「社会人基礎力を育成する授業30選」特別シンポジウム

パネルディスカッション

<パネリスト>

愛知学泉大学 家政学部管理栄養士専攻教授 安藤明美先生

広島経済大学 興動館課長 友松修氏

同志社大学 政策学部教授 関根千佳先生

<モデレーター>

慶応義塾大学 名誉教授 花田光世先生

<審査員(代表)>

富士通株式会社 人材採用センター センター長 豊田建氏

明治大学 政治経済学部特認准教授 稲垣久美子先生

 

通常の授業やプログラムの中に社会人基礎力育成を取り込む工夫

花田光世先生
花田光世先生

花田先生

パネリストとしてもご登壇の、先ほどご紹介いただいた3大学は、それぞれ特徴的な取り組みをされています。パネルディスカッションの最初に、今回の審査にあたられた富士通の豊田様から講評を頂きたいと思います。

 

豊田建氏
豊田建氏

豊田氏

富士通で採用と人材育成を担当している豊田です。富士通では、内定から入社2年目までの若手社員の研修に社会人基礎力を取り入れています。社会で仕事をするということは、正解のないところに自分なりの答えを見つけていかなくてはなりません。その方法を身につけるためには、社会人基礎力育成が良いと考えています。

 

そういう中で、経済産業省の社会人基礎力育成事業に協力し、昨年までは社会人基礎力育成グランプリの審査員をしておりました。今回は「社会人基礎力を育成する授業30選」の委員として、189件の応募の案件を見せていただきました。

 

従来から、社会人基礎力を育成するには、社会に関わるPBL(Project Based Learning)をやらなければならないとか、企業出身の教員が必要だとかいったお話を大学の先生方からよくお聞きしましたが、今回の応募で、特に30選に選ばれた中には、日頃の授業の中で社会人基礎力を育成する取り組みをされている先生方が多数おられるのを拝見して、いろいろな工夫で様々な取り組みが行われているのを実感しました。

 

今回発表をしていただいた、3大学の取り組みについてコメントします。

 

最初に愛知学泉大学のプログラムにつきまして。愛知学泉大学では、授業への取り組み方のレベルを上げていくために、社会人基礎力を使っているのが素晴らしいと思いました。

 

2番目の広島経済大学の興動館の取り組みは、かねてから有名ですね。元々下支えになる元気力、行動力、企画力、共生力を「興動館科目」ということで座学をしながら、一方で実践の場として「興動館プロジェクト」を用意されているのは大変工夫された、また完成されてきた取り組みだと思います。

 

3番目に同志社大学の取り組みです。最近の若者が、自分達の力で社会を変えていきたいという思いは、自分達のことだけしか考えなかった世代に比べて大きな長所だと思っています。自分達の力で社会を良くしようということをテーマに挙げられているのは、素晴らしいと思いました。

 

花田先生

今の豊田様のお話にあったように、愛知学泉大学の取り組みでは、授業の中で学ばなければならない知識、高めなければならないスキル等は必ずしも規定の社会人基礎力とは完全にマッチしないかもしれませんが、広い意味での社会人基礎力の育成ということで対応しています。もしかしたら、こういったことを打ち出すのは、学内でいろいろ反発を受けられた中で作って来られたのではないでしょうか。

 

安藤明美先生
安藤明美先生

安藤先生 

やはり「社会人基礎力とは何か」という点について異論を唱えられる先生もおられます。そういった先生方は「プロジェクトで外に出て成果を上げて、それで終わりじゃないか」と言われますが、少し誤解しているのではないのかと思います。本学(愛知学泉大学)の場合、学生は、外に出て行くのは大好きです。クラブも、社会と繋がる活動も、人と話すことやお世話をすることも大好きなのです。しかし振り返ってみると「お世話をするのに必要な知識やスキルがきちんと身についていて、それを人に与えられるような人間になっているのか」というところが抜け落ちています。そのような知識・スキルや人間関係を大学の授業の中で培っていくべきなのですが、本学の学生は自分達ではそれができません。だからこそ、社会人基礎力というワードを使って、将来のビジョンのために知識・スキルを習得し、活用することを身につけさせようとしているのです。その辺りが理解されず、社会人基礎力の是非論になっているように思います。

