「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

産学協働による情報系人材の育成

大阪大学総長 西尾章治郎先生

(第5回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)

現在、ビジネス分野のみならず宇宙科学から交通手段に至る広範な分野におけるイノベーションのコアは、情報技術、ITである言えます。

 

ITが核となったイノベーションの事例をいくつか紹介しますと、現在、「UBER(ウーバー)」、「airbnb(エアビーアンドビー)」、「いろどり」というようなインターネットや情報ネットワークを基盤として革新的なサービスが展開され、ビジネス分野のイノベーションが起こっています。また、フェイスブックには経済効果が2270億ドル、新たな雇用が450万人といった、衝撃的な数値が挙がっております。

 

※「UBER(ウーバー)」:タクシー配車アプリ。アメリカ発

※「airbnb(エアビーアンドビー)」:民泊施設の予約サイト。アメリカの企業

※「いろどり」:徳島県の過疎地での「はっぱ販売」。高齢者がタブレットを駆使している。

 

 

一方で、一時期トラブルの多かった宇宙機の信頼性の向上は、IT分野のユニットをJAXAに設けたことが大きく貢献していると言われております。また、最近、自動車の自動走行プロジェクトについても、成功の鍵を握っているのは先進的なIT、特にセンサー技術とビックデータ解析技術だと言われています。

 

第5期科学技術基本計画の中で、情報技術への社会からの期待として挙げられるのが、「超スマート社会の実現」と「超スマート社会 競争力の維持・強化」であります。特に、後者については、新しい価値を生み出す事業の創出や新しい事業モデルを構築できる人材、ビッグデータや人工知能等の基盤技術を新しい課題の発見・解決に活用できる人材などの強化が述べられています。

 

 

高度IT人材の必要数および育成数については様々なデータが公表されています。例えば、平成17年には総務省から、高度IT人材の必要数が128万人であり、現状では42万人不足しているというデータが出まして、当時、文部科学省の科学官をしておりました私としては、専門教育課長とともに早急に何らかの手を打たなければ、と考えました。

 

そこで、先導的ITスペシャリスト育成推進プログラムを立ち上げまして、8拠点大学、延べ27大学・大学共同利用機関からなる大型人材育成プログラムを立ち上げました。もちろん企業にも参画いただきまして、専門的スキルを有するとともに、社会情勢の変化等に先見性をもって対処できる世界最高水準のソフトウェア技術者、高度セキュリティ人材の育成を図りました。

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現在・今後における情報技術者の人材像とその育成

 

さて、現在・今後における情報技術者の人材像を、(1)高度ソフトウェアエンジニア、(2)知的システムエンジニア、(3)IT開拓リーダ、(4)Webエンジニアの4つに整理しました。大阪大学は、産学協働という観点からは、Webエンジニア以外の3つのタイプの人材育成事業を強力に推進しております。以下では、それらの人材育成事業について概要を説明いたします。

 

一つ目に、高度ソフトウェアエンジニア育成の取組として、文部科学省専門教育課で推進しております「情報技術人材育成のための実践教育ネットワーク形成事業enPiT」について紹介します。

 

これは、大阪大学が中心となり、15連携大学、79参加大学が参画し、実践的な情報技術の教育を、(1)クラウド、(2)セキュリティ、(3)組込み、(4)ビジネスアプリケーションの4分野で実施しています。連携企業110社等と協働することで、大学単独では実施不可能な4つのメリット(多種多彩が講義、他校の学生との交流、業界スペシャリストによる指導、PBLによるチーム開発)を有していることが特徴です。

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enPiTの産学連携活動においては、特別講演やセミナー、ロボット制御に関する競技会等の活動を行ってきました。それらenPiTの取組については、産業界・受講生からも高い評価を得ており、高度ソフトウェアエンジニアの育成において、顕著な成果を上げています。

 

なお、enPiTの関連大学をはじめ、全国の大学の総力を結集しますと、毎年2000名程度の人材育成が可能と見込まれます。

 

2つ目の知的システムエンジニア育成に関しては、第5期科学技術基本計画でもその重要性は謳われているものの、国内においては、データアナリストをはじめ、組織的な育成がまったくなされていません。

 

そこで、大阪大学では、数理・データ科学教育研究センターを本年度立ち上げ、産業界と連携し、関連基礎知識を習得するための教育プログラムを強力に推進しています。さらに、学内における教育研究プロセスの過程で得られるビッグデータをサーバに蓄積し、それらのデータを交差させることにより、理系・文系を問わず異分野融合研究に取り組みます。

 

そのための「データビリティセンター」の設置を進めており、産業界や関連病院などとも連携を図り、他分野にわたるビッグデータアナリストを養成していきます。

 

 

文部科学省からは、ビックデータやAI、IoT等の分野で超スマート社会を構築する人材を育成するemPiTの枠組みでの学部レベル教育の推進するための、来年度に向けての概算要求がなされています。

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3つ目のIT開拓リーダ人材育成は、文部科学省の博士課程教育リーディングプログラムにおいて、下図の6つの大学でそれぞれの考え方のもとで推進されています。各大学とも毎年20名程度育成しています。

大阪大学では、情報、生命、認知・脳科学の3領域を対象として相互のダイナミクスを共通的に捉えることができる人材こそがIT開拓を牽引できると確信し、産業界と連携し博士人材育成を育成しています。これからの情報技術教育のミッションとしては、「How重視」ではなく、「What重視」のもとで、ITを駆使してイノベーションの核となるべき人材を輩出することだと考えています。

 

また、関西で実施している産業界のための人材教育「組込み適塾」(組込みシステム産業振興機構が主催)の運営・教育に、多くの大阪大学の先生が携わっています。この組込み適塾は、組織のリーダとなりうる人材教育を目的として実施され、毎年多くの受講希望者があることから、関西地区での産業界の人材教育の一つの成功事例として高く評価されています。

 

 

産業界の皆様へのお願いがございます。一つ目は、情報系も含めた、理工系専門教育の修了者をプロとして扱っていただきたいということです。二つ目は、博士課程修了者、いわゆるドクターの学生のより一層積極的な採用をお願い致します。

 

三つ目は、企業における戦略的な事業展開の中核として、IT開拓リーダの資質を人材の積極的な活用、キャリアパスを提供していただきたいということです。最後に、大学での人材教育、特に、実践教育への産業界からのご協力をお願い致します。

 

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