「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

人材育成に関する産学官円卓会議への提言 

<1>大学の学習履歴のデジタル化と企業の採用時での活用

 

辻 太一朗氏 NPO法人DSS 代表/(株)大学成績センター 代表取締役

(第5回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)

産業界ニーズと大学教育のマッチングの方策と、専門教育の充実という観点で、ご検討いただきたい提言があります。また、参考として、その提言の推進に役立つ取り組みを紹介いたします。

 

企業の採用活動は、理工系学生に、とりわけ専門知識の取得に、大きな影響を与えています。大学で育成されている企業にとって有用な素養は、大きくとらえると、知識と汎用的能力とに分けて見ることができます。知識については、学業における一般教養や専門教育の知識があり、また学業外の活動から得られる知識として、仕事や人間関係等の理解につながる知識があります。汎用的能力では、学業を通して分析力、理解力などが得られ易く、学業外からは対人力、コミュニケーション力が得られ易いと思われます。

 

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現在の多くの企業の採用選考では、どちらかというと、学業よりも学業外の活動のことに着目することが多いということが問題だと考えます。それから、専門知識の取得レベルよりも、汎用的能力の取得レベルを確認していることが多いと思われます。

 

提出書類に関しても、応募時に履修履歴(成績表)を提出させない場合が結構多いのです。一方、「リーダーシップをどの点で発揮したか」、「強みは何ですか」といったことを書かせるエントリーシートは、応募時にほぼ全企業が出させています。ですから、どちらかというと学業外の活動、汎用性能力を聞く傾向にあると言えます。それによって、学生は学業の優先順位を下げやすい環境が作られている。また、理工系学生には、専門知識の習得を阻害する要因が採用活動にもあるということが言えます。

 

 

履修履歴のデジタル化

 

さて、私どもNPO法人DSSと(株)大学成績センターの活動を紹介いたします。企業の採用活動における履修履歴の活用を通じて、大学生への学業への優先順位を高める目的で、DSSは2011年、設立いたしました。大学成績センターは、2013年に履修履歴をデジタル化し企業に提供するために、株式会社として設立しました。

 

ただし、社会的な役割から、株式会社ですが、完全に株式会社の機能を放棄し、事業の展開やデータの二次利用は行わず、会社規模も数人程度以上に大きくしないといった制約の中で活動しています。

 

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主な活動内容は2つあり、一つ目は採用活動における履修履歴活用の企業のメリットを啓蒙していくことです。今年、経団連の採用指針にも履修履歴の活用が入りました。履修履歴は成績の確認だけではなく、面接時に利用し、汎用的能力を多面的に見ることができます。そのために企業のほうで履修履歴を活用する動きが若干出てきています。

 

二つ目は、履修履歴活用の利便性を向上するために、履修履歴のデジタルデータ化を推進しています。特に、技術者の採用では、基礎科目が検索しやすくなったり、大学による評価の厳正度がわかりやすくなったりします。学生にとっては、無料の履修履歴の保管場所になります。また、社会的には、成績評価の見える化によって成績の信頼性を向上させることになります。

学生は、自分の専用ページに自分の履修履歴を登録するだけです。そして、それをデジタルデータで企業に送り、企業はデジタルデータでそれを受け取るだけなので大変楽であり利用の幅が広がります。2014年から始まり、今年は112社が利用しています。

 

 

理工系人材育成に関する提言

 

理工系人材の育成レベルの向上に極めて効果的なのは、学生の履修行動を変えることだと考えています。一つには、専門の基礎科目の習得レベルを高めること。もう一つが、専門外の活動の場を広げるための科目を習得することです。

 

例えば、電気工学科の学生であれば、電気・電子系の基礎科目を真剣に学ぶということです。現実的には入社後に学び直しを行っていますが、それらを学生時代にしっかり学ばせることにより理工系人材の質的な向上を図ります。

 

また、専門外の基礎科目の習得によって活躍の場を広げることができます。例えば、バイオ系、生物学系の学生も、無機化学や有機化学をしっかり勉強することによって、化学系の会社に行くことが可能であると言われるように、専門外を学ぶ学生を増やすことで産業界ニーズとのギャップを埋めることができます。

 

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このような履修行動を改善していくために、極めて効果的と思われることが二つあります。一つは、入社後に必要となる基礎科目に対する産業界ニーズを見える化することです。二つ目は、自社に必要な基礎科目の採用選考時に習得レベルを確認するということです。これらにより、学生は必要な基礎科目を理解し、さらに習得レベルを高める努力をするようになります。

 

産業界ニーズの見える化は、例えば、必要度を3段階くらいで明示する。Aは「同一業界ではほぼすべての企業が必要としている科目」、Bは「この業界で多くの会社が必要としている科目」などとすれば、学生の理解を助けることになるでしょう。

 

二つ目の、採用選考時点での習得レベルの確認については、現状では機能していないと思われます。人事が基礎科目をきちんと把握していない場合もあると思います。また、成績証明書という紙では、基礎科目のチェックは極めて煩雑になります。評価の信頼性がわからないという問題もあります。こうした課題に関しては、先ほど述べたように、履修履歴をデジタルデータ化することによって、解消することができます。

 

この二点を産業界が取り組むことで、学生が自分の将来にとって必要となる基礎科目の習得レベルを上げる必要性を理解すれば、学習へのモチベーションが高まり、学生の基礎科目の履修行動が変化するというのが、今回の提案になります。

 

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<2>大学生の基礎科目修得の効率化のためのオンライン教材

 

福原美三氏 (一社)日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)常務理事

続いて、上記の「理工系学生の専門基礎科目の習得レベルを高め、さらに専門外の科目の習得を促す」ために、また企業の学び直しにも、効果的、効率的な教材として、JMOOCを紹介いたします。

 

JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)は、誰でも、オンラインの登録だけで、大学レベルの授業をインターネット上で無償で受講ができ、修了条件を満たすと修了証が取得できる教育サービスです。

 

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大学においては、カリキュラムの中で使っていただくことが当然可能です。専門の基礎科目においては、例えば、授業前にオンライン学習で知識の習得を行う反転授業型の授業や、あるいは、問題解決能力を醸成する授業と組み合わせていただくことで、より深いレベルの学習につなげられると思っています。また、専門外科目の履修として、基本的な基礎知識を習得する活用法もあります。

 

企業においては、入社前、入社後での社員の学び直しや、社内研修などに活用していただきたいと考えています。

 

経済産業省や経団連の若手技術者等へのアンケートから、実際に学び直しを経験した大学時代の基礎科目を調査したものが下記のリストです。これらの中から、ニーズの高いものから順に、来年2016年度は10~20科目、2年以内に50科目の開講を予定しています。講座の提供については、日本の大学のみならず、海外、特にMIT、スタンフォード等の科目の活用も考えています。

 

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JMOOKの先駆けである「MOOC」については、現在、世界中で3000万人以上の受講者がいます。中国、韓国、タイ等アジアでも急速に広がっています。欧米では企業との連携が始まり、企業の7%が組織的な活用をしているという調査もあります。

 

私どもは、このような流れの中で、日本でも同じようなオンライン学習が実現できるように活動してきました。現在までに登録者は約16万人、45大学、企業にも42社の参加があり、100を超える講座を今までに提供しています。

 

講義は、学習者が学習しやすいように、10分程度の動画となっています。例えば、プログラミング講座であれば、通勤時間の中で10分間の映像をしっかり見て概念を理解する、夜空いている時間にゆっくり実習するというような使い方がされているようです。

 

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