社会人基礎力育成の参考となる先進事例として、アメリカのアルバーノ大学を紹介します。
アルバーノ大学は、ウィスコンシン州の都市ミルウォーキーの南西部、住宅街に位置するカトリック系のリベラルアーツ4年制女子大学です。1970年代初めから、学生の「能力形成」を中心に据えたカリキュラムを開発、導入してきました。様々な領域にまたがる学習・研究の中から、アルバーノ大学が同校の学生に身に付けてほしいと定めた能力は、以下の8つです。
●効果的な社会参加
●分析
●問題解決
●コミュニケーション
●対人能力
●グローバルな視点
●価値判断
●美的感受性
この能力の8つの観点について、それぞれ達成度レベルを6段階に策定し、その上で、各科目がどの観点のどのレベルを育成し評価するのかを決めています。そして、その科目がどの専門分野でどういう内容の授業をするかによって、各観点の捉え方や各観点として見る育成や評価ポイントが、それぞれ異なってくるのです(→アルバーノ大学の教育の考え方はこちら)。
加えて、各科目に対し、いわゆるS・A・B・Cといった成績の段階評価はしません。そのため各科目で8つの観点のどのレベルを育成・評価するのかを決めやすくなっています。そして、教員自らが決めた教育内容と評価をクリアすれば、最終的には、ある観点のあるレベルに到達するように仕組まれています。
その分、各科目では、その観点とレベルを保証するように、きめ細かい教育指導と評価、さらに評価を育成に生かすための工夫がなされています。提出したレポートや自らの活動を振り返って書いた自己評価シート等へのフィードバックは、毎回徹底して行われます。さらに、自己評価力育成のための特別な教育も行っています。具体的には、初級、中級、上級と分けてガイドラインを設定し、学生のレベルに沿った指導がなされるのです(→アルバーノ大学の自己評価育成レベルのガイドラインはこちら)。
また、インターンシップ、病院実習(看護学部)、教育実習(教育学部)も単に体験するだけのプログラムではなく、明確にプロフェッショナルゴール(課せられた業務)、アカデミックゴール(8つの観点)、パーソナルゴール(自信など)を決め、派遣先に評価してもらいます。つまり、評価も単に丁寧なだけでなく、成長につなげる工夫がなされています。
●社会人基礎力を独自の8つの観点で定義し、6段階でその達成度を表示。
●カリキュラム上の各科目が、どこかの観点の、どこかのレベルの育成・評価を担う。
●評価の観点は学問・学科ごとその専門の特色、教育内容等を踏まえて検討され、柔軟に捉えられる。
※平成19年度社会人基礎力育成・評価手法開発事業において、
河合塾が作成したものに基づく
○各科目は、原則、複数の観点を担う
○各学問分野の科目を教えるに当たって、教員は「自らの担う観点」において、授業を実施(達成度レベルが目指された授業)
○そのことで狭い専門知識に陥ることのない、幅広い場面で活かせる社会人基礎力等を習得できるよう学生を導く
○学生の評価も、その決められた観点で実施
○評価の方法は、レポート・発表・作品・授業中の態度・外部評価者による面接評価等で行われる
○下位レベルの単位取得後に、上位レベルが履修可能に
○単位付与では、レベル評価としての成績は示されず、取得ができたかできなかったかしか示されない
○レベル1から4までが一般教育、レベル5・6が専門教育で育成を目指し、学生は複数の科目で社会人基礎力育成に取り組み、すべての観点でレベル4まで達することが卒業要件となっている
|
初級 |
中級 |
観察 (Observing) |
自己の活動を観察するにあたり、初級の学生は記述的手法を用いてその能力の発達に主眼を置く。自身の思想過程を表すために具体的詳細を用い、問いを明確にし、自己の変遷や成果に関する様々な側面を説明するための要素を体系的に見直す。何を目指し、目標に向かってどうしたのか、そしてどのような成果を得たのかについて、(教員に)伝達する手段を開発する。期待、これまでの学習、考え及び感情が、自己のパフォーマンスに焦点を当てた能力にどのように影響したかを認識する。
