電気メーカーの研究者からのメッセージ

研究者に不可欠な自分のサポーター作り。ますます高い社会人基礎力が必要

パナソニック電工株式会社 先行技術開発研究所 技監 菰田卓哉氏

激動の現在を日本経済が生き抜くために必要な人材は

世の中の流れが速くなっています。たぶんどこの会社でも同じだと思いますが、かつては新人教育にじっくり時間をかけることができました。われわれも新人教育に資金や時間をかけますが、一から十まで手取り足取りはできない状況になってきています。ある程度の基本的な基礎力は、入社前の段階で身に付けておいていただきたいというのが、正直なところです。


この10年、日本経済において、海外での事業の位置付けがものすごく重要になってきています。あらゆる企業が日本の中だけでは生きていけず、世界に出て行かざるを得ない状況になっています。他の国々もどんどん台頭してきていて、このままいけば日本経済は沈没してしまう。そんな今、一番重要になるのが人材です。


今の世界は、トップがいて、そこから全てが降りてきて全体が軍隊のように統制がとれて動く、というピラミッド型ではありません。各自が自分で考え自分で動けないと、会社として社会として発展できなくなってきている。個人が正確な判断をして、それで全体がまとまっていくという状況を作らないとダメなのです。そのためには、自分で考える力、自分で一歩前に踏み出せる力が非常に重要になります。これらは、社会人としてまず持たなければならない基礎力です。加えて、上下関係ではなくチームとして動くことが非常に大事になってきていますから、相手に自分の考えを納得してやってもらえるだけの説得力が重要になると思います。


企業の研究は、世の中にモノとしてカタチにして出していく必要があります。そのためには絶対にチームでやらないとできません。自分で相手を説得する、あるいは相手に働きかけ、対立する意見に耳を傾けて一緒になってやってもらう、面白さを納得してもらってサポーターを増やすなどの努力をしないと、モノはできてこないのです。

 

会社で求められるのは説明・説得・「発信力」

実際の企業の現場では、大学でやっているような、15分とか20分とか、まとまった時間を与えられてプレゼンテーションするというシチュエーションは非常に少なくて、立ち話の中で相手に理解してもらわないといけない場面も出てきます。ですから1分、5分、といった限られた時間で何を伝えるかということに力点を置いた訓練も必要です。


さらに、自分の研究を相手に理解してもらうためには、話をどう進めたらいいのかも考えなければなりません。専門的なことを主張するだけでは、なかなか相手に理解してもらえません。例えば研究報告会でテーマを検討し、それによって継続するかどうかを決めるということが、会社でも結構あるわけですが、そういう場面で、このテーマの価値・将来性・採算、そういったところに力点を置いて表現できなければ通用しません。今年は民主党の事業仕分けがあったので、一般の方にも「説得力は非常に重要だな」ということがわかっていただけたのではないかなと思います。あのレベルの方々でも説明がしきれず予算が取れない、ということが現実に起こっていますね。そういうことから考えても、これからは「社会人基礎力」の中でも「発信力」が重要ではないかと思います。


私は海外にいたことがあるのですが、海外では小さいときから人前で表現をさせたり、チームに分かれて議論を闘わせるディベートの訓練をやったりしています。日本ではおそらく、そういったことはあまりやっていないでしょう。だから、大学で突然そういうことをやれと言われたら、学生たちのとまどいは大きいと思います。ましてや会社に入ったとたんにそういうことを求められたら、非常なストレスがかかると思います。私が大阪大学で行っているプログラムは、まさにこの力を鍛えるためのものです。


今世界レベルの雇用の現場でより求められているのは、専門知識の能力というよりむしろ説明力と言えます。その意味からも、世界との競争力を考えたとき、大学の段階でこういう教育をやっておくことは、非常に重要なことだと思います。

 

大学の研究者にも社会人基礎力は不可欠

ところでこれは、大学の研究者についても同様です。純粋にアカデミックな研究者といえども、タコつぼにはまって自分の興味だけで動いているわけにはいきません。研究にはお金がかかりますから、誰かがスポンサーになってその研究者にお金を出しているわけです。ですから研究者は、自分の研究がいかに学術的に有意義か、あるいは役に立つかなどを、他人にしっかり説明できなければ、お金は集まらず研究は続けられなくなります。研究者こそ、世の中に対して、自分の研究の有効性・素晴らしさを自分で説明できるべきなのです。自分達の行っていることは正しいのだという前提ではなく、この研究はこんなに皆さんの役に立って、その中で自分はこんな役割が担えるので自分のところでやらせてください、という説明ができないとダメではないかな、と。その意味で、研究者にも「社会人基礎力」が必要だと思うのです。


大学の先生は、どちらかというとアカデミックなシーンでの深掘りをしっかりやっていただく中で、学生さんを教育していただけると思いますし、われわれ企業のほうはどちらかというと、それをベースに作り出したものを世の中にアウトプットしていく方策としての「社会人基礎力」、ということになるかと思います。

 

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