に居住することも考慮した上で、「銀の馬車道」という姫路市を含む広域観光資源をモチーフにすることにした。これは、一部地域だけを盛り上げようとする傾向のある地域ブランド商品開発に一石を投ずる概念である。観光の研究領域で指摘されていることだが、複数の地域全体で点ではなく線や面で観光振興を行うべきだという考え方を反映している。

 

育成の評価

担当教員には、各能力項目の向上それ自体をゴールとせず、あくまでも社会人基礎力を包括的に向上させたいという想いがある。主体性をもって自律的に生きてゆける人材を育成するために、システマチックに構造化した提出のタイミングなどは敢えて設けていない。異論は想像するものの、この手法は、大学生の指示待ち族化を緩和し、主体性を意識させるために意義があると考えている。

 

効果的な育成・評価のための工夫

「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果

現代の若者は、欲しいものもなく満たされた生活を送ってきている。前に踏み出さずとも、上げ膳据え膳で育ってきている。考え抜く力やチームで働く力以前に、前に踏み出そうとするマインドを掻き立てる必要がある。そこで、「困っている状態」を見せるという工夫をしている。たとえば、福祉器具商品化プロジェクトでは、福祉施設や公共施設で高齢者が困っている様子を目の当たりにした。防災ラジオ・プロジェクトでは、阪神・淡路大震災発生時の新聞記事を準備し、後には防災展示施設を見学した。

 

今回のロールケーキ商品化プロジェクトは、兵庫県姫路市を中心とする地域ブランドをテーマにした。学生が本気になるきっかけとして、以下が有効に機能していると考える。

 

●平成の大修理で観光資源である姫路城への集客に苦戦しながら、姫路ゆかりの大河ドラマ「軍師官兵衛」の放映に期待する様子など、困っている状態を見せる

 

●公的機関に迷惑をかけてはならないと意識づけする

 

●できるだけ身近な題材を取り上げる

 

これらの工夫は、困っている人を助けようという意識づけにつながり、大学生である自分たちでも世の中に貢献できることがあるのではないかというマインドの変化を引き起こしていると考える。

 

考え抜く力も、教員による誘導が肝心である。メモを取る習慣もなく情報を整理する習慣も欠けている傾向がある。学生が経験したことを時系列で周期的に並べさせ、場面に応じて過去の経験を思い出させるような質問を繰り返す。いわゆる復習の機会を強いることが、やりっ放しの習慣を改善し、計画力をもって考える癖をつける一助となる。また、ゼミ内部でのコンテスト形式の導入も有効である。外部者参加のビッグ・イベント化で「可視化」することによって、開催日までには、専門家に見せられるレベルに到達しなければならないという意識が植えつけられる。今回のプロジェクトにおいても、パッケージデザインの考案作業では、個人競争と小さい規模ながら、「担任ではなく、社長に見られ、選ばれる」場面を設定している。

 

チームで働く力に関しては、指示待ち族の割合が高まり、自ら前に踏み出そうというメンバーがいないなか、皆でやりましょうと集団意識に訴えることから始めている。しかし、その後は、国語力の高い者には文章を書かせ、画才のある者には絵を描かせるなど、各個人の得意分野に特化した分業体制をつくって自立させる工夫も有効である。自己分析と他己分析で、各自が役割を見いだせれば望ましい。担当教員は、心理学でいうジョハリの窓を紹介することもある。これにより、チームのなかに自分の居場所を見つけることができるようになる。

 

なお、チームを構成する場面においては、その集団の大きさに留意した方が良い。あまりに多すぎると、リンゲルマン効果(いわゆる社会的手抜き)が発生しがちである。今回紹介した高大連携プログラムは、少人数で行ったが、前年とは異なり、各自の熱意は明らかに高かった。 全般として、困っている人を助け、そのために何ができるのかというゴールの明確化が有効と思われる。このパターンは、これまで主導したすべてのプロジェクトで有効に機能し、必ず成果物として具体化している。過去のプロジェクトで、実際に商品化されたり、受賞したり、メディアに取り上げられてきた歴史も好循環を生み出している。自分たちもそのレールに乗っている、努力すれば結果につながると感じているようだ。

 

 

担当:准教授 頭師 暢秀

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