この仕事をするならこんな学問が必要だ<精密化学製品・機器>

最先端の医療画像を提供するX線撮影システムや医療IoTを実現 〜写真フィルムやデジタルカメラで培った材料工学や画像工学などを基礎に

富士フイルム株式会社

R&D統括本部 メディカルシステム開発センター

鍋田敏之さん

※2017年取材。所属・肩書は取材時のものです。

第2回 世界初のX線のデジタル撮影装置を開発。材料工学やITなどの知見を結集しより鮮明な画像に

私自身は長い間、メディカルシステム開発センターという部署で、X線撮影装置、すなわちレントゲン撮影装置の開発に携わってきました。皆さんが、学校の健康診断で胸部X線検査を受けるときの装置です。病院で使われる最先端の装置は写真のようなものです。

 

富士フイルム超軽量移動型デジタルX線撮影装置「CALNEO AQRO」(カルネオ アクロ)
富士フイルム超軽量移動型デジタルX線撮影装置「CALNEO AQRO」(カルネオ アクロ)

世界初のデジタル化に成功

 

X線撮影装置は、X線を発する装置と、身体に密着させて身体を透過したX線を受光する装置(胸部X線検査のときは、胸に当てる部分)に大きく分かれます。X線撮影は、新興国などでは、まだレントゲンフィルムを使用しているところもありますが、大半はデジタル化されています。当社はレントゲンフィルムに替わる特殊な感光プレートを用いた世界初のデジタルX線画像診断システムFCR(Fuji Computed Radiography)を1981年に開発し、世界初のデジタル化に成功しました。アナログのレントゲンフィルムにあたる「イメージングプレート」という蛍光無機材料の受光デバイスにX線を照射しX線画像情報を記録します。続いて、イメージングプレートを装置で読みとり、診断目的に合わせて最適な画像処理を行うことで、高精度のデジタル診断画像を生成するシステムです。

 

続いて開発したのが、現在主流となっているDR(Digital Radiography)というシステムです。これは、X線画像診断装置に内蔵されているフラットパネルディテクターが、X線を感知すると電気信号を発生し画像を形成します。このシステムは、イメージングプレートに一旦情報を記録することなく、被写体を通過して照射されるX線エネルギーを電気信号に変換し、その電気信号をコンピュータが検出して画像化するシステムです。

 

 

受光装置の表面制御で、鮮明な画像を実現

 

もう少し技術を説明すると、フラットパネルディテクターは、シンチレータ層(X線を受けると光を発する蛍光材料)とTFT(Thin Film Transistor)パネルという受光素子が並んだパネルからなります。シンチレータは、Csl(ヨウ化セシウム)という無機化合物で、蒸着(高熱にして気化させて、TFTパネル上に膜を作る技術)により、柱状の結晶を成長させて層を形成しています。シンチレータ層を作るには、蛍光材料を粉々に砕いて塗る方法もあるのですが、これだと小さい結晶がばらばらな方向を向いているため、光がまっすぐ通らず、画像がぼけてしまいます。ところが、柱状結晶が整然と並んでいる膜では、光が柱状結晶の中をまっすぐに通り、鮮明な画像を得ることができます。

 

そしてこれまで、TFTパネルは、デバイス(装置)全体の一番下に配置していましたが、光は下に行くほど減衰して暗くなってしまいますので、私たちはTFTパネルをX線が入ってくる側に配置して、光の信号を受け取るようにすることで、より鮮明な画像を得ることに成功しました。発想は単純なのですが、この技術で特許も取得しました。

 

TFTパネルをデバイスの下に配置した光学イメージ(左)と、表面に配置した光学イメージ(右)
TFTパネルをデバイスの下に配置した光学イメージ(左)と、表面に配置した光学イメージ(右)

 

このようにTFTパネルには、物性物理、無機材料・有機材料等の材料工学、ナノテクノロジー、光学、半導体デバイス、電子回路、ITなど様々な学問分野の技術が詰まっています。

 

そして、これらの技術を搭載したのが「カセッテDR」という製品です。次回は「カセッテDR」についてお話しします。

 

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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