「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」に参加して考えたこと

アクティブラーニング以上に、社会につながる姿勢が生み出す、高校の教育力と社会的意義

〜産業界になかなか理解されない、工業高校や教科「情報」の存在

神谷弘一先生 全国高等学校長協会/愛知県立豊田工業高等学校長

7月に行動計画公表へ   〜裾野の拡大としては、中高向け「新工学プログラム」開発に加え、進路指導の問い直しまで

 

「理工系人材育成に関わる産官学円卓会議」は、初中等教育も含めた、モノづくりやイノベーションを担う、産業競争力の中核を担う人材育成を、小学校から産業界まで、全体として考えようとする会議。2015年5月に設置され、2016年5月の「第8回の会合」では、7月に示される予定の2020年までを意識した「行動計画骨子」に加え、「行動計画に盛り込むべき取組」も示され、話し合われました。

  ⇒理工系人材育成に関する産学官行動計画骨子(平成28年5月6日案)はこちらから

 ⇒理工系人材育成に関する産学官行動計画に盛り込むべきと考える取組について

 (委員意見整理ペーパー、第8回平成28年5月6日資料4)

 

 

そこでは、「企業から大学等への投資を今後10年間で、3倍に増やす」ことなど、大学・大学院段階での課題や行動計画が、数多く提示されると同時に、初中等教育段階での課題や行動計画についても、「理工系人材の裾野拡大」の一環で示され、話し合われました。

 

例えば、「工学教育についての中高生に対する教育プログラムの開発や、大学・企業などの研究者による指導」、「リタイアした技術者を登録する学校支援のためのボランティア組織の設置の促進」などです。

 

そんな中、新たな取組ではなく、そもそも学校の既存のシステムのあり方として、進路指導での生徒の興味・関心や産業界の現状等への配慮についても指摘されました。そして、とりわけ「中学校段階で、工業科・情報科も意識に入れた進路指導の必要性」も指摘されました。

 

そのことを特に指摘したのは、高校の代表委員である豊田工業高校の神谷弘一校長です。

 

神谷校長は、理工系人材育成としての不可欠な存在としての工業科を指摘すると同時に、その工業科には、実際の産業や、仕事にも触れているゆえに、むしろ、生き生きした先進的な教育が行われていると語られます。

 

その神谷校長に、円卓会議への参加を通して考えられたことや、さらに提示する必要があると考えられている教員養成のあり方などについて、お話しをお伺い致しました。

 

 

第1回 知られていない工業高校の高いニーズと、有効なキャリアパス

私は、理工系人材を育てようという円卓会議の議論の中で、どうして工業高校がみなさんの視野に入ってこないのか、残念でなりません。例えば、中3の時から、将来は工学系の仕事に就きたいと思っている生徒は、高校は工業高校へという選択肢があってもいいと思います。しかし周りの大人は、いや、いい大学に行くことしか道がないよと言います。小学校、中学校時から有名進学校、一流大学、一流企業を目指す、偏差値偏重の意識から脱却できないことが大きいのではないでしょうか。

 

ひょっとして、工業高校の卒業生は、町工場で働くというイメージが先行するのでしょうか。そうした感覚は、私には理解できないのです。私自身、高校に進学するとき、工業高校しかないと思っていましたから。というのは、中学時代からエンジニアになりたい夢を持っていて、工業高校へ行けば、ものを作る知識がついて、エンジニアになれるだろうと思っていたんです。しかし工業高校を卒業する時点で、日本経済はオイルショックから立ち直っておらず思うような就職ができなくて、結果的に工業系の大学に行きましたが、そういう若い時代の経験があるからこそ、やっぱり子どもたち自身が何をしたいのか、夢を持って進路を決めなければダメなんだよと小中学生に言いたいのです。

 

本校の卒業生の進路のデータを見ると、今年、トヨタ自動車(株)に20名が採用になりました。機械系の大学でも1大学でこれほど大量採用されていません。しかも配属先は皆、設計・研究・試作・保全といった、モノづくりの中核を担う人材です。

 

そして、これら工業高校が担う人材輩出は、ニーズも高く、もっと欲しいと言われています。まだまだ足りないようなのです。工業高校で育成する人材も含めて、理工系人材を考えた方がいいのではないでしょうか。

 

大卒と工業高校生卒の生涯賃金のデータを比較すると、ちょっとデータは古いかもしれませんが、大卒で大手企業に就職した人の生涯賃金は約3億円と言われます。大卒で中小企業に就職した人の場合、約2億5000万円。これに対して工業高校から大手企業に就職した場合のそれは2億8000万円くらいになります。

 

費用対効果のみで表した数字ですが、そこに現実的な判断をしてもいいのではないでしょうか。その点では親御さんにもっと意識を変えてもらいたい思いです。やはり子どもにとって、親の意見は影響が大きいですから。

 

また、いわゆる既定路線のキャリアパスを経てきた教師自身にも、有名な大学に入るための進学校(高校)に行かせるのが第一、といった同様の固定観念がぬぐえないことも問題かと思います。

 

運営:リベルタス・コンサルティング

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