 

社会人基礎力の育成を通常の授業の中で行うことの意味とは

 

花田先生 

広島経済大学と、同志社大学の両校に共通しているのは、「これはサークルでやればいいんじゃない?どうして授業でするのか」というような意見を乗り越えてここまでの活動に到達されていることだと思います。

 

授業として実施していく時に不可欠なのは、これらの体験の中で学んだり、吸収したり、実践したりしたものが、その次にどのように役に立っていくのかという見通しだと思います。学んだことを消化し、拡大して、自分自身が社会にどのように対応するかに気づきを与えるということへの支援だと思います。その辺りをどのように考えられているのでしょうか。

 

友松修氏
友松修氏

友松氏

確かに、本学(広島経済大学)の「興動館プロジェクト」は準正課という、ある意味中途半端な位置になっていますが、これには意味があります。社会科学系の学問を学ぶ時、知識の体系をきちんと学ぶ講義形式の授業は絶対必要ですが、学生は講義の必要性を感じていません。だから、興動館プロジェクトを通じて実践をすることで、自ら学ぶ必要性を感じて、何も言わなくても講義を自発的に受けるようになる、というサイクルを作りたいのです。だから、全部がプロジェクトであってはいけないです。プロジェクトでは得られない知識を講義で学ぶ、というのが重要です。

 

例えば、経営学科では簿記が必修ですが、しっかり学んでいなかった。しかし、カフェ運営プロジェクトに参加して、会計の担当になった。会計のためには簿記の知識は絶対必要だから、簿記をもう一度受けてみよう、ということになります。また、インドネシア国際貢献プロジェクトに参加して現地に行った学生が、「現地の言葉は要らないけれど、英語の必要性を感じたので、もう一度英語を勉強する」という例があります。そのように、学生が自発的に学ぶ方へ持っていこうというのがこのプロジェクトの役割です。講義がいかに重要であるかを学生に気づかせ、主体的に受講させたいという狙いで、こういう形になっています。

 

学生がこういったプロジェクト活動に参加することで、意識が変わるのは目に見えてわかります。友達に誘われて何となく始めたことが、卒業時には就職につながったという例もあります。例えば、子ども達を守ろうプロジェクトで子ども達の安全を守る、という活動から防犯に対する意識が芽生え、頑張って公務員試験を受けて、昨年は山口県警に1人、一昨年は広島県警に1人就職し、警察官になっています。そういった自分なりの思いを持って社会に出ていく学生が増えてきたのは確かです。

 

関根千佳先生
関根千佳先生

関根先生 

本学(同志社大学政策学部)の「アカデミック・スキル」というプログラムは、「基礎能力養成科目」としての正課の授業です。これまで10年以上、いろいろな先生が関わって様々な取り組みを行っています。鳥獣害の被害の多い京都で「猟師を育てる」という活動をしている先生もいます。環境政策の一環で、地域の清掃活動について調査をしたり、町の美化について学生に提言をさせている先生もいます。

 

私達の基本にあるのは、「問題は現場にある、解決策も現場にある」ということです。そして、現場でいろいろな課題にぶつかり、解決するためにはもっと知識が必要だと感じることが、いろいろなことを学ぶきっかけになると思っています。「この問題を解決するためにはITや法律の知識が必要かもしれない」と思ったら、猛然と勉強し始めるのです。

 

「アカデミック・スキル」は、問題意識を持つきっかけを与えるものだと思っています。問題意識を持った生徒は、問題を解決する方法を必死で考えるようになります。この課題を発見する力、解決策を考える力は社会に出てから必ず役に立ちます。卒業後の進路選択では、民間企業に就職を希望する学生もいれば、公務員になりたいという学生もいます。この取り組みを通じて、行政の仕事は大変だけどやり甲斐があることに気づき、選択の幅を広げた学生もいます。学生にとって、何かものを考えるきっかけはサークルであってもよいかもしれませんが、授業の中でそのような機会に出会うことは、もっと幸せな経験だと思います。むしろ、授業の中でこそ、社会の課題の大変さを知り、それをチームで乗り越える喜びを知ることで、仕事への意識が生まれるのではないでしょうか。

 

