「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

産学官連携を通じた理工系人材の育成について

大西隆先生 豊橋技術科学大学 学長/国立大学協会 副会長

/日本学術会議 会長

(第3回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)

理工系大学への進学の裾野を広げるための、大学が取り組んでいる、小中学校・高校への理工系教育について説明いたします。また、産学連携について、豊橋技術科学大学と北海道大学の取り組みや、電気通信大学を中心としたコンソーシアムが提案し試行を始めている、新しい博士課程の制度「Industrial Doctor」についてご紹介いたします。

理工系学部・専攻への進学


まず、理工系学部・専攻の学生数に関して、触れておきます。


下記は、理工系学部・専攻志願者数の推移です(学部は過去10年、修士・博士は過去20年)。折れ線グラフは、全体に占める理工系の割合です。学部に関しては、増加傾向にありましたが、約20%まで上がったところで、横ばいになっています。修士については、折れ線の上のほう(青)が工学系、下のほう(紫色)が理学系で、合わせると相当な割合を占めていますが、横ばい状態が続いています。博士課程については、志望者数全体の中で工学系14%、理学系8%を占めていますが、工学系はやや低下傾向にあります。

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下記は入学者数の推移です。折れ線グラフは、先ほど同様、全体に占める割合ですが、学部については、上の折れ線=工学系はなだらかに減少、下の折れ線=理学系は横ばいです。修士課程については、割合自体は比較的高い値ですが、工学系も理学系も横ばい。博士課程は、20年間の長いスパンで、減少傾向にあります。

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次は、入学者数に占める女性の割合についてです。全学科に占める女性の割合は45%弱で、ここ20年増加傾向にあります。一方、理工系については、増加はしていますが、ただそれほど大きく増加しているわけではありません。修士課程、博士課程については、全体に占める女性の割合は、およそ30%で、20年前と比べますと増加傾向にあり、工学系も理学系も増加してきましたが、ここ最近は、理工系は横ばい傾向です。

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下記は、外国人学生の在籍者数の割合です。学部については、全体に占める工学系の外国人学生の割合は13%程度。多少の増減はありますが、最近は上昇傾向にあります。大学院については、実数は増えていますが、割合としては横ばいと言えましょう。

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以上、基礎的なデータを紹介しましたが、気になるのは、日本の博士課程の入学者がやや減っていることです。

大学の小中高生への理工系教育


次に、大学が取り組んでいる、小中高生向けの試みを紹介します。下図にまとめました。

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理系人材を育てるスーパーサイエンスハイスクール(SSH)という制度がありますが、それが大学進学にどのような影響を与えているか、実績を下図にまとめました。まず、左の2つが男子のデータで、上が四年制大学への進学率を、SSHとそれ以外の高校で比較したものです。SSHが6割以上、それ以外は5割程度と、SSHの方が進学率が高く、SSHはそれ以外の1.5倍くらいです。ただ、一番最近のところで少し右肩下がりになっているので、この優位性がやや失われています。その下は、理工系に進む進学率で、SSHはそれ以外の高校の2倍程度であり、比較的安定しています。


右側は女子のデータです。男子同様に、上のグラフが四年制大学への進学率、下が理系学部への進学率です。女子のほうも似たような傾向で、最近は少し進学率自体は下がってきていますが、それでも他の高校種よりは高く、SSHの効果はそれなりにあると思います。

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SSHの一環として、「グローバルサイエンスキャンパス」という事業がスタートしています。大学が近隣の高校生に対して、大学に来てもらうなどして、理系の学びを行うもので、制度が発足して間もないのでまだ十分な結果は出ていないと思いますが、全国的に普及し始めています。

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産学連携

大学レベルで産学連携をどのように実施しているか紹介します。私どもの大学、豊橋技術科学大学は、高専からの編入が8割を占めるため、高専からマスターまでが標準コース、加えて博士課程のプラス3年間という認識で、工学教育を行っています。2カ月のインターンシップを必修とし、最近は海外のインターンシップも始めています。また、教員の3割くらいが企業出身者であるなど、企業志向の高い工学系の大学であると言えます。


今後、私どもは、「技術科学社会実装研究拠点」という新しいタイプの産学連携を進めていきたいと考えています(下図)。また、地域と密着した産学連携に加えて、「先端融合研究の推進」として、産業技術総合研究所、あるいは、カリフォルニア工科大学と共同ラボを作り研究を進めていますが、共同ラボには日本の企業にも研究に参加していだたこうと考えています。

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下図は北海道大学の例で、産学連携の非常に進んだ形態です。北海道大学と塩野義製薬はイコールパートナーシップを結び、塩野義製薬が北海道大学の中に研究棟を作りました。大学も一部を使えるということでありますが、大学の中に企業の研究機関が立地しているという事例まで出ています。

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電気通信大学が中心となってコンソーシアムを作り進めている「Industrial 博士制度」を紹介します。


特徴としては企業との共同研究をテーマにした論文で博士を取ることが条件になっており、しかも場合によっては、学生は途中から企業に雇用されることもあるという制度です。今のところ、日本の制度では、博士にさらにIndustrial 博士を付加するという仕組みも考えられているようです。産業界のニーズに合った研究を行うため、研究が大学と産業の橋渡しになるというものです。

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このIndustrial 博士制度というのはヨーロッパですでに進められていて、日本の場合は、「スーパー連携大学院」構想もありますが、いずれにしろ、こうした試みをさらに発展させていくことが必要なのではないかと思います。

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