大学就活事情

~大学の学部・学科選びは、どう仕事につながるのか

高校での大学進学希望者に対するキャリア教育は、学びたい内容、将来就きたい職種から、学部・学科を考えさせるというのが主流でしょう。しかし、大学卒業後希望する企業や職種に就けるかどうかは、人材の需要と供給に基づく労働市場や、景気の好不況を背景とする雇用情勢によって左右されます。

 

そこで、現在の大学生の就活状況、そして転職市場の実態について、就活サイト「あさがくナビ」や転職サイト「Re就活」を運営する、株式会社学情の、東修三さん、歌津智義さん、渡邊弘基さんに話を伺いました。

 

Vol.1 3年生夏のインターンシップが就活の事実上のスタート

2017年は3年生の3月採用広報解禁、

4年生の6月に採用選考が解禁

企業の新卒採用をめぐるスケジュールは、毎年のように変化しています。その変遷を整理してみましょう。

 

一言で表すと、就職活動のスケジュールは、企業の採用活動の早期化と、それに歯止めをかける就職協定や倫理憲章等の制定、その形骸化の繰り返しです。

 

戦後の1953年から1997年までは、政府主導で日経連(経団連の前身団体の一つ)によって「学校推薦開始を卒業年度の10月1日以降とする」協定が取り決められました。その後、協定破りが多くなる度に、スケジュール改定が繰り返された後、1997年、ついに「就職協定」は廃止されました。

 

これに代わるものとして、日経連を中心とする企業は「新規学卒者採用・選考に関する企業の倫理憲章」を、大学や高等専門学校側は「大学及び高等専門学校卒業予定者に係わる就職事務について(申合せ)」を定めて、就職情報の公開・採用内定開始は、卒業年度の10月1日とされました。しかし、どちらも拘束力はほとんどなく、実際には大学3年生の3月には、内々定が出されていました。

 

これ歯止めをかけるために、2003年、経団連から新たな「倫理憲章」が発表され、2005年3月卒業の学生から適用されました。スケジュールは、卒業年次の4月1日以降の選考開始、10月1日以降の内定出し解禁です。このスケジュールは2015年まで続きましたが、4月1日以前も、水面下ではリクルーターを通した学生へのアプローチがなされていました。

 

さて、2005年に、選考活動と内定出し解禁に加えて設けられたのが、広報活動の解禁です。採用広報活動は、2000年代後半は大学3年生の10月エントリー開始が一般的で、これが事実上の就職活動のスタートでした。しかし大学3年生の秋に就職活動がスタートすることへの批判の高まりから、経団連は再度「倫理憲章」を発表して、「インターネット等を通じた不特定多数向けの情報発信以外の広報活動については、卒業・修了学年前年の12月1日以降に開始する。それより以前は、大学が行う学内セミナーへの参加等も自粛する」とし、2013年卒業の学生から適用されました。

 

しかし、わずかに後ろ倒ししたにすぎず、3年生の12月に事実上の就職活動がスタートすることは「学業に費やせる時間の確保」や「海外留学がしやすい環境整備」などの障害となるとの理由から、安倍晋三首相は「採用広報は大学3年生の3月から、採用選考は4年生の8月から開始に変更する」旨を経済団体に要請、今回は「指針」として定め、2016年卒業生より実施されました。

 

さらに、2017年度は、採用広報は大学3年生の3月、採用選考は4年生の6月解禁となりました。とはいえ、指針を遵守しているのは、経済団体に加入している企業が多く、全企業がこのスケジュールに従っているわけではありません。

 

就業体験のインターンシップから

就活の一環としてのインターンシップへ 

広報活動解禁日の設定は、企業にとっては、採用に費やせる期間の制限を意味しました。一方学生は「まだ自分たちは就活生ではない」と考えて、業界研究や企業研究が不足するという問題が生じました。

 

これと時を同じくして、キャリア教育の一貫としてスタートしたのが、大学生のインターンシップです。

 

インターンシップは、キャリア教育・職業教育の中心的取組として、1997(平成9)年、当時の文部省・通商産業省・労働省による三省合意等を経て、その政策的な推進が図られてきました。また、2011(平成23)年には、学士課程の教育の質の向上を図る観点から、すべての大学において、教育課程内外を通じて学生の社会的・職業的自立に関する指導等に取り組むこととし、そのための体制整備が大学設置基準に規定されました。そして、2012年の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」においても、「学生の能動的学修を促す具体的な教育の在り方の一つとして、インターンシップ等教室外学修プログラム等の提供が必要である」とされました。

 

このようなキャリア教育・職業教育を目的としたインターンシップは、工学部から始まり、当初は余裕のある企業がCSR活動の一環として行い、学生を職場に配置して、就業体験をする機会を与えるという形式で行われていました。しかし広報活動解禁が後ろ倒しになるにつれ、企業は、インターンシップを採用広報活動の一環として位置づけ、主に大学3年生の夏休みに、長期だけでなく短期(時には1日)でインターンシップを行うようになりました。

 

株式会社学情 学校企画部 マネージャー 東 修三さん
株式会社学情 学校企画部 マネージャー 東 修三さん

「大学はキャリア教育のために、大学2年生の夏休みや、3年生になる前の春休みにも学生をインターンシップに行かせたいと考えていますが、企業は、採用広報活動の一環と考えているため、3年生の夏が中心となります」(東さん)。

 

インターンシップを単位認定する大学もありますが、この場合は大抵10日間以上のメニューで、事前に企業と覚え書きを交わすなどして実施されています。

 

ただし、インターンシップの実情は、期間は、理系も文系も、本来インターンシップとは言えない1日のものが最も多く、続いて3〜4日間の短期のものが中心です。経団連は「5日以上のものをインターンシップと呼ぶ」としていますが、経団連に加盟している企業の多くは、多くの学生を参加させるために、5日以上のものと1日の両方のプログラムを用意しています。

 

内容は、短期のインターンシップは、会社説明会や会社見学会に、グループワークで行うビジネスゲームや社員との懇談の時間を設けて就業体験としているケースがほとんどで、1週間程度のものでも、これに工場見学や研究者との懇談会が加わる程度です。理系の学生を対象とした2週間程度のプログラムであれば、職場に配置されて、就業体験を行うことができます。

 

他方学生は、「就職活動とインターンシップは別だと思っている学生が多い」と東氏は指摘します。それでも、インターンシップ含めて学生が就職を意識し始めるのは3年の5月ごろから、そして6月からインターンシップのエントリーが始まり、この時期に「あさがくナビ」を含む就活サイトに、インターンシップのコーナーも立ち上がります。

 

大学はこれに合わせて、主に5月、一部は4月にインターンのガイダンスを始めます。そして企業によるインターンシップの選考が7月にあり、8月・9月にインターンシップが行われます。インターンシップに参加する学生は、長期・短期併せて5割程度です。首都圏の学生のほうが多いですが、これは、地方には受け入れ企業が少ないためです。

 

「大学は、のんびりしている学生に対しては、短期のものでも参加させて就職に対する意識を高めさせたいと考えています。また、優秀な学生に対しては、大企業のオープンインターンシップにエントリーさせて、大企業への就職につなげたいと考えています」(東さん)。

 

◆学情の就活サイト「あさがくナビ」

「時事から学ぶ業界研究」

「業界MAP」

 

※本ページは、経済産業省「平成28年度産業技術調査事業(理工系人材を中心とする産業人材に求められる専門知識分野と大学等における教育の状況に関する実態調査)」における、理工系や情報系等の学問分野や産業分野の魅力の発信や教育関係者に対する教育支援・促進なども目的に制作されています。

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