「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」

理工系人材育成に関する産学官行動計画骨子

平成28年2月25日案)

はじめに

少子高齢化、資源・エネルギー問題など、様々な課題が存在する中、国際競争を勝ち抜5 くため、昨今イノベーション創出の必要性がますます高まっている。そのような中、理工系人材は、大学を含む研究機関、国際機関や行政、産業界などの様々な分野で活躍することが期待されており、特に産業界においては、イノベーション創出に欠くことができない存在として、人材需要が高まっている状況である。

 

しかしながら、海外企業では、イノベーション創出の担い手として理工系人材が多方面で活躍しているにもかかわらず、我が国においては、人材の流動化が進んでいないこともあり、産業界における能力と意欲に応じた適材適所での理工系人材の活躍促進が課題となっているため、理工系人材の質的充実・量的確保に向け、戦略的に人材育成に取り組んでいく必要がある。

 

産業界で活躍する理工系人材を戦略的に育成するため、「理工系人材育成に関する産学官円卓会議(以下「円卓会議」という)」において、これまで議論してきた3つのテーマについて、現状課題の認識を共有した上で、産業界で求められている人材の育成や育成された人材の産業界における活躍の促進方策等として平成28年度から重点的に着手すべき取組について、産学官それぞれに求められる役割や具体的な対応策を提示する。

 

なお、理工系人材が活躍する世界は、予想を超えた速度で革新が起こり、10年後、20年後には新しいビジネスや市場が誕生するなど、人材の需要も常に変わるものであることを念頭に置いて、人材育成を推進していくことが必要である。このため、本行動計画については、毎年度、円卓会議において進捗状況を確認し、必要に応じて改訂を行うこととする。

 

産業界のニーズと高等教育のマッチング方策、専門教育の充実

<現状課題認識>

円卓会議において、例えば情報技術分野など人材が不足している産業分野があることや、産業界は、専門分野に特化した知識・技術だけでなく、基礎的知識や教養を必要としており、企業は採用した学生に対して再教育している実態があることが示された。競争環境の変動に伴い変動しうる産業界のニーズと中長期の視点で人材育成を図る高等教育を完全にマッチさせる必要はないものの、中小企業が必要とする分野も含め産業界のニーズをしっかり把握した上で、マッチングを進めるような取組を強化していくことが必要であることが共有された。

このような現状を打開するため、具体的には以下のような対応策を産学官で進めていくことが必要ではないか。

 

(1)産業界のニーズの実態に係る調査に基づく需給のマッチング

○産業界のニーズの実態に係る調査の実施、継続的な人材需給の状況に係るフォローアップの実施

産業界のニーズと高等教育のマッチングを行うに当たっては、マクロな観点からの、需給の現状把握と中長期の将来予測を行う必要がある。そのためには、産業界のニーズの実態に係る調査(産業界の人材ニーズ実態調査、就職状況調査等)を行い、大学等が状況を把握することによって、需給をマッチングすることができると考えられる。

 

また、今後の科学技術の進展により、既存の産業構造や技術分野の枠にとらわれず、予測できないような新しいビジネスや市場が生み出されることによって産業界のニーズが変化し、人材需要が変化する可能性があることから、中長期の将来予測を正確に行うことは困難であると考えられる。

 

このため、例えば、円卓会議を産学官の恒常的な対話の場として維持し、継続的に需給の状況についてフォローアップすることが必要ではないか。あるいは、シンガポールやイギリスのように常設のスキームを構築することもあり得る。

 

○成長分野を支える情報技術分野(セキュリティ、AI・ロボティクス、ビッグデータ分野等)等に係る産学協働した人材育成の取組の強化

 

○産業界が人材を必要とする分野に係る寄附講座の提供や奨学金の給付の検討

調査結果を踏まえ、産業界から大幅に人材が不足しているとの指摘のある成長分野を支える情報技術分野(セキュリティ、AI・ロボティクス、ビッグデータ分野等)等について、産学協働して実践的な教育を行うことにより、情報技術分野等の人材育成の取組を強化することが必要であると考えられる。

 

また、産業界が大学等に対する寄附講座の提供やその分野に進学する学生に対する奨学金の給付を戦略的に行うことにより、産業界が人材を必要とする分野の人材確保につながることが考えられる。

 

(2)産業界が求める理工系人材のスキルの見える化、採用活動における当該スキルの有無の評価

○産業界が求める理工系人材のスキルの見える化、産業界の採用活動における当該スキルの有無の評価の強化

産業界が理工系人材に求めるスキルを見える化することにより、学生の学業に対するインセンティブが増大し、学生の履修行動が変わることにつながると考えられる。

 