花田先生 

審査をしている時に常に思っていたことで、このディスカッションを通して少し考えてみたいと思ったことがあります。今回、選に漏れたプログラムは、社会人基礎力の向上を最終到達ゴールとして、育成に焦点を置いたものが多かったと思います。それに対して、30選に選ばれたプログラムは、社会人基礎力は押さえるけれども、それは「きっかけ」であったり、「手段」として活用したりしています。結果的に自分の視野や行動範囲を広げ、新しい学びを獲得して自分が成長するきっかけになるよう、プログラムが工夫されています。

 

ここで、審査員の稲垣先生にコメントをお願いしたいと思います。

 

稲垣久美子先生
稲垣久美子先生

稲垣先生

今回、審査員に加わらせていただいて、いくつもの気づきがありました。

 

愛知学泉大学は、マインドセットをさせるためのプログラムが確立されていて、成長のプロセスが見える可視化された授業をされているということで、私自身も学ぶことがありました。広島経済大学は、社会科学系の大学ですが、紹介された事例には調理・料理のプロジェクトが多いのが意外でおもしろく感じました。

 

同志社大学の取り組みは、私も産業界の出ですので共感する部分がありました。広く社会と連携しながら問題解決に向けてサポートしていく。社会の中での責任や自覚を促していると思いました。

 

取り組む先生の個性を生かしながら社会人基礎力の標準化を行っていくことの難しさ

 

花田先生 

ここで、プログラムの進化ということについてうかがってみましょう。広島経済大学の興動館プログラムは8年間行われてきていますが、その間どのような修正をされてきたのでしょうか。

 

それから、愛知学泉大学では、いろいろな授業の中で体系的に社会人基礎力の12の能力要素を使っておられますが、そのためには社会人基礎力の標準化の必要性が出てきます。標準化は必要だと思いますが、現場で出したい本人の個性から乖離したり、あるいは「私はこういうふうに定義したい」と勝手な解釈でやり始める先生が出てきたりする可能性もありますが、その点はいかがでしょうか。

 

友松氏 

平成18年に始めた時には20科目だった興動館科目が、現在は31科目になりました。4つだったプロジェクトは、今では19あります。プロジェクトはほとんどが、翌年度も継続しています。しかし、前の年にやったものをそのまま繰り返すのではなく、5つ事業計画があれば必ず1つは自分達で考えた新しいものを入れるのがルールです。これがなければ、審査を通ることができず、継続することはできません。継続すること自体、大きなチャレンジなのです。

 

さらに、こうやってプロジェクトを継続していくことで、学生同士の横の関係だけではなく、縦の関係もできてきます。30、40人の学生をまとめて会議をしていく先輩の姿を見て、後輩がああいうふうになりたいと思う。その繰り返しがうまく循環していること自体が、ひとつの財産だと思っています。

 

また、一番変わったのは教職員の意識です。平成16年に興動館の立ち上げの話をしていた時には、ほとんどの教員に反対されました。平成18年に社会人基礎力の提示があって、平成20、21年に経済産業省のモデル校となり、次第に学内に浸透していきました。そういったことが大学全体の改革につながり、このプログラムを中心にして、これをいかに全学生に伝えるか、ということになっています。立ち上げ当初からは見れば、嘘のように変わりました。

 

さらに、学生の就職も変わりました。もともと学生の就職率は地元ではよいほうでしたが、プロジェクトを経験することで、就職の質が本当に良くなりました。

 

安藤先生 

私達も、平成19、20、21年の経済産業省の育成プログラムのモデル校になりましたが、その間に先ほど花田先生からご指摘のあったような課題が見えてきました。

 

そこで、本学独自の社会人基礎力の標準化を行い、12の要素について5段階の基準を作成しました。そこでは、例えば管理栄養士を目指す学生に必要な主体性とは何か、ストレスコントロールとはどういうものかということを考えました。

 

そしてモデル校が終わった後、社会人基礎力推進委員会というものを学内で立ち上げて、そこでもう一度、家政学部の子どもの生活専攻、家政学専攻、管理栄養士専攻の3専攻それぞれの特色を生かして、専門ごとに基準を作りました。これで大枠はできました。次年度は、教員がいかに社会人基礎力を育成していくかという点がまだバラバラなので、大学全体で育成期準を作っていくという取り組みを予定しています。

