社会人基礎力育成に向けた3つのポイント

●社会人基礎力は、成長の針路を示すビジョンである。

自らを成長させるために、どのような場面に身をおくか、何を課題(成果目標)とするか。あるいはどのような自己の成長目標を立て、どのように意識して取組んでいくか。これらを自分自身で考え、行動する。このような学生の主体的な成長努力を促す上で、これからの社会の担い手に求められる成長の方向性を示すものである。

 

●社会人基礎力は、教育現場において共通言語として機能する。

学生、教員、関わる学外関係者(企業・地域等)の間で共有され、学生自身が設定する取組みの成果目標、あるいは自身の成長目標を目指すプロセスにおいて、教育効果を促す対話やフィードバックの鍵(合言葉)として活用されることを意図している。

 

●社会人基礎力提唱の原点に立ち戻り、改めて「社会人基礎力を育成する授業30選」に応募された各大学における創意工夫の事例、さらにこれまで蓄積したデータ・文献や取組事例の効果検証を踏まえ、有識者・実践者による議論した結果として、社会人基礎力の効果的育成に向けた取組ポイントを以下の通り整理した。

 

学生自身による目標設定・プロセスデザイン

1) 学生自身による目標の設定(活動の成果目標、自己の成長目標)

2) 学生による“ゼロ”から始めるプロセスデザインと試行錯誤

3) 学生の自律的な周囲との関係構築

教員の支援的関与による主体的学習の促進

1) 学生が主体的に活動できる環境の整備

2) 学生の活動に対する支援的関与

3) 教員の支援的役割に関する学びの促進

カリキュラム化による継続性の確保

1) 地域社会・産業界・他大学・他学部など多様な関係者との組織的協力関係の構築

2)「実行」を意識したカリキュラムづくり

3) 変化に対応し「継続」するための仕組の構築

学生自身による目標設定・プロセスデザイン

大学教育において、社会人基礎力を育成するにあたり、学生自身の課題意識や、社会の一員としての責任感・使命感に基づいた成果目標を設定させ、その後の活動において主体的な行動を発揮させる土壌作りをすることが重要である。

 

また、設定目標の達成に向けては、学生自身にプロセスをデザインさせ、直面する様々な課題に対して、学生自らがトライ&エラーを繰り返し、考え抜いて、苦労を乗り越え、目標を達成する体験が社会人基礎力等の効果的な育成において重要である。

学生自身による目標の設定(活動の成果目標、自己の成長目標)

●学生自身が、社会で活動するイメージを想起し、現状把握を踏まえて目標を立て、取り組むことが重要である。教員が与えるのではなく、学生自身に現状把握及び成果目標や成長目標を設定させることにより、学生の主体的な学び・行動を引き出すことがねらいである。さらに、学生に社会の問題に目を向けさせ、自ら課題発見・解決手段を考え出す訓練を行うことにより、授業終了後・卒業後のあらゆる活動において継続的な成長が期待される。これは、以前に増して変化の激しい社会において、新しい「コト」づくりが求められる中、社会で活躍していくために求められる能力でもある。

学生による“ゼロ”から始めるプロセスデザインと試行錯誤

●設定した目標をどのように達成していくかという方針が重要である。目標を達成するためにどのような態度や立場で臨むか、どのような場面で自分の力を発揮していきたいと思うかが重要である。教員にお膳立てされた状態で取組むのではなく、何も決まっていない“ゼロ”の状態から始めることに意義がある。

 

●プロセスデザインをしても、必ずしもその通りに進むとは限らない。周りに協力を求めながら、やり方を変えたり、見方を変えたり、様々な工夫で学生自らがトライ&エラーを繰り返し、考え抜いて、苦労を乗り越え、目標を達成させる過程が重要である。

 

●また、その過程の一つ一つの行動について、「この行動が社会人基礎力を向上させた」ということを、対話や活動記録シートの活用などにより認識させることで、他の場面でも再現可能な能力育成を行うことが望ましい。

学生の自律的な周囲との関係構築

●チーム活動において、学生が自律的に分担・協働し、相互に刺激し合える機会は有効である。学生のチーム活動においては当初うまく調整できず、活動の進捗が遅れてしまうことも想定されるが、これらの多くは自分達で乗り越えるべき課題である。

 

●成果目標の達成に向けて、自身、あるいは自チーム内の知識・経験だけでは解消できない課題も生じうるが、この際、自ら仲間内や専攻分野の壁を越えて必要な人材を探し、巻込み、協力を獲得する機会は、成長する上で大きなチャンスである。