具体的には、産業界がそれぞれの分野ごとに必要とする理工系人材が有すべきスキルを見える化し、学生に必要な科目の履修を促進すべきと考えられる。また、産業界の採用活動における当該スキルの評価基準を明確にするとともに、学生自身のスキルの見える化を行うことにより、スキルの有無の評価を強化すべきと考えられる。

 

(3)産業界のニーズを踏まえたカリキュラムの提供

○教養教育・専門教育の基礎となる教育の充実、分野横断的な教育プログラムの提供、研究室・専攻・大学の枠を超えた人材・教育交流等の取組による人材育成の推進

 

○実践的な内容・方法による授業の提供、大学等と企業との対話の場の設定等の促進

 

○大学等における社会人の学び直しの促進

社会では様々な分野の課題が複雑に絡みあった事案に直面する機会が多々あるため、特化した専門分野に偏ることなく、教養教育、数学や物理、情報などの基盤となる分野の基礎教育の充実、文理を超えた分野横断的な教育プログラムの提供、研究室・専攻・大学・機関の枠を超えた人材・教育交流等を促進すべきと考えられる。また、MOOCのようなICTを活用して教育内容を発信する取組を促進し、産業界及び大学における教育プログラムの補完として活用することも有効と考えられる。

 

専門分野の枠を超えた俯瞰的な視点を持ち、修得した知識・技術を社会に応用できる実践的・専門的な能力を育成するため、実践的な内容・方法による授業の提供(産業界から講師を派遣・登用、PBL、企業の実例を用いた演習、インターンシップ(有給インターンシップ(ワークプレイスメント)を含む)等)、大学等と企業との対話の場の設定等を促進すべきと考えられる。

 

高度人材の育成に向けた専門教育や、幅広い教養、リーダーシップ、新しい価値を創造する能力、職業実践的な知識やネットワーク構築を目的として、大学等における社会人の学び直しを促進すべきと考えられる。

 

産業界における博士人材の活躍の促進方策

<現状課題認識>

博士人材は、大学を含む研究機関、国際機関や行政、産業界など様々な分野で活躍することが期待されているにもかかわらず、近年、博士課程(後期)修了後の進路が見通せない等の理由から、優秀な若者が博士課程(後期)に進学しなくなっている「博士離れ」の状況が懸念されており、このような状況は、我が国の研究開発力や国際競争力の低下をもたらしかねず、優秀な学生が希望を持って博士課程(後期)へ進学を決意できる環境をつくることが重要であるとの意見が示された。さらに、リーダーに必要な能力が身についていない等の意見も示された。

 

博士人材に対しては、多様な進路を産学官一体となって広く描くことが重要である。このため、産学共同研究を通じて、科学技術と社会や産業界とのつながりを理解してもらう取組等が重要であることが指摘された。また、中長期研究インターンシップや「博士課程教育リーディングプログラム」等の先進的な取組の成果が見られつつあるが、産業界において博士人材が活躍するための取組の充実が必要であるということが共有された。

このような現状を打開するため、具体的には以下のような対応策を産学官で進めていくことが必要ではないか。

 

(1)産学連携による博士人材の育成の充実

 

円卓会議の議論において、博士人材の育成については産学共同研究や中長期研究インターンシップの推進や「博士課程教育リーディングプログラム」が有効ということで意見が一致した。一方で、現状においては、産学共同研究における学生の関わりが弱く、産学共同研究を通じた人材育成が十分になされていないことから、以下の対応策が有効と考えられる。

 

1.産学共同研究を通じた人材育成の推進

○教員や博士課程(後期)学生の人件費等を含めた産学共同研究費の拠出の検討、営業秘密ガイドラインの改訂

企業が我が国の大学等に拠出する1件当たりの産学共同研究費はその8割以上が300万円未満であるとともに、いつまでにどのような成果を出すのかが曖昧、といった背景もあり、現在の産学共同研究は、本業に支障が出ない範囲での小規模な取組にとどまっているものが多数を占めると考えられる。

 

本格的な産学共同研究の実施に向けては、産学共同研究に携わる教員の時間を確保し、一定期間に成果を出すための大学側のコミットメントを高めることが必要であることから、例えば、クロスアポイントメント制度を活用することが有効と考えられる。

 

