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『看護職としての社会人基礎力の育て方 専門性の発揮を支える3つの力・12の能力要素』(箕浦とき子・高橋 恵 編:日本看護協会出版会) 

岸 千束(きし ちづか)

書籍について詳しくはこちら

http://www.jnapc.co.jp/products/detail.php?product_id=3114


『社会人基礎力育成の手引き』 (経済産業省著,経済産業省経済産業政策局産業人材政策室編:朝日新聞出版,2010)には、経済産業省が示す社会人基礎力の《3つの能力・12の能力要素》の基本的な事柄が解説されています。


社会人基礎力の定義は「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」、個々の能力要素は、たとえば〈発信力〉では「自分の意見をわかりやすく伝える力」などと示されています。


これらは、様々な仕事を携わる社会人に“共通して”求められるものとして示されているものです。

 

業種や職種、職場が違えば、求められるものも違う


他方、実際の社会には、多くの職業や職種があります。会社や所属組織・部署などの性格、業種、事業規模、目的やめざす方向性によっても、その職場で求められる基礎力は異なります。


たとえば、法律の専門家である弁護士と、機械や電気、土木などの技術の専門家であるエンジニアでは、必要な専門知識・技術が異なるだけでなく、それらを活かすために求められる能力・資質の比重の置き方や、対象とする人・事柄、具体的な行動などが異なります。そのため、それぞれに求められる社会人基礎力の定義や意味づけを、経済産業省の大枠をもとにカスタマイズし、さらに具体的な行動例を挙げ、それを指標として育成・評価していくことが重要となります。

 

職場でも、学校でも


学校でも、たとえば先の弁護士をめざす場合のように、どんな職業や職種をめざすかによって、学生にうちに身につけておきたい基礎力を明確にしておき、育成・評価することがとても有益だと思います。これは、『社会人基礎力育成の手引き』でも述べられており、岐阜大学医学部看護学科のモデル事業の取り組みもこれにあたります。

(→岐阜大学医学部看護学科について詳細はこちら


同様に、たとえば職業系の、専門職などをめざす学部や学科などであれば、その職業に就くにあたって現場で必要とされる基礎力を、また職業系以外の学部でも、たとえば営業系、販売系、事務職系などについて様々な業種を想定して試みてみることも可能かもしれません。

 

看護師と看護学生の場合


看護師は、医師や薬剤師などと同じく、医療に携わる専門職のひとつです。そのため、その専門性が医療現場でうまく発揮できるための基礎力を育成・評価する必要があります。


看護の分野ではもともと、看護師に必要な姿勢や態度の育成・評価に長らく取り組んできました。しかし「看護師としての自立・自律した姿勢」など、抽象的なことばで表されることも多く、育成・評価に難しさがありました。看護師をめざす看護学生についても同様です。そこで、『看護職としての社会人基礎力の育て方 専門性の発揮を支える3つの力・12の能力要素』(日本看護協会出版会、2012:以下、本書)では、同省の示す社会人基礎力の定義や意味づけ、具体的行動を参考に、看護師と看護学生の双方に必要な基礎力について、実際にカスタマイズを試み開発された育成・評価ツールを示して、他の病院や学校でも活用していただけるようわかりやすく解説しました。

 

定義のカスタマイズ


本書では「看護師にとって」社会人基礎力がどういうものかの定義を示しました。看護師は、様々な患者さんや家族と接し、多くの職種やスタッフと交わりながら“チーム”で医療を提供する仕事です。そこで、定義を「幅広い年代にわたり、多様な価値観をもつ患者・家族、地域の人々、同じ看護職異なる専門性をもつ多職種などと交わり、適切なコミュニケーションをとりながら看護実践をしていくための基礎的な力」とカスタマイズしています。


他の職業・職種では、<太字部分>を置き換えてみるとイメージしやすいかもしれません。あくまでもイメージですが、たとえば先の弁護士であれば「クライアント/依頼人」「同じ弁護士や検察官、警察関係者、事案の関係者」「必要な情報収集や事実関係の整理、利害関係の調整などを行いながら弁護活動を」などと置き換えてみるとわかりやすいと思います。

 

各能力要素の意味のカスタマイズ


また、各能力要素もカスタマイズして示しました。先の〈発信力〉でいうと、看護師が医療現場で働いていくうえで必要な発信力とは、他の職種に対して、看護師の立場から、患者さんに起きている問題について自分の意見を論理的に整理して伝えたり、患者さんや家族に、理解しやすいようにその反応をみながら、スピードや言葉遣いに配慮し、筋道を立てて伝えることができる力のこと、と考えることができます。また実習時の看護学生にとっては同様に、指導者・教員の指導場面やグループメンバーとの話し合いの場面で、自分の意見を論理的に整理して、相手が理解しやすいようにその反応を見ながら、スピードや言葉遣いに配慮し、筋道を立てて伝えることができる力、ととらえることができます。


この場合も、たとえば<太字部分>の対象や目的語を置き換えてみるとイメージしやすいかもしれません。

 

具体的な行動例(行動指標/評価項目/行動目標)を挙げる


本書で病院の例を紹介くださった聖マリアンナ医科大学病院看護部は、具体的な行動を看護師の習熟段階に応じてラダー表を作成、設定しています。たとえば、中堅クラスでは次のような行動指標が設定されています。


・患者・家族や同僚、多職種の感情を害することなく自分の考えを伝えている


しかし、医療現場に入ってきたばかりの新人看護師にいきなりこれを求めることは難しいのが実情です。そこで、入職3ヶ月目の段階では


・プリセプターに心配事やわからないことの相談をしている


という行動指標を<発信力>の行動指標としています。


学生については、同じく岐阜大学医学部看護学科が、看護学実習(インターンシップ)時の行動指標として

 

・指導者や教員に自分の考えやその日に行う予定の計画を伝えることができる
・カンファレンスで発言することができる


などを<発信力>の行動指標に挙げています。

 

学校で、職場で、カスタマイズにチャレンジする


本書では、看護師と、看護師をめざす学生についての、社会人基礎力のカスタマイズの試みと、実際の評価・育成ツール開発例を紹介、「看護職としての社会人基礎力の育て方」を提案したものです。看護の場では、本書の内容を実際に取り入れ、新人看護師や経験を重ねた看護師の人材育成・能力評価などへの活用が始まっています。「思いのほか、新人には好評」「評価する自分たちの視点が明確になる」などの反応もいただいています。これは、経済産業省が社会人基礎力を提示するにあたって、まさにねらいとしていたところだと思われます。


先にも述べたように、これは看護師にとどまらず、様々な職業・職種などに活用できます。高校、専門学校、大学、大学院などで、実社会の職場で必要とされる基礎力を“可視化”し、育成・評価指標として活用されてみてはいかがでしょうか。

〇岸 千束(きし ちづか) 日本看護協会出版会 編集者

1962年生まれ。広島県出身。大学卒業後、メーカー勤務を経て出版の世界に。おもに看護師・看護教員向け雑誌・書籍の企画・編集に携わる。2007年より現職。この間、一般向け教養書(NHKテキストなど)、児童書の編集・執筆などにも従事。

 

 

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