「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

経済産業省における理工系人材育成のための施策
<産業界の学びニーズに係る業種別職種別分析>[調査実施:河合塾]

経済産業省大学連携推進室 宮本岩男室長
(第1回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)

宮本岩男室長
宮本岩男室長

経済産業省では、産業構造審議会において、理工系人材に関する施策について、様々な議論を行っております。

 

産業構造審議会では、少子化の中で、理工系の人材をどのように質的・量的に確保していくかという問題意識で議論がされております。

 

特に、下図の右下の理工系学生数の変化を見ますと、大学の入学者の総数は、この15年ほど特に変わっていませんが、理工系、つまり理学、農学、工学の学科への入学者数の全体に占める比率が25%から20%ぐらいに下がってきており、数自体も減少傾向にあります。

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理工系人材の裾野拡大としての、初中等教育への関心と女性の活躍

少子化に伴って、そもそも理工系人材自体の数が少なくなってきている問題に対処するために、初等中等教育の段階から理工系に関心を持つ生徒の数を増やすべきではないかという議論があります。実社会と結び付いた理科実験などが効果を上げている、という指摘もあります。また、理工系の中で女性研究者の比率が低い点についても、何らかの取組によりてこ入れすることで、数を増やすことができるのではないかと考えております。

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高校教員の産業界ニーズへの理解

理工系の人材の裾野を拡大するという観点では、大学進学の時点で理系に進学する人たちの数を増やすことが一つ重要な課題になるかと思います。またそのときに、特に産業界での雇用ニーズ等の高い分野に、大学受験生の進路希望が合致することで、産業ニーズとのミスマッチの解消につながるのではないかということで、調査を行いました(全国の高校教員で進路指導に当たっておられる方々503人の回答、調査実施:河合塾)。

進路指導に関わる先生方に、進路指導に当たって重視する事項を伺ったところ、一番高く出ているのが、「将来の仕事をイメージして、そのために有効な教育が受けられる学部・学科を選択することが重要だ」と答えています(下図・左グラフ)。実際の進路指導の話題については、「学部・学科の種類や内容」「志望校の偏差値などの入試情報、評判」が高く、「仕事の内容や社会・企業の動き」「学問と実社会の仕事との関係」「志望校の卒業後の就職状況」と、三つに分かれております。複数回答ですが、三つ足すと、それなりの件数になります。こういったところを意識して指導されているのだと思います。

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先生方に、どういった学部・学科が、就職や以下で紹介する産業ニーズに結び付くと考えておられるかについて聞いてみました(下図)。紫のデータが、高校教員が実社会で重要と考えている専門分野として選んでいただいたものです。例えば、情報のITの分野については、産業ニーズが非常に高いけれども、そういった分野が実社会で重要だという認識が少し低いようです。電気や土木、機械でも、ギャップが見られます。

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逆に、環境、エネルギー、生活・家政、バイオといった分野では、産業界ニーズはそこまで高くないにもかかわらず、高校教員の方々は、こういった分野が重要であると捉えており、部分的にはこのようなずれが所々に見られます。これらの点を少しでも改善していけば、理工系の生徒さんの産業ニーズのある分野への進学を通じて、産業ニーズと大学教育の間のミスマッチの解消にもつながるかもしれないと考えられます。このあたりが新たな今後のアクションを考える上でヒントとなるのかもしれません。

産業ニーズと教育機関での教育内容の間のミスマッチ

産業ニーズについては、教育機関で行っていただく教育内容の間で、もしミスマッチがあるとすれば、それは一体どういうものなのかということを明らかにするための調査を行いました。今年2015年1月下旬から2月上旬にかけて、産業界で働いている技術者を対象にアンケート調査をいたしました。有効回答は9822人ということで約1万人弱の方からの回答をいただいています。


9800人の方々の最終学歴の内訳は、学部、修士の方が9割ぐらいを占めます。業種は、機械系、電気系、材料系、化学系、情報系、建設系と、いろいろな業種にまたがって回答が得られております。

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これらの方々に、現在、企業で従事している業務で用いている重要な専門分野を最大三つ挙げていただきました。それを全て集計したものが、下のグラフになります(横軸が専門学問分野)。


棒グラフの赤い部分は、その重要な専門分野のうち、特に大学で学ぶ必要があると答えられているものを示しています。大学等ではなく、会社の中のOJTなどで学んでいくべき内容だと答えてられているものが緑の部分になります。

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全体の傾向を見ていただきますと、産業界で使われている知識としては特に、機械、ITの分野で頻度が高いことがわかります。また、企業に入ってから学べばいいという、緑の部分の比率を見ますと、IT系が高い一方、機械など他の分野では、大学教育に対する期待の割合のほうが比較的高いということもわかります。

緑の点線は、各分野における科研費で過去採択された研究者の数、つまり、世の中に存在する研究者の数に近似しているものと思われますが、それをプロットしたものです。例えばITの分野では、産業界での業務で使う専門分野の知識としての重要性が非常に高く出ているのに比べると、そういった分野の研究者が非常に少ない。一方で、産業界で使われている専門分野の知識としては、右のバイオ系の割合は低いのですが、研究者は非常にたくさんおられます。専門分野のニーズが、採用者数とそれなりにリンクしているのであれば、こういったところにも何らかのミスマッチがあるということかもしれません。

 

