「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」に参加して考えたこと

アクティブラーニング以上に、社会につながる姿勢が生み出す、高校の教育力と社会的意義

〜産業界になかなか理解されない、工業高校や教科「情報」の存在

神谷弘一先生 全国高等学校長協会/愛知県立豊田工業高等学校長

第2回 大卒が設計、高卒が試作、両者の理工系人材の協力によって「開発」が進む

円卓会議で、工業高校を視野に入れてほしいと言い出しにくかったのは、会議のメンバーが各立場を代表する大卒者といった層の方に焦点が当たりがちで、それ以外の学歴が、社会で果たしている役割をお伝えしにくい、お話ししても理解されにくいだろうと考えてしまったからでもありました。

 

私が思うに、工業系も含めて大卒の理工系人材は「考える人」です。しかし、考えるだけでは製品になりません。ものを「作る人」が必要です。そこには、やはり工業高校生の力だと思います。モノづくりに大変大事な、理工系大卒と工業高校卒業生の繋がりが、今の日本社会では、皆さんあまり意識されていないと感じますね。

 

機械系大学生は、図面を書くことはできますが、それをカタチにできません。ところが工業高校生は図面をもらうと、ものを作ることができます。そこに企業の製造現場での決定的なものづくりにおける“差”があると思います。

 

工業高校生は、確かに、数学、物理など普通科目の部分で、知識の底が浅いと感じます。当然、履修面で、普通科目の単位数の制約はあります。しかし、逆に、数学や物理がものづくりの本質かと言うと、どうでしょうか。だから今後は、その両方を上手く学んでいける仕組みをどう作るかも課題ではないでしょうか。高等専門学校(高専)の存在が、指摘されますが、高専は、どちらかというと、図面を書く人材を育てていると思いますので、やはり工業高校として、その課題にどう応えるかは大きいかと思います。

 

 

アクティブラーニングは、昔からの当然の教育

 

工業高校の授業カリキュラムの優れた点を一言触れておきましょう。工業高校生は、基本、大学進学はせず、卒業と同時に就職します。進学に関係がないからこそ、普通科目でも勉強の本質を教えてくれる授業を行うことができます。例えば、本校では国語の時間で、プレゼンテーションを行っています。プレゼンテーションソフトを使えるようになるといった、小手先のことでなく、国語表現として生徒たちが、卒業後、自分の考えをどう伝えるかを教えるんです。英語の授業では、機械系の専門用語の入った英会話テキストを先生が自前で作り、英語の授業を行っています。その分、英語の先生は大変ですが(笑)。

 

今、アクティブラーニングが重要だと言われていますが、何のことはない、工業高校では、ずっと前からやっています。それは、社会、産業に、いい意味でつながっているからです。アクティブラーニングが大事とかではなく、社会や産業がいい意味でつながり、教育目標としても見えているからです。だから教育も生き生きし、人も育つ、と考えております。

 

だからこそ、高卒でも理工系人材として活躍する出身者がたくさん輩出されているのだと思います。

 

ですから、工業科や情報科の高校を経ての理工系人材育成というキャリアは、より注目されていくべきで、こと産業人材として考えるならば、大卒や高専卒を前提にする必要はないと思われます。

 

中学卒業段階での進路選択も、普通科高校を前提に考えるのではなく、生徒の関心によっては、より充実した学びを受けられる工業科や情報科など専門高校は、もっと注目されても良いのではないでしょうか。

 

 

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