学生が日産自動車九州(株)の実務の一部を卒業研究で担い、社会人基礎力として不可欠なスケジュール管理意識の元で課題解決に取組み、報告・連絡・相談、PDCAサイクルを回しながら、実践環境下で「人間力的な社会人基礎力」と「技能的な技術者基礎力」の両面から社会人基礎力を培おうとするものである。
プログラムタイプ | 実践型学習(企業連携) | 単位の授与 |
あり |
実施している期間 |
平成24年4月〜現在 |
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実施規模 |
参加教員: 10名 職員: 3名 受講学生: 20名 連携企業数: 1社 |
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授業時間数 | 卒業研究時間 ほぼ毎日 | 学生のプレゼンの機会 |
あり(2~3回/年) |
評価の回数 |
自己評価の回数: 適宜 他者評価の回数: 2~3回/年 |
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当該プログラムの実施範囲 | ●専門組織(キャリアセンター等)により学部横断的に実施 |
育成のための取組内容と育成のプロセス
自動車関連をはじめとするものづくり企業が集積する地域のど真ん中に位置する本学工学部において、社会人基礎力の育成を如何にすべきかについて検討した結果、ものづくりに関する産業界ベースでの実践プロジェクトを柱として「人間力的な社会人基礎力」と「技能的な技術者基礎力」の培いをリンクして取組むべきとした。この取組みにあたっては、大学教職員の力だけでは無理である。産業界の力が不可欠である。
そこで、平成24年4月に本学工学部が位置する福岡県苅田町に生産工場を置く日産自動車九州(株)と産学連携協定を締結し、日産自動車九州(株)の社員が大学生と一緒になって現場での実践課題解決を通して技能を高め、合わせて本学学生の問題解決能力とともに社会人基礎力を養うことを目的とする取組みを始めた。その取組みの方法は、学生と担当教員が日産自動車九州(株)の作業現場で困っていることを卒業研究テーマとして取り込み、学生がその課題解決プロセスを通じて社会人基礎力を培いながら、同時に技術者基礎力を高めてゆくものである。分野として「設備信頼性向上」、「品質保証度向上」、「構内物流・工場内物流の効率化」に関する課題である。大学教員が企業人と連携を進める上で、上記の通り、大学教員間で意識と行動に温度差が出てくるため、継続的取組みを弱めてしまうことが問題である。そこで、産業界からの課題の安定した学内受け皿を作り、継続的に回る仕組みを整備するために、学生育成の重要性を真に理解し趣旨に賛同する教員を集め、平成25年9月に工学部内に「自動車・ロボット研究所」を新設した。
「自動車・ロボット研究所」は企業現場での課題(現場で困っていること)を受ける。現在、「自動車・ロボット研究所」は工学部教員10名で構成し、3つのグループを編成している。企業からの課題要件を把握し、研究シーズが近いグループが課題を受ける。その後、受けた課題をグループ内教員が受け持つ学生の卒業研究あるいはゼミナールのテーマとして設定し、企業実務家と教員と学生の3者による体制下で具体的に課題解決に取り組んで行く。3者による企業ドリブン型プロジェクトとして取り組む。
ここで、学生に期待することは、実践プロジェクトに組み込まれた学生が企業実務家との交流を通じて、まずは日々の活動の中で挨拶、報告・連絡・相談の基本行動の癖を付けることである。そして、学生自らスケジュール管理の元で作業項目に対するPDCAを回すことを実感し、組織内でその重要性を認識し肌で感じながら人間的な社会人基礎力を培うことである。また、技能的な技術基礎力の培いの観点からは、学生がものづくり現場で実際に企業が抱えている課題解決にあたり、大学で学んだ活かせる知識は限られてくるが、現代ものづくりの“読み・書き・算盤”ともいえる“読図(製図)・ポンチ絵(スケッチ)・3DCAD(形状の創造)”に関する技能を遺憾なく発揮することを期待する。
「自動車・ロボット研究所」は、決して基礎研究を主たる目的とするものではなく、企業の課題解決と人材育成の推進エンジンとして位置づけ、現在、学生が課題解決型の卒業研究を通じて、企業現場で困っていることを解決することと学生の社会人基礎力を育むことを目的として稼動しており、日産自動車九州(株)、松本工業(株)からの課題解決に取組んでいる。
育成の基本プロセスとしては、プロジェクト毎の作業項目の洗い出し、スケジュール起案、進捗チェック、そして、中間報告会と最終報告会を通じて、学生の社会人基礎力を育むためのPDCAを回す。現時点では、スケジュール記述フォーマットや進捗チェック頻度や報告会に関する定型化は出来てはなく各プロジェクト任せになっているが、手順やフォーマット等の標準化はこれからの課題として認識している。
育成の評価
プロジェクト毎に関しては、下記の通りである。評価者は、担当教員と企業実務家。評価基準としては、以下の3点である。
1.)企業現場で課題解決に至って正常に稼動しているか?(企業ニーズの観点から)
2.)実用化出来たか?(企業ニーズの観点から)
3.)プロジェクトに参加した学生は就職できたか?(大学ニーズの観点から)
活用ツールは、現時点では特にない。本プログラムをはじめとした工学部の学生育成の評価にあたっては、前頁に示した地域行政、地域工業高等学校、地域企業の17外部機関から構成される「地域人材育成機構」から年に1~2回の学生育成に対する評価とアドバイスを受け、PDCAを回している。
「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」等、社会で活躍するために必要だと思われる能力を育成する際の課題、育成の工夫点や成果
たいていの学生は就職して産業界がコミュニケーション力を必要としていることは言葉では分っているようであるが、具体的に何が求められているのかということは分からない(知らない)のが実際である。そのような現実の中で、この度の日産自動車九州(株)との産学連携を通じた学生の社会人基礎力育成プログラムを機能させるためには、実践ベースで企業方式のプロジェクトマネジメント環境の中に学生を置くことが一番の早道と考えた。
先ずは、学生の動機付けをしっかりとする。如何に、学生に分からせたうえでプロジェクトに参画させるかである。そのために、先ずは学生にはこの産学連携プロジェクトへの参画意義として、社会背景と学生の社会人基礎力の育成の狙いが主たる目的であることを言い含め動機付けをしたうえで、参加学生が十分に納得して着手する必要がある。そして、取組みの対象が企業の実践課題であることを十分に認識させたうえで、工学部を代表して取組むことのプライドを持たせることである。
次に、プロジェクト推進において、企業実務家と教員と学生の3者によるプロジェクトチーム編成の中で、体制(役割)と作業項目(アウトプット)と期日を、いわゆる“誰が何をいつまで”の枠組みを明快に定めて取組むことである。プロジェクト遂行においては、打合せやレビューの場で、学生が担当する作業項目に関する問題点を報告させ、その解決策(案)を提案させることである。その過程においては、企業実務家と学生のキャッチボールを繰り返させることは極めて効果的である。その手段として、基本は対面での会話、携帯電話による交信、メールでのやりとりである。3者が一堂に集まる場では、学生の発言に対する指導はその場でできる、メールのやりとりにおいては、学生が企業実務家へ発信する時は、指導教員が返信内容と体裁を事前にチェックしたうえでメール発信させる指導が要る。スケジュール進捗管理においては、進捗管理という概念を学生に教え込み、ガントチャートなどを利用した作業項目の洗い出しとスケジュール設定と進捗管理の作法を指導することである。それを通じてPDCAを回してゆくことを実感させること。プロジェクトチームの一員として、しっかりと責任を持たせ取組ませることである。その過程で、学生の社会人基礎力が涵養されてゆく。
担当:教授 坂田 豊