教員の支援的関与による主体的学習の促進

学生の主体的な行動を促すため、教員による適切なサポートはとても重要である。留意点として以下が挙げられる。

学生が主体的に活動できる環境の整備

●教員が何を教えたいかではなく、学生個人の特性を踏まえて、学生個人の成長にとって何がよいかという視点が大切である。それを踏まえた上で、学生が主体的かつ本気になって取組める(取組みを促す)場や状況設定などの環境整備が重要である。

 

●各人の力を持ち寄り、活かし、相互に高めあう機会、学内外の立場や価値観の異なる様々な人と接点をもち、成果を高める機会を整備することも重要である。

学生の活動に対する支援的関与

●学生の行動を促すに当たっては、学生に「指示」を与えるのではなく、「どうすべきか」「なぜそうすべきか」を常に学生自身に考えさせる対話の工夫が必要である。学生が壁にぶつかった際、学生自身が上手くいかない理由を把握し、改善方針の検討や目標の再設定を行うための適切なフィードバックを対話等を通じて行うことが必要である。

 

●活動後に限らず、活動中に自己評価や活動記録等を複数回実施することで、学生が評価・フィードバックを踏まえたアクションを起こす機会を与えることが重要である。

 

●教員からの評価・フィードバックに限らず、仲間・連携先の企業・団体等様々な視点から評価・フィードバックを得る機会を創出することにより、立場により多様な価値観があり得ることを学ぶことができる。

教員の支援的役割に関する学びの促進

●教員が支援的関与、学びの支援を実践するには、教員が指導するという役割から支援するという役割をより積極的に学ぶことが必要となる。活動を実践するのはあくまでも学生本人であり、学生の主体的な気づき・学び・実践を支援するという役割を理解することが必要である。

 

●教員の支援に関しては、教員自身が自分のアプローチを構築し、それを深めることは重要であるが、同時に他の教員のアプローチを積極的に学ぶというオープンな姿勢も必要となる。また他の教員に限らず、プログラムに関与される多様な社会人、そして支援を行う対象となる学生と相互に学び、啓発する場の構築が重要である。

 

●教員は、実施プログラムの中での学生の成長にのみフォーカスをあてるのではなく、学生が社会に出て活躍できることが重要な目的であることを認識する必要がある。つまり、学生の視野の拡大、実践に向けた準備などを通して、社会で生き抜く力を養うという視点をしっかりと持つことが重要である。

カリキュラム化による継続性の確保

社会人基礎力の効果的な育成のためには、個別の授業・ゼミ等の単位で実施するにとどまらず、個々の大学の方針や教育理念を反映した、ゼミ・正課・インターンシップ・フィールドワーク等の体系的なカリキュラムを構築することが望ましい。

 

また、カリキュラム化に当たっては、カリキュラムが教育現場において無理なく実践され、社会との接続を重視した実質的な教育活動が行われるようなカリキュラムを設計することが重要である。

地域社会・産業界・他大学・他学部など多様な関係者との組織的協力関係の構築

●社会で取り組む問題は必ずしも正解があるものではなく、複雑であり、大学の授業ではなかなか伝えることができない。一生懸命ジタバタしながら社会人基礎力の能力を駆使して取組む体験を通じて、「働く」ことを体感することも必要である。

 

●また、異なる立場の関係者など多様な方から、自分の目標を照らし合わせて、フィードバックを受けることは効果的だと思われる。多様な人からのフィードバックは学内外問わず、広がれば広がるほど効果があるといえる。

 

●これらの点に加え、社会で力を発揮できる人材育成という点を踏まえると、自治体や企業等外部との連携構築が必要であり、その場合には企業側にも真剣に取り組んでもらえるような工夫・調整が不可欠である。

「実行」を意識したカリキュラムづくり

●社会人基礎力育成に関するカリキュラムを策定する際、常に教育現場で「実行」が可能であることを意識しながらカリキュラムを設計することが重要である。育成目標・育成方法・評価方法について、カリキュラム導入当初から詳細な設計をした場合、教育現場での負担感等から、カリキュラムに実が伴わないことが懸念される。

 

●また、カリキュラムが効果的に「実行」されるためには、社会との接続を意識し、教員一人一人の「社会人基礎力」の必要性及び育成・評価方法に関する理解を促進する取組を行うことが必要である。

変化に対応し「継続」するための仕組の構築

●育成目標に適した授業の評価や基準を設定し、学生の変化を見守りながら社会人基礎力の育成方法・評価方法を改善していく仕組みをつくる必要がある。

 

●留意すべき点としては、カリキュラムを通して何を達成することがねらいであるか、常に意識しながら見直す仕組みを回すことである。場合によっては、時代の変化により、社会で活躍するための人材の定義が変わっていくこともあり得ることである。それを前提として、こうした変化を教育にどのように反映させていくか検討していくためには、地域社会・産業界の声をキャッチする仕組みを構築することが有効である。

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