大学と企業の「組織」対「組織」による本格的な産学共同研究を拡大するとともに、そうした場に、博士課程(後期)の学生を一人前の研究者として参画させることは、高い教育効果を生み出すものと期待される。その際、企業と大学における個別の契約の中で、当該共同研究に参画する学生に対して生活費相当額の給与を支援するなど充実した経済的報酬を措置していくことも重要である。なお、営業秘密や学生の発明の取扱いが困難という懸念があるが、海外では、企業は学生と雇用契約を結ぶことで営業秘密等について適切に管理されていると考えられ、学生が産学共同研究に参加しているケースが多い。

 

我が国においても、営業秘密等について、(1)適切な管理方法を明記するなどの「大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン」の改訂や(2)産学共同研究契約における共同研究費への大学が学生を雇用する経費の計上を通じて、適切に管理することが有効と考えられる。

 

さらに、産学共同研究を行う企業が、大学が学生を雇用する経費を含めた共同研究費を措置することにより、学生に対する処遇を充実させることは、優秀な学生を国内外から我が国の大学院へ引き付けることにもつながると考えられる。

 

これらの取組を通じ、産業界は個々の博士人材の能力を見極めた上で、従来型の雇用慣行にとらわれることなく、採用や能力に応じた適切な配置・処遇等を進めていくことが有効と考えられる。

 

なお、学生の就職活動等に活用できるよう産学共同研究に参画した実績や成果を提示できる方法を工夫することも一案であると考えられる。

 

またポスドクについても、人材の多くが有期雇用等の不安定な状態にあり、産業界への流動が進んでいないことから、産学共同研究への参加を一層促進する必要がある。

 

2.中長期研究インターンシップの普及

○中長期研究インターンシップへの企業及び大学の更なる参加の促進

企業内の研究活動に博士人材を関わらせることで教育を行う中長期の研究インターンシップについては、教育効果が高く、産業界の評価も高いという点から推進することが有効である。

 

研究インターンシップのテーマについては、産学共同研究に至る以前のアイデア段階の未成熟なものにおいても気軽に進められるようになっており、実際にインターンシップを実施した後に産学共同研究につながっていく事例も出てきている。そのため、産業界としても、オープンイノベーションのきっかけを見つける、敷居低く産学連携を始めることができる、などのメリットが指摘されている。

 

「(一社)産学協働イノベーション人材育成協議会」が行うインターンシップ事業には、多くの大学が参加しており、実績も出始めていることから、本事業への企業及び大学の更なる参加を促進していくことが有効と考えられる。

 

3.「博士課程教育リーディングプログラム」の促進

○「博士課程教育リーディングプログラム」における産学の協力の促進

産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーを養成することを目的に平成23年度から開始された「博士課程教育リーディングプログラム」は、産業界からの講師・メンターの派遣・登用、長期インターンシップの受入れなど、多様な協力が積極的に行われている。本プログラムをはじめ、各大学院の取組に対して、引き続き、産業界からの協力が促進されることが有効と考えられる。

 

4.新規分野の開拓における博士人材の活躍促進

○新規分野開拓における博士人材の活躍機会の促進

新産業を興すような分野の開拓において、博士人材が活躍することを促進するために、ベンチャー企業経営者と学生の交流等の機会を創出することが重要と考えられる。

 

(2)研究開発プロジェクトを通じた人材の育成

○研究開発プロジェクトを通じた人材育成の実施

中長期的なシナリオ及びその出口を見据え、学生にプロジェクトマネジメントやグローバル対応力等を身に付けさせるために、チャレンジングな性格を有する研究開発プロジェクトや、分野の枠を超えて横断的に取り組む研究開発プロジェクトの実施を通じ、人材育成を図ることが有効と考えられる。(例:ImPACT、SIP)。

 

理工系人材の裾野拡大、初等中等教育の充実

<現状課題認識>

円卓会議において、次世代の理工系人材の裾野拡大は、産業界にとって、将来の競争力の確保という観点からも重要であるが、学校の授業や設備などでは必ずしも魅力を感じさせるのに十分でない、理科の得意な小学校教員や実験の際の人員、教員の最新知識が不足している、より多くの子供や女性に理工系の職業や進路への興味・関心を持ってもらうためキャリアパスを見える化する取組が必要である等の意見が示された。

 