下図以降は、機械や化学といった業種分野別に集計を行ったものです。


機械系の業種に属する方々に対する集計では、用いる専門分野の知識というのは専ら機械の分野に集中しています。右の小さいグラフは、機械の分野の中を細かく見たものです。機械で必要とされる学問分野の中でも、設計工学、機構学、機械材料、材料力学などで、特に大学における教育に対する期待が高く出ているのが明確でした。一方で、流体工学、メカトロニクスについては、大学で学んだと答えた人が多く、その分野の研究者は、他の細目分野よりも比較的多い、という傾向が見られます。

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電気系業種を見てみます。先ほどの機械業種の状況から推察しますと、電気の分野を学ぶべきという回答が圧倒的に高いのかと思いましたが、電気の分野に係る専門分野の教育ニーズのみならず、機械分野についても非常に高く出ておりました。続いて、IT分野についても高く出ており、機械とは少し違う特徴となっています。

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下図、材料系業種では、材料化学に関する教育ニーズは高いですが、それ以上に機械が高い。それから、生産・安全といった分野が高いということも見られます。

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化学系業種では、化学に関する教育ニーズは高く、そのほかに機械、分子生物学、薬学、食品などの分野も高いのですが、この業種群に製薬系が入っているためだと思われます。

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建設系業種については、土木、建築の専門分野でニーズが高いですが、それ以外に、機械、電気、デザイン、ITなど他の分野においても広く教育ニーズを示しています。

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情報系業種では、機械系業種と同様に、情報産業の方々は情報の分野にピークが全て集中しているという状況になっています。情報の中でどういった分野になっているか右のグラフを見ますと、ソフトウエア基礎に関する教育ニーズが高く、データベース・検索のように、ビッグデータの解析といったところもニーズがあります。

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ここまで、業種別に細かく紹介いたしました。産業ニーズと一言で言いましても、産業分野ごとに教育機関に求める教育ニーズは一様ではありません。きめ細かく分析して対応していかないと、ミスマッチの解消につながらないということもあると思われます。


イノベーションスクール、中長期研究インターンシップ

産業構造審議会の議論で、その他に出た課題としては、研究人材について、理工系に進学しても専門分野に特化した教育が行われてしまうので、実践能力に課題があるのではないか、という議論もありました。欧米では、特に博士課程の在籍者を有給で雇用するような仕組みが整備されていますが、日本ではそういったものがあまりない、といったことも指摘がされております。

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これを打開する取組としては、例えば、産総研イノベーションスクール(上図、右下)があります。ポスドクの方を中心に1年程度雇用し、その間に企業のOJT等に関わっていただき、人材育成するというものです。日本のポスドクは、ポスドクの任期終了後、約8割弱は、引き続きポスドクのポストに就くという実態ですが、産総研イノベーションスクールの修了者は、76%が正規就業できています。ただ、人数が少ないので、このような取組をもっと広げて、ポスドクの方々の社会での活用を促進していく必要があります。

経済産業省においても、特に博士課程の学生の教育の一つとして、2か月以上の中長期研究インターンシップが継続的、自立的に実施されることを目指し、産学のコンソーシアム「産学協働イノベーション人材育成協議会」を平成26年1月に設立しました。この協議会を活用して、企業でいろんな受入れ先を作っていただき、大学側が博士課程の学生を中長期のインターンとして派遣する。その中で教育効果を発揮していく。会員企業をどんどん増やしつつ、そういった取組を大きくしていければと考えております。

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MOT=マネージメント・オブ・テクノロジー

理工系の人材としては、研究開発マネジメントに関わる人材も、非常に重要な人材として育成が必要であると指摘されております。そこで、例えば、NEDOのようなファンディングエージェンシーでも、そういった人材のキャリアパスを確立することで、長期的に研究開発マネジメント人材を育成していくべきである、というような議論がされております。

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企業におけるイノベーションの創出を促進するため、Management of Technology(MOT)の教育を普及する取組がなされています。平成14年以降、政府でも設置支援を行い、現在ではMOTの学位プログラムが40以上存在します。しかし、その実態を調べると課題も指摘されており、例えば、企業でMOTの学科を卒業した人材をもっと積極的に活用するべきではないか、という議論もされております。

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クロスアポイントメント制度

また、研究開発人材については、1か所の機関にとどまるのではなくて、産業ニーズの変化に応じて流動化し、適切な場所で活躍できるようにしていく必要もあります。優秀な人がいろんな組織間でまたがって働けるようにする仕組みが必要であるということで、クロスアポイントメント制度を整備する必要があるということも議論されております。

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クロスアポイントメント制度については、昨年2014年12月26日に、研究者が医療保険・年金や退職金等の面で不利益を被ることなく複数の機関に雇用され、その結果、複数の機関でそれぞれの機関の役割に応じた仕事をすることができる方法を細かく定めた枠組みと留意点を取りまとめております。現在、この枠組みと留意点に従って、産総研や大学との間でもクロスアポイントが始まっています。

 

また、大学院生、特に博士課程の学生を有給で雇用する仕組みが、欧米では比較的整備されていますが、日本にはあまりありません。そこで、産総研において、有給で博士課程の学生の人に研究の補助をしていただく制度を導入いたしました。今年の4月から運用を開始しておりまして、46名の大学院生をリサーチアシスタントとして受入れをしているところです。

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<関連記事>

理工系人材育成に係る現状分析

 <産業界の学びニーズに係る業種別職種別分析>

  経済産業省大学連携推進室 宮本岩男室長
 (第2回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」(平成27年8月6日)より)


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