住宅メーカーの営業現場からのメッセージ

「気合と根性」だけ売れていた市場が変わり、「考え抜く力」や「情況把握力」「柔軟性」が求められ始めた

積水ハウス株式会社 人事部人事グループ 課長 米津寛司氏

営業・販売の環境はこの5年でさらに厳しさを増してきた

当社は、技術系2割、営業系8割という割合で採用を行っていますが、ほとんどの新人が、まずは全国各地にある営業所で営業・販売に携わります。技術者も同様です。お客様に接し、お客様が何を望んでおられるかを知り、そして住宅を提供していくというのが、当社の仕事の基本だからです。そこで、住宅は簡単には売れないということを実感してもらうことも大切です。私も設計で入社し、営業を経験し、今は人材育成の仕事をしています。


今、日本の産業界は、ほとんどの業界が厳しい状況下にありますが、私たち住宅業界も例外ではありません。住宅の売れ方や売り方も、20年前と今、特にこの5年間で、がらりと変わりました。20年前は、市場全体が膨らんでいて、「気合と根性」があれば売れたのです。お客様の方から買いたいと言われることも多かった。そしてお客様の要望も、「いい家を作って」程度で、具体的なことはこちらから提案したものでした。したがって、新人でも入社した年の秋くらいには、契約を取れたのです。しかし、その後バブルが崩壊。それでもその後10年くらいは政府の財政投資や金利引下げ政策などでしのげました。けれど今はそれもなくなってきましたから、この現実に合わせて、いよいよ会社を根本から変えていかなければならなくなっています。


今さらローンも組みたくない、建て替えの必要性も感じない、そんな人に建て替えのメリットを説明できなければ住宅は売れない。一般の人でもテレビなどですごい知識を持っていて要求レベルが非常に高い。そうなると、契約は優秀な社員でないと取れません。商品も多様化して、昔ならベテラン社員のレベルだったことが、今では1年目の社員にも求められるようになっているのです。

 

採用では、バイタリティ、ストレス耐力に加え、創造的思考力と状況適応力も見る

新卒者の採用も、昔は「あいつ、ええヤツやん、元気がいいで」程度の意識で採ればよかったのですが、今ではそうはいきません。お客様が変わってきているのに採用の仕方を変えないでいると、市場の要求と社員のレベルに開きが出て、「最近は使い物にならない社員ばかり採っている」という批判が社内から出てきます。そこで、この5年ほどの間に、細かく能力要件を決め、同じ「元気」でも、どうして、どのように元気なのか、それで何ができるのか、を見るように変えてきました。


そこで当社が重視する点は、バイタリティ、創造的思考力、状況適応力、ストレス耐力の4項目です。かつては、バイタリティとストレス耐力だけを見ていたといっていいかと思います。「社会人基礎力」でいう「前に踏み出す力」と「ストレスコントロール力」です。それらに加えて、創造的に物事を考え、改善意欲が高く、課題を見出していく力を見るようにしました。「社会人基礎力」の「課題発見力」と「創造力」そして「計画力」に当たり、まさに「考え抜く力」が加わったことになります。


さらに、状況を把握した上で柔軟に対応し適応していくような力。今は、お客様の多様なニーズに合わせながら多様な商品群を対応させていく、そのために自分の考えや行動も変えていくような力が必要です。私は和歌山と兵庫県の芦屋で営業を経験しましたが、和歌山では、いきなり軒先に呼ばれてお茶を飲みながら話せばよかった。しかし芦屋では、新人が一人で行くとクレームが入りました。この業界は地域ごとに風習も売れ方も違うのです。「チームで働く力」の「情況把握力」から、「柔軟性」、さらに「課題発見力」「創造力」を合わせた力が要求されるのです。


ところで、当社では、入社後さまざまな研修を行い、最終的にはキャリアを自分の人生の中で捉え直させることで人材としての自律を促し、より高い能力を発揮できるよう、改革を進めています。能力開発は非常に幅広いので、それに耐えられる人に入社してもらわなければなりません。その意味でも、入社までに「社会人基礎力」の3つの力を高めておいていただくことは、今後どこの企業にとって大きなメリットがあると思います。

 

入社前に求める宅建資格で社会人基礎力を高める

実は3~4年前から、宅建(宅地建物取引主任者)の資格を内定後の1年の間に取るように求めています。資格そのもののためというより、取得のために努力して計画的に学習することで「計画力」などを身に付けてもらいたいからです。つまりこれも、「社会人基礎力」育成のためと言えます。絶対条件にはしていませんが、内定先の会社から求められると大変大きい力になるようで、取得してくる学生が増えてきました。過去には、そこまで求めるのは学生に失礼だと考え、大学ではいろいろな経験を積んでとか、旅行をしなさいとしか言わないでいたのですが、今は、必要なことは明言した方がいいということで、言うようになりました。


実際、宅建取得をしてきた学生は、先輩やお客様に「賢いんやな」と褒められ一目置かれますし、その資格を名刺にも書けますから、契約も取りやすくなります。1年目は成功体験が少ないものですが、1年目から成功体験を持てると、成長していくためのいい循環が生まれ、今度は何を学ぼう!と、自ら変っていくのですね。

 

将来のキャリア作りや、教育の場から社会へのスムーズな移行のためにも、

学校での社会人基礎力育成は大事

私たちは、採用時には自社の決めた4つの要件を重視し、さらに細かい視点から学生一人ひとりの特性を見ます。その視点とデータは、できれば内定後入社後の育成にもつなげたい。しかし、それを公表することは、採用の基準を大学生たちに漏らしてしまうことになるので、できません。そこで、「社会人基礎力」の項目を使って社員の成長の促しをしたらどうか、という意見が出ています。「社会人基礎力」は一般的な基準なので、大学でも意識させたり育てたりできるわけです。それを使って、「当社が必要とするこの能力要素を高めてほしい」などと提示できるようになればとても便利です。


そういう企業の状況から考えると、大学も、「社会人基礎力」を活用し、さまざまな教育場面に取り込むことは、学生それぞれの将来に向けてのキャリア作りのためにも、また教育機関と企業の連携のためにも、大事になってくるのではないでしょうか。

 

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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