学習指導要領に基づく学校における理数教育の実施に加え、大学や企業等による出前授業等やスーパーサイエンスハイスクール、スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール等の先進的な取組の成果が見られつつあるが、産学官が協働して、理工系人材の裾野の拡大、初等中等教育の充実のため、各種取組のより一層の充実が必要であること、理数教育の充実・先進的な取組によって知識を身に付けさせるだけでなく、これを活用して将来的に社会で活躍・貢献できるようにすることが重要であること等が共有された。

このような現状を打開するため、具体的には以下のような対応策を産学官で進めていくことが必要ではないか。

 

(1)実験や科学的な体験等を通じた理工系科目に対する学習意欲・関心の向上

○大学や企業等による理科実験教室、出前授業や教材開発(実験教材、DVD・オンライン教材等)等の科学技術の魅力を発信する取組の拡大

 

○大学や企業等が実施した小学生・中学生・高校生等を対象とする理科実験教室や出前授業等に係るノウハウやコンテンツ等の情報を共有する仕組みの検討

理工系の職業に関心を持たせるためには、初等中等教育段階において、理科の素養を備えた教員を増やし、実験等の体験的な学習活動の実施、最先端の研究内容、研究者・技術者や実験施設・設備に触れる機会を通して楽しさを感じさせることが必要であり、大学や企業等による理科実験教室、出前授業や教材開発(実験教材、DVD・オンライン教材等)等の科学技術の魅力を発信する取組の実施が有効であると考えられる。

 

現在も、大学や企業等において、小学生・中学生・高校生等を対象に理科実験教室や出前授業等に取り組んでいるが、個々に取り組んでいるため、各者が行った活動のノウハウの蓄積、コンテンツの共有や各取組内容の把握、各大学や企業、地域が連携した取組、需要と供給のマッチングがなされていない状況である。これらの情報の共有や、連携のための仕組みを検討することが必要であると考えられる。例えば、各教育委員会が大学や企業等と協力して土曜日の教育活動を実施する際、より効果的な理科教育の実施に向けて大学や企業等が組織的に連携して、ノウハウの蓄積やコンテンツ等の情報の共有を行うことにより、子供たちに充実した学習機会を提供することなどが考えられる。

 

また、初等中等教育段階において、目的意識を持った観察・実験を行うこと等により、科学的な見方や考え方を養うことや、情報教育、ICT活用の推進などが重要である。

 

このため、現在も取り組まれている、理科教育設備整備の充実や理科観察実験アシスタントの活用、ICT環境整備の促進などのほか、例えば、大学において、理系科目を担当する教員を対象とした学び直し講座を設けることも考えられる。

 

理系の科目を学ぶことの意義や有用性を実感する機会を持たせる観点から、学ぶ内容が実社会・実生活と関連していることや応用することで最先端の科学技術につながることを気付かせる教育内容とすること、ものづくりやプログラミング等のアウトプットの実感が得られる内容とすることも重要であると考えられる。

 

また、退職した教員や技術者などを学校支援ボランティアとして一層活用することも有効と考えられる。

 

(2)キャリアパスの見える化等を通じた職業・進路への興味・関心の喚起

○キャリアパスの見える化等への企業及び大学等の更なる参加の促進

○子供の親を対象とした取組の促進

○理工系分野での女性の活躍の促進

より多くの人が理工系の大学・職業を選択肢の一つとして認識し、興味関心に応じて選択が可能となるよう、

 

将来の職業と結び付いた学問分野を選択する意識を持たせるような仕組み(スーパーサイエンスハイスクール、スーパー・プロフェッショナル・ハイスクールや大学や企業等と連携した授業の実施など)を発展させる必要があると考えられる。

 

進路選択の参考になる身近な事例やロールモデルの提供、大学や企業の見学会の開催、就業体験や、社会で活躍している理工系人材のキャリアパスを見える化し、ウェブやイベント開催等を通じた継続的な情報発信などにより、理工系分野への興味・関心を喚起するための取組が有効であると考えられる。

 

子供の理工系の進路選択に当たり、親から受ける影響が大きいことを踏まえ、大学や企業による、親を対象にした見学会、説明会の開催など、理工系の進路に対する理解を深めてもらう取組が考えられる。

 

科学技術により、将来の変化を予測することが困難な時代に対応するとともに、社会を牽引する人材を育成するため、創造性を育む教育や、先進的な理数学習の機会の提供等を通じて、優れた素質を持つ児童生徒及び学生の才能を伸ばす取組を充実することが考えられる。

 

以上の取組を進めるに当たっては、女性の活躍を促進する観点を考慮することも重要である。

 

運営:リベルタス・コンサルティング

 (協力:河合塾)

 

 

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