基準 ・能力に関連するパフォーマンスかつ/又はパフォーマンスにつながる過程における自己の言動(行為、考え、感情)を記録する。 |
自己の活動を観察するにあたり、中級の学生は明確な能力的、又は学問的フレームワークを用いて(フレームワークを自己のパフォーマンスに当てはめる際には機械的になってしまうかもしれないが、)自己の考え(reflection)を体系化する。概念(concepts)と自己のパフォーマンスとを有意義に関連付けることにより、これまで自分が能力や学問のどういった側面に影響を受けたかを示す。
基準 ・学問的かつ/又は能力的フレームワークを自己のパフォーマンスに当てはめる。 ・学問的かつ/又は能力分野で用いられる用語を使い観察内容を伝達する。 ・パフォーマンスについて熟考するため、批判的に見る。 |
解釈・分析 (Interprting/Analyzing) |
自己のパフォーマンスを読解/分析するにあたり、初級の学生は個別の言動を扱うだけではない。基準、能力、あるいは一連のパフォーマンスとの関連から、各言動のつながりを明確にする。
基準 ・言動の長所及び短所の傾向を把握する。 ・個別の焦点について詳細をまとめる。 ・同級生(peer)やインストラクターからのフィードバックと自己評価との関連性を明確にする。 ・パフォーマンスのために計画し、実行する能力に感情が及ぼす影響を明確にする。 |
自己のパフォーマンスを読解/分析するにあたり、中級の学生は自己のパフォーマンスを各側面に分けて検討し、同時に各々がどのように全体に影響しているかについての認識を示す。
基準 ・自己の言動(行為、考え、感情)における長所及び短所の傾向についてその意義(重要性)を説明する。 ・フレームワークに関連づけて自己のパフォーマンスを理解する。 ・同級生(peer)や評価者からのフィードバックを活用し、パフォーマンスについてより大きな視点を持つ。 |
判定 (Judging) |
自己のパフォーマンスを判定するにあたり、初級の学生は基準に関する知識を用い、自己のパフォーマンスが基準に沿ったものであるという証拠を説明する。基準が含意するところを分かりやすく言い換えることにより、その意味を探求する。
基準 ・基準と言動およびパフォーマンスとを結びつける。 |
自己のパフォーマンスを判定するにあたり、中級の学生は、一連の基準がひとつのまとまりとして相互作用し、能力に関して一つの全体像を生み出すことを理解し、また評価を行うときは基準に縛られず、能力という観点からパフォーマンスを見る必要があることを理解する。
基準 ・パフォーマンスに対する自己判定について、一連の基準をひとつのまとまりとして理解する。 |
計画 (Planning) |
更なる成長を目指して計画を立てるにあたり、初級の学生は、学習に対する自己の取り組みが変化していること、また自分で様々な策を活用して学習できるという自覚を示す。また将来の学習への影響を理解する。
基準 ・パフォーマンスかつ/又はそれにつながる過程にとって維持すべき側面を特定する。 ・更に成長させるべき側面を特定し、パフォーマンスかつ/又はそれにつながる過程への取り組みを提案する。 |
更なる成長と目指して計画を立てるにあたり、中級の学生は自分が一人の学習者であることを自覚する。将来のパフォーマンスを考慮する上で効果的にフィードバックを活用し、特定の目標をもって方向性を定め、それまでの自己の長所・短所を把握する。
基準 ・改善に向けた目標を、これまでの進歩および将来の成長の可能性に関連付ける。 ・友人や評価者からのフィードバックを活用し、将来のパフォーマンスを計画する。 ・自己の感情的反応を理解することで、継続的成長のための計画を立てる。 |
※初級、中級のみ掲載。他に上級あり。
※平成19年度社会人基礎力育成・評価手法開発事業において、河合塾が作成したものに基づく