 

関根先生 

次年度のシラバスを書く段階で、京都府に「来年度はこのようなプログラムを実施したいので協力してほしい」と依頼します。しかし承諾を得ても、お役所は担当が変わるので、実際に始める際にまた一から説明しなければならないこともあります。しかし、京都府にとってもメリットはあるということを説明して、15週間お付き合いいただくことをお願いします。「売り手良し、買い手良し、世間良し」という三方良しの中で大学が貢献できることを明確にしながら、「メリットがあるので付き合ってください」と説得します。もちろん大変なことですが、それを乗り越えて行くのが、教員自身の社会人基礎力の発揮のしどころです。

 

12の能力要素に限定せず、大学の個性に応じて社会人基礎力を解釈し伸ばす工夫も必要

 

花田先生 

社会人基礎力で12の要素がありますが、それ以外に、「うちはこういう項目を大事にしている」「定義された社会人基礎力の中で、ここは自分達なりに変更している」といったこともあると思います。広島経済大学は、「人間力」という言葉を使われていますが、人間力と社会人基礎力とはまったく一対一の関係ではないと思いますが、この点はいかがでしょうか。

 

友松氏

広島経済大学の「人間力」の定義は次の通りです。

(1) 自分の心の壁を取り払い、自分をさらけ出すことができる勇気

(2) 相手の心を推し量り、相手にうまく働きかけることができる能力

(3) 個人の持つ諸能力や、人を引き付ける魅力を発揮して、人と共に何かを成し遂げる力

ご質問の人間力と社会人基礎力との関係ですが、人間力は、社会人基礎力というもの以前に個人が持っていなければいけないものであると思います。本学の理事長、学長が「焚火にあたる人間ではなく、自分が焚火になって周りの人を暖めよ」という話をよくしますが、「人間力」はそういうものだと思います。

 

安藤先生 

12の能力要素を動かすということをいかに学生に喚起しても、先程から言われているように、人間力、人間性というものが土台でしっかりしていないと、いくら知識があっても社会貢献はできないと思います。本学の理念の「まごころ、奉仕、感謝、豊かな人間性」がそこにプラスされることが重要だと考えています。

 

関根先生 

「人間力」が何かといわれると難しいですが、「判断ができるだけの冷静に物事を見ることができる能力」だと思っています。仕事の現場では、全く同じ仕事が回ってくることはなく、むしろすべての仕事が新しいものであり、それに対して、正確な判断が求められるのです。社会というのは、これまで高校でやってきたような、どこかに問題集があり、正解があるという世界ではないのです。それを学生に理解してもらうのが一番重要だと思っています。

 

私はよく学生に「Originに会え、Originになれ」と言っています。全く新しい技術や仕組みを、ゼロから創り出した起源の人に会うことで、本人も、いつかはゼロから一を創り出す人になってほしいのです。前例のない困難にぶつかったときに、新たなソリューションを提示し、的確な判断ができなければ社会人としてやっていけません。いろいろな人に会って、様々なことに気づき、学生に自ら学んでほしいと思っています。

 

「アカデミック・スキル」の実施にあたっては、特に社会人基礎力を意識していたわけではありませんが、重なる部分が非常に多いことに気づきました。大学の授業とは、基本的にはすべて、学生に荒波を越えていく力をつけることを目指しているのだと思います。

 

花田先生 

学生が社会人基礎力をどれだけ身につけているかというと、それぞれ山あり谷ありといったバラ付きがあるかと思います。例えば、コミュニケーションの中で、傾聴することに関しては自信があるのに、発信力や一歩踏み出すということに対しては自信がないという感じです。ですから、大勢のグループの中で、メンバーとして部分的には発信することはできても、皆を引っ張ったり、新しい事を作っていくということはまだ十分にはできていない。そういった状況もふまえて、自分達の大学や学部・学科の特性を考慮しつつ、社会人基礎力のどこに重点を置いて育成するのかというメリハリをつけることも大事だと思います

 

それぞれの大学が独自の取り組みの中で、社会人基礎力育成の試みをさらによいものにしていただきたいということを、最後にお願いしたいと思